表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
362/415

ー長篠の章 6- 一大決戦に向けて

 信長は各地の視察を終え、9月頃には京の都へ戻る。それと同時に書状で信盛のぶもり勝家かついえとさらに家康を京の都へと呼び出していたのであった。


「やあ、皆さん。お久しぶりです。先生、のんびりとそこらじゅうを漫遊ごほんごほん、視察を行っていました。これ、お土産の鮒寿司です。ゆっくりご賞味してください」


「な、なんなのじゃ!この腐った匂いは?なのじゃ!一体、いつ購入したやつなのじゃ!」


貞勝さだかつくん、そんなに匂います?って、くっさ!いけませんね。樽から出して、早2週間ほど経っているかもですね。いやあ、これは捨てておきましょう」


 信長はそう言うと、側付きに鮒寿司を渡す。側付きの者は鼻をつまみながら、走って、それをゴミ捨て場に持っていくのであった。


「ふう。二条の城が危うく腐った鮒寿司の匂いで汚染されるところでしたよ。いや?そもそもすでに腐っているから大丈夫だったり?あ、すいません。やっぱり、あれ、試食してもらって良いですかね?もしかしら、発酵が進んで、美味しくなっているかもしれませんので」


 信長の言いに明らかに嫌な顔をする側付きたちである。だが信長は、ニコニコとした笑顔で圧迫するため、結局、彼らは試食をするハメになるのであった。


「さて、遊んでいる場合ではありませんね。さっそく本題に移りましょう。勝家かついえくん。わかっていると想いますが、朝廷の御所におもむき、正式に官位をもらってください。従六位と言えども立派な官位です。お礼に貴族たちに頭のひとつでも下げてきてください」


「ガハハッ!そうしたいのはやまやまでもうすが、御所に着ていく服がないでもうす!」


「なら、その辺の呉服屋で買ってきてください」


「服を買いにいく服がないでもうす。京の都の呉服屋は汚いなりをしていると、嫌味を言われて適当にあしらわれるのでもうす」


「うーーーん。困りましたね。一度、火をつけたくらいじゃ、あの嫌味な性格は直りませんか。3族皆殺しにでもしないといけませんかねえ?」


「やめておくのじゃ。いくら、京の都の民たちの性格が歪んでいると言っても1000年近く前からの嫌味なのじゃ。そんなことをしても直るわけがないのじゃ」


「そうですか。では、諦めましょう。貞勝さだかつくん。適当に勝家かついえくんの服を見繕っておいてください。馬子にも衣装くらいには着飾っておいてくださいね?」


 信長の言いに貞勝さだかつがわかったのじゃと応える。


「さて、次の話に移りますよ。勝家かついえくん、信盛のぶもりくん、それに家康くん。織田家、徳川家でそれぞれ、鉄砲は何丁、新調できそうですか?来年の2月頃までにです。ここ、大事ですよ?」


「うーーーん。織田家の領地にある鍛冶屋をフル動員させてやっと3000丁、ぎりぎりってところかなあ?なあ、勝家かついえ殿」


信盛のぶもり殿、まあ、そうでもうすなあ。射程が今までの1.5倍あって、しかも、3もんめ弾を使うやつでもうすよな。ぎりぎり、そのラインでもうす」


「はい、のぶもりもり、勝家かついえくん。ありがとうございます。で?家康くんのところはどうなっているのですか?」


「す、すまないのでござる。1丁も準備できないのでござる」


 家康の言いに信長がはあああと深いため息をつく。


「やっぱりそうですか。家康くんを京の都に呼び出して正解でしたね。書状だったら、1000丁準備できるでござるぞ?嘘ではないでござるぞ!?と見栄を張られる可能性がありましたからね」


「うっ。見破られていたでござるか。くっ、この家康、くやしいのでござる。遠江とおとうみのほとんどを失った今、金が足りぬでござる。とてもではないが、鉄砲を生産する力は徳川家にはないのでござる!」


「まあ、そんなことだろうと想っていました。のぶもりもり、勝家かついえくん。鉄砲が出来次第、優先的に徳川家に1000丁送ってください。新型鉄砲に慣れてもらわねば、戦いにもならないですからね」


「そんなに大量に徳川家に融通しちゃって良いの?まあ、それをやれって言うならやるけどさ?」


「ありがたい話なのでござる!ありがたい話なのでござる!1000丁もあれば、300丁ほど、遠江とおとうみから武田家の侵攻を防衛するためにも回せるのでござる!ちらっ」


 家康は信長の顔色をうかがうようにチラ見するのである。


「だめですよ。新型鉄砲は武田家の一大決戦に使用するモノです。射程が1.5倍もあるなんて、バレたら困るでしょ?旧型鉄砲を300丁、融通するので、そちらを防衛に使ってください。一益かずますくんあたりに融通するよう、あとで書状を送っておきますよ」


 信長の言いに家康はニヤリと笑う。信長は家康くんも随分がめつい、いや、たくましくなったものだと想うのであった。


「新型鉄砲を製造したら、次にやってもらいたいのがその鉄砲で早合はやあいの練習に励んでもらいたいのですよ。新型のは旧型に比べて、銃身が太く、長くなっています。その違いはいくさにおいては使いまわしにかなりの差を生むはずです。ぶっつけ本番とか、絶対にさせないように。これは厳命です」


