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ー楽土の章16- 謙信の死 第二次木津川沖合戦

「ん?いつまで経っても謙信さまが戻ってこないでござるぞ?おい、誰か、かわやに行って、様子をみてくるでござる!」


「はははっ。酒を飲みすぎて腹を下しただけではないか?それほど、心配することはないだろう?」


「愛愛愛!念のため、僕が視てくるのでしゅ。下痢止めの薬でも渡してくるのでしゅ」


「……。兼続かねつぐ、任せたでそうろう。義父上にも困ったものでそうろう。いい加減、歳なのだから、酒を飲みすぎるのはやめてほしいでそうろう


景勝かげかつさま。謙信さまから酒を奪ったら、生き甲斐を奪うのと同じでしゅよ?はははっ!」


 この時、まだ、上杉家の将たちは謙信の身に起こったことを知らなかった。だからこそ、ゆうちょに構えていたのだった。兼続かねつぐかわやに謙信の様子を視に行き、そこで謙信が口から大量に泡を吹いて倒れているのを発見する。


「愛愛愛ーーー!?け、謙信さまが口から泡を吹いて、便器に顔から突っ込んでいるのでしゅううう!?」


 兼続かねつぐの悲痛の叫びが七尾城城下に響き渡る。


 上杉謙信の身体はすでに冷たくなっていた。兼続かねつぐに発見された時、すでに彼は極楽浄土への旅路へと向かっていたのだ。


 享年49歳。謙信は産まれて初めて領土欲を示したのだが、それが神仏を怒らせたのだろうか?彼は上杉家が興隆していこうとしているまさにその時に命を落とすことになった。


 謙信の死は上杉家を真っ二つに割る事件へと発展していく。それにより、上杉家の北陸侵攻計画は完全に破たんし、上杉軍は越中まで後退をよぎなくされるのであった。


 それを知らない勝家かついえ率いる織田・北陸方面軍は上杉家の再度の侵攻に備え、加賀の大聖寺城で時間をかけて、軍の再編を行うことになったのだ。


「ガハハッ!兜や鎧を脱ぎ捨てたのは仕方ないことでもうしたが、これでは戦えぬでもうす。殿とのから、物資を送ってもらえるように頼むのでもうす!」


「うッス。では、俺がその辺りの手配をしておくッス。冬が終わり、春が来て、雪が解けた時に上杉家との一大決戦ッス!」


「ん…。今度は失敗しない。上杉謙信を能登から追い出そう!」


「ううう。謙信を相手に勝てるでござるか?武田信玄が存命中の時に、互角に渡り合った相手でござるよ?謙信は。拙者、恐ろしいのでござる」


「ガハハッ!不破ふわよ、よおく考えるでもうす?謙信と織田家うち殿との、果たして、どちらが怖いのでもうす?」


 勝家かついえがニヤリと笑い、不破ふわに問うのであった。不破ふわはそう問われた瞬間、信長さまの邪悪な笑みを想いだし、ブルブルッ!と身震いするのであった。


「の、信長さまのほうが怖いのでござる。不破ふわくうううん!?と言いながら、ニッコリと笑みを浮かべ、それがしの肩をぽんっと叩くのが想像できるのでござるううう!」


「ガハハッ!わかっていれば良いのでもうす!さあ、春の雪解け後には、謙信との一大決戦でもうす!前門の龍、肛門の第六天魔王でもうす!」


「肛門の第六天魔王なら、別に俺は怖くないッスね。越前に配属されてから、とんと、信長さまに会えてないッス。掘ってもらえるなら、嬉しい限りッス」


「ん…。自分は嫌だな。もし、自分の肛門を狙われる時は利家としいえに引き受けてもらう」


「拙者、掘るのはいいが、掘られるのは嫌でござるううう!」


 謙信の死も知らず、勝家かついえたちは春を待ち続けるのであった。


 その後、南近江に滞在する信長は勝家かついえたち北陸方面軍が謙信に敗れた報を聞く。


「うーーーん。いくら七尾城を落とされて、周りが敵だらけになったといっても、散々に逃げ回るのはどうなんですかねえ?」


「まあ、殿との。今回は仕方ねえだろ。とどまって戦おうものなら、勝家かついえ殿たちの命が危険にさらされてたんだしよ?逃げに逃げまくったのは英断だと想うぞ?」


「のぶもりもり。それはそうなんですけど、こちらはこちらとして、本願寺顕如ほんがんじけんにょくんとの一大決戦を控えているのですよ?勝家かついえくんとこの大敗で、こちら側の士気にまで影響が出るのは困るんですよ」


 信長はそう言い、ひとつ、ふうううと深いため息をつく。


「まあ、勝家かついえくんたちが命を落とさなかったことを良しとしますか!さて、気持ちを切り替えていきましょう!のぶもりもり、堺のみなとには、九鬼くきくん率いる船団が到着しました?」


「南伊勢の鳥羽とばから先月末、出航したという報せは聞いているぜ?あと1週間もすれば、堺のみなとに到着するんじゃね?殿とのの言う通り、ギリギリ8隻完成したみたいだぞ?」


「ほう。さすが、九鬼くきくんです。先生の注文通りの船に仕上がっていますかねえ?のぶもりもり、陸軍をまとめてもらえませんか?堺の地で九鬼くきくんと合流しましょう!」


