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ー崩壊の章 3- 侵攻策

 光秀と秀吉がほおをげっそりとコケさせて、よろよろと軍議を行っている部屋に戻ってくる。


「ふっ、ふひっ。何かが産まれた気分なのでございます。これで、僕は一流の将になれた気分なのでございます」


「信長さまから渡されたものは全て、我が家の家宝、です。例え、それが爪の垢だとしても、私は受け入れるつもり、です」


 こいつら、生きづらくてしょうがないんだろうなあと想う信盛(のぶもり)である。まあ、これも2人の性分なのだろうと、何も言わずに置く。


「さて、光秀くんと秀吉くんも戻ってきたことですし、そろそろ、真面目に軍議を再開しましょうか。さて、のぶもりもり、策を示してください」


 ええっ?俺なの?と名指しされたことに驚く、信盛(のぶもり)である。


「ああっ、ええっとううん?とりあえずは、小谷城を囲むだろ?そしたら、朝倉義景あさくらよしかげが大軍を率いてやってくるよな?それを俺と勝家かついえ殿が抑えている間に、一気に小谷城を攻め落とすってのはどう?」


「はい。のぶもりもり、ありがとうございます。まあ、50点てところでしょうか。では、次に勝家かついえくんです」


 ええっ?次は我輩でもうすか?と勝家かついえは想う。殿とのが全て、青地図を描いているものと想っていたため、急に話を振られて、困ることになる。


「う、うーん?大体は信盛のぶもり殿の言ったことと同じでもうす。さらに追加するとすれば、我輩と信盛のぶもり殿で朝倉義景あさくらよしかげを抑えるだけではなく、越前まで追い返すほどの勢いで攻めたてるのが良いと想うのでもうす」


 勝家かついえの言いに信長がふむと息をつく。


「さらに一歩進めた案ですね。では、勝家かついえくんには60点を与えましょう。では、次、一益かずますくんに発言権が移ります。さあ、どうぞ?」


 もしかして、全員に聞くつもりじゃないっすか?と想う一益かずますである。


「ああ、ええと、朝倉と浅井に対して、兵を半分に分けた場合、約3万ずつで対処することになるっす。これだと、小谷城は天下の堅城で攻め落とすのに時間がかかり過ぎるし、朝倉も2万を拠出してくる以上は信盛のぶもり殿と勝家かついえ殿が3万を率いたとしても、攻略に時間がかかるっす」


「ほう。これは良い推察ですね。では、一益かずますくんはどうするのが良いと思いますか?」


「ここは、戦力を割かずにどちらかを一気に攻めるのを提案するっす。朝倉の抑えを1万に減らして、5万で一気に小谷城を攻め落とすっす」


 一益かずますの提案に信長がふうむと息をつく。


「再三に渡り、小谷城を包囲してきた経験上、中途半端な数で攻めてはいけないと言うことですね。一益かずますくんには70点を与えましょう。さて、ここまで織田家の主力の将に意見を聞いたわけですが、我こその案はと言うひとはいますか?」


 これ以上の案などあろうものかと言う空気が軍議の場に流れるのである。だが、ここでひとり、さっと手を天高く突き上げるものがいる。信長はその者をじっと見つめ


「おや、竹中くん。いつの間にこの場にやってきたのですか?」


「んっんー。秀吉さまに進言するのを忘れていた策があったので、言付けに来たのですよ。さあ、秀吉さま、浅井・朝倉攻めの策を紙にまとめてきました。秀吉さま、これをあなたの案として発表してください?」


 秀吉は突然の竹中半兵衛の登場に驚きを隠せない。しかも、策を持ってきたと言う。


「えっ?えっ?それは直接、竹中殿が信長さまに進言したほうが良くない、ですか?私が発表したとなると、功は私のものになってしまい、ますが」


「んっんー。良いのですよ。私は秀吉さまの家臣団のひとりです。秀吉さまが出世することはすなわち、私の出世につながるというわけです。ですので、秀吉さまは遠慮なく、私の策を用いてくれると助かるわけですよ」


 本当に良いのだろうか?と想う秀吉である。でも、竹中殿の言いも最もだ。下手に自分の上司を差し置いて策を言い放てば、角が立つ。だからこそ、自分を1枚挟んでの献策なのであろうと。


 秀吉は意を決して、竹中殿から渡された紙を広げ、その中身を見る。そして、眼をぎょっと剥き出しにしてしまう。


「た、竹中殿?これ、本当に私の発言にしてしまって良いの、ですか?こんなの私に託されても、荷が勝ちすぎるのですが」


「んっんー。良いのですよ。遠慮なく、ぶちまけてください。できれば、秀吉さまの想うところも一緒に混ぜてもらえると、さらに良い策に仕上がると想っています」


 秀吉は逡巡する。いくら、自分の家臣団のひとりである竹中殿ではあるが、これを直接、信長さまに進言すれば、かなりの好印象を信長さまに与えるはずだ。しかし、そうなれば、先ほども考えたように、自分と竹中殿の間で角が立つ。秀吉はうーーーんと唸り、だが


「では、秀吉が策を示させてもらい、ます!小谷城は堅城です。ですから、小谷城の包囲を1万として、残りの全軍を持って、朝倉義景あさくらよしかげを攻めたて、ます!朝倉はそれによって浮き立つことになるはずなので、この機を逃さずに一気に朝倉家を滅ぼしてしまい、ます!」