「ん?殿との。まず、新型鉄砲を作るだろ?んで、鉄砲奉行の予定の利家としいえ佐々(さっさ)とかに送るだろ?そして、あいつらに早合はやあいの練習をさせておけば良いってこと?」


「そうです。そのとおりです、のぶもりもり。利家としいえくん、佐々(さっさ)くん、さらに追加で任命した鉄砲奉行、総勢5人。それと家康くんのところを優先で回して、早合はやあいの練習をしてもらうというわけです」


殿との、なんで早合はやあいの練習がそこまで必要なのでもうす?確かに新型鉄砲となれば、今までと勝手が違うのはわかるでもうすが、そこまで殿とのが推すのはなんででもうす?」


「光秀くんが鉄砲2段撃ちを発明したのですよ。これで、今までの鉄砲の射撃間隔が半分になりました。その要が早合はやあいの技術となるのですよ」


「ふむ。なるほど、よくわからないが、とにかく、その2段撃ちとやらを視てみたいのでもうす。光秀のところへ視察すれば良いのでもうすか?」


「それには及びません。すでに鉄砲奉行に任じたあの5人は、光秀くんのとこで視察をしてこいと命じてあります。彼らが勝家かついえくん、のぶもりもり、一益かずますくん、さらに家康くんところにその技術を伝番させにいきます。そっちのほうが効率的でしょ?」


「なるほどなのでもうす。2段撃ちの方法は利家としいえたちが学んでくる間に、我輩らはその2段撃ちの要となる早合はやあいの技術を磨いておくわけでもうすな?それは無駄がなくて良いのでもうす」


 勝家かついえは信長の考えに納得し、うんうんと首を縦に振り、うなずくのであった。


「まあ、言葉で説明すると、要らぬ先入観を与えることになるので、それはしません。あともうひとつ、やってほしいことがあるのですよ」


「ん?殿との。まだ何かあるの?」


 信盛のぶもりがそう信長に尋ねるのである。


「のぶもりもりはあまり関係ない話ですが、武田家が潰走状態に陥った時に突撃部隊になる勝家かついえくん、それに家康くんのところの問題なのですが、火薬が破裂する音に馬を馴らしてほしいのですよ。まあ、織田家では常識的なことなので、勝家かついえくんはすでに実行していると想いますが」


「うむ。馬は神経が細かい生き物でもうす。だから、織田家うちでは馬は火薬の破裂音で驚かないように馬にも訓練をほどこしているのでもうす。それなのに何を心配しているのでもうす?」


「想像してごーらん。3000丁のおおお。一斉射撃音んんん~」


 信長の朗らかな歌声に勝家(かついえ)が、はっ!となる。だが、家康はなんのことでござる?という顔つきになる。


「どどん、どんどん。どどどん、どんどん!」


「信長殿。頭がおかしくなってしまったでござるか?良い医者を知っているでござるよ?曲直瀬(まなせ)と言う頭がおかしい医者でござるけど」


「なんでここまで説明してわからないんですか。家康くんは察しが悪いですねえ!」


「まあまあ。殿(との)。家康殿には我輩が教え込んでおくのでもうす。ところで、馬の訓練のために火薬をいつもの10倍もらうでもうすが、良いでもうすよな?」


「はいはい。もちろんですよ?堺からがんがん輸送させますので、突撃部隊の勝家(かついえ)くんは特に念入りにお願いします。あと、家康くんには身体で教え込んでください。その分も火薬は回しますんで」


「なにか嫌な予感がするのでござる。俺、今の内に逃げた方が良いのでござるかなあ?」


「まあまあ。我輩が優しく丁寧に教え込むのでもうす。だから、家康殿は心配しなくて良いでもうすよ?」


 勝家(かついえ)の優しい言葉遣いにぞぞぞ!と背筋に冷や汗が吹き出す家康である。この場から逃げようと想い、走りだそうとしたが時すでに遅し。勝家(かついえ)はすでに回り込んでいたのだった。


「助けてでござるううう!助けてでござるううう!」


「さて、家康くんは勝家(かついえ)くんが事情を叩きこんでくれるので、次の話に移りましょうかね」


「ん?次の話?まだ、何かあるわけなの?」


 信盛(のぶもり)が他に議題があったっけ?とハテナマークを頭に浮かべるのである。


「決戦の地をどこにするかを決めていないではないですか。まあ、候補地は2つに絞っているわけですけどね」


「三方ヶ原か長篠って聞いてるけど、どっちかひとつに決めるってこと?殿(との)。それだと、もし逆を攻められたら、めんどうなことになるぞ?」


「自分たちの思い通りに決戦の地を選んでもらうように仕掛けていくのですよ。そうですね。わざと城の防御を担当する人数を減らしたりとかですね。家康くんにその辺の腹芸ができるかどうかが決めてとなりそうです」


「うーーーん。俺は余り、その考えには賛成できないなあ。殿(との)の策に反対ってわけじゃないけど、それを実行するのは家康殿なんだ。家康殿には三方ヶ原での失敗がある。俺にはそこがひっかかるんだ」


「だからこそですよ。家康くんは同じようなへまを2度しないことが彼のもっともたる才能なのです。先生は信じています。家康くんなら、武田勝頼(たけだかつより)くんを死地に誘い出すと」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