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ー狂喜の章10- 反撃の狼煙(のろし)

「ガハハッ!いくら信玄に手を焼かされてストレスが溜まっていたからと言って、信盛のぶもり殿でストレス発散するのはやめるでもうす。うっぷんを晴らす相手なら、畿内にゴロゴロいるでもうす。なんなら、信盛のぶもり殿ひとりで突っ込ませるでもうす」


「ちょっと待ってくれ!俺、勝家かついえ殿みたいな腕っぷしなんか持ち合わせてないから、一騎駆けはちょっと無理なんだけど?」


「無理も通せば道理が引っ込むッス。信盛のぶもりさまもたまには一騎駆けをやってみるッス。なかなかに爽快な気分ッスよ?」


 利家としいえがそう信盛のぶもりに告げる。信盛のぶもりはうーん?と唸り、たまにはやってみるかあ?と想うのである。


「何を馬鹿げたことを言っているのだ。信盛のぶもり殿が一騎駆けなどできるほどの腕前がないことくらい、殿とのたちは百も承知であろう。まったく、久しぶりに顔を合わせてみれば、いつまでたっても馬鹿は治らないみたいだな」


 そう言うのは河尻秀隆かわじりひでたかである。彼は修行の地であった伊勢の地から召集され、尾張おわり・岐阜・伊勢の兵をまとめ上げ、京の都へのぼってきたのである。


「ああ、河尻かわじりくん、久しぶりですね?修行のほうは上手くいきましたか?見たところ、すっかり髭面になって、野性味たっぷりになっていますねえ?」


殿との。心配をかけてすまなかったのだ。一向宗どもとの戦いで受けた心の傷もすっかり癒えたのだ。これからは河尻秀隆かわじりひでたかバージョン2略して、河尻かわじり2号と名乗らせてもらうのだ」


 河尻かわじりが自信たっぷりにそう告げながら、胸を張る。


「こう自信たっぷりな時ほど、人間、落とし穴があるッスからねえ。信長さま、河尻かわじりさまは後方待機させておいたほうが良いッスよ?」


利家としいえくんもそう思います?てか、それよりも河尻かわじりくんが奥さんと繋がったままで、先生たちの前に現れたんですけど。貞勝さだかつくん、これ、どうにかならなかったのですか?」


「うーむ。どうにかなるなら、とっくにどうにかしているのじゃ。もし、ここで河尻かわじり殿に嫁とのイチャイチャを止めたら、いくさ場で周りの兵士たちの尻の貞操が危険になるのじゃ」


 貞勝さだかつがいかんともしがたいような表情で信長にそう告げるのである。


「どうしたものですかねえ?せっかく、河尻かわじり2号くんを大暴れさせようと想っているのに、河尻かわじりくんの奥さんが危険な眼にあってしまいますからねー?まあ、この際、兵100人くらいのお尻の貞操は無視しても良いと想うんですよ」


「俺、絶対、いくさ中には河尻かわじり殿に近づかないからな?絶対だぞ!」


「我輩も嫌でもうす。河尻かわじり殿の手綱は殿とのが握っていてくれなのでもうす。我輩と信盛のぶもり殿はたまには中陣で働かせてもらうでもうす!」


 信盛のぶもり勝家かついえはお尻の貞操の危機を感じて、河尻かわじりより前に配置されるのを猛然と嫌がることとなる。大きないくさでは先鋒を任せてきた2人であるため、信長はどうしたものかと思案にくれる。そして、ふいに視線を泳がせて、とある人物のほうを見るのである。


「えっ?えっ?信長さま、私に何か用なの、ですか?」


「秀吉くん。三好三人衆の掃討に河尻かわじり2号くんと共に織田家の先鋒を任せたいのですよ。ああ、先生はなんて有能な家臣を持ったのでしょう!これほどまでに頼れる将は織田家うちには居ませんよ!」


「あっ、あの、信長さま。お言葉ですが、私は横山城を長政さまに襲われているので救援を願い出てきたの、ですが」


「あんな小城、長政くんに明け渡してください!それよりも、今、大事なのは、河尻かわじり2号くんとタッグを組んで、三好三人衆を駆逐できる将なのですよ!大局を見誤ることはできないのです!」


 信長がそう秀吉に力説するのである。秀吉はうーーーん、うーーーん、うーーーんと唸り


「本当に横山城を長政さまに明け渡して良いん、ですか?南近江と岐阜への通路を閉鎖されることになり、ますよ?」


「良いんです。良いんです。兵と物資の大半は南近江に集結させてあるのですから。今更、あの地を封鎖しても意味がないんですよ。それに今年中には、浅井家はこの世から消滅していますからね?」


 信長の言いに秀吉が、えっ?えっ?と返事をしてしまう。


「信長さま、秀吉は何も知らされていないッス。いきなり、そんなことを言っても混乱するだけッスよ」


「あれ?利家としいえくん、そうでしたっけ?んんん?先生、なるべく、信玄くんの死を隠すのと同時に、これからの計画のことも、のぶもりもり含む5人くらいにしか言ってませんでしたよ、そう言えば」


「ええええええ?信長さま、信玄が死んだと言うのは本当なの、ですか?私、その話すら聞かされていなかったの、です!」


 秀吉が両眼が飛び出んばかりに驚くのである。


「信長さまの言う通りッス。信玄は4月の半ばには死んでいたッス。それを教えてくれたのが謙信さまッス。やっぱり持つべきは義に厚い文通仲間ッス。俺も信長さまを見習って文通仲間を作るッス!」


 利家としいえの言いに秀吉は利家としいえ殿と親友であるはずなのにと想うのである。


「ん?秀吉、俺の顔に何かついてるッスか?」


「い、いえ。私、利家としいえ殿と親友のはずなので、私を文通相手にしてくれても良いかなと思った、のです」


「うーん。秀吉と文通ッスか?秀吉って文字を書けたんッスか?」


「し、失礼ですね!私だって、ひらがなくらいならすらすらと書け、ますよ。漢字は未だに少し苦手、ですが」


「じゃあ、問題ないッス。秀吉、これからは親友だけじゃなくて文通仲間にもなるッス。俺は松に関する愚痴を書くから、秀吉もねねさんに対しての愚痴を書くッス」


 そんなことを書状にして残して良いのかなあ?と想う秀吉であるが、文通仲間ができるのは秀吉にとっても嬉しいことであるので、深くは考えなかったのである。このことが後々の彼の人生に大きな荒波をもたらすとは、この時点は想ってもみなかったのである。


「さて、利家としいえと秀吉が親友から文通仲間に格上げになって、さらに未来ではお尻合いになるのが確定したところで、殿との、大坂への出陣に関しては、河尻かわじり殿、秀吉が先鋒で良いのか?」


「はい、そうですね。秀吉くんが利家としいえくんにお尻を掘られれば、先生と利家としいえくんと秀吉くんとの愛憎劇が始まります」


 信盛のぶもりが、そこじゃねえよ!とするどくツッコミを入れる。


「やだなあ。のぶもりもりのボケにさらに上乗せしてボケただけですよ。では、真面目な話ですが、河尻かわじり2号くんに5000、秀吉くんに3000で先鋒を任せましょう。中陣に勝家かついえくん8000、のぶもりもり8000。そして補佐として光秀くんに3000で行きましょうか」


「えええええ?俺、今回は先鋒で戦えないんッスか?せっかく、三好三人衆のひとりくらい首級くびを取ってやりたかったのにッス」


河尻かわじり2号くんを先鋒に回すのですから、代わりに本陣の護衛をする将が必要です。利家としいえくんの相方の佐々(さっさ)くんは、まだ岐阜の鳥峰城で武田家の侵攻がないか見てもらわないといけませんし。まあ、三好三人衆との決着がつく頃には佐々(さっさ)くんを京の都へ呼び戻すのでそれまで辛抱してくださいね?」


 利家(としいえ)は信長の提案に渋々ながら、うっす、わかったっすと了承する。


「うーん。なんか忘れていることがあるような気がするんだけど、なんだったっけ?」


「ガハハッ!忘れていることでもうす。どうせ、たいしたことではないでもうす。そんなに気にする必要はないでもうすよ?」


 信盛(のぶもり)の疑問を勝家(かついえ)が笑い飛ばすのである。


「さて、6月中には三好三人衆をなで斬りにしましょう。今度こそ、逃さないように、最初は押されている振りをして、機が熟した時に、一気に彼らを捕らえましょう」


 信長はそう言い、軍議を締めくくる。村井貞勝(むらいさだかつ)に二条の城の包囲を任せ、総勢3万の軍で大坂は摂津の地へと向かうのである。




「なむあみだぶつ、なむあみだぶつ!」


「ううむ。どうやら私の命運もここ摂津の地で尽き果てると言うことでござるか。京の都では義昭(よしあき)さまが信長さまに蜂起したのでござる。信長殿も信玄めの猛攻に晒されて、こちらには援軍を送り届けてくれるわけがないのでござる。皆、すまないでござる」


 そう嘆くのは摂津の地の守備を任せられていた細川藤孝ほそかわふじたかであった。彼は5000の兵と共に、昨年の10月から三好三人衆、それと一向宗どもと散々、槍を合わせてきた。


 昨年の10月は信玄が2万4千の兵を率いて、三河まで侵攻してきた。そのせいで、織田家は東の守りを最重要課題とせねばならなくなり、藤孝ふじたかは京の都より西の摂津の地で半年以上も孤軍奮闘してきたのである。


 しかし、将軍・足利義昭あしかがよしあきの蜂起により、三好三人衆と一向宗どもの勢いは日に日に増していき、藤孝ふじたかは摂津にある勝竜寺しょうりゅうじ城まで追い込まれたのである。


「光秀殿。すまないのでござる。この城は息子の忠興ただおきと光秀殿のたまちゃんとの結婚式に使いたいと想っていたでござるが、血で汚してしまうことになるでござる。できれば、2人の結婚式は別の場所を探してほしいのでござる」


 藤孝ふじたかが肩を落とし、力なくそう呟くのである。


「ふひっ。さすがは藤孝ふじたか殿なのでございます。こんなきれいな城は織田領を探しても見当たらないのでございます。ぜひ、うちのたまにはこの城で結婚式をさせたいでございますね?」


 藤孝ふじたかは突然、聞こえてきた声のするほうへ振り向く。そこには、声の主である光秀殿だけではなく、織田家の勇将たちが勢ぞろいしていたのであった。

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