表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第2章『物語の再開! 名家の才女ラビットの受難 力を失いし弥上ヒロトの不幸』
78/96

プロローグ1『ヒロトの回想』

 ──魔法学園、セコンディアスペイリア。

 あらゆる若者が魔法のうでみがきあうこの場所では、一人の青年の物語が動いて…──いや、止まっている。

「はァ…」

 多くの生徒が往来おうらいする廊下ろうかで、人の流れにされながら、青年は一人ため息をついていた。

「(今日も、魔法の授業じゅぎょうか…)」

 彼の名は、弥上やがみヒロト…──尋常じんじょうならぬ身体能力、堅実けんじつ巧妙こうみょうさをあわつ元日本人で、交通事故こうつうじこをうけ、気づけばここに強制転移きょうせいてんいされていたという過去を持つ。

 そんな嘆息たんそくらす彼は、今どのような状況にあるのか──新章開始に先立さきだて、あらためて今までの粗筋あらすじを説明しよう。



 ヒロトの学園生活をかたる上で、彼をく仲間たちの存在はかせない。

 彼がここで出会った人間達の中でも、かなりの存在感を放つのが、ある一人の少女である。

 初めて彼女を見たのはホールの壇上だんじょうはじめて話したのは生徒指導室であったろう。

 だが、初めて話した時の印象は良くはなかった。それもそいつは、こんなことを言うのだ。

『──とにかくヒロトさん、あなたの実力はこの魔法学園では通用しません。第一、なぜあなたが生徒として生き残ったのか理解に苦しみます』

 魔法学園に強制転移された身なのに、こんなことを言ってくる彼女に、ヒロトは当初は相当イライラしていた。

 それが、ムーン家とかいうエリート魔術師の家系の末裔まつえい──ラビット。

 その後は余計よけい関係が拗れるようなことがないといいなと思っていたが、その後二人が同じ部屋で、シャワー中にしかけ、ハダカを目にして、モラルに欠けたフォローでさらにこじれる結果になるとは誰も思うまい。

 当然、そこからは彼女に因縁いんねんをつけられる羽目はめになった。

 …だが今思えば、彼女の存在こそが、この学園に来たヒロトの運命を大きく左右したと言ってもよいとさえ、本人も思っていた。

 そう思わせた決定的な証拠しょうこは、その初対面の丁度ちょうど次の日──あの北校舎での一件である。


 旧10組担任が、ラビットを相談とだいして北校舎へ誘い、毒牙どくがにかけようとしたことがあった。

 その後学園は、突如現れた異質いしつな魔力でパニックにおちいっていたが、結局は何もなかった。

 だがそこで、生徒会長からラビットがいないことをげられる。

 ラビットの失踪しっそうを簡単に察知したヒロトは、北校舎へともうダッシュで向かう。

「くそっ、世話かけさせやがって!」

 だが、その先でヒロトをむかえた洗礼は、まさに地獄のものであった。


 北校舎の廊下にほとばしる異質な恐怖、催眠で行動の自由をうばわれるラビット──そこまでならまだかわいいところであった。

 何よりの脅威きょういは間違いなく、唐突に出現した魔物だ。

 魔物とは、魔力をけた影響えいきょう驚異的きょういてきな変化をげた動物どうぶつであり、人間はおろか生態系にも重大影響を及ぼす。

 何故なぜこんな場所にあらわれたのかは知らないが、襲われつつもヒロトはラビットを救出。

 だが、魔物に恐れをなした担任は逃げ出し、校舎をつなぐ橋までをつなぐドアのかぎをかけられたことで、二人は逃げ場を失う。

 それでも、ラビットとの共闘きょうとうもあって現状をくつがえすことには成功した。

 しかし、二人を襲う魔物の脅威きょういは、尋常じんじょうではなかっった。


「──がぁっ…ぁああああッ!!」

「ヒロトさんッ…!?」

 あの北校舎でうけた、みちぎられた腕から鮮血せんけつき出す感覚を、ヒロトは忘れるはずも無い。

 ラビットの目にも、それは強く焼き付いたはずだ。

 最初に戦ったさるの魔物15匹で疲弊ひへいしていたにもかかわらず、なお、そこから猛毒蛇もうどくへびに、それのでない強さの巨大なトカゲにまでおそわれ、ヒロトは簡単にさとった。

