ー浄土の章12- 第3次長島攻め 始まり
1574年4月5日。尾張の清州城の城下にして、信長は6万に及ぶ兵を参集させる。そして、柴田勝家、佐久間信盛を先鋒とし、長島本城へ。そして、滝川一益、丹羽長秀を支城攻略の主将として任せるのである。そして彼らの副将として、前田利家、佐々成政、さらに信長は自分の親族たちにも兵を任せたのである。
「さあて、勝家くん、のぶもりもり。わかっていると想いますけど、無理に落とさなくていいですからね?一益くんと丹羽くんと連携を取って、長島本城とあとふたつの支城が連携できないように分断してくださいね?」
「おう。わかってるぜ?水運を封鎖して、兵糧とかが運び込まれないようにしておけばいんだろ?んで、外から鉄砲で延々、撃ち続ける感じかな?」
「ガハハッ。もし飛び出してくる一向宗がいたら、それは殺してしまっても構わないでもうすよな?」
「はい、そうです。これはもう絶対に勝てないと想わせることが肝要です。それともうひとつ。進軍はゆっくり行ってください」
「ん?殿。どういうこと?さっさと囲んじまったほうが楽にならないか?」
「長島の周りの村々を焼き払いつつ、じわじわと本城、支城を囲むのですよ。そうすれば、行き場の失くした一向宗の信徒たちは城へと逃げ込むことになります」
「まじかよ。殿。そこまでやっちゃうわけ?そんなことしたら、長島の周辺から民たちが居なくなっちゃうぜ?」
「それで構いませんよ。これは和議を一方的に破った本願寺顕如くんに見せつけるための虐殺なのですからね。一向宗どもに想い報せてやるのですよ。あなたたちの法主は約束もまともに守れないダメな奴だと言うことを。それに、彼らは極楽浄土に逝きたがっているんでしょ?先生はそれのお手伝いを買って出ただけです。まあ、長島の周辺から民が居なくなるのは残念ですがね?」
「ガハハッ!まあ、余った土地には、尾張や岐阜で土地を欲しがっている民たちに分ければいいだけの話でもうす。最近は好景気が続いているせいか、職を求めて、流民が大量にやってきているのでもうす。彼らのためにも、長島の地を掃除するのも悪くないでもうす」
「浄土に旅立ちたいひとは浄土へ。現世で生きたいひとには土地を与えましょう。それが先生の役目でしょう。いやあ、第六天魔王と名乗った以上は、皆さんの欲望に応えなければなりませんし。忙しいですよ。先生、本物の第六天魔王よりも働いているんじゃないですか?」
信長はそこまで言うと、はははっと笑いだす。つられて信盛と勝家も笑いだすのである。
「なにをそんなに笑っているんっすか?3人とも。九鬼の話だと舟の準備が整ったみたいっす。信長さまっち、出発しないんっすか?」
そう問うてくるのは滝川一益であった。
「ああ、一益くん。報告ありがとうございます。じゃあ、皆さん、行ってきてください」
「えっ!?信長さまっちは来ないんっすか?せっかくの火祭虐殺パーティっすよ?熱でもあるんっすか?」
「熱はありませんよ。困ったことに菊亭晴季くんが、京の都に来てほしいって言っているんですよ。帝が従三位・参議を与えた以上は、一度、帝に謁見すべきだと主張しているんです。だから、先生、嫌々なんですけど、行くしかないんですよねえ」
「それは残念っす。でも、火祭虐殺パーティの決行日には戻ってくるんっすよね?」
「そうですね。1カ月ほど、京の都に滞在することになると想いますが、決行日までには戻ってこれると想っています。一益くんの計算では、どれくらいで長島は干上がると想います?」
「そうっすね。長島周辺の民たちが城に逃げ込めば、2カ月も持たずに備蓄は喰い尽くすはずっす。だから、6月に入るころにはあちらから、降伏したいと言い出すはずっす」
「城の備蓄が2カ月で喰い尽くすってことは、5,6万人くらいの民があの城に逃げ込むってことかあ。いやあ、地獄になりそうだなあ。長島は」
信盛がそうひとり言うのである。
「信盛さまっち、恩情は与えないでくれっすよ?うまく周辺の村々の民を城に逃げ込むように誘導をおねがいするっす。信盛さまっちは甘いところがあるから、心配なんっすよ」
「ガハハッ!一益よ。それは心配に及ばないでもうす。そのために我輩が信盛殿と一緒に組まされているのでもうす。信盛殿が嫌がっても、我輩が完遂するゆえに安心するのでもうす」
「ああ。勝家殿がついているなら心配ないっすね。丹羽っちはそもそも心配するどころか、喜んでやる男っすから、それはそれで心配っす」
