ー狂喜の章 2- 一難去って、また一難
「あああああ!いっそ、伊賀の里に火をつけたい気分になってきました。貞勝くん、薪を大量に用意してください。ちょっと、伊勢路の掃除としゃれこみましょうよ?」
「だから、織田家にはそんな余裕はないと言っているのじゃ。ひとの話を少しは聞くのじゃ。忍者衆については一旦、保留にしておいて、これからどうするのかを決めるべきなのじゃ」
貞勝の諫言に信長がつまらなそうな顔をする。
「はいはい、わかりましたよ。では、まず、九鬼くんの相談から聞きましょうか?大体、予想はついているのですけど、どうせ、長島の件ですよね?」
「そうだオニ。まさに信長さまの言う通り、長島の件なんだオニ。降伏勧告をおこなっているんだオニけど、彼らは一向に耳を貸す気はないみたいなんだオニ。しかも、長島の周りに砦を建築しはじめているんだオニ。徹底抗戦の構えなんだオニ」
九鬼はさぞ困ったと言う顔つきで信長にそう言うのであった。信長もまた、ふうううと長いため息をつき
「そうですかあ。長島一向軍団は徹底抗戦の構えですかあ。よっし、焼きましょう。全てを焼きましょう。貞勝くん、薪を大量に用意してください。ちょっと、長島の掃除としゃれこみましょうよ?」
「だから、織田家にはそんな余裕はないと言っているのじゃ。信玄の死が本当かどうかをまず確かめるのが先決なのじゃ。そうしなければ、各地に散らばる将たちを集結させるのもままならないのじゃ」
貞勝の諫言に再び信長がつまらなそうな顔をする。
「はあああ。せっかく比叡山以来の大花火大会が開催できると想っていたのに残念この上ないですよ」
「あと、信長さまに伝えておかなければならないことがあるんだオニ。長島が徹底抗戦に入ったことで、周りの町の民たちの協力も得られないことになってしまったんだオニ。そのせいで、大軍を送るための舟を満足に手に入れられていない状態なんだオニ」
「えええええ?それはどういうことですか?長島の地は木曽川とその支流に囲まれて、まさに自然の要塞なんですよ?舟が手に入らないんじゃ、そもそもとして、長島で行う大花火大会が決行できないじゃないですか!」
「すまないんだオニ。昔の伝手を頼りに舟を回してもらえるように頼んではいるんだオニ。でも、中々にして協力を得られないんだオニ」
九鬼がさぞ申し訳ないと言った体でそう信長に告げるのである。信長は、はあああと深いため息をつく。
「わかりました。では、舟の件がどうにかならない以上は、長島の件は一旦、保留にしておきます。あんなところに敵勢力を残しておくのは嫌なんですけどねえ?九鬼くん。長島から反攻を喰らわないように重々、注意してください。今はそれでなんとかしのぎましょう」
「わかったんだオニ。もっと叱責されると覚悟していたんだオニ。信長さまの寛大なるご配慮に感謝感激なんだオニ」
「どうしようもない以上、九鬼くんに当たったところでそれこそ、どうしようもないですからね。では、九鬼くん。伊勢に帰るついでで悪いんですが、岐阜周りで勝家くん、信盛くん、それに光秀くんを京の都へ来るように伝えておいてくれまえせんか?一益くんと佐々くんはそのまま、岩村城の西、鳥峰城で防衛線を張り続けるようにと伝えておいてください」
「わかったんだオニ!信長さまからの言付け、確かに伝えてくるんだオニ!」
「あっ、それと、尾張につきましたら、国庫から米1万俵と、金1000を浜松城に居る、家康くんに送る手筈を整えておいてくれませんか?家康くんにはこのたびの信玄くんの西上に関して、頑張ってもらいましたし、感謝の念を表明せねばなりません。特に野田城の兵士たちには感謝をしてもしきれませんよ」
「まったくなのじゃ。信玄が生きていようが死んでいようが、武田軍の勢いを止めたのは実質、野田城を守った彼らなのじゃ。彼らには頭が上がらない想いなのじゃ」
「わかったんだオニ!尾張の国庫を空にするくらい、家康さまに贈ればいいんだオニね?」
「ちょ、ちょっと待ってください?米1万俵と、金1000ですからね?」
「そんな、照れ隠しをしなくても良いんだオニ。信長さまは尾張の国庫を空にするほど、家康さまに感謝をしているんだオニよね?米2万俵と、金2000をかき集めて、家康さまに贈っておくんだオニ!」
九鬼はそう言うと、信長の前から下がっていく。信長は、はあああと深いため息をつき
「まあ、それくらいの活躍を家康くんと言うより、野田城を守っていた三河兵がしてくれましたから、良いんですけど。ちょっと、九鬼くん、人情家すぎるところがありますよね?長島の件だって、舟を出さない町民をちょっと火あぶりにするくらい、考え付かないんでしょうか?」
「そう言ってやるななのじゃ。どっちにしろ、長島攻めを急いたところで、畿内の敵が減ると言うわけではないのじゃ。優先すべきは、畿内の掃除なのじゃ。そうであろう?殿」
「そうですね。では、まずは勝家くん、信盛くん、それに光秀くんが京の都へ戻ってくるのを待ちましょうか。それまで、謙信くんから与えられた、信玄くんの死んだと言う情報が本当かどうか確認することにしましょう」
信長と貞勝はお互いに、首を縦に振る。
それからさらに2週間後、京の都の信長たちが政務を行っている屋敷に勝家、信盛、それに光秀が到着することになる。
「ガハハッ!まさか、生きて再び殿に会えるとは思ってもいなかったのでもうす。岐阜城の防衛の引継ぎに多少、時間がかかってしまったのでもうす。殿の息子の信忠さまに喝を入れていたら、すっかり遅くなってしまったのでもうす!」
「勝家殿、あれはやりすぎだって。いくら、信忠さまが信玄の娘の松ちゃんと毎日、イチャイチャしていたからと言って、筋肉120パーセント解放でもうす!と言い出して、屋敷の大黒柱をぶん殴っちゃダメだろ?屋敷が半壊してたじゃないか、あれ。どうすんのよ?」
「ふひっ。織田家の一大事に女子とイチャイチャしているのが悪いのでございます。僕は嫁のひろ子と最近、ごぶさたなのでございます。いくら信長さまの息子と言えども、その息子ともどもへし折ってやればいいのでございます」
「ガハハッ!光秀の言う通りでもうす。いやあ、我輩もまだまだでもうすな。屋敷が半壊程度だったでもうす。次やるときは全壊させてやるでもうす!」
「ちょっと?すっごく不穏なことを、きみたち言ってませんか?信忠くんの屋敷ってことは、先生の屋敷ですよね?勝家くん?先生の屋敷を半壊させるのはどうかと想うんですけど?」
「知らんでもうす。つい、信忠さまの屋敷だとばかり想っていたでもうす。でも、大丈夫でもうす。殿の寝室は破壊せぬように配慮しておいたでもうす!」
「ああ、それなら安心ですね。って、ダメでしょ!岐阜の大屋敷の修繕には信忠くんと勝家くんの給料から差っ引かせてもらいますからね!」
「ふひっ。どうせなら、きれいに全部潰してしまったほうが良かったのではございませんか?勝家さま。中途半端に半壊しているほうが、修繕費は高くつくのでございます」
「おお、さすがは光秀は知恵が回るでもうすな。よっし、今度、やるときは全壊させてみせるでもうす。殿、よろしいでもうすか?」
勝家の言いに信長が眉間に青筋を立てて、ピクピクと小刻みに震えるのである。あっ、やばいと思った3人は、ぴゅーーー!と言う音ともに逃げ出す。
信長との鬼ごっこから1時間後、たんこぶをひとつずつ仲良く作られ、結局、3人は部屋に戻ってくることになる。
「なんで、俺まで殴られる必要があるわけ?岐阜城の屋敷を壊したのは勝家殿だし、煽ったのは光秀だろお?」
「のぶもりもり、もう1発