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ー楽土の章 8- 顕如(けんにょ)の逆襲

 顕如けんにょは1576年5月、越前を信長に奪い返されたあと、大聖寺城を一向宗に急襲させる。その城を落とした直後、間髪入れずに、信長と講和したのであった。だが、顕如けんにょはこの講和によって稼いだ時間を使い、なんと、毛利家と上杉家の間に同盟関係を構築することに成功したのである。


「ひひひっ。してやったりなんやで?毛利家は足利義昭あしかがよしあきのおかげで同盟を結ぶことができたんやで?しっかし、上杉謙信がわてらと同盟を結んでくれるとは想わなかったんやで?越中を手に入れて、一向宗との戦いは一件落着とみているんかいな?」


「ううむ。謙信殿は、何を考えているのか、いまいちわからないのでございます。顕如けんにょ殿。あまり、謙信を信用するのはやめておいたほうが良い気がするのでございます」


 下間頼廉しもつまらいれんが、そう、顕如けんにょに進言するのである。


「まあ、謙信は散々に越中の一向宗を殺してくれたみたいやしなあ。越中の神保(じんぼ)が逆らったさかい、攻め滅ぼして、越中を手中に収めてもうたなあ。そのついでとは言え、少し、うちの信徒を殺しすぎやで」


「まあ、怪我の功名か、加賀・能登国を挟んで、織田家とにらみ合いとなったために、謙信殿も重い腰を上げて、織田家との対決姿勢を決めてくれたと想えば、良いかもしれぬでございますが」


「謙信は能登国だけではなく、加賀国の支配権もよこせと言ってきているのが厄介なところやで。加賀国には御山御坊があるんや。加賀の領主を追い出して、長年、一向宗が支配してきた土地やで。そこをよこせとは、少し、謙信も領土欲に目覚めたということかいな?」


「そうでございますな。今まで散々に義を貫いてきた割りには、近年、様変わりをしているのでございます。しかし、これ以上、織田家を北上させないためにも、謙信の助力を乞う必要があるのは、腹ただしいところでございます」


「まあ、謙信は神仏を厚く崇めているんやし、むやみやたらに加賀・能登の一向宗の信徒を殺すことはないやろうと期待するしかないんやな。さて、これで、第三次信長包囲網の完成やで。次こそは信長を追い詰めてやるやで!」


 顕如けんにょは気勢を吐き、信長と3度目の対決に挑むのである。時に1576年8月のことであった。


「やっぱり、顕如けんにょくんは、先生との和議なんて、鼻くそ以下としか想っていないんですねえ。しかも、3度ともに、向こうから破棄を宣言してくれるもんですかね?」


「まあ、現人神(あらびとかみ)としては、ニンゲンとの約束など、鼻紙程度にしか想っていないかもなのじゃ。殿との、どうするのじゃ?」


 岐阜城に訪問してきていた村井貞勝むらいさだかつが信長にそう告げるのであった。


「うーーーん。先生、今、息子の信忠のぶただくんの岩村城攻めを支援しなければなりませんから、ここから動けないんですよね。もし、勝頼かつよりくんが本国から岩村城へと救援に来るのであれば、今の信忠のぶただくんには少々、荷が勝ちすぎていますから」


「では、大坂方面指揮官の塙直政(ばんなおまさ)殿に顕如けんにょへの対応は任せるということか?なのじゃ」


「まあ、そうなりますね。少々、不安を感じますが、今のところ、すぐに動けるのはばんくんだけですし。ばんくんなら、きっとなんとかしてくれるでしょう」


 だが、この信長の願いは、毛利家によって打ち破られることになるのであった。


 ばんは石山御坊の補給線を断つためにも、大量の舟を用意していた。そして、大坂は淀川の支流である木津川をその舟で封鎖したのである。


 石山御坊の北は有岡城の荒木村重により道を封鎖され、東は細川藤孝ほそかわふじたかが封鎖する。そして、木津川口を塙直政(ばんなおまさ)率いる船団が封鎖することによって、石山御坊の包囲は完成したものと想われた。


 だが、毛利家に所属する村上吉清むらかみよしきよ率いる瀬戸内きっての海賊集団がばんの船団にいくさを仕掛けたのであった。


「むむむ?小勢の舟が接近してくるでござるな?まさか、この大船団に喧嘩を売るつもりでござるか?一応、皆のモノ、油断をせぬように注意するのでござる!」


 舟の上から、ばんが各舟に銅鑼で敵が来たことを知らせるように伝令役に指示をだす。ばん率いる船団は風上に位置し、敵方の村上吉清むらかみよしきよの船群は風下に位置していた。


 ばんは最初、火矢を飛ばして、敵を近寄らせなようにしていたのだが、そもそも、村上吉清むらかみよしきよが率いる船群は、小船でさらに手漕ぎの舟であったため、風の向きなど関係なく、縦横無尽にその機動力を発揮したのであった。


 逆に、風向きに頼り切って戦っていたばん側のほうが不利となるのである。しかも、間の悪いことに、風はどんどん強さを増していき、帆船であったばん側の船団は木津川口からどんどん瀬戸内海のほうに流されていき、陸地からの支援も受けられない状況となる。


