幕間 018 魔導学園スイーツ部 ティラミス
『いたりあ食堂ピコピコ ~レトロゲーに転移した俺は、平和に料理を作りたい~1』発売中です!
「今日はティラミスを作っていきます」
「「「 はい! 」」」
週に一度の魔導学園スイーツ研究部の講義。
お菓子の説明をする店長の前には、黒シャツ黒サロンの研究部員たち――サータ、ダギー、アンが立ち並ぶ。
カウンターでは、大量の書類に囲まれたパテルテ。
「ティラミスはカフェシロップを染み込ませたスポンジと、チーズクリームを交互に重ねて作るお菓子です」
説明をしながら、店長はコーヒーマシンでエスプレッソを淹れる。
良い香りを漂わせるエスプレッソに、たっぷりの砂糖が溶かされていく。
「本場ではスポンジ生地ではなくサヴォイアルディというビスケットを使用するけど、今日は俺の国での一般的なティラミスを作ります」
「地域によって、作り方が違うのですね」
「この料理が生まれた国の中でも、複数のレシピがあるらしいからね。それだけ長く、多くの人に愛されている料理なんだろう」
「そうですね。パテルテ、しっかり書いておいてください」
「わかってるわよ! もうっ……」
講義の重要な部分に、的確に質問をするサータ。
これは彼女の純粋な知的好奇心であると同時に、パテルテのレポート作成のサポートでもあった。
抜け目がないなと感心しつつ、店長は料理に取り掛かる。
「じゃあ、まずはスポンジ生地を作って行こう。ダギー、アン、手伝って」
「はい!」
「あい!」
「まずはボウルに、卵を割り入れよう」
「オリが割る! アン、ボウル支えててくれ」
「うん」
小柄なダギーとアンは踏み台に乗り、協力して調理の準備を進めていく。
調理台の上にはボウルと布巾、卵に砂糖に小麦粉、常温に戻すために置かれているマスカルポーネチーズ。
慎重なアンは布巾の上にボウルを置き、両手でしっかりと抑えた。
そこへダギーが両手に卵を持って、豪快に割り入れる。
器用なものだと感心しながら、店長はハンドミキサーを取り出す。
「そしたら、このハンドミキサーで混ぜていくよ」
ハンドミキサーに羽根をセットし、電源をいれて試運転。
ウィンウィンと響く機械音に、目を輝かせるダギー。
「オリ! オリがやりてぇ!!」
「あはは」
「わかったわかった」
夢中でハンドミキサーを見つめるダギーを、アンはおかしそうに笑う。
ダギーがマギメイ――機械が好きだと、よくわかっているから。
店長はダギーにハンドミキサーを渡して、手順の説明をする。
「まずは止まった状態で卵をほぐしてから、スイッチを入れて混ぜるんだ」
「うん」
「途中で砂糖を足すから、その時はスイッチを止めてな」
「わかった!」
説明を聞き終わると、ダギーはドキドキしながらミキサーのスイッチを入れた。
高速で回りだす、ミキサーの羽根。
ボウルの中の卵の黄身に触れると、一気に卵全体を渦に巻き込む。
「スゲー! マギメイ、スゲー!!」
「はいはい。砂糖入れるよ」
卵がほどよく溶きほぐされたところで、店長は量っておいた砂糖を加えた。
砂糖を入れ終わると、再びダギーはハンドミキサーで混ぜていく。
その間に店長はバターと牛乳を入れた小皿をボイラーの上に置き、上がってくる熱で溶かし始めた。
「ダギー、もういいよ。そろそろ泡立て完了だ」
「すごい……卵と砂糖だけなのに、ふわふわのとろとろだぁ……」
気泡をたっぷり含んだ卵は淡いクリーム色になり、ふんわりととボウルの中を満たしている。
「ここにふるった小麦粉を入れて混ぜて、溶かしバターと牛乳を加えて混ぜて、生地の完成」
ボイラーの上の小皿を手に取り、店長は溶かしていたバターと牛乳をボウルに回し入れた。