「ほいほい。今回の陸軍は石山御坊を囲む程度の兵数でいいよな?んっと、ざっと3万ってところか。細川藤孝ほそかわふじたか殿と荒木村重あらきむらしげ殿にも出張ってもらうかな?」


 信盛のぶもりは信長の命に従い、岐阜西、南近江、さらに京、大坂の兵をまとめ、3万の軍に仕立て上げ、堺へと進駐するのであった。


 11月半ばに入るころには兵3万は揃えられ、信長もまた、堺へと入る。その堺の港には、ひのもとの国では視たこともないような大きな黒塗りの大船が8隻も浮かんでいたのであった。


「おおお!九鬼くきくん、これは先生の想像以上の仕上がりの船ですよ!?」


「頑張ったオニ。本当に頑張ったオニ。こんな船、1年で建造しろとか、ふざけたことを言ってくれた信長さまをぶん殴りたい気持ちを抑えて、なんとかやり遂げたんだオニ」


 九鬼くきの頬は1年前に比べてげっそりと痩せこけていた。過労に次ぐ過労により、彼の両目は紅く充血していたのであった。


「あれ?九鬼くきくん。眼が真っ赤ですけど、あんまり眠れていません?」


「そんなの当たり前だオニ!片舷8門。両舷合せて16門の大筒を装備して、さらに船体を総鉄張りにしたのだオニよ!?しかも、それを8隻も造れでオニよ!?ここ1年、満足に寝れた日なんかあるわけないオニよ!?」


 九鬼くきが飛び出さんばかりの両目をさらにグワッと見開き、血の涙を流しながら、信長を睨みつける。


「血の涙を流すほど、この鉄甲船(てつこうせん)の完成を喜んでくれるんですか?九鬼くきくんは。いやあ、先生も、もっと喜びを表現したほうが良いんですかね?」


殿との九鬼くきの血涙は絶対に喜んでのもんじゃないぜ?こりゃ、殿との九鬼くきに刺される心配をしたほうが良いかもな?」


「のぶもりもり。そんな、不吉なことを言わないでくださいよ?九鬼くきくんが先生を刺すわけがないじゃないですか?ねえ?」


 だが、九鬼くきはただ血涙を流したまま、信長をずっと睨み続けるのである。あ、あれ?と想った信長は


「もしかして、先生、九鬼くきくんが喜んでいると想っていたのですが、間違いですかね?」


「うん。大間違いだ。九鬼くき殿とのを刺そうとするなよ?その代り、こんな素晴らしい船を作ったんだ。殿とのに領地でもおねだりしておけ?」


「わかったんだオニ。本願寺顕如ほんがんじけんにょとの闘いが終わったら、領地加増を願い出るのだオニ。たくさん、領地をもらうから、覚悟しておくんだオニ!」


 というわけで、九鬼くきへの恩賞を約束させられた信長であったが、まあ、九鬼くきくんが機嫌を直してくれたのでそれで良しとし、彼を来たる海戦への総大将とする。信盛のぶもりは3万の陸軍を用いて、陸から本願寺家を包囲する。


「ふひひっ!性懲りもなく、石山御坊を囲んでくれたものやで!さっそく、毛利家に海から救援をしてもらうんやで!」


 本願寺顕如ほんがんじけんにょはほくそ笑みながら下間頼廉しもつまらいれんに毛利家へ救援要請を出すよう指示を飛ばす。頼廉らいれんもまた、毛利家というよりは村上海賊の強さを信じていたため、何の心配もなく、書状を毛利家に送るのであった。


 信盛のぶもり隊が本願寺顕如ほんがんじけんにょが籠る石山御坊を包囲してから1週間後、毛利家の水軍・村上海賊が昨年と同じく木津川沖付近まで接近する。


「ひゃーははっ!信長の奴め。性懲りもなく石山御坊を包囲したんだぜえええ。俺様、仕事が舞い込んで、うはうはなんだぜえええ!さあ、お前ら、仕事の時間なんだぜえええ!ほう烙火矢にいつでも火をつけれるように準備しておけなんだぜえええ!」


 村上武吉(むらかみたけよし)率いる海賊たちは、うひゃあああ!やうぎぎぎいいい!と咆哮をあげる。村上は300もの船を用意し、さらには全船にほう烙火矢を持ち込んでいた。船の数だけでもひのもとの国1番といえるのに、さらには一度、火がつけばなかなかにして消火の難しいほう烙火矢を完全装備している。


 そのため、村上側としても、まさか負けることはないと想っていた。だが、彼ら村上水軍が木津川沖に展開すると、目の前の真っ黒に染まった巨船に驚くことになる。


「うげえええ!?なんだんだぜえええ!あの大きな船は!数を揃えても無駄と視たか、その大きさと大筒の数で対抗するつもりなのか?だぜえええ!へへへっ!船はでかすぎちゃ、小回りが利かなくなるんだぜえええ!よっぽど、あちらの海戦を知っている将がいないと視たんだぜ!おい、お前ら!距離を置かれたら面倒なんだぜ。あの黒船に一気に接近し、ほう烙火矢を投げつけて、一撃離脱を心掛けろなんだぜ!」


 うひゃあああ!うぎぎぎいいい!黒船、恐れるに足らずと判断した村上水軍は自慢の足の速い手漕ぎ船で一気に進み、目の前の黒船8隻の間に割って入っていく。そして、接舷するかしないかのギリギリで黒船の横を通り、ほう烙火矢を次々とその黒船の側面にぶち当てていくのであった。

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