ー長篠の章 5- 信長と光秀
信長は秀吉をいじり倒したあと、びわ湖の北側を通り、明智光秀に会うために坂本の地へと向かう。その地は浅井・朝倉、さらに比叡山が連合軍を組み、信長を京の都から追放しようと侵攻してきた地であった。
この地で、森可成が死力を尽くし、浅井・朝倉の連合軍を止めていた。しかし、比叡山の参戦により、力及ばず、森可成は討ち取られてしまったのであった。そして、坂本の地もまた焼亡した。
明智光秀はこの焼亡した坂本の地を復興すべく、尽力していたのであった。さらには、新しき城である坂本城を建築中であったのだ。
「ふひっ?信長さまでございませんか?何故、このような地にやってきたのでございますか?」
「ああ、光秀くん。お久しぶりです。この地にある森可成くんのお墓に手を合わせていこうかと想いましてね。ついでに光秀くんの顔を視ておこうと想ったわけですよ」
「ついででございますか。僕の金柑頭で良ければ、じっくり視ていってほしいのでございます」
「ぶふっ!そんな自分の禿げネタで笑いを誘ってくるとは想ってもいませんでした。光秀くんも肝が太くなったものですね。これから、きんかあああんと呼んで良いですか?」
「ふひっ。冗談なのでございます。いくら、信長さまと言えども、僕の禿げ頭をいじるのはやめてほしいところでございます!」
光秀がそう声を少し荒げながら信長に抗議する。信長もこれはさすがにまずいことをしたと想い、話題を変えることにするのであった。
「と、ところで、金柑じゃなかった、光秀くんはここ坂本の地に城を造っているようですが、これ、いつくらいまでに出来上がるんですか?」
「ふひっ。まあ、1年と行ったことろだと想うのでございます。僕は武田家の一大決戦に呼ばれる予定ではなさそうなので、のんびりさせてもらおうかと想っているのでございます」
「欲がないひとですねえ。光秀くんは。そこは僕も是非、連れて行ってほしいのでございます!そうじゃなければ腹を切るのでございます!とか言ってくださいよおおお!」
「そんなこと言い出したら、本当に腹を切らされる気がするので遠慮させてもらうのでございます。この地は大坂にも近いので、睨みを利かせやすいのでございます」
「ほほう。さすが、わかっていますね?武田家との一大決戦を行おうものなら、顕如くんが黙っているわけがないですからね。光秀くんには細川藤孝くんと塙直政くんと、よくよく注意してもらう必要があります」
「ふひっ。わかっているのでございます。あと、信長さまから考えておいてほしいと言われていた、鉄砲の運用方法で良いことを想いついたのでございます。見ていってもらえると嬉しいのでございます」
光秀の言いに信長がほうと息をつく。
「鉄砲は1発撃つと、大体20秒から30秒、次の発射まで時間がかかるので、それを半分以下にするにはどうしたら良いのかと言うやつでしたね?光秀くんには応えが準備できたと言うことですか?」
「ふひっ。口で説明するより、実際に視てもらったほうが良いのでございます。早速、準備させますのでついてきてほしいのでございます」
信長は光秀に促されて、坂本城(仮)の兵士の訓練場に向かうのである。
「ふひっ。では、アレをやるのでございます!信長さまが視ているのでしっかりやるのでございます!」
光秀が鉄砲の訓練を行っている兵士にそう声をかける。すると鉄砲を持った兵士が2人一組になるなるではないか。
「ん?光秀くん。あの2列にするのは何か意味があるのですか?前列が撃ったら、次に後ろの者が前に出て、撃つのですか?」
「おしいのでございます。入れ替えるのはひとではなく、鉄砲のみなのでございます。まあ、視ていてほしいのでございます。鉄砲隊、構えでございます!よおおおく狙ってえええ、撃てなのでございます!」
光秀の号令の下、前列の鉄砲兵が30メートル先の的に向かって、発砲する。そして、発砲が終わったと同時に、後ろの列の者に撃ち終わった鉄砲を渡し、さらには、後列の者から鉄砲を受け取る。
「第二射、構えなのでございます!発砲許可を与えるのでございます!」
ダダダーダーーン!続けて、2射目が鉄砲から発射される。その間に後列が弾を鉄砲に込める。そして、弾を込め終わった鉄砲を前列の者に渡し、撃ち終わった鉄砲を前列の者から受け取る。さらに光秀は号令を続ける。
「さらに第三射、構えなのでございます!敵を穿てでございます!発砲するのでございます!」
光秀の号令は止まらない。それと共に流れるように鉄砲の連続射撃は続いて行く。その発砲間隔は従来の半分となり、鉄砲の弱点を大きく補うものである。信長は、ほっほおおお!ほっほおおお!と感嘆の声をあげて、ぱんぱんぱーん!と手放しに拍手を送るのである。
「光秀くん、すごいじゃないですか!あなた、もしかして、天才なのではないですか?こんなの、先生、想像もしてませんでしたよ。これなら、前列と後列を入れ替えるために隣同士で間隔を空けるようなことをしなくて良いですね!」
