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ー楽土の章14- 久秀・官兵衛・半兵衛

 信長率いる1万の兵は筒井家の領地になだれ込んできた松永久秀まつながひさひでの兵4000と対峙する。松永久秀まつながひさひでとしては、信長が救援に来る前に筒井家を滅ぼしたかったのであったが、信長の進軍速度が予想以上に早く、それは未遂で終わってしまうことになったのだった。


 久秀が謀反を起こしたのが1577年9月の半ばであったが、その2週間後には、久秀は居城である信貴山しぎさん城にまで押し返され、信長・信忠のぶただの3万の兵に包囲を喰らうことになる。


「ふははっ!大失敗だったのでござる!信長め、油断をしているとタカを括っていたというのに、ここまで早く、筒井家への救援に到着するとは想っていなかったのでござる。さすが、【神速】とあだ名されることはあるのでござる」


 久秀は、信長の動きに感服せざる得なかったのだった。彼の目論見としては奈良の全土を手に入れ、本願寺顕如ほんがんじけんにょと共に北と南から、信長を挟み撃ちにする計画であったのだ。


 だが、その計画もすでに気泡と化し、久秀に打つ手はなくなっていた。そんな久秀に対して、信長がなんと救いの手を差し伸べることになる。


「久秀殿。お久しぶりだぎゃ。松井友閑まついゆうかんだぎゃ。此度の謀反、信長さまは心を痛めているのだぎゃ」


「ふははっ!これは松井殿。堺の代官である、おぬしがわざわざとここ信貴山しぎさん城に和睦の使者としてやってくるとは、これ如何にでござる」


「まあ、久秀殿が疑惑の念を持つのは仕方ないのだぎゃ。ここまで完全に包囲しといて、和睦を結ぶ必要など、信長さまにはないのだぎゃ」


「ふんっ。では、信長がわしゃを生かしておくのは理由があってのことなのでござるか?」


「そうだぎゃ。久秀殿には立派な息子が居るのじゃ。隠居してもらい、信貴山しぎさん城は、その息子に任せるのが良いだぎゃ」


久通(ひさみち)のことでござるか?まあ、わしゃほどではないにしろ、器量はなかなかのモノでござる。引退をするのも悪くない道でござる」


「理解を示してくれて、ありがたい話なのだぎゃ。というわけで、久秀殿の平蜘蛛釜(ひらくもがま)を和睦のあかしとして、信長さまに進呈してほしいところなのだぎゃ」


「ふははっ!平蜘蛛釜(ひらくもがま)でござるか!これはまた、逸品も逸品を所望してくれたものでござる!」


 平蜘蛛釜(ひらくもがま)。信長が長年、久秀に譲ってくれと頼み込んでいた茶釜であった。久秀はひとつ、ふうううと長いため息をつき


「わかったのでござる。平蜘蛛釜(ひらくもがま)ひとつで、わしゃはともかく、息子の命が救われるというのであれば、信長に進呈するのでござる」


「久秀殿。英断なのだぎゃ。では、さっそく、平蜘蛛釜(ひらくもがま)をもらっていくのだぎゃ。久秀殿の処遇については、信長さまがあとで御沙汰を下すのだぎゃ」


 松井友閑まついゆうかんは久秀から、平蜘蛛釜(ひらくもがま)を譲りうけ、信貴山しぎさん城から退出するのである。


 その後、松永久秀まつながひさひでは松永家の家督を息子の久通(ひさみち)に譲ることになる。久秀自身は隠居となり、信盛のぶもりの屋敷に半ば幽閉に近い形で蟄居となるのであった。


「なあ?殿との久秀こいつを許すのは構わないんだけど、俺の屋敷に住まわせるのはどうなの?小春やエレナに手を出されるんじゃないかと、冷や冷やするんだけど?」


「まあまあ。平蜘蛛釜(ひらくもがま)を譲ってもらった以上、殺すわけにもいかないでしょ?いやあ、平蜘蛛釜(ひらくもがま)で沸かした湯は美味しいですねえ?」


「ふははっ!信長さまの心の広さには、感服したのでござる。わしゃ、これから、信長さま専属の茶人として生きていくのでござる!」


「なーんか、お湯に毒を混ぜそうで怖い気がするぜ。殿との。こいつには充分、注意しておけよ?」


信盛のぶもり殿、失礼でござるな?わしゃは茶の湯に関してだけは正直なのでござる。茶の湯を汚すような真似だけはしないと言っておくのでござる」


「というわけだそうです。久秀くんは利休くんと共々、このひのもとの国の茶の湯を発展させてもらいましょうかね?」


 その後、武人としての松永久秀まつながひさひでは死に、茶人として久秀は生きていくことになる。彼は利休7哲のひとりとして数えられ、後世の茶の湯に影響を与えていくことになるのだった。


 久秀の謀反が失敗に終わってから1か月後、1577年も10月に入ると、織田家の攻勢はいよいよもって加速する。羽柴秀吉はしばひでよしは全軍率いて、明石・播磨はりまへと進軍する。


 秀吉にとって幸運なことは播磨はりまの赤松家に所属する黒田官兵衛なる男が、自分の居城である姫路城を秀吉に明け渡す旨を伝えたことであった。秀吉は官兵衛の行為をいたく喜び、彼を自分の直臣とすべく動き出すことになる。


