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魔法学園と鬼氣使い(ヤンキー)  作者: みっしゅう
第2章『物語の再開! 名家の才女ラビットの受難 力を失いし弥上ヒロトの不幸』
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プロローグ2『ラビットの回想』

 ──魔法学園、セコンディアスペイリア。

 あらゆる若者が魔法の腕(うで)を磨(みが)きあうこの場所では、一人の少女の物語が動いて…──いや、止まっている。

「はぁ…」

 多くの生徒の往来(おうらい)から離(はな)れた廊下(ろうか)を歩きながら、少女は一人ため息をついていた。

「(今日もまた、彼のことを考えている…)」

 彼女の名は、ラビット=M·T·ムーン…──エリート魔術師(まじゅつし)の家系の末裔(まつえい)にして、この学園トップクラスの才能の持ち主でもある。

 嘆息(たんそく)を漏(も)らすそんな彼女は、今どのような状況にあるのか──新章開始に先立て、改めて今までの粗筋(アウトライン)を説明しよう。


※


 ラビットについて語(かた)るには、彼女の凄惨(せいさん)な過去を語らねば始まらない。

 かつて2年前、彼女の生まれムーン家は、拍子(ひょうし)もなく現(あらわ)れた高レベルの魔物に寝込みを襲(おそ)われ、彼女の両親、召使(めしつか)い、客人と見境(けんきょう)なく食い荒(あ)らされたのだ。

 かの絶体絶命の危機(きき)からラビットが生きていられたのは、意識絶(た)え絶(だ)えながらの彼女の両親に、逃げ道をテレパシーで送(おく)られたからだ。

 両親と召使いに護(まも)られて成長してきた彼女の心を、今回の事件がどれだけ傷付けたかは想像するまでもない。

 ショックによって、2年のブランクを喫(きっ)することとなった。

 落ちぶれていると、セコンディアスペイリア学園長──リズレによって、学園に誘われる。

 半信半疑に入学したそこでは、案(あん)の定(じょう)デリカシーもなくムーン家の名を向ける者も多くあった。

 正直うんざりしていたところだったが、意外(いがい)にも、例と異(こと)なる男と出会った。


 その男とやらは、魔法も使えずにこの学園に来たとかいう一風(いっぷう)変わったやつだった。

 道理(どうり)で最低クラスの10組に所属(しょぞく)、寧(むし)ろなぜ突(つ)っぱねられなかったか不思議でならない。

 今や4番目に注目を集めているムーン家も知らず、ましてやここに来た理由さえ答えられぬという始末(しまつ)──そいつの名は、弥上ヒロトという。

 確(たし)かラビットは、指導室での初対面、彼にこんなことを言った。

「…──なぜあなたが生徒として生き残ったのか理解(りかい)に苦しみます」

 それに彼は、ボソッと返す。

「俺だって…わからねえことだらけなんだよ」

 吐き捨てるように返された言葉を始めとして、出会いはじめは彼への疑問(ぎもん)も多く…──いや、むしろ多かったのは怒りか。


 その理由としてまず最初に挙(あ)げられるのは、あの097号室での一件。

 シャワーを浴(あ)びていた時、丁度(ちょうど)そこに押しかけたのがヒロトだった。

 当時印象が最悪だった彼に、ハダカを余(あま)すことなく見られたのだ。

 寛容(かんよう)を保(たも)って弁明(べんめい)の場を設(もう)けた結果、二人の部屋の番号が一緒になっていたという。

 許してやろうと思ったが、次のヒロトの一言で心機一転する。

「──…言ってペッタンコだったし。ほぼ見てないと言ってもいいくらいで」

 ラビットは魔法でヒロトを部屋から吹き飛ばした。


※


 ラビットは過去を思い出して、思わず笑(え)みをこぼす。

 こんな大事件があったことも忘れていた。

「まぁ…ムネもあのときよりかは…大きくなっている…はずですし」

 彼女にとって最(もっと)も親(した)しい女性からの証言(しょうげん)もあるし間違いはないだろうと、ラビットは半信半疑で思っていた。

「…」


 ──ラビットは、ヒロトを思うたびに、あの日を思い出す。

 その日というのは、ヒロトのと同じである。だが、ラビットが思い出すのは、北校舎の一件のその次である。

 一件より意識(いしき)を097号室において取り戻し、2人の関係を進展させる談話が始まるのだった。


 ラビットはヒロトに、北校舎の件を以てこう質問した。

「──その…右腕が再生したこととか…やはり、あの鬼神のオーラが関係しているのですか?」

 ヒロトはその質問にしばらく黙(だま)ってから、語ることにした。

 ただし、ヒロトは条件を取り付けた。

「──俺には、お前から聞きたい過去がある──…無理に話せとは言わないが、お前が話してくれないと俺も話す気はない。それだけ俺の過去は、おいそれと教えられるものじゃないんだ」