「ふひっ。悩みに悩んだ結果なのでございます。これは、信長さまが包囲網をしかれたときに、杉谷善住坊なる輩に狙撃をされた時のことから、想いついたことなのでございます」
「ああ、あの時ですかあ。先生が岐阜に戻る時ですね。彼はあの時、続けざまに二連射してくれたものです。先生、日頃の行いが良すぎるせいで、二射とも外れましたが、驚くべき速射だったんですよねえ」
「あの狙撃事件のあと、その杉谷善住坊を捕らえて、何故、そんな連射が可能だったのか、拷問につぐ拷問のすえ、吐き出させることに成功したのです。あれは鉄砲を2丁準備していたのでございます。それをヒントにこの鉄砲二連射を編み出したと言うことでございます」
「なるほどですねえ。これ、もう少し改良すれば、もっと射撃間隔を短くした3連射も可能ですね。うーん。でも、そうなると鉄砲が3千丁ごときでは足りなくなりますね。少なくとも1万丁ほどなければ、3連射を運用できません」
「ふひっ。武田家の騎馬軍団相手ならこれくらいの射撃間隔の2連射だけで充分なのでございます。延べ、1500丁の鉄砲が次々と発砲されるのでございます。これで、武田家最強騎馬軍団の伝説は潰えるのでございます」
「まあ、そうですね。当てることは二の次です。鉄砲を速射できることこそが肝要なのですからね。光秀くん、お見事です。今度、利家くんと佐々くんたちを、ここ坂本に派遣しますので、じっくりこの2連射、いや、二段撃ちを仕込んでくださいね?」
「ふひっ。わかりましたのでございます。これは慣れれば、割と簡単に出来るようになるのでございます。後列の者に手先の器用な者を回すだけで良いのでございます」
「ふむふむ。早込めが得意な者に後列を任せるのも肝と言ったところなのですね。よおおおし、先生、これを考え付いた光秀くんにご褒美をあげましょう?何が良いです?領地以外なら何でも良いですよ?」
「ふひっ。領地はもらえないのでございますね。では、お金がほしいのでございます。そろそろ、僕も兵士をたくさん雇いたいと想っているのでございます。ですが、坂本に城を建てるのに少々、お金が必要になるのでございます。人夫を雇うためにも、都合してほしいところでございます」
「はい。わかりました。では、坂本の城を造る費用は先生の財布から半分ほど出しましょう。それで良いですか?」
「ありがたき幸せなのでございます。これで、兵をたくさん雇うことができるようになるのでございます。全部で5千、いや、1万ほどに増員したいと想うのでございます」
「収支には気をつけてくださいよ?楽市楽座の発布を行っても、実際に、坂本の再建には半年以上はかかると想いますし。それに東は秀吉くん、南は大津、さらに西は京都です。そちらにひとが流入しやすいので、注意が必要ですよ?」
「わかっているのでございます。ぼちぼち様子を視ながらと言いたいのでございますね?しかし、信長さま的には、僕に京の都の西を攻略してほしいと想っているはずでございます」
光秀の言いに信長がほう?と息をつく。
「それはまたどうして、そう想われるのですか?光秀くん?」
「ふひっ。正確に言えば、京の都の北西、亀山を抜けた先の丹波の国があるのでございます。あそこの領主、波多野氏が煮え切らぬ態度を取っているのでございます。あそこをどうにかしないと、中国地方攻略の差支えになるからでございます」
「ふむ。そうですね。なかなかの推測です、光秀くんは。では、その丹波の国を光秀くんは力攻めを行うのですか?」
「いえ。まずは恭順の意を示すかどうか、試してみるのでございます。もちろん武力で脅しつつになるのでございますが。まあ、今はまだ東の武田をどうにかしなければ、織田家は動けはしないと波多野氏はタカを括っているはずなのでございます」
「なるほど。光秀くんは織田家と武田家との一大決戦は、織田家の勝ちだと睨んでいるわけですね?」
「それは当然なのでございます。信長さまは勝つべき戦いには必ず勝ってきたお方なのでございます。期が熟すまで、じっくりとひっそりと力を溜め込み、一網打尽にするのでございます。僕はそれを知っているからこそ、波多野氏を懐柔する試みをするのでございます」
「買い被りすぎじゃないですか?光秀くんは先生を。戦はやってみないと結果はわかりませんよ?もし、武田家が一大決戦自体を放棄したらどうするのですか?」
「それこそ、信長さまは謙遜がすぎるのでございます。武田勝頼が必ず、決戦に挑まなければならない状況を作り出すつもりなのでございますよね?そうでなければ、信長さまはただのうつけなのでございます」
「ふふっ。さて、どうなんでしょうね?まあ、こうご期待と言ったところです。では、光秀くん。丹波の国のことは任せましたよ?武田家、本願寺の件が終われば、いよいよ西進することになりますので。まあ、2,3年後の話でしょうが、鬼が笑うこともないでしょう」




