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ー楽土の章20- 秀吉の躍進劇

 織田家の北陸戦線は勝家(かついえ)たちによる活躍と謙信の死により決着が見え始める。そして、西の中国地方といえば、秀吉がもてる才能をおおいに発揮する。


 1578年4月。秀吉は別所家率いる豪族たちの根城のほぼすべてを抑えていた。残りは別所家の居城・三木城とその周りの支城が3つ残すばかりとなる。ここで、彼の家臣である、竹中半兵衛、黒田官兵衛が秀吉にある策を提示する。


「え?え?一気に三木城を力攻めせずに、兵糧攻めをするん、ですか?それはいったい、どうして、ですか?」


「んっんー。無理に攻めれば、こちらの兵に損害が出るからですよ?敵は別所家だけではありません。こちらの兵を温存できるなら、できるだけやろうというだけです」


「半兵衛殿の言う通りなのでごわす。三木城を包囲し、干し殺しにするのでごわす。今は4月でごわす。田植えもできないように囲めば、1カ月ほどで城の兵糧は喰い尽くされて、別所家は根を上げるに違いないでごわす」


「官兵衛殿。一か月、ですか。ううん。確かに、その程度で降伏してくれれば、こちらも兵をいたずらに消耗することはありま、せんね。わかりました。半兵衛殿と官兵衛殿の策に乗り、ます。城から一兵も逃さないように囲んでくだ、さい!」


 秀吉の号令のもと、三木城の包囲を半兵衛・官兵衛は完成させる。2人は一か月とふんでいたのだが、別所家は頑なに降伏を拒み、なんと、3か月も粘ることになった。これにより、三木城では餓死者が増えに増える結果となった。これが有名な【三木城の干し殺し】と呼ばれるようになった。秀吉は想いもしなかった悪名を承ることになったのだ。


「あ、あれ?なんか、最近、兵の皆さんが、私のことをひそひそと、あのひとはニンゲンじゃない。やっぱり猿だったんだ。だから、あんなひどい干し殺しができるんだ!って噂されているん、ですが?」


「んっんー。これは誤算でしたね。まさか、こちらの思惑の3倍、粘るとは思いませんでした。いやあ、失敗、失敗。これは反省しないといけませんね」


「おいどんも驚きの粘りなのでごわす。別所家は馬鹿か何かでごわす?それほどまでに、織田家に降伏するのが嫌だったのでごわす?」


 策を提示した半兵衛・官兵衛であったが、多大な餓死者が三木城で発生したものの、それほど気にする風もなかったのだった。


「飢えて死ぬのが、ニンゲン、一番、苦しい死に方と言い、ますから、今度、干し殺しをするなら、もう少し、手加減をして、くださいね?」


「そうは言われても、1カ月くらいで根をあげなかった別所家が悪いですからねえ?こちら側に落ち度はありませんよ。再三、降伏勧告はしていたのですからね?」


「半兵衛殿の言う通りでごわす。おいどんたちが悪いわけではないのでごわす。降伏しなかった別所家が悪いのでごわす!」


 あくまでも強気の2人に、秀吉は、はあああとため息をつくしかなかったのであった。なにはともあれ、10月に入るころには播磨(はりま)周辺の豪族たちは、次々と秀吉に降伏し、戦いは収束していきそうになった。だが、ここで織田家にとって、重大な事件が起きる。


「た、大変でございます!有岡城の荒木村重(あらきむらしげ)殿が謀反を起こしましたのでございます!」


 伝令が姫路城で戦勝祝いをしていた秀吉たちにそう告げる。秀吉はあまりの驚きに眼を白黒させるのである。


「えっ!?えっ!?えええ!?なんで、荒木殿が謀反を起こしたの、ですか!?有岡城って、ここ播磨(はりま)から京の都までの中間地点、ですよ!?」


「んっんー。これは大変なのです。私たち、孤立無援になっちゃいましたね?これはさすがに大ピンチも大ピンチです」


「は、半兵衛殿?なんで、そんなに冷静な顔付きなのでごわす!?おいどん、さすがにそこまで冷静にはなれないのでごわすよ?」


「まあ、慌てたからといって、事態が好転するわけではありませんからね?さて、姫路城の備蓄でも確認しておきましょうか。本国との補給線を潰されてしまったのですから、しばらく播磨(はりま)で自給自足になりますねえ」


「半兵衛殿。わかり、ました。急ぎ、別所家の旧領を吸収、しましょう!それに、もし、この機に乗じて、反乱を企てる豪族がいましたら、徹底的に潰して、一族全てを根切りに、します!」


 秀吉の号令により、播磨(はりま)とその周辺の豪族に対して、秀吉配下のモノたちは徹底的に反乱者を潰していくことになる。秀吉の素早い動きが功を奏し、荒木の謀反に追従する豪族は少なく済んだのであった。


 さらに秀吉は播磨(はりま)の地を抑えるだけではなく、黒田官兵衛を有岡城に派遣して、荒木を懐柔しようとした。だが、この策は大失敗に終わる。


「えっ!?えっ!?官兵衛殿が、有岡城に向かったあと、行方知れずになったの、ですか!?いったい、官兵衛殿の身に何が起こったの、ですか?」


「んっんー。官兵衛殿はやらかしましたね?官兵衛殿に付き従った兵たちすらも、ここ、姫路城に戻ってきていないとのことです。これは、下手をすると、荒木殿に殺された可能性がありますね?」