「なんか、俺だけ扱いがひどい気がするんだけど?まるで、俺の対処が甘いみたいな?」
「ガハハッ!事実だからしょうがないのでもうす。信盛殿、優しいのは良いが、甘いのはダメでもうすよ?心を憎しみの炎で焦がさなければならないでもうす」
「そうっすよ、信盛殿っちは甘いんっすよ。本当なら、丹羽っちじゃなくて、信盛殿っちが支城をひとつ任されててもおかしくないっすよ。でも、そうならなかってことは、信長さまっちが危惧している現れなんっすよ」
「えっ?殿、俺って、そんなに甘々に視られていたわけなの?」
「はい。残念ながら、一益くんの言う通りです。のぶもりもりは最近、甘々なので、勝家くんと組ませたわけです。信盛くんは心を入れ替えて、勝家くんと一益くんの非情さを学んでくださいね?」
「うーーーん。これは反省しないとなあ。つい、子連れの家族とか視ると、ちゅうちょしちまうんだよなあ。あんまり褒められたことじゃないとわかっているが、なかなかに非情になれないんだよなあ」
「だれかれ構わずに非情になれって話じゃないっすよ、信盛殿っち。約束も守れない不義な奴らには与える恩情なんて存在しないってことを、教えなきゃならないっす。それが結果的にこのひのもとの国が早く平和になるんっすからね?」
「わかった。わかったぜ。勝家殿。もし、俺が甘いことを言い出したら、その筋肉で思いっきり俺の顔面をぶったたいてくれ」
「ガハハッ!その言葉、決して忘れるではないでもうすよ?あと、どれくらいの筋肉で殴ってほしいでもうす?120パーセントか?それとも、123パーセントか?いや、全力の130パーセントでもうすか?」
「うーーーん。130パーセントで殴られたら、俺、死んじまうかなあ?確か、123パーセントで吹っ飛ばされた信忠さまは、びわこの水面を3回、跳ねてたって聞いたしなあ?できるなら、120パーセントくらいでお願いするぜ?」
「勝家くん。のぶもりもりがさっそく甘いことを言っているので、全力の130パーセントで殴ってください。あっ、今はやめてくださいね?軍を長島まで連れて行く人材が減ってしまうので」
「しょうがないでもうすなあ。では、殿。信盛殿のことはしっかり監視しておくので、安心して、京の都へ行ってきてくれでもうす。お土産はカステーラが嬉しいのでもうす」
「別に遊びに行くわけではないのですからね?朝廷との繋がりを強めるための宴に出席したり、下京の復興状況も視察しないといけません。貞勝くんだけでなんともならないから、先生が行ってくるだけですからね?」
「信長さまっちも大変っすねえ。越前が一向宗どもに取られなかったら、今年はもう少しゆっくりできそうだったのにっす。どうせ京の都にいくのであれば、ついでに大坂の石山御坊にカチコミしてきたらいいんじゃないっすか?」
「一益くん。それはさすがに無理でしょう。あちらはその石山御坊に兵を集めていると聞いてますし。下手にあそこに手を出しては、想わぬ痛手を被る可能性がありますからね。まずは長島で報復です。順番は間違わないようにしていきましょう」
「うっす。わかったっす。じゃあ、信長さま、気を付けて京の都へ行ってきてほしいっす。岐阜と近江の境は一向宗の信徒たちがまだまだ生息しているっす。くれぐれも油断のないようにお願いするっす」
「まあ、北近江は秀吉くんと光秀くんが抑えてくれているおかげか、その辺りの民たちは統制が行き届いているみたいですね。でも、過信はしすぎないようにしてはおきますよ。では、勝家くん、信盛くん。そして、一益くんのほうこそ、想わぬ反撃を受けないように注意してください。あとで丹羽くん、利家くん、佐々くんや他の者たちにも注意を促しておいてくださいね?」
信長はそういうと、自分の馬の鐙に足をかけ、よいしょっと言いながら馬にまたがる。そして、側付きの者10数名とともに京の都へと向かうのであった。織田の主将たちは、信長が見えなくなると、自分の兵たちに号令をかける。
「ガハハッ!殿が心配して京の都からすっとんで帰ってこないよう、しっかりと働いてもらうでもうす!お前たちの中にも本願寺に、一向宗に対して想うことがあるはずでもうす。その心の中の炎をじっくりと燃え上がらせておくでもうす!」
「よーーーし、信盛隊、全速前進!ぱぱっと包囲を完成させて、長島の城や砦のやつらを飢え死にさせにいくぞー!」
「うっす。一益隊、出発っす!あとからくる丹羽っちと連携を取りつつ、周辺の村々を襲うっす!長島周辺に住む一向宗には全員、死んでもらうっす!」