「ぐぬぬ!これはまずいのでござる!陸地から離れすぎなのでござる!このままでは、石山御坊に兵糧を運びこまれてしまうのでござる!なんとか、舟の向きを変えるのでござる!」


 強風に煽られて、ばんが率いる船団は大きく隊列を乱す。その合間を縫うように村上吉清むらかみよしきよの小舟が間に入って行き、駄賃とばかりにあるモノをばんの船団に投げつけたのである。


 それは【ほう烙火矢】と呼ばれるものであった。モノの造りとしては、ひとかかえある壺に火薬を詰め込み、そこに導火線をつっこんだだけの簡単なシロモノであった。だが、この【ほう烙火矢】は、世界最初の焼夷弾であったのだ。


 火薬が高密度で壺のなかに押し込まれていることにより、非常に高い温度の熱と消えぬ炎を産み出すことができ、木造船には効果てき面だったのである。さらには、この詰め込まれた火薬のおかげ、ちょっとやそっとでは炎が消えないのである。


 そのため、いくら、ばん側がそのほう烙火矢を喰らったことにより、それの消火作業にあたっても、無駄だったのだ。


 そして、木津川沖は業々と炎に包まれていく。消えぬ炎による損害は非常に大きく、ばんが率いる200の船団がなんと、村上吉清むらかみよしきよの50にもみたぬ船群にぼろ負けしたのである。


 しかもだ。ばん率いる船団は陸地から大きく離れていたため、ばんや兵士たちは燃えて沈みゆく舟と共に、大阪湾にて、その命を落とすこととなる。


 塙直政(ばんなおまさ)の死亡は、信長に大きなショックを与えることになる。それもそうだ。かつては、長篠の戦いで鉄砲奉行のひとりとして活躍し、さらには大坂方面指揮官として抜擢したというのに、その塙直政(ばんなおまさ)を失くしたからである。


 信長は大坂方面攻略の計画をいちからやり直しを迫られることとなったのだ。


「あああ。ばんくん。死んでしまうとは何事ですか。先生が旗揚げ時から、一生懸命、ついてきてくれたというのに。あなた、これから活躍するんでしょう?なんで、こんなに早く亡くなってしまったんですか!」


「ううう。ばんばん!お前、ふふふっ、やっと信盛のぶもり殿に追いついたのでござる。これからは、拙者の活躍を見せつけて、嫉妬させてやるって言ってたじゃないかよ!」


 岐阜城に詰めていた信長と信盛(のぶもり)(ばん)の訃報を聞き、涙を流し合う。(ばん)は信長が旗揚げ時からの部下であり、信盛(のぶもり)にとっても古い戦友だったのだ。


「のぶもりもり。(ばん)くんが亡くなった今、悲しんでいる暇はありません。のぶもりもりには悪いですが、岩村城攻めが終わり次第、大坂に出向して、対本願寺の指揮官となってもらいます」


 信長が涙を流したまま、そう信盛(のぶもり)に告げる。


「ああ、わかったぜ。俺が顕如(けんにょ)の野郎に痛い眼を見せてやるぜ!」


「いえ。無理に石山御坊を攻めようとはしないでください。まずは顕如(けんにょ)くんに味方をする勢力に痛い眼を見せましょう。詳しくは岩村城攻めのあとに説明します」


「そうか。じゃあ、俺は補給物資を岩村城を囲む味方に送ってくるわ。殿(との)。悲しくなったら、いつでも呼んでくれよ?俺の尻は貸せないが、俺の胸なら貸してやるからな?」


「だれものぶもりもりのお尻なんて借りたくありませんよ。さっさと行ってください」


 信長は信盛(のぶもり)をシッシッと手で払い、部屋から出ていくように促すのであった。信盛(のぶもり)が部屋から去ったあと、信長はひとしきり涙を流し終え


(ばん)くん。あなたの敗戦は無駄にはしません。誰かいますか?今すぐに九鬼(くき)くんを呼び出してください!」


 信長はすぐさま伊勢で海運事業に従事する九鬼嘉隆くきよしたかを岐阜城に呼び出すのであった。召集から三日後、九鬼くきは岐阜城の信長に面会する。


「お待たせしたのでオニ。信長さま。われを呼び出したのは、村上義清(むらかみよしきよ)率いる海賊をどうにかしろということオニ?」


九鬼くきくんは察しがよくて助かります。彼らの武器であるほう烙火矢に対抗できる船を造ってください」


「ほう烙火矢に対抗できる船でオニ?それは難しいオニ。先の戦いで生き残ったモノに聞いた限りでは、一旦、火が付けば、消火をするのは難しい、いや、不可能だと言っていたのだオニ」


「ですから、燃えない船を造ってください。船の甲板を全て鉄で覆ってください。それなら、船自体が燃えることはなくなりますよね?」


「ふ、船の甲板全てを鉄の板で覆うのでオニ?いったい、何を言っているかわかっているオニ!?」


「出来るのですか?出来ないのですか?」


「船の甲板全てを鉄の板で覆うことは可能なのだオニ。でも、鉄は水を浴びれば錆びてしまうのだオニ。海水では特に顕著で、船がボロボロになってしまうのだオニ」

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