 秀吉の発言に軍議に参加している将のほとんどが、おおおおお!と感嘆の声をあげる。


「朝倉さえ滅ぼしてしまえば、小谷城は孤立無援となり、ます!あとはゆっくりと囲もうと、力攻めをしようと、織田家にとって非常に有利に事を運ぶことができ、ます!」


 秀吉はそう言い切る。それと同時に信長がパンパンパーンと両手を打ち合わせる。


「はい。秀吉くん、ありがとうございます。90点と言ったところでしょうね」


 これでも90点かあ。殿とのは厳しいなあと想う信盛のぶもりである。


「先生、秀吉くんの提案に、さらに朝倉景鏡あさくらかげあきらくんを使おうと思います。そうすれば、義景よしかげくんは後方で反乱を起こした景鏡かげあきらくんにより、まったくもって戦うことすらできずに崩壊しますね。これで100点満点と言ったところでしょうか?」


「なんか、美味しいところを殿とのが掻っ攫って行った気がしないでもないけど、良い仕上がりで策が成ったと言う感じだなあ?殿とのはここまで考えて、景鏡かげあきらと内通していたの?」


「いえいえ。そこまで買いかぶられては困りますよ。たまたま、上手く相乗効果になっただけです。でも、まあ、これはまだ机上の空論になることさえあります。わかっていると思いますが、こんなに上手く敵が乗ってきてくれることなんて、ありえないと想って、皆さんは油断なくいくさを運んでくださいね?」


「ふひっ。もし、この策が決まりに決まれば、脳汁ドバドバは避けられないのでございますね。策を確実なものにするためにも、宇佐山うさやま城方面から小勢でも、朝倉軍の横腹を突くのをさらに提案させていただきたく思うのでございます」


 光秀の言いに信長がニヤリと笑みを作る。


「ほっほう。光秀くんはその朝倉軍の横腹を突く役目が欲しいと言うわけですね?」


「ふひっ。僕もたくさん功を稼いで、領地を増やしたいのでございます。朝倉軍が崩れるきっかけになれれば、大功となる可能性があるのでございます。その機を逃したくないだけでございます」


「では、光秀くんに宇佐山(うさやま)城方面から急襲をかけてもらいましょうか。合図は赤い色の狼煙(のろし)です。間違わないように注意してくださいね?それと同時に景鏡かげあきらくんにも謀反を起こしてもらいます。まあ、景鏡かげあきらくんが応じないのであれば、義景よしかげくんと一緒に死んでもらうだけですがね?」


「ん?朝倉の一味は捕らえるんじゃなくて、殺しちゃっていいわけ?まあ、悠長に降伏を待っていられるような時間もないわけだけど?」


 信盛のぶもりがそう信長に質問をする。信長はふむと息をつき


「とりあえず、越前の一乗谷まで続く支城には降伏勧告を行いましょうか。でも、1両日中に返答がない場合はすべて死んでもらいます。あとで降っても、首級くびをはねます。それくらいしないと、先生たちの本気具合を理解してもらえないでしょうからね」


「ああ、わかったぜ。じゃあ、俺からの質問は以上だ。おい、誰か他に聞きたいことがあったら、今の内に聞いておけよ?ちょっとでも、疑問に想うことならなんでもだ!」


「じゃあ、俺からッスけど、越前を手に入れたあとはどうするんッスか?一旦、そこで体勢を整え終えてから、改めて、小谷城を攻めるんッスか?」


 利家としいえがそう信長に質問する。


「そこは前波くんと溝口くんを暫定的に越前の支配を任せます。先生たちは数日、休憩したのち、とって返すように小谷城へ全軍、向かいます。利家としいえくんが想っている3倍くらいの侵攻速度で行いますので、臨戦態勢を解かないように部隊に徹底してくださいね?」


「わかったッス。勝利の酒盛りは朝倉家と浅井家の両方をぶっ潰したあとになるってことッスね?ううう。久しぶりに俺の槍が血だらけになるッスね。こりゃあ、楽しみで仕方ないッス!」


「ん…。自分から質問。朝倉家は逆らう者は全て殺すって言っていたけど、浅井家の場合はどうするの?あと、お市さまも小谷城に居る。無理に小谷城を攻めたら、お市さまの命が危ない」


 佐々(さっさ)がそう信長に質問する。信長は少しだけ憂い顔になり


「お市ですか。忍者たちの報せでは、長政くんから何かしらの危害を加えらている様子はないとのことですが、果たして、どうなることでしょうかね?最悪、お市には死んでもらうことになるでしょう」


「ん…。長政さまには降伏勧告をまず行うことを提案する。お市さまの安全と引き換えに、長政さまの命の安全も保障すると。信長さまは実の妹を犠牲にしてはダメ!」


 佐々(さっさ)らしくない強めの語気での発言だ。


「ん…。信長さまはお市さまの救出をまず優先してほしい。さしでがまい発言だと重々承知しているけど、できる限りのことはやってほしい!」


 信長は佐々(さっさ)の発言を聞き


「わかりました。小谷城は一度、包囲したのち、交渉に入ります。ですが、最悪の場合も覚悟して臨みましょう。では、軍議はこれにて終了です。皆さん、それぞれの部隊に号令をかけてください!これより、朝倉・浅井との最後の闘いに向かいます!」


 信長の鶴の一声が軍議の場に響く。各将たちは、おおおおお!と叫び、右腕を天に向け、突きあげるのであった。

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