そして小麦粉の入ったふるい機のハンドルをカシャカシャと握り、粉を振りかけていく。
最後にスパチュラで、全体をサックリと混ぜ合わせる。
「これをオーブンで焼いていくよ」
鉄板にクッキングシートを敷き詰め、そこへ店長が生地を流し込む。
不思議なツヤの紙が気になり、サータが店長に声をかけた。
「その紙は?」
「これはクッキ……オイルペーパーといって、食材がくっつきにくい紙だね」
「なるほど。そのような便利な紙があるのですね」
見慣れぬ道具について、サータは自分のメモに書き込む。
もちろん、パテルテへの声掛けも忘れない。
そんな様子を横目に見ながら、店長は生地の入った鉄板を何度か落として空気を抜く。
「大体10分から15分で焼きあがるよ。それまでにチーズクリームを作ろうか」
鉄板をオーブンに入れ、タイマーをかける店長。
生地作りの終わった台を、アンがキレイに拭いて次の準備をする。
「まずは卵を割って、卵白と卵黄に分けるよ」
「今度は、ポクがやるよ」
「うし! ガンバレ!」
ダギーに見守られながら、アンはゆっくり丁寧に卵を割っていく。
小皿に卵を一つ割っては、二つのボウルに黄身と白身に分けて入れる。
「分け終わったら、卵白をミキサーで泡立てて」
「うん」
卵を割り終わったアンは、ドキドキしながらハンドミキサーを持ち上げた。
そして卵白の入ったボウルに羽根を差し、スイッチを入れる。
高速で渦を巻いた卵白は、みるみるうちに雲のようなメレンゲになっていく。
「すごい、雲みたいに……真っ白でもこもこだ……」
「次はこっちの卵黄をよろしく」
「うん」
店長が砂糖のを加えた卵黄のボウルを、アンはミキサーで混ぜ合わせる。
こちらは卵白のような泡立ちではないが、白っぽいクリーム状に変化していく。
「黄身も白っぽくなっちゃった……」
「うんうん、良い感じだ。最後に、マスカルポーネを泡立てるよ。硬いから、すこしずつな」
「はい」
マスカルポーネの硬さを確かめながら、店長はミキサーの羽根で軽くチーズを潰す。
そして混ぜやすそうにチーズを均し、アンにミキサーを手渡した。
アンはミキサーのオンとオフを小刻みに切り替えながら、慎重に混ぜていく。
やがて塊だったマスカルポーネは、ふんわりとしたクリーム状に。
「チーズもふわふわ……」
「この泡立てたチーズに、さっき泡立てた卵黄と卵白を混ぜ合わせる」
クリーム状になったマスカルポーネのボウルに、店長は卵黄と卵白のクリームを入れていく。
全体をスパチュラでサックリと混ぜ合わせ、仕上げにハンドミキサーで均一に混ぜ合わせる。
「はい、チーズクリームの完成!」
≪ピピピッ ピピピッ≫
「お、生地も焼けたみたいだ」
タイマーが鳴り、オーブンを確認する店長。
後ろから、アンとダギーもオーブンを覗き込む。
そこには薄いキツネ色をした、ふわふわのスポンジ生地が焼きあがっていた。
「良い感じの焼き色だ!」
「わぁ……材料、あれだけだったのに」
「ミキサーがあると、割とすぐに作れるんだ」
竹串を差して中まで焼けているのを確認すると、店長は涼しい冷凍庫の方――店の空調の冷気が流れ込む場所へ鉄板を運ぶ。
冷凍庫の上に鍋敷きを並べると、粗熱を取るためにスポンジ生地の鉄板を置いた。
「スポンジが冷めたら、チーズクリームと一緒に皿に盛っていこう。それまで片付けと、質問タイムだ」
チーズクリームとカフェシロップを冷蔵庫にしまいながら、みんなに声をかける店長。
「オリたちは調理器具を片付けてるぜ! な、アン」
「うん」
「ありがとう、ダギー、アン」
使い終わった調理器具を重ね、洗い場へと向かうダギーとアン。