「半兵衛殿はこんな時にでも、沈着冷静すぎて、逆に半兵衛殿の肝の太さに驚いて、しましますよ?」


「んっんー。いちいち、何かあるごとに心を乱していては、策を秀吉さまに提示することはできませんからね?さて、私はちょっと、信長さまに会いに行ってきます。秀吉さま、良いですか?」


「半兵衛殿。それはどうして、ですか?信長さまに会いに行く理由を教えてほしいの、ですが?」


「ああ、それは私が官兵衛殿にご子息を信長さまに預けておけと言っていたからです。官兵衛殿は私の指示に従い、それを実行したのですよ。だから、今、信長さまに官兵衛殿が裏切ったわけではなく、殺されたか、幽閉されたかだからと釈明しておかないとダメだってことですよ」


「な、なるほど。いつのまにか、そんなことをしていたの、ですね?」


「そりゃあ、そうですよ。いくら、おひとよしの信長さまと言えども、主君を裏切り、いきなり姫路城を明け渡すような官兵衛殿を心から信頼するわけがありません。勝家(かついえ)さまだって、昔、同じことをして、信長さまに閑職をもらったのですから。というわけで、官兵衛殿の御子息が信長さまの手で処刑される前に、私が釈明をしてきますね?」


「わかり、ました。官兵衛殿の御子息の件、半兵衛殿に任せ、ます」


「最悪、私が信長さまから勘気をもらって、私が切腹に追い込まれるかもしれませんが、それもまた面白いでしょうね。では、秀吉さま。今生の別れになるかもしれませんが、あとは頼みましたよ?」


「す、すみません。私自身が信長さまのもとに行ければいいの、ですが。不安定な状況の播磨(はりま)から離れるわけにはいきま、せんから。半兵衛殿。信長さまに会いに行くときは、甘いお菓子を手土産に持って行って、ください。そうすれば、信長さまも少しは話を聞いてくれるかもしれま、せんから」


「わかりました。では、堺にでも寄って、南蛮製の甘いお菓子でも買ってから出向くことにしますか。さて、どうなることやらですね?」


 半兵衛はそう言い残すと、一路、南近江の信盛(のぶもり)の屋敷に滞在する信長のもとへと向かうのであった。途中、堺に寄り、南蛮菓子を手に入れ、信長と謁見し、官兵衛が置かれているであろう状況を事細かく説明し、なんとか、官兵衛の息子が処刑されるのを止めるのであった。


「ふう。竹中くん自身が先生に弁明にこなければ、あやうく、黒田長政くんを切腹に追い込んでいたところですよ。いやあ、危ない危ない。悪いのは荒木村重(あらきむらしげ)くんです。黒田官兵衛くんは悪くありませね」


「いやあ。半兵衛は英断だったよな。荒木殿が何をもって、殿(との)を裏切ったかはわからないけれど、殿(との)は荒れに荒れてたもんな。半兵衛殿。おかげで、殿(との)が発狂せずにすんだぜ。ありがとうな?」


「んっんー。信盛(のぶもり)殿。感謝される必要は私にはありませんよ?そもそも、官兵衛殿の御子息を信長さまに預けろと助言したのは私ですからね。いやあ、これで胸のつかえが取れました。ごほんごほん、げほっ!」


 半兵衛が今まで朗らかにしゃべっていたのに、急に咳き込み、さらに血反吐を吐き、畳を紅く染める。それに驚くのは信長と信盛(のぶもり)である。


「ちょっ、ちょっと!?竹中くん、その吐血の量はさすがにまずいんじゃないですか?久しぶりに顔を視た時は、なんだか顔色が悪くて、今にも死にそうだなあと想ってましたけど、まさか、なにか大病を患っていたりします?」


「げほっげほっがはっ!んっんー。すいません。曲直瀬(まなせ)殿の薬でごまかしごまかしやってきたのですが、そろそろ、私の命数は尽きようとしているようですね。ああ、できるなら、もう3年ほど長生きしたかったのです。そうすれば、信長さまがひのもとの国の全てを治める姿を視れたというのに、残念なのですよ」


「半兵衛殿。なんで、そんな身体の状態で、秀吉隊に従軍してんだよ!今からでも遅くないから、ゆっくり養生しておけよ!」


「んっんー。それはできないのですよ?私に匹敵するほどの知恵モノである官兵衛殿が荒木殿に捕まった可能性があるのです。官兵衛殿が戻ってこない以上、秀吉さまを補佐するモノがいなくなってしまいます」


 半兵衛は血で濡れた口元を手ぬぐいでぬぐいながら、そう、信盛(のぶもり)に応える。顔色は真っ青であったが、彼の眼はギラギラと輝いていた。そのため、信盛(のぶもり)は何かを言おうとしたが、その瞳の力に押されて、ぐっと唸るだけで終わってしまう。


「んっんー。では、官兵衛殿の御子息の命も助かったので、私は秀吉さまのもとへと戻りますね?秀吉さまは私がいないと、路頭に迷ってしまうお方ですし。あと1年もつかどうかわからぬ命ですが、官兵衛殿が秀吉さまのもとに戻るまでは、頑張ってみせますよ」


「わかりました。竹中くん。長いようで短いつきあいでしたね?あなたの息子の重門しげかどくんは先生が代わりに立派に育てておきます。では、今生の別れとなりますが、竹中くんは自分を貫いてくださいね?」

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