第07話『カリンの心配』
ラビットとカリンの出会いは、学園に来て1週間ほど経った頃合いだった。
カリンという存在が、この学園の生徒において最も重要であることには間違いない。なぜなら彼女は、ここの生徒会長なのだから。
「ラビットさん、今日のトレーニングはここでおしまいにしましょう」
「…!」
ラビットは彼女のそれに、強い動揺を見せた。
「そっ…そこを何とか!わたくしはまだ頑張れますから!」
カリンに必死に嘆願する彼女を気の毒に思いながら、それでも振り払う。
「落ち着いてください…今日の放課後、生徒会は忙しいんです──決してあなたを見捨てたわけではありませんから」
「…!…そ、そうですか」
今までにカリンは、ラビットの魔法の修業を見る人間として、2人で親しい関係を築いていた。
ラビットが学園で最も親しい彼女は、このような状況で他に打ち解ける人間も少ない中で、たった一人の心の拠り所なのだ。
そしてカリンも、このような状況だからこそ、ラビットを気遣うのだった。
後ろの生徒会も、それには頷く。
「そういえばラビットさん、ヒロトはどうしたんだろう」
「俺たちにはわかんない話っすけどね」
背中に鞘を背負うソードと狐目の男ピースは、最近のラビットの変化に違和感があるらしい。
さらに、それは二人のみならず…。
緑の髪の大人しいフラワー、青い髪の活発なチーサンも、同様だった。
「これはギスギスの臭いがしますね…」
「ラビットさん、誰にも助け舟も求めずに…」
変態のようなニオイのするスズーカも、分析の目を光らせる。
男子用の制服を着るアキニームもそうだ。
「誰か相談相手がいたほうがいいよ!」
おちゃらけた風貌のエルサントも、真面目に言っていた。
そして、あともう一人…──
「…せやなっ、カリンのいう通りや」
そう言って後ろの生徒会一同から出てきたのは、カリンと同い年くらいの銀の長髪の女。
「め…メイプルさん」
メイプルというのが彼女の名前だ。
ここのような個性豊かな生徒が集まる学園で、風紀委員長という重役を担えるのは、彼女しかいるまい。
折に優しく、折に厳しく、そして奇想天外な指導をする彼女は、カリンと同等…若しくはそれ以上の実力の、身体能力強化魔法を備えている。
その証拠に、メイプルは一時期、鬼神のオーラを備えていたヒロトの修業を預かっていたのだ。
ヒロトはメイプルと何度も本気で戦ったというが、本気を出して戦う彼女を見たことはないという。
まあ、修業の全盛期のラビットも同じく、カリンの真の実力を見たことはないのだが…。
「ラビットさんよぉ、今のアンタは、いくら修業したとて強うはなれんで」
「…!」
カリンが気を遣って言わなかったことを、メイプルはキッパリと言い切ってみせた。
「…」
カリンも他の生徒会も、何も反論を述べなかった。
「何もお前の努力が無駄やとか、そんなことは言っとらん…──ただ、何日かはよう休みいや。そんなに追い詰められたら保たんで」
「…そうですね」
どうやら気遣ってくれたらしい。
まったく、どこまでも図星で、反論の余地もなかった。
ガチャ…
──生徒会だけがジムを出て、たった一人残されたラビットは、改めて自分の我儘さに呆れていた。