 だが、絶体絶命のピンチの中、ヒロトをすくったのはラビットであった。ヒロトがうでを失ったのは、ラビットをかばったため──おんを感じずにはいられなかろう。

 だが、絶望ぜつぼうはすぐに追いついてきた。

 トカゲからヒロトをれて逃げ、彼の腕の出血を治癒魔法ちゆまほうで止めたラビットは、魔力のはなはだしい消耗しょうもうによって、意識はすでに朦朧もうろうとしていた。

 だが、ヒロトの血を辿たどってきたトカゲに、再びおそわれる。

 今度こそあとはない…自分は死ぬのだと、短い一生を思い出しながら、まぶたを閉じたラビットだったが…。

 ──意識がないはずのヒロトが、ラビットの前にまたもや立っていた。


「何を…して」

 ラビットがそう聞くやいなや、ヒロトに変化が訪れる。

 彼が上着を取っ払うと、その背中には赤い刺青──厳しい鬼神の形相があった。

 ラビットがそれに目を奪われていると、彼の体を赤いオーラが包みだした。

 そしてそのオーラは、特に背中に濃く密集すると、巨大なヒト型になった。

 真っ赤な筋骨隆々の鬼神が、なかなかに大きい廊下を塞ぐようにして、トカゲを睨みつけるのだった。

 そのまま睨みつけられたトカゲは、鬼神により与えられた鮮明な恐怖でショック死した。

 ラビットも謎の影も、それを驚いて見ていた。

 

 これが、ヒロトの力…──鬼神のオーラである。

 …だが、さっきも言ったように、これは魔法ではない。8年前の夜、当時6歳の彼は、両親をヤクザに目の前で殺され、強い怒(いか&りによってその力を覚醒させたのだ。

 そう、この力を使うのは、およそ5年ぶりである。

 ヒロトが幼いころに経験した悲劇は、彼がこの力を使うのを自発的に止めさせていた。

 …この力を使うことで、きずつく人間が出てきてしまうからである。


 しかし、ヒロトはこの世界に来て、オーラが魔法の代用になると確信し、生徒会の下で修行しゅぎょうを重ねた。

 身体能力強化、威嚇いかく、自己治癒(自己ちゆ)にいたるまで、元よりヒロトが持っていたオーラの効果は、急激な進化を遂げていた。

 オーラは順調に成長し、彼はその力を持ってあらゆる障害を退けた。

 救ったものも多く、仲間もたくさんでき、ラビットとはライバル関係を気づき、アツいシノギを削っていた。


 だが、彼にもうその力はない。

 ヒロトはある時、森で狂気的で残虐ざんぎゃくな敵への強い怒りに目覚め、オーラの制御せいぎょあやまった。

 止まることはできず、そのままオーラに自我を飲まれ、ゆくゆくは死ぬ。

 だがそこから生き返るに、ヒロトのオーラを全てかける羽目になった。

 ヒロトのオーラは、消えたのだ。


 そして…消えたのはオーラのみではない。

「(…ラビット…)」

 オーラが消えたヒロトに幻滅げんめつしたからか、彼女の心機一転からかは知らないが、彼のライバルであるはずのラビットは、ヒロトと距離を置くようになった。

「…」

 ヒロトにはわからなかった。

 彼女が自分を見るときの、恐れるような目。前まではそんなことはなかったし、出会いはじめの目もそんな様子ではなかった。

「どうしちまったんだよ…ラビット…」

 ヒロトは心を締め付けられながら、気になって仕方がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