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ー長篠の章 2- 長島攻め後のそれから

 信長は長島攻めの論功行賞を岐阜で終えた後、各将をそれぞれの仕事にじっくり従事させることを決める。


 先年からの織田家の大逆襲により、大坂の三分の二、若狭、北近江、北伊勢(きたいせ)全土を手に入れたは良いが、整備が追い付かない状態になったからである。


 大坂は塙直政(ばんなおまさ)を筆頭に細川藤孝(ほそかわふじたか)等が一向宗との衝突を危惧しつつ、楽市楽座の発布、年貢の1年免除を行う。それに松井友閑(まついゆうかん)が復帰したことにより、堺の完全掌握に乗り出すことになる。


今井宗久いまいそうきゅう殿、津田宗及つだそうきゅう殿、久方ぶりだぎゃ。松井友閑まついゆうかんだぎゃ。ちゃんと、足はついているだぎゃ。これからもよろしくだぎゃ」


「おお、松井殿。生きていたのでっしゃろかいな。わてらは嬉しくて涙が出てしまうんや!」


「せやな。松井殿が居なくなってから、堺の地は荒れ放題やったで。これで、堺にまた安寧の日々がやってくるんや!」


 松井友閑まついゆうかんはさっそく、堺の豪商の今井宗久いまいそうきゅう津田宗及つだそうきゅうと手を結び、他の商人たちと連携を強めていくことになる。堺の地も第二次信長包囲網により、一向宗や、三好三人衆たちの手で重税にあえいでいたのであった。そのため、堺の地力は一気に落ち込むことになり、松井友閑まついゆうかんは、この地にかつての隆盛を取り戻すべく、額に汗を流し、尽力することになる。


 次に、北伊勢きたいせの方では、滝川一益たきがわかずますが長島の統治に手をつける。信長の手による長島火祭り虐殺パーティが逆に功を奏した形となり、この地の生き残りであった一向宗たちは恭順の意を織田家に対して示すようになる。


「想ったより従順で助かるっすね。これなら、一揆の心配もなさそうっす。これ以上、痛めつけるのは逆効果っすね。まずは労役免除をして、他の地から民が流入しやすくするっすか。あと、楽市楽座の発布もしなきゃならんっす」


 この長島の地は木曽川に挟まれているため水運の利があった。そして、東には織田家が大切に育ててきた津島もある。北伊勢きたいせは長島が安定した今となっては、莫大な富を生み出す土地へと産まれ変わることになるのであった。


「いやあ、しかし、北伊勢きたいせの半分以上を信長さまからもらえたのは幸運っすねえ。また、茶器のほうが良かったっすとか言ってたら、痛い眼を見ていたっす。この地は堺に次ぐ商圏へと産まれ変わる可能性を持っているっす。ここで力を蓄えて、滝川家を織田家の主柱へと育てないとだめっすね」


 一益かずますは自分の才気に自信を持っていた。柴田勝家しばたかついえ殿にはかなわぬものの、佐久間信盛さくまのぶもり殿になら追いつき、追い越せると言った自信であった。だが、佐久間信盛さくまのぶもりは飛び地であるが、数多くの領地を持っており、いまや1国と半分を占めるほどの大勢力となっていたのである。


「ゆっくりとっす。信盛のぶもり殿っちはもう歳っす。今に世代交代が起きるっす。その時に、俺っちが次の織田家の2枚看板の1枚になるっす。それまでは焦らずゆっくり北伊勢きたいせを育てていくっす」


 一益かずますは晴れ渡った大空を見上げていた。今は1574年8月。太陽はさんさんと降り注ぎ、じりじりと一益かずますの露出した肌を焦がさんとしていた。一益かずますは一介の浪人から約14年でここまで登りつめたのである。だが、彼にはまだまだだっす。これからっすと言う夢があったのだった。


 一益かずますから対抗意識を密かに燃やされているとは想ってもいない信盛のぶもりのほうと言えば


「うーーーん。大津、草津周辺をもらったからと言ってもなあ。城がないんじゃなあ?」


 南近江の西半分を新たに加増され、そこに転勤となった信盛のぶもりであったが、そもそも、ここを治めていた六角義賢ろっかくよしたかの居城・観音寺城は、信長の上洛作戦の折に徹底的に破壊されたのである。そのため、政務を行うための城がそもそもとしてないのだ。


「改めて観音寺城を立て直すのものなあ?どうしたもんかなあ?なんか、殿とのがびわ湖にでっかい城を建てるって言ってたもんなあ?」


「あんた。さっきから何をぶつくさ言ってんのよ?」


「ああ。小春か。いやな?殿とのがびわ湖の近くに将来、でっかい城を造ろうって考えているみたいなんだよ。それで、元々あった観音寺城を建て直すだけ無駄だなあって。だから、どうしたもんかなあって」


「それなら、将来、信長さまがこっちに来て、その新しい城を造るために自ら動くんじゃないかしら?それなら、信長さまが居住することも考えて、信盛のぶもり、あんたは草津あたりにでかい大屋敷でも建てたら良いんじゃないの?」


 信盛のぶもりの奥方である小春がそう信盛のぶもりに助言するのである。信盛のぶもりはその助言をうんうんと頷きなが聞き


「まあ、それが良いんだろうな。小春。ありがとうな。考えがまとまったぜ。じゃあ、どれくらいの大屋敷を造っておこうかなあ。どうせ、殿とののことだから、新しい城を造るってんなら、丹羽にわも連れてくるだろうし」


「ワタシは信盛のぶもりさまの子供をもう2人はほしいのデス。だから、おっきい、おっきい大屋敷を造ってほしいのデス!」


 そう言うのは信盛のぶもりのもうひとりの奥方であるエレナであった。彼女は堺の地で信盛のぶもりに見初められて、信盛のぶもり家に嫁いできたわけなのである。だが、まだ、エレナは信盛のぶもりとは娘がひとりしか出来ておらず、どうしても男の子が欲しいと願っていたのであった。


「う、うーーーん?一応、領地を整備するのにたっぷり時間は与えられているけど、子作りに励んでいたら、俺、仕事に支障をきたすような気がするんだけど?」


「何、言ってんのよ。エレナが子供がほしいって言ってるんだから、あんた、しっかり相手をしてやんな。でも、私を放って置いたらどうなるかわかるわよね?」


 ああ、これは昼の仕事だけでなく、夜のお仕事も頑張らないといけないのかと想う、信盛のぶもりである。まあ、これも若い嫁を2人も手に入れた以上は、仕方ないことかなあと諦めるのであった。


 続いて、織田家の2枚看板の1枚である柴田勝家しばたかついえと言えば、南近江の東を仮の領地として与えられていた。ここは六角家の旧臣たちも住んでおり、その中でも蒲生氏郷がもううじざとの生家があるところでもある。浅井長政が健在だったときは、北近江と南近江の境にあった、横山城と佐和山城が最前線の城であった。


「ううむ。横山城は砦くらいの大きさゆえに改修は楽であるが、そもそも、北近江を手に入れた以上は、ほとんど使わないでもうすよなあ。いっそ、廃城にでもしようでもうすか?」


 勝家かついえは、この横山城と佐和山城の改修から手をつけようと想っていたのだが、やはり、最前線の城だっただけはあり、この周辺で暴れた一向宗の攻撃により、かなりボロボロになっていたのだった。しかもだ。北近江が丸ごと織田領となった今、この2城を緊急に改修する必要性がなくなってしまったのである。


 だが、政務を行おうためにも、自分の家臣たちが集まる場所は必要であるがめぼしい城がこの2城しかないと言った状況だったのである。


「致し方なしでもうす。佐和山城を簡単ながらも補修するのでもうす。城壁や壁に開いた穴は板張りでもしておくでもうす。雨風がしのげる程度に済ませておくのでもうす」


 勝家(かついえ)は佐和山城を拠点にすることに決め、修繕に入る。それと同時に北近江の東側の統治を行い始めるのであった。そこに先月から信長と村井貞勝(むらいさだかつ)の朝廷への働きかけにより、織田家の家臣では初めての官位が勝家(かついえ)に与えられることになる。


「従六位下・左京大進でもうすか。ううむ。こんな大層なもの、いただいて良いのでもうすか?殿(との)


「もらえるモノはありがたくもらっておいてくださいよ。勝家(かついえ)くん。大体、従六位なんて、飾りも飾りですよ。まったく、従四位くらい、ぽおおおんとくれても良いと想うんですけどね?いくら朝廷に貢いだと想っているんですか。まったくもって、けち臭いですよ、あの連中は」


「ガハハッ!さすがに従四位をぽんぽんくれるとは想っていないでもうすよ。家康殿と並んでしまうのでもうす」


 家康は以前、遠江(とおとうみ)の3分の2近くを手に入れた折に信長の働きもあって、朝廷から従四位の官位をもらっていたのである。


「そんなもんなんですかねえ?まあ、鎌倉の幕府を開いた源頼朝(みなもとのよりとも)ですら、従三位・右近衛大将が最高ですからねえ。いくら、それの次の次くらいの従三位・参議の家臣と言えども、みだりに官位をばらまいたりしてくれないのかもしれないですねえ?」


「もらえるだけマシとはまさにこのことでもうすな。しかし、ありがたく頂戴するのでもうす。殿(との)。感謝するのでもうす」


「まあ、それに見合っただけの働きを勝家(かついえ)くんはしてくれていると言うことですよ。のぶもりもりだったら、そんなメシの種にもならないようなものいらんわ!って、断りますからねえ」


「ガハハッ!信盛(のぶもり)殿は現実主義でもうすなあ。一益(かずます)のように茶器のほうが良かったと言えば、殿(との)も喜ぶと言うのにでもうす」


「でも、一益(かずます)くんも今回ばかりはそれを言い出しませんでしたよね。やはり、皆、領地をもっと多く与えてもらいたいってことなんでしょうねえ」


「それも仕方がないのでもうす。織田家うちは北近江と大坂の3分の2を手に入れて、武田家とほぼ同等の広さの領地となったのでもうす。ここで欲を出さないモノのほうが、頭がおかしいのでもうす」


「それもそうですね。でも、先生はこれくらいで満足する気はありませんよ?織田家うちの有能な将たち全てに1国1城の主になってもらうつもりですからね。さあて、織田家うちが中国覇王の毛利家の領地を超えるのはいつになるでしょうかね?」

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