道具の片付いた調理台を拭きながら、店長はカウンターの方に声をかける。
「サータさん、パテルテの方は大丈夫そう?」
「ええ、なんとか」
「大丈夫じゃないわよぅ……」
サータに監視されながら、書類をまとめているパテルテ。
大魔法を使った後より、明らかに疲れ切った顔でペンを投げ出す。
片づけを終えた店長はカウンターに近づき、レポートの内容を確認する。
「――しっかり書けてるじゃないか」
「もう……そんなおせじより、早く今日のスイーツが食べたいわ」
「まったく、パテルテったら」
「ははははは! じゃあ、今日のスイーツはピッタリだな」
レポートを書類の山に戻しながら、店長はティラミスの由来について語り始めた。
「何と言ってもティラミスは『ティーラミ・スー』――イタリアの言葉で『私の気分を上げて』って意味のお菓子なんだ」
「へぇ~……」
変わった名前の由来にパテルテは関心を示すも、すぐに横に立つサータを見上げる。
ニッコリと笑いながら、サータは書類を差し戻した。
「今の、記録するところですよ」
「うぐぐっ」
終わったと思った書類を唸りながら受け取り、パテルテは再びペンを走らせる。
そうこうしているうちに、洗い物を終えたダギーとアンが戻ってきた。
「洗い物終わったぜ! 店長先生」
「ああ、ありがとう。じゃぁ、仕上げに取り掛かろうか」
冷凍庫の上のスポンジ生地が冷めたのを確認して、店長は鉄板を調理台へ運ぶ。
棚から角皿を取り出し、冷蔵庫で冷やしておいたチーズクリームとカフェシロップも調理台に置く。
「あとは角皿にエスプレッソを染み込ませた生地とクリームを重ねていくだけだ。パテルテがお待ちかねだから、ササッと仕上げよう」
「おう!」
「うん!」
店長は鉄板のスポンジ生地を半分に切り、片方を角皿に乗せる。
そこへ霧吹きに入れたカフェシロップを、満遍なく吹きかけていく。
コーヒーの良い香りが漂う皿の上に、ふわふわのチーズクリームをたっぷり乗せて均す。
その上に残り半分のスポンジ生地を乗せ、同じように材料を重ねていく。
「最後に茶こしでココアパウダーを振りかけてっと」
角皿のすりきりいっぱいまで盛られた真っ白なチーズクリームが、サラサラのココア色に覆われる。
ほろ苦さの上に甘い香りが重なり、幸せな味になっていく――
「ティラミスの完成だ!」
「やったーっ!!」
「パテルテったら……」
「ははははっ」
現金なパテルテの反応に笑いながら、店長は冷蔵庫からもう一つの角皿を取り出す。
それは表面が削ったチョコレートで覆われた、もう一つのティラミス。
「そしてこっちは俺が昨日仕込んでおいた、サヴォイアルディ版のティラミス」
「なっ!? すごい、とっても気分上がるわ! 店長さん!!」
「甘い物は、なんぼあっても良いですからね」
「全く……食べ比べたら、しっかりレポート書いて下さいよ」
「もう食べて良いんだよな? アン、皿持ってくからスプーン持ってきてくれ」
「わかった」
みんなでティラミスを取り分け、甘い時間を過ごす。
幸せをすくいあげるように――
ご愛読いただき、ありがとうございます。
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本エピソードで、2.5章幕間終了となります。
現在3章を鋭意制作中ですので、もう少々お待ちください。
『いたりあ食堂ピコピコ』は、30~40万文字・大体アニメ1クール分を目標に書き始めた作品です。
なので、3章で一つの区切りになるかなっと思います。
どうぞこれからも、応援よろしくお願いします。
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