 お互いに隠し事はナシだと、ヒロトはそう言うのだ。

 だが、いい意味で世間知らずな彼にならと、彼女は自分の生い立ちと事件について語った。

 そして全てを語り終えて、真剣に聞いた後でヒロトはこう言う──

「──そうか…お前も辛(つら)い過去を歩んできたんだな」

 優しい声音(こわいろ)で寄(よ)り添(そ)うように、そう言った。

 その声には、思いがけず、彼女の心は安(やす)らいでいた。

 そして約束どおり、ヒロトの過去が彼自身によって語られる。


「──…日本って国は知ってるか?」

 最初に聞かれた質問に、ラビットは「…聞いたことがありません」と言うのに、ヒロトは何かに納得(なっとく)したように、改めて語り始める。

 …8年前、彼はヤクザによって、両親を目の前で撃ち殺された。

 ヒロトは当時8歳、幼く虚弱ながら勇敢に反撃するも、10人以上の武器を持った大人から無情な返しをうける。

 そこで彼の怒りは真っ直ぐになり、胸の奥に眠る危険なものを呼び覚ます。

『──ふははははッ!!』

 ヒロトが鬼神のオーラに目覚めたのは、そのタイミングであった。


 その力はヤクザ達を殺した。…そして、もう一つの犠牲(ぎせい)を招(まね)いたという。

 体の弱さ故にイジメられ気質であったヒロトは、鬼神のオーラにやられた精神のまま、クラスメイトに復讐(ふくしゅう)を果たす。

 過去にイジメてきた者を男女無差別に襲(おそ)い、最後に一人の少女が残った。

 ヒロトはその少女を襲わなかった。

 なぜか、彼女はヒロトのイジメに加担(かたん)せず、いつも慰(なぐさ)めてくれた幼馴染だったのだ。

 彼女に抱きしめられ正気を取り戻したヒロトだったが、雨が降る帰り道、ヒロトは河川敷で、最悪の現場に遭遇(そうぐう)する…──

「ごめんなさい…ごめんなさい…──うぁあアアアアッ!!」

 ヒロトの豹変による傷心からか、河川敷から身を投げた幼馴染──血を流し骨は折れ、軽くなったその体を抱きしめ、ヒロトは慟哭したという。


 ──そんなエピソードを聞かされ、ラビットはヒロトに疑問を抱く。ヒロトはこのような過去を持ちながら、なぜこうも平静に生きてきたのか…。

 疑問を投げかけると、こんな答えが帰ってきたのを、今も忘れない。

「──クヨクヨしてたって、仕方ねえからな」

 ムーン家の絶滅から2年のブランクをうけたラビットにとって、その言葉を笑顔で放つヒロトは眩しすぎた。


※


「(あの時から、わたくしたち2人の関係は一気に発展したんでしたね…)」

 生徒会のもとでの修業──ヒロトがオーラを熟練させる一方で、ラビットも魔法の才能を一気に開花させつつあった。

 2人はいわゆる、ライバルとも言える関係であった。

「…その…筈だったのに」

 今のラビットにとっては、ヒロトに何か敵意がある。

 敵とは言っても、好敵手(ライバル)と言うわけでもない。

 もっと生々しい、なにかである。


 これも、たった一晩の夢が引きずられている。

 燃える屋敷、14歳ほどの自分…──同い年の少年がラビットを嘲笑(あざわら)う。…そして、その背中から現れる巨大な何か…。

 鬼神のオーラをイメージしてもらえればいい。

「まさか…そんなことは…」

 ムーン家を滅ぼしたのがヒロトなどと、そんなことはあり得ない。ヒロトは当時別世界にいたのだ。

 それに、夢で見た話など全く不毛である。

「…」

 それでも、ラビットはある事実を蔑(ないがし)ろにはできなかった。

 ラビットの救出にも携わったリズレも、巨大な影を見たと供述する。

 彼女を中心にして混沌(こんとん)や謎(なぞ)が血生臭く巡(めぐ)る渦(うず)に、彼女は追い詰められていた。


「…ッ!」

 突如、ラビットは背後を振り返る。

 誰もいない…──

 だが、彼女は緊張(きんちょう)の汗を拭(ぬぐ)い、何かから逃げるように急ぎ足になるのだった。

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