表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/415

ー長篠の章17- 決戦の朝

 1575年5月19日朝、ついに岡崎城から北東の設楽原(したらがはら)に向けて、織田軍3万の大軍勢が進軍を開始する。徳川軍8千は先発隊として18日昼には設楽原したらがはらに到着していたのである。そして、遅れて次の日である19日夕方には羽柴秀吉、佐久間信盛さくまのぶもりが現地へと到着する。


「皆さん。ここが決戦の地、です!信長さまたち本隊が到着するまでに馬防柵ばぼうさくと堀を完成させ、ます!」


 秀吉の号令の下、土木作業隊が一斉に動き出す。


「ぶひいぶひい。梅雨が明けたのは良いぶひいけど、なんでこうもクソ暑くなるんだぶひい?」


「本当に嫌がらせに感じマスネ。できるなら一雨降ってきてほしいところデスヨ」


「何を言ってはりますんや。やっと晴れてもらったというのに、ここで雨が降ったら全てが台無しやで!雨ごいするんやのうて、晴れ続けてもらうことを願わんといかんで?」


「田中、弥助やすけよんさんの言う通りだぞ?これは長篠の戦いって言って、ひのもとの国の歴史がまさに転換しようとしているんだぞ?ああ、俺、生きて、この戦いを生で見られるなんて想ってもいなかったぜ!」


「なんか、彦助ひこすけが頭のおかしいことを言い出したんだぶひい。ほっといて仕事に精を出すんだぶひい」


彦助ひこすけさんの妄想癖は全く直りまセンネ。なんで、こんなひとが嫁さんをふたりもゲットしているんでショウカ?もげてしまえば良いのデス!」


「そこの4人。口を動かす前に手を動かして、ください!いくら、私の古くからの家臣と言えども、今日ばかりは真面目に働いてもらいます、からね?」


「ひでよくん、ちょっと待ってほしいんやで?わいはいつでも真面目に働いてるやんか?田中くんと弥助やすけくんと彦助ひこすけくんといっしょにされたら困るんやで?」


よんさん、やばいって。ここで口ごたえするようなことしたら、いつものパターンでシバキ倒されるって!」


 秀吉の重臣たちのいつもの調子に、秀吉は、はあああと深いため息をつく。


「あなたたちが普段通りすぎて、逆に頼もしい、ですよ。普通なら武田の騎馬隊が怖くて、夜も眠れなくなりそうなところなん、ですが?まあ、しゃべってても良いですから、明後日の朝までには作業を完了させて、くださいね?私は他を見回ってきます、ので」


「わかったんだぶひい。弥助やすけ、杭のそっちのほうを持ってくれなんだぶひい」


「ハイ、わかりマシタ。しかし、こんな馬防柵ばぼうさくデシタッケ?こんなもので武田家の重騎馬隊の体当たりを止めることができるのデスカ?」


「まあ、ないよりマシといったところちゃいますの?効果があるかどうかより、精神的な面で安心感は必要さかいなあ?」


「ううう。俺、武者震いしてきたぜ!ちょっと、小便してきていいか?」


「そんなのその辺でやれぶひい。ふう、しっかし暑いんだぶひい。明日もカラッと晴れそうぶひいねえ」


 秀吉部隊はこんな感じで作業を進めるのであった。一方、信盛のぶもり隊と家康のところと言えば


「ああ。しんどい!なんで俺まで駆り出されなきゃならないんだ。お前ら、キリキリ働けよ!」


「はははっ。信盛のぶもり殿。荒れているでござるな?やはり明日のことが心配で気が立っているといったところでござるかな?」


「あ、家康殿。みっともないところを見せて、申し訳ない。やっぱり、俺、気が立っているのかなあ?部下どもの些細なミスでもイラッとしちまうわ」


「ちょっと、休憩するでござるか?三河産の赤味噌ときゅうりと茄子でござる。今年の出来は自慢できるのでござるよ?」


「きゅうりと茄子かあ。なんかやらしい響きだなあ。もしかして使用済みとかではないよね?よね?」


「使用済みのほうが良かったのでござるか?そちらのほうを所望なら、合戦が終わったあとにしてほしいところでござる」


「はははっ。何言ってんだか。さて、ちょっと休憩しょっか。いきり立つのは明日に取っておかないとな!」


 信盛のぶもりと家康は笑いながら、休憩に入るのであった。時刻はすでに20日の17時を回っており、刻一刻と決戦の時間へと突き進むのである。


 対して、武田家と言えば


「おい。徳川家にくっついて織田家までやってきたようだが、全体で何人くらいの兵が向こうには揃っているんだぜ!?」


勝頼かつよりさま。物見ものみの報告では、織田家2万から3万と言う話なのでそうろう。先にやってきた徳川家の8000と合わせれば、数としては武田家うちより少し多くは揃えてきたようででそうろう


「なんだ、3万か4万程度なのかだぜ。ビビらせやがってなんだぜ。で?あちらは馬はどれほど揃えているんだぜ?」


「それが、不思議なことに向こうの騎馬隊は多くて2000といったところでそうろう。あとはただの足軽といった感じでそうろう。あいつら、闘う気があるのか謎なのでそうろう