「此度は、明石・播磨はりま攻めの拠点として、姫路城を明け渡してくれたことに、おおいに感謝して、います。ところで、私は官兵衛殿を自分の直臣にしたいのですが、どう、ですか?」


「なかなかに直球でごわす。もっと、からめ手を好まれるかと想っていたのでごわす」


 官兵衛が秀吉のまっすぐな視線を受けて、こそばゆい想いであった。


「んっんー。私の上司はなんでもかんでもド直球なのですよ。欲しいと想ったモノは手に入れないと気がすまないのです」


 そう言うのは、秀吉の家臣である竹中半兵衛であった。彼も10年ほど前に秀吉の熱烈歓迎っぷりにほだされて、秀吉直下の家臣となったのである。


「かの有名な半兵衛殿を召し抱えるなら、変に策を弄するよりは、真心で攻めたほうが良さそうでごわすな。しかし、おいどんには、それほどの器量は持ち合わせていないのでごわすよ?」


「いえいえ。私にはわかり、ます。敵か味方かわからぬようなモノに城を明け渡すなど、並の将には出来ないモノ、です。官兵衛殿は、先見の明を持っているの、です!」


「いやいや。たまたまなのでごわす。おいどん、主君の赤松氏とはどうにもソリが合わないのでごわす。どうやら、織田家の侵攻を快く想っていないようでごわす。なにやら、別所家と相通じているようなのでごわす」


「んっんー。仮にも赤松家の家臣である、官兵衛殿が、告げ口のように秀吉さまにそう耳打ちするのはどうかと想いますよ?それがしから視れば、すでに官兵衛殿の心は赤松氏から離れているように視えるのです」


「はははっ。さすが竹中殿でごわす。自分の心を見透かされているようでごわす。おいどん、織田家がこの地に侵攻してきたのは、僥倖だと想っているのでごわす」


「と、いうと?」


 竹中が右手に持つ扇を、口元に当てながら官兵衛に聞く。


「織田家であれば、おいどんでも1国1城の主になれるのではないかという、薄汚い心を持っているのでごわす」


「う、薄汚いなんて、とんでも、ない!官兵衛殿の器量から考えれば、逆に赤松氏に仕えているほうがおかしいの、です!どう、でしょう?私の中国地方制覇に力を貸してくれま、せんか?私の直臣となれば、中国地方の国の1つ、いや、2つほど、お任せするの、ですが?」


「はははっ。これは嬉しいお誘いでごわす。出来れば、3国ほど頂ければうれしいでごわすよ?」


「そ、それはちょっと、難しい、ですね。私の家臣には古くから仕えてくれているものも、いますから、そちらにも1国程度を任せることになります、から。先ほど、2つと言いましたが、1国で我慢してくれま、せんか?」


「正直な方でごわすな?秀吉殿は。あい、わかったのでごわす。主君である赤松家に付き従えば、おいどんも連座で腹を斬ることになるのでごわす。ここは、秀吉殿と言う大波に飲まれてしまうのでごわす!」


 官兵衛は秀吉の勧誘を快く受けて、彼の家臣となることを約束するのであった。


「ところで、半兵衛殿。顔が真っ青でごわすが、何かの病気なのでごわす?」


「んっんー。別に病気ではないのですが、元から顔色が悪いだけなのですよ。心配するほどではないのです」


 半兵衛がそう官兵衛に応える。だが、果たしてそうなのだろうかと官兵衛は想うのであった。


 官兵衛が姫路城を秀吉に明け渡すとほぼ同時期、別所家は織田家に対して態度を硬化させることとなる。周辺の豪族に声をかけ、さらには西の毛利家と手を結び、織田家と戦う意思を示すこととなる。


 そのため、官兵衛のかつての主君であった赤松家も同様に別所家に従い、毛利家と手を結んでしまったのだ。よって、中国地方全土は織田家と対立することが決定する。秀吉は半兵衛、官兵衛をフルに活用し、この難局を乗り越えていくことになるのであった。


 次に北陸の情勢であるが、柴田勝家(しばたかついえ)率いる北陸方面の織田軍は加賀に侵攻する。一向宗たちが籠る砦を次々と焼き討ちしていき、確実に織田家の領地を増やし続けていた。その進軍を止めるものはいないかと想ったその時、あの男がついに動き出す。


「ギギギ!これ以上、仏敵・信長に好きにさせるわけにはいかないのだギギギ!上杉の各将たちよ!(われ)に従い、北陸全土から、織田軍を全て屠れギギギ!」


 軍神と謳われる男・上杉謙信が北陸方面・織田軍を壊滅させるべく、越中から進軍を開始したのである。謙信は織田軍の躍進を止めるために、まず、能登地方の七尾城に攻め入る。この土地は守護大名の畠山氏が治めていたのだが、謙信の動きに呼応した一向宗たちが七尾城城下にて一向一揆を起こしたのである。


 上杉家だけでも抵抗が難しいというのに、そこに一向一揆が起きたことにより、能登地方は混乱の渦に巻き込まれることとなったのだ。


 畠山氏は七尾城にて籠城を決め込み、さらに、織田家への救援要請を出す。その使者として家臣である長連龍(ちょうつらたつ)を遣わし、織田家の勝家(かついえ)と接触させるのであった。

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