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ー狂喜の章15- 次代の勇将たち

「ふむ。長逸ながやすくんの首級くびを一鉄くんが取りましたか。で?岩成くんと政康まさやすくんは未だに勝竜寺しょうりゅうじ城を攻めているんですか?はあああ。あんな間抜けな敵将に今まで苦しめられていたなんて、今さらながらに織田家うちは追い詰められていたという証拠ですねえ?」


 信長は飯盛いいもり城攻めを行いながら、長逸ながやすを一鉄が討ち取った報を聞く。信長は満足そうにうんうんと頷きながら


「さて、次に討ち取られるのは一体、誰でしょうかね?飯盛いいもり城攻めは一旦、包囲だけにとどめて、先生、北上して残りの2人を勝竜寺しょうりゅうじ城の兵たちと一緒に囲んでしまいますかねえ?うーん、でも、落ちそうな城を放っておくわけにもいかないですし?」


「それなら、自分に任せてほしいのでございます。きっと、岩成、政康まさやす首級くびをあげてみせるのでございます!」


「おいおい。盛政もりまさ、抜け駆けは許せないんだぜ。行くなら俺も連れていけなんだぜ?俺が2人ともの首級くびをあげてやるんだぜ!」


「まったく、城攻めが面倒臭いからと言って、首級くびを取るほうに走るのはやめてほしいっす。清正きよまさの悪い癖っす。楽なほうばかりに逃げるなっす」


「うるさいんだぜ、正則まさのり。城を落とすよりも、三好三人衆を討ち取るほうが今回のいくさの要なんだぜ!正則まさのりこそ、大局を見誤ってはいけないんだぜ!」


 そう騒いでいるのは、佐久間盛政さくまもりまさ加藤清正かとうきよまさ福島正則ふくしままさのりである。彼らは信長のお眼に叶い、若手ながら信長が自分の寄り騎へと抜擢して、傍らに置いていたのであった。


盛政もりまさくん、清正きよまさくん、それに正則まさのりくん。力が有り余っているようですね?城攻めはそんなに退屈ですか?」


 信長の問いかけに3人がそれぞれに反応を示す。


「い、いえ。飯盛いいもり城はなかなかの城ゆえ、退屈と言うことはないのでございます。でも、三好三人衆を討ち取らねばならぬのは確かなことでございます」


盛政もりまさ、そんな回りくどいことなんか言ってたら、信長さまに伝わらないんだぜ?それよりも、首級くびをあげて褒美をたくさんほしいってストレートに言うんだぜ!」


「わし、そろそろ、嫁が欲しいと想っていたところっす。信長さま、三好三人衆を討ち取ったら、金品や土地よりも、きれいどころのお姉ちゃんを紹介してほしいっす。氏真うじざねがきれいな奥さんとずっこんばっこんしているのがうらやまけしからんっす!」


 正則まさのりの口から氏真うじざねと言う名前を聞き、あれ?と想う信長である。まさかとは想うが、今川義元の息子である、あの今川氏真いまがわうじざねのことではないのだろうか?と。まあ、さすがに親の仇である自分の家臣になるわけがないだろうと、信長は聞き流すことにする。


「だよなあでございます。氏真うじざねの奴、あんなきれいな奥さんと毎日、ずっこんばっこんしているでございます。くううう。自分も、もう年頃でございます。でも、叔父の勝家かついえさまが女は顔より、美味いメシを作れることが重要でもうす!とか言って、きれいどころを紹介してくれないでございます!」


「それはそれはご愁傷さまなんだぜ。俺なんて、今度の配属先が噂では秀吉さまなんだぜ?あのひと、家臣の嫁にまで、やらしい眼で見つめていると言う噂なんだぜ。俺、彼女ができても、絶対に秀吉さまには紹介できないんだぜ!」


「早川ちゃんみたいなきれいな嫁は欲しいけど、秀吉さまに視姦されると想うと、刺してやりたいと想ってしまうっすね。それよりも、信長さま、わしらを勝竜寺しょうりゅうじ城へと向かわせてほしいっす。首級くびは仲よく3分割するっす」


「うーん、秀吉くんって下の方々から見ていると、そう映るんですねえ?今度、秀吉くんに注意しておかないとダメですね。実際、家臣の嫁に手を出さないでも、そんな噂を立てられては大変ですから。あと、首級くびは2つなので3分割するのは難しいですよ?正則まさのりくん」


「大丈夫っす。きっちり、横に輪切りにしとくっす。縦に斬ると頭蓋骨できれいに割れないっす」


 うーん?確かに理に適ってはいますけど、それはそれでどうなんでしょうか?と想う信長である。


「まあ、若手に功を立ててもらうのは、先輩諸将にも刺激になって良いでしょう。では、盛政もりまさくん、清正きよまさくん、正則まさのりくん。それぞれ、兵1000ずつ与えるので、ぱぱっと、岩成くんと政康まさやすくんの首級くびを取って来てくれます?でも、ちゃんと、顔が判別できるように細かく輪切りにしないように注意してくださいね?」


 信長の命にそれぞれが、応と返事をする。信長はうむうむと満足気に首を縦に振るのであった。




「岩成、後ろから織田の小勢が攻めてきたのでござる!もはや、進退、極まったのでござる!なんで、長逸ながやすが撤退しようと言っていたのを無視したのでござるか!」


政康まさやす、貴様はあの時、俺の言いに対して、反対しなかったなり!何を今更、旗色が悪くなったからと言って、俺を責めたてるなりか!」


 政康まさやすが岩成に掴みかかり抗議していたところを、岩成が政康まさやすの顔をぶん殴るのである。


「ううう。自分はこんなところで死んでしまうのかでござるか。あの時、長逸ながやすの言いを聞いて淡路に撤退しておけば、のちにくるであろう、信玄殿の侵攻に合わせて再起できたと言うのに。口惜しいのでござる!」


「そんな泣き言は今は聞かないなり!それよりも、後方に見えるは、合わせて3000ほどなり!あいつらを蹴散らして、再起を図るなり!」


 岩成は勝竜寺しょうりゅうじ城攻めを中断し、急いで全軍を後方から向かってくる織田方の3000に合わせて陣を展開するのであった。岩成には勝算があった。政康まさやすが率いる兵と合わせれば、こちらは1万の兵がいる。よしんば、勝竜寺しょうりゅうじ城から敵が出てきたとしても、政康まさやすに任せれば、防ぎきれるはずである。


 しかし、その岩成の計算自体が間違っていた。


「た、大変でございます!政康まさやすさまが軍の指揮を放棄し、いくさ場から脱出を図ってしまったのでございます!」


 岩成は部下からの報に驚きを隠せなくなってしまう。


「ど、どういうことなり!後ろを任せていた政康まさやすが逃げ出したなりか?で、では、勝竜寺しょうりゅうじ城からの敵兵をどうしろと言うなり?ま、まさか、政康まさやすは俺を見殺しにするつもりなのかなり?」


 岩成は政康まさやすに裏切られたことに怒りを通り越して、絶望の淵へと落とされ、頭が真っ白になってしまう。手に持っていた軍配を想わず、地面にポトリと落としてしまうのであった。


 政康まさやすが率いていた5000の兵は指揮官を失ったことによりまともに戦うこともできずに、自ら崩壊していく。そして、後方が霧散していく姿を岩成率いる5000の兵たちは間近に見ることにより、一気に恐慌状態へと陥っていく。


 こうなれば、いくら天下の名将と言えども、軍の瓦解を抑えきれることはできない。


「よっしゃあああ!敵は崩壊したのでございます!あとは三好三人衆を見つけ出して首級(くび)を取ることだけでございます。雑兵など放っておいて、岩成友通いわなりともみち三好政康みよしまさやすを探すのでございます!」


 そう叱咤を飛ばすのは佐久間盛政さくまもりまさである。まさか、ここまで上手く敵の崩壊を誘え出せたことに胸に喜びが去来する。主君である信長さまの策がここまで見事にはまるのをいくさ場で体験できるとは夢にも思わなかったからだ。


「よし、お前ら、そこで全軍待機だぜ。ああん?俺たちも大将首が欲しいだと?100年早いんだぜ!そんなにほしけりゃ、俺より先に取って見せるんだぜ!」


 加藤清正かとうきよまさが率いる1000の兵たちが、うおおお!と雄たけびを上げ、我先へと崩壊していく三好三人衆の軍隊に向けて突っ込んでいく。清正きよまさは、へへっと鼻を鳴らす。


「良いのかっす。これじゃあ、配下の兵たちに三好三人衆の首級くびを取られるっすよ?わしはそんなの嫌っすから、行ってくるっす」


「おお、おお。正則まさのり、行ってきたら良いんだぜ?残りものには福があるって言うんだぜ。慌てる乞食はなんとやら。さあさあ、行ってくるんだぜ?」


 なにやら小難しいことを言っているっすと福島正則ふくしままさのりは想いながらも、こうしてはいられないとばかりに清正きよまさを置いて、敵の集団につっこんでいくのであった。


「さて、ここで三好三人衆を討ち取れなくても、まだまだ敵は残っているんだぜ。浅井、朝倉、松永久秀まつながひさひで、それにもっと未来さきでは武田家の将を討ち取る機会がきっとやってくるんだぜ。ここで、功をあげなくても、ご馳走はまだまだ残っているんだぜ!」


 清正きよまさいくさ場を眺めて、そう呟くのであった。彼の視線はすでに三好家を見ておらず、少し先の明日を見つめていたのだった。




「ひいひいひい。ここまで来れば、大丈夫のはずでござる。しかし、みなとはすでに封鎖されているはずでござる。ここは無理を承知で奈良の松永久秀まつながひさひで殿を頼るべきでござるか?」


 三好政康みよしまさやすは軍の指揮を放棄し、ほうほうのていで高屋たかや城付近まで、ひとり逃げてきていた。西に向かい、舟を手に入れ、淡路に向かうべきであるが、みなとで捕まる可能性が高い。どうしたものかと思案しているところ


「恰好から見るに三好三人衆のひとりと想われるでござる。さあ、観念するでござる。我が名は塙直政(ばんなおまさ)でござる。さあ、名乗るが良いでござる!我が槍の錆としてくれるのでござる!」

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