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ー浄土の章13- 信長の誤算

 信長は村井貞勝(むらいさだかつ)と共に京の都で朝廷と折衝をおこなったり、宴を開いたり、そこでどんちゃん騒ぎを起こしながら月日は過ぎていくのであった。一方、織田家の主将たちは兵6万を従えて、長島周辺を荒らしまわり、長島の城や砦の中は一向宗の信徒やその家族により満員御礼状態となっていた。


「予想以上に長島の城や砦の包囲は上手くいってるなあ。これなら、何の心配もなく、火祭虐殺パーティができそうだぜ」


「ガハハッ!信盛(のぶもり)殿。そんな悠長な考えではいけないでもうすよ?ほれ、あそこに川で泳いで逃げ出してる一向宗の信徒らしき奴らがいるでもうすよ?」


「いけないんだなあ。逃げ出したら、殺しちゃうよお?おーーーい、お前ら、長島の城から脱走者がでてんぞ?ちゃんと鉄砲で撃ち殺しておけよー?じゃないと、俺が勝家(かついえ)殿から筋肉でぶん殴られるんだからな?」


「はははっ。これはすまないのでござる。皆の者、撃ち方よおおおい!ひとりたりとも長島の地より逃がすなでござる!」


 信盛(のぶもり)の配下がそう言うと、鉄砲による一斉射撃が始まる。川を泳いでいた十数名の民たちは、鉄砲の玉に穿たれて絶命し、木曽川で浮かぶこととなる。


「ちなみにさあ。あれ、本当に一向宗の信徒なのかな?俺、間違って殺してたら、仏さまから罰を与えられんじゃね?」


「どうなのでもうすかな?まあ、それはそれで仕方ないのではないかでもうす。一向宗でなければ長島の城や砦には向かうなと、お触れは出しておいたでもすし、それでも間違って、そっちの方に行ったのならば、それはそれで、そいつらの所為なのでもうす」


「まあ、そうだよな。いちいち、一向宗の信徒かそうじゃないとか、調べてる暇もないし、そもそもそいつが本当のことを言っているかもわからないしな。運が悪かったと想ってあきらめてもらいますかね」


 織田家の主将たちによる長島の城と砦の包囲は4月の半ばを過ぎるころには完成したのであった。あとは、一向宗側が城や砦の備蓄を喰い尽くし、飢え死ぬのを待つだけの状態になっていたのである。


 月日は進み、1574年5月に入り、京の都で仕事に励む信長の下に一報が届く。


「えっ!?家康くんが遠江(とおとうみ)の高天神城が落とされそうなんで、急きょ、救援を請うですか?ちょっと、待ってくださいよ!家康くん、はははっ!あと2年は遠江(とおとうみ)を防衛しきってみせるって自信満々に言っていたじゃないですか!」


「うーむ。高天神城の周りの砦に配備された将たちが武田家の内応により、武田家に寝返ったとの話のようなのじゃ。なんでも今川家の旧臣たちによる離反のようなのじゃ」


「あちゃあああ。なんで、そんな大事な場所をよりにもよって、滅ぼした大名家の旧臣に守らせているんですか。徳川家には人材が足りてないんですか?」


「そう言ってやるななのじゃ。徳川家。いや、三河より東は元々の豪族が力を持っている土地なのじゃ。武田家とのいざこざが長々と続いている以上、無理に豪族を締め上げれば、その豪族たちはこぞって武田家になびいてしまうのじゃ」


「まったく。遠江(とおとうみ)を手に入れた時に、豪族や今川の旧臣をそのまま使ったと聞いた時に嫌な予感がしてましたが、まさにそのツケを払わされることになりましたね、家康くんは。このまま、高天神城を落とされれば、その周辺の豪族は一斉に、反徳川となるでしょう。しかし、困りましたね」


「うーーーむ。織田家の主力部隊のほとんどは長島の地の包囲に使っているのじゃ。ここで下手に長島から兵を退きあげさせれば、長島の包囲が崩れてしまうのじゃ」


「本当に困りましたねえ。家康くんが2年は大丈夫と言っていたからこそ、それを信じて、長島を包囲したと言うのに。あああ、どうしましょう。誰を救援に向かわせますかね」


「それなら自分が行くのでござる。一度、武田家の強さをこの眼に焼き付けてくるのでござる。父上、自分に行かせてほしいのでござる!」


 そう信長に言い出したのは、彼の嫡男である信忠(のぶただ)であった。彼は織田家の跡取りとして、朝廷に顔が利くようにと、信長と共に京の都にやってきていたのである。


信忠(のぶただ)くん。行くのは良いのですが、兵はどうするのですか?長島に6万もの兵を配置させているのです。各国には防衛のために1万ずつしか残っていませんよ?」


「そこは、南近江、北近江の織田家うちの将たちに頭を下げて、少しだけでも兵を借りてみるのでござる。そうすれば、兵3000くらい集まるのでござる!」


 信忠のぶただの言いに信長がはあああとため息をつくのである。


「ダメです。最低1万は兵をかき集めてから、遠江とおとうみの救援に向かってください。信忠のぶただくん、あなたは武田家を舐めすぎです。兵3000程度では死ににいくようなものです。兵を1万、かき集めれなければ、出立を許しません」


「で、ですが、そんな1万も集めようとすれば、準備だけで1カ月はかかるのでござる!それでは、高天神城は落とされてしまうのでござる!」


信忠のぶただくん。良いですか?あなたが信雄のぶかつくんや信孝のぶたかくんなら、兵3000でも向かわせているでしょう。でも、あなたは先生の嫡男なのです。無駄死にしてもらっては困るのです。ですから、しっかりと準備を整えてもらってから、救援に向かってください」


「わ、わかったのでござる。では、兵1万、なんとかかき集めてみせるのでござる」


「あと、連れて行く将は信忠のぶただくんが説得してください。先生はあれこれ言いません。信忠のぶただくんが信用に足る人物を選出し、自分から頼み込んで、救援の軍に組み込んでくださいね?」


「えええ?将も自分で集めろと言うのでござるか?それはいささか無理があるのではないかでござる!」


「そんなことすらできないようで、何が先生の嫡男ですか。信忠のぶただくんも自分自身の子飼いの将を持つべきです。良い機会ですから、自分の手足となる人物を探してみてください。ちなみにその顔ぶれを先生は確認させてもらいますからね?」


「わ、わかったのでござる。父上のお眼にかなう人物を集めてくるのでござる!それでは、時間がないので、これにて、退出させてもらうのでござる!」


 信忠のぶただはそう言うと、屋敷を飛び出し、兵と将をかき集めに走り回ることになるのであった。


殿との。いささか、信忠のぶたださまに厳しすぎではないのかじゃ?好き好んで、武田家とやりあおうなどと言う将は、なかなかに居ない者なのじゃ」


「そうかも知れないし、そうでないかも知れないです。それでも、信忠のぶただくんは先生の嫡男なのです。これくらいの試練くらいは乗り越えてほしいところです。あと、各地の将に伝達をお願いします。信忠のぶただくんに頼まれたら、1度眼は必ず断るようにと。それでも食い下がるようであるなら、兵ならびに力を貸してやれと」


「まったく。スパルタ教育、ここに極まれりなのじゃ。秀吉、光秀あたりに殿とのが命令すれば一発なのじゃ。なのに、それを禁じるとは、信忠のぶたださまも大変な父親の下に産まれ堕ちたものなのじゃ」


「まあ、運命だと想って諦めてもらうしかありませんからね。先生だって、今や40を越えた身なのです。人生50年の時代ですよ?いつ、ぽっくり逝くかわからないのですからね?」


「どう考えても70までは生きてそうなのじゃ。憎まれっ子、世にはばかると言う言葉がぴったりなのじゃ、殿(との)は」


「まあ、確実に一向宗の信徒たちには恨まれているでしょうね。でも、織田家(うち)の領内の民は喜んでくれています。なので、先生、精々、70歳までしか生きれないんじゃないでしょうか?」


「まったく、どっちなのじゃ。まあ、それは良いのじゃ。今は家康さまがどこまで高天神城で粘れることが肝要なのじゃ。織田家うちと武田家との一大決戦に狂いが生じるのじゃ」


「まあ、遠江とおとうみで迎え撃とうかと想いましたけど、もう、持たないでしょう、高天神城は。砦が武田家の内応により寝返りし始めたのです。それは大きな波となり、高天神城の城主もあらがえきれずに降伏するに決まっています。さて、これで因縁の地である三方ヶ原より東は武田領土ですね。これは家康くんも年貢の納め時と言ったところでしょうかね」


「それなら、長島の包囲を解いてでも家康さまの救援に向かうべきだと想うのじゃが、準備が整っていない今、徳川家の救援に行けば、三方ヶ原の大敗を喫するのは、今度は織田家うちとなるのじゃなあ。世の中、なかなか上手くいかないものなのじゃ」


「そういうことです。まあ、勝頼かつよりくんは織田家うちを攻めるべきなのに徳川領を切り崩して、武田領土を広げるのに必死です。おかげで、先生たちは包囲網を崩壊させることに成功したわけです。家康くんには感謝をしてもしきれませんね」


「そうじゃな。じゃが、その家康さまを無下に扱うわけにもいかないのじゃ。殿とのは武田家、いや、勝頼かつよりに必ず大打撃を与えなければならなくなったのじゃ」


「わかっていますよ。そのための鉄砲大増産なんですからね。使い古した鉄砲ではダメです。3000丁、全て改良を加えたモノを新調しなければなりません。そのために1年、じっくり織田家うちは力を溜めなければなりません」


「家康さまには、金や兵糧を送って支援しておくべきじゃな。兵を送ることには時間がかかりそうじゃが、金や兵糧ならすぐなのじゃ」


「ということで、貞勝さだかつくんは織田家うちの蔵から徳川家に分けれるだけ、金と兵糧を送っておいてくださいね?火薬もできるだけ都合しておいてください。では、先生、家康くんが無事なことを祈るために神社仏閣にお参りしておきましょうかね」


「まあ、こればかりは神頼みじゃな。わしもお供するのじゃ。殿とのひとりで願うよりも、わしも一緒のほうがご利益が期待できそうなのじゃ」

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