「何を考えているんだぜ?足軽隊如きでどうやって武田家うちの騎馬隊とやり合おうってんだ?だぜ」


「まあ、夜通しで馬防柵ばぼうさくを設置したりなど、陣を構築中みたいでそうろうが、それも武田家うちの重騎馬隊の体当たりで崩壊するのでそうろう。無駄なことに労力を割いているのでそうろう


「わざわざ、こちらから突っ込んでいく必要もないかもなのだぜ。ゆっくり長篠城を落とした後にでも、織田・徳川軍の相手をしてやるか?なのだぜ」


「では、引き続き、内藤殿には長篠城攻略を任せておくのでそうろう。馬場殿には何か指令を与えておくでそうろう?」


「馬場にはそうだな。設楽原したらがはらのほうを視てもらうかなのだぜ。もし、織田・徳川軍が馬防柵ばぼうさくの向こうから出てくるようならば、相手してやれと伝えておくんだぜ」


「はっ。わかったのでそうろう。まあ、足軽隊ごときにやられるようなモノは武田家うちにはいないのでそうろう。居たとすれば末代までの恥となるのでそうろう


 この時点において、武田側は織田・徳川軍をなめてかかっていたのであった。その油断が命取りになろうとは、夢にも想わなかったのである。


 1575年5月21日・朝5時。朝日が昇ると共に、武田軍は設楽原したらがはらに異様な光景を視ることになる。


 武田軍より向かって西側に設楽原したらがはらに壁が出来上がっていたのだった。それは織田・徳川の1昼夜半かけての工作による結果であったのだ。


「なんたる異様な光景なのでござるか!織田・徳川軍は茶臼山、松尾山のふもとに要塞を築いたのでござる!」


 馬場信春ばばのぶはるは驚愕の色を顔に映していた。あそこまで陣を固められたのでは、いくら、戦国最強の武田騎馬軍団と言えども、容易に抜けるものではないと馬場は想うのであった。


 馬場は本陣にて眠る、山県昌景やまがたまさかげを叩き起こし、織田・徳川軍の現状を伝えるのである。


「何をこんな朝っぱらから、がなり声をあげているのでそうろう。ん?織田・徳川軍が要塞を築いたのでそうろう?だから、それがどうしたのでそうろう。向こうは亀のように縮こまる気なのでそうろう?こちらから手を出さねばいいだけの話なのでそうろう


「それはそうでござるが、いや、しかし。もし、こちらがあそこに突撃をせねばならないような状況に追い込まれたら、一環の終わりでござるぞ!?この危険な事態が、山県やまがた殿にはわからないのでござるか!?」


「まったく、心配性もそこまでくると病気でそうろう。例え、われらがあいつらのところに突撃をすることになったとしても、あちらは騎馬隊すら、まともに準備していないのでそうろう。騎馬300で、徳川の1万2千の足軽隊をけちょんけちょんにした、われがいるのでそうろう。いかほどに心配する要素があるのでそうろう?」


 事態をさほど重く見ない山県(やまがた)に対して、馬場はギリギリと歯がみする。


「もう良いでござる!拙者は、織田方に動きがないか見張り続けるのでござる!ゆっくり惰眠でもむさぼって居れば良いのでござる!」


 馬場はそう言うと、本陣を出ていくのであった。山県(やまがた)は、ふうううとため息をつき、主君である武田勝頼たけだかつよりを起こすのであった。


「うーーーん。もう食べれないんだぜ。そんなに酒池肉林をされても困るんだぜ」


「起きてくだされでそうろう。馬場の報告によると、織田・徳川軍が設楽原したらがはらに要塞を造ったと言っていたのでそうろう


「ああん?要塞?なんでそんなもん、設楽原したらがはらに造っているんだぜ。あいつら、ここで、1年近く、防衛でもする気なんだぜ?」


「さあ?何ででそうろうかなあ?岡崎への道を封鎖でもしたいのでそうろうか?まあ、長篠城に救援しにくる様子でもなさそうなので、それほど気にしなくても良いと想うのでそうろう


「じゃあ、俺様を起こすんじゃないんだぜ!ったく、眼が覚めちまったんだぜ。まあ、どれほどのモノを造ったのか、視てやるんだぜ」


 勝頼かつよりは寝台から起き上がり、山県やまがたを伴い、本陣から外に出る。朝もやがかかる中、眼を細めて、遠く設楽原したらがはらの方を視るのである。


「おお、おお、おお!これはすごいんだぜ。設楽原したらがはらを縦断するほどに馬防柵ばぼうさくを立てているんだぜ?あいつら、本当に武田家うちとやり合う気があるのか?」


「わからないでそうろう。しかも、物見ものみの報告では、騎馬隊もやはり2000ほどしか準備してないのでそうろう。そのための苦肉の策として、岡崎への道を塞いだとしか想えないでそうろう


「まあ、向こうが討って出る気なら、武田家うちの騎馬隊で踏み散らせば良いんだぜ。山県やまがた。馬場と一緒に設楽原したらがはらの方に兵1万8千ほどを配置させておくんだぜ。内藤のところはまあ6000も居れば、長篠城を落とせるはずだぜ」


「はっ。わかりましたでそうろう。もし、織田・徳川家が馬防柵ばぼうさくから外に出れば、全てを討ち取ってみせるのでそうろう設楽原したらがはらわれと馬場殿が遊んでいるうちに、内藤殿も長篠城を落としてくれるはずでそうろう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