ー浄土の章16- 長島火祭り虐殺パーティ
信長が長島の地に到着して早三日が経とうとしていた。長島の一向宗たちはついにその信念を曲げ、信長に対して全面降伏をするのであった。
「殿。長島の願証寺の法主が直々に詫びを入れに来たぜ?どうすんだ?斬っちまうのか?」
「いえいえ。そんなことしませんよ。あちらの降伏を素直に認めます。だれか、適当にあしらっておいてください」
「じゃあ、俺が適当に話をつけておくぜ?で、丁重にお帰りいただいて、一向宗の信徒たちと一緒にぶっ殺せばいいわけな?」
「はい。そうです。いやあ、彼、泣いて喜んでくれるんじゃないんですか?では、のぶもりもり、任せましたよ?先生、一番、見晴らしの良いところで長島の地が炎に包まれるのを視ていますので。家康くん、いきましょうか」
「う、うむ。わかったのでござる。しかし、本当に良いのでござるか?だまし討ちだと非難されてしまうのでござるぞ?」
「構いませんよ。言いたければ言えばいいのです。その代り、先生は本願寺顕如くんを非難轟々させていただきますよ?あなたたちが先に和議を破ったのが悪いのだと」
「そうでござるな。悪いのは本願寺顕如でござる。すまないのでござる。要らぬことを言ってしまったのでござる。悪く想わないのでほしいでござる」
「別に気にしていないので良いですよ?さて、のぶもりもり、そして、勝家くん。願証寺の法主が長島の城に戻れば、一向宗たちは何もわからずに城や砦から退去し始めるでしょう。油断しきっているところに、ありったけの鉄砲と矢を浴びさせてください。ひとりたりとも生かさぬように」
信長は根切りの指示を出す。だが、それに反対する織田家の将たちは居なかったのであった。
願証寺の法主は降伏を認められたことに涙を流し、頭をぺこぺこと下げ、また、舟に乗り、長島の城へと帰って行ったのである。
それから2時間は経ったであろうか。長島の城や砦から退去するために一向宗や民衆たちは舟に乗って、木曽川を渡りはじめていた。
そして、紅い狼煙が長島の城から東の地点で大空に昇って行く。それを合図に木曽川を舟で渡っていた一向宗や民たちに向かって、織田軍が一斉射撃を開始するのであった。
「討て!全てを討ち殺せ!これは根切りだ!ひとっこひとり残さず撃ち殺せ!」
「ガハハッ!絶対に、討ち漏らすなでもうす!ここで、長年の恨みを晴らすのでもうす!悪いのは全て本願寺顕如でもうす!あれの使徒たちを殺すお前たちには何ひとつ罪はないのでもうす!」
信盛、勝家が敵を駆逐せよと号令を放つ。付き従う兵たちは、ありったけの鉄砲の玉、そして、火矢を一向宗たちにぶち込んでいくのである。
「やっと、信長さまの許可が出たっす。さあ、殺して殺し尽くすっす!ん?あそこに子供が見えるっすか?あれは、地獄の餓鬼っす。ひとだと想うなっす!」
長島の砦のひとつを囲んでいた滝川一益もまた、一向宗の根切りのために号令を下していた。彼の眼には憎悪の炎が宿っていた。信長から北伊勢を任されていた身であったが、散々に、長島の一向宗には手を焼かされていた。その積年の恨みが一益の心をドス黒いもので染め上げていた。
「らんららーらーん!さあ、殺すのですー。極楽浄土に送るのですー。ばったばったと全員、殺すのですー?ん?自分はとてもじゃないが、民草を殺せないって言うのですかー?じゃあ、きみも一緒に死ぬですー?」
丹羽は長島の砦の最後のひとつの包囲を任されていた。そして、彼もまた、一向宗の信徒たちを殺し尽くすべく、行動を開始していた。そして、それを嫌がる兵が複数人居たので、縛り上げ、木曽川にぶん投げるのである。
「信長さまの命を聞けない兵士は要らないのですー。あいつらは織田家の兵士たちじゃないのですー。同じ一向宗だと想って、撃ち殺せなのですー」
「そ、それはさすがにやりすぎじゃないッスか?俺、さすがに味方を討てないッスよ?」
「ん?利家殿。何を言っているんですー?あれは味方じゃないですー。長島に恩情を与えようという馬鹿なんですー。ああいうのを放っておくと、のちのち困るのは、織田家なのですー」
「それはわかっているッスけど、さすがに丹羽殿はやりすぎッス。俺があいつらを改心させるから、許してやってほしいッス!」
丹羽の下に配属されていた前田利家が異を唱えた兵士たちの命を救おうと丹羽に懇願するのであった。
「しょうがないですねー。じゃあ、今回だけですよー?じゃあ、あの木曽川にぶん投げた兵士には、一向宗の奴らを10人斬ってもらうのですー。それで、今回の丹羽ちゃんへの反抗を許すのですー」
「すまないッス。恩にきるッス。おい、誰か、あの木曽川に流されていく味方を助けてやるっす!すぐにっす!丹羽殿の気が変わらぬうちッス!」
利家の助命嘆願により、木曽川に投げ飛ばされた兵士たちは命を救われることになる。そして、心を入れ替えて、弓を構え、矢を射はじめるのであった。
「まったく、利家殿は甘いのですー。もし、自分の配下に一向宗の信徒が居て、そいつが何かをしでかしたら、斬らなければならなくなるのですー」
「ん…。利家はああ見えて、甘い部分がある。自分は別に兵士たちが何の神様を信じていようが構わないけど、さすがに反抗の意思を示す配下を見逃すことはできない」
「佐々殿。丹羽ちゃんもそうですよー。あの兵は反抗の意思を示したのです。軍としてはそれを許すことはできないのですー。信仰の自由と軍の規律を守らないのは別次元の話なのですー」
「ん…。利家には自分があとで説教をしておく。丹羽殿、利家の処遇は自分にまかせてほしい」
「わかったのですー。でも、利家殿がもし、反抗の意思を示すようであれば、佐々殿が利家殿の命を取ってほしいのですー」
「ん…。そうならないように願う。利家とは10年以上の付き合い。利家なら、自分の言葉を聞きいれてくれるはず」
佐々は想う。利家がもし、自分と敵対することになれば、それはそれで仕方ないと。その時は、力あらん限り、利家と闘おうと。だが、そうならないようにとも願うのであった。
長島の地は地獄と化していた。舟から飛び降りて、逃げ惑う一向宗の信徒や民たちは悲鳴をあげていた。だが、それでも織田軍は鉄砲や弓矢による攻撃を止めることはなかった。木曽川は彼らの血で紅く紅く染まって行く。
長島の城や砦から退去しようとしていた一向宗や民たちは全員、死ぬことになる。それに震えあがった城や砦に籠っていたものは、門を固く閉じる。だが、織田軍はさらに攻勢をかける。その閉じられた門を竹と木の板を束ねたモノで塞いでいく。
一向宗の信徒と民たちは完全に城と砦に閉じ込められることになる。さらに追い打ちで織田軍は油をそれの周辺にまき散らしていく。
「よっし。火祭り虐殺パーティの始まりだ!城と砦に火をつけろ!絶対に、全員ぶち殺せ!これは厳命だ!」
信盛がそう兵士たちに命令する。兵士たちは手に持った松明を次々とまき散らした油に投げ込んでいく。松明が転がった部分から火は一気に燃え広がって行く。業々と音を立て、全てを燃やし尽くさんとばかりに炎と煙は舞い上がって行く。
「ガハハッ!誰一人、逃がすなでもうす!城や砦から出てくるモノ全てを討ち殺せでもうす!」
信盛の右翼側に展開していた勝家がそう配下の兵たちに指令を下す。燃え上がって行く城から脱出するために、やがて飛び出してくるであろう一向宗の信徒たちを射殺すために、弓に矢をつがえていたのだった。
「全員突貫だみゃーーー!織田の奴らは、おいらたちをだまし討ちしただみゃーーー!この非道を世の中にしらしめるだみゃーーー!ひとりだけでも生き残って、この悪行を世の中に知らしめるだみゃーーー!」
願証寺の法主が長島の城の中でそう叫ぶ。一向宗の信徒たちは眼から血の涙を流しながら、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏と唱える。
「ただで死ぬわけにはいかないだみゃーーー!ひとり、必ず織田の兵をひとり殺すだみゃーーー!ひとりも殺せないモノは極楽浄土に辿り着けぬと心するだみゃーーー!」
「いやじゃーーー。極楽浄土に逝けないのは嫌なのじゃー。頭がかち割れようが、腕がもげようが、必ず、織田家の兵を道ずれにするなのじゃーーー!」
「オイラ、織田家の兵を殺したら、今度、極楽浄土に旅立つんだぎゃー」
「城壁を飛び越えるだみゃーーー!ひとり1殺、そして極楽浄土にて!我ら、顕如さまのために死ぬのだみゃーーー!全員、極楽浄土にて会おうなのだみゃーーー!」
願証寺の法主が、城門を織田軍によって蓋をされていたために、内側から城壁を乗り越えて、長島の外に出る。その途端に、織田軍から矢と銃弾の雨が願証寺の法主に注がれる。
「ギャハハッ!この程度で拙僧を極楽浄土に送れると想っているのかだみゃーーー!さあ、全員、あの織田の兵の首に噛みつくのだみゃーーー!」
願証寺の法主は矢で左眼をえぐられ、腹を鉄砲の弾でハチの巣にされようとも、その闘志を絶やすことはなかったのだった。懸命に軍配を振るい、一向宗たちに指示を与えるのである。
長島の城からの反撃は予想していたものの、織田軍にとって不運が重なることになる。ここで突然、天気が崩れ、大雨が降ってくることになる。織田軍はこの大雨により鉄砲が使えなくなり、さらには視界不良となり、長島の一向宗たちに接近を許してしまったのであった。
「僥倖だみゃーーー!恵みの雨だみゃーーー!さあ、織田家のすべての兵を殺し尽くすのだみゃーーー!」




