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ー浄土の章14- 高天神城、陥落

「やっと、兵と将が集まったのでござる!これで、父上に文句を言われず、堂々と遠江とおとうみの高天神城へ救援に向かうことができるのでござる!本当に感謝するのでござる。河尻かわじり殿、秀吉殿、光秀殿!」


「いえいえ。信忠のぶたださまは言わば、殿とのご自身なのだ。信忠のぶたださまが命じるのであれば、自分が力を貸すのは当たり前なのだ!」


 河尻かわじりが胸を張り、そう信忠のぶただに応える。


「しかし、信長さまが一度眼は信忠のぶたださまの要請を断れとお達しが来たときは逡巡したもの、です。私としては第一声で、力を貸したかったの、ですが、信長さまの命には逆らえません、でした」


「いやいや。秀吉殿。これも、父上が自分を鍛えるためのこととはわかっているのでござる。父上は自分にはかなり厳しいゆえに、あえて、皆にそう下知をしたのでござる」


「ふひっ。さすがは信長さまの嫡男なのでございます。僕は調子にのって2度、断ってみたのでございます。でも、信忠のぶたださまは諦めることなく、自分に懇願してくれたのでございます。3度目を断っては武士もののふとしては恥なのでございます」


「はははっ。光秀殿はひとが悪いのでござる。しかし、こんな若輩者のために力を貸してくれたこと、感謝するのでござる」


 信忠のぶただはそう言い、河尻かわじり、秀吉、光秀に頭を下げる。頭を下げられた3人は信忠のぶただの低姿勢に、困ったものだと想い


「大体、信忠のぶたださまは頭を下げ過ぎなのだ。そこは殿とのを見習って、脅しでもしてくれれば楽なのだ。さて、家康殿をお救いしに行きましょうぞ!」


「もう6月に入りました、からね。家康さまがいくら粘り強いと言っても限界は近いはず、です。信忠のぶたださま。出陣の下知をお願い、します!」


「ふひっ。半年ぶりのいくさなのでございます。僕は武田家の兵を屠って屠って、屠りまくるのでございます。さあ、信忠のぶたださま。僕に殺戮許可を与えてくださいなのでございます!」


「ありがとうでござる!本当にありがとうでござる!それでは、全軍出陣でござる!」


 信忠のぶただは小谷城城下に集まった将と兵たちに徳川家救援に向けての下知をする。そして、信忠のぶただは1万の兵を引き連れ、岐阜、そして、尾張おわりへと1週間もかからず到達するのであった。


 だが、そんな信忠のぶただの努力も気泡に帰す。高天神城落城の報せが、救援部隊であった信忠のぶただ隊に届くのであった。


「無念。無念でござる!せっかく、将と兵をまとめ上げ、ここ、尾張おわりまでやってきたと言うのに、全てが無駄に終わってしまったのでござる!」


「うーーーむ。高天神城はもたなかったかであるか。これもまた致し方なし。信忠のぶたださま、気を落とさぬように」


 河尻かわじりがそう信忠のぶただを慰める。


「残念、です。せっかく武田家を屠るために新兵器を用意していたと言うのに、こんなことなら、持ってこなければ良かった、です」


「ふひっ?秀吉殿。何か、武田家の騎馬隊に有用な手立てを準備していたのでございますか?」


「煙玉とからし玉を混ぜ合わせてみたの、ですよ。これなら、騎馬軍団と言えども、こちらを補足できなくなって、さらにからしの匂いで馬が行動不能に陥り、ます。これを1000個ほど準備していたの、ですよ」


「ふひっ。すごく嫌な予感がするのでございます。絶対に、味方を巻き込む兵器に想えるのでございます」


 信忠のぶただと他3人が尾張おわりまでやってきたものの、どうしたものかと話し合っているのであった。そこに高天神城の落城を一刻も早く、京の都へと伝えようとしていた男が、信忠のぶただたちとばったり出くわすのである。


「あ、あれ?そこにいるのは信忠のぶただ殿でござるか?正月の酒宴以来でござる。拙者の顔を覚えているでござるか?家康でござる!」


「おお。家康殿。一体、こんなところまでどうしたのでござる?いや、そんなことよりも、高天神城救援に間に合わずにすまなかったのでござる!この、信忠のぶただ、一生の悔いなのでござる!」


「はははっ。そんなに気を使ってくれるだけでありがたい話なのでござる。それに、信忠のぶただ殿も信長殿も、俺を見捨てたわけではないことが、この陣容を視れば、一目瞭然なのでござる。秀吉殿、光秀殿、それに河尻かわじり殿。正月の岐阜の酒宴以来なのでござる。長島攻めに忙しいなか、これほどの男たちが、遠江とおとうみに向かっていたこと、ありがたいのでござる」


 家康がぺこりと頭を下げる。信忠のぶただは家康の姿を視て、なんてこの御仁は謙虚であり、それでいて、心の奥底から自分に対して感謝していることが、彼の身体からにじみ出ていることがわかるのである。


「すまないのでござる。本当に救援が間に合わずにすまないのでござる!」


「いやいや、信忠のぶただ殿。お気持ちだけでもありがたいと言うのに、こうやって、将と兵までも集めてもらっているのでござる。感謝をしてもしきれないのでござる!」


 信忠のぶただと家康が両手を握り合い、ぺこぺこと頭を下げまくるのであった。


「うーむ。この感動の頭の下げあいはいつになったら終わるのだ?いい加減、ケツ罰刀ばっとでもして止めたほうがいいのか?」


河尻かわじりさま。せっかく、将と将がわかり合えていると言うのに、そういう水の差し方はやめておいたほうが、いいかと?」


「ふひっ。でも、これ、放って置くと、らちが明かないのでございます。僕たちだけでも先に近江に帰ります?のでございます」


「いやいや。まってほしいのでござる!どうせ、近江に帰るのならば、俺もいっしょに道中を一緒に行きたいのでござる。高天神城での戦いをとくとくと皆に聞かせたいのでござる!」


「おい。秀吉、光秀。家康殿の長話が始まるぞ。自分は先に殿とのの下に帰らせてもらうぞ?」


「えええ?河尻かわじりさま、ひどくない、ですか?家康さまの話はこっそり自慢話も入っていて、1時間も聞かされると、うんざりなの、です。私だって、長浜城の建設があるので早々に北近江に帰りたいの、です!」


「ふひっ。では、僕が家康さまの長話につき合うのでございます。河尻かわじりさま、秀吉殿。僕を犠牲にして、先に帰ってほしいのでございます!」


 何か、ひどいことを言われているような気がする家康であったが、いつもの織田家のことなので、流すことに決めるのである。


「光秀殿。このご恩はわすれま、せん。さあ、河尻かわじりさま。一緒に逃げま、しょう!」


 秀吉はそう言うと、河尻かわじりと共にすたこらさっさと先に、進んでいくのであった。


「ふひっ。話合いはまとまったのでございます。では、信忠のぶたださま、家康さま。ゆっくり今日の都に向かおうなのでございます。利三としみつ、兵の移動は任せたのでございます」


 光秀は自分の配下にそう命じると信忠のぶただ、家康と共に、京の都へ向けて帰途の道につくのであった。


 それから1週間後の6月15日、家康は信長と京の都の二条の城で面会を果たすことになる。信長は将軍・足利義昭あしかがよしあきを京の都から追放したのち、二条の城の改修を村井貞勝むらいさだかつに命じ、自分が使いやすいように改造を施していたのだった。


「うーーーん。ここの造りがいまいちですねえ。今度、丹羽(にわ)くんを呼んで、改造してもらいましょうか?」


「そうじゃな。部屋から(かわや)までの道がいまいちなのじゃ。これだと、漏らしそうになった時に、(かわや)までたどり着けるのが困難なのじゃ」


「まったく何の話をしているのでござる。信長殿。お久しぶりでござる。家康でござるよ?」


「どうせなら炊事場ももっと大きくするべきですね。朝廷の貴族たちを招き入れることも多くなります。ひとりひとり応対するよりも、大多数を一度に招き入れたほうが面倒が少なくて済みます。それに応じて酒宴も豪華なものになりますし、それに適した炊事場にしないといけませんね」


「ふーーーむ。そうなると、料理人も増やさなければならないのじゃ。岐阜か尾張(おわり)のお食事処の若手を抜擢してみようなのかじゃ」


「あ、あの?信長殿?貞勝(さだかつ)殿?俺でござるよ?家康でござるよ?俺は生きているのでござるよ?」


「ああ、家康くん、来ていたんですか?貞勝(さだかつ)くん。先生には女房が10人いるんです。女房用の部屋を屋敷に増築してくれませんかね?」


「うーーーむ。ひとり一部屋を割り当てなければならないから、それは少し難しい話なのじゃ。いっそのこと、屋敷をぶっこわして建て直したほうが早いのではないかじゃ?」


「そうですねえ。じゃあ、長島攻めを完了しましたら、丹羽(にわ)くんも二条の城の改造に着手してもらいましょうか。若狭なんて代官に任せとけばいいでしょう。どうせ、やることなんて若狭武田の旧臣の仲裁くらいですしね」


「あ、あの?信長殿?あなたの大好きな家康でござるよ?ほら、こうもっと、何というか、俺を歓待してほしいのでござる?」


「ああ、家康くん。高天神城陥落、まことに心が痛みます。で、貞勝(さだかつ)くん。二条の城の大屋敷は1から作り直すということで事を運びましょう。さて、そろそろ、家康くんを放っておくと泣きだすので相手をしますかね」


「まったく。最初から家康殿をねぎらっておくのじゃ。わしもノリで半分シカトしておったのじゃが、途中で良心がチクチクと痛んだものなのじゃ。家康殿。このたびはご愁傷さまなのじゃ。殿(との)がねぎらいの宴を開く予定なのじゃ。遠路はるばる、遠江(とおとうみ)から京の都までようこそなのじゃ」


「うううっ。もしかして、高天神城を落とされたことで信長殿が怒って、俺をシカトしているのかと想ったのでござる。俺、いたたまれない気持ちになってしまったのでござる」


「これはちょっとやり過ぎてしまいましたね。家康くん、すみません。まあ、つもる話もあるのでしょうが、お酒と料理を楽しんでいってください。今日は夜が明けるまで、家康くんの愚痴を聞きますよ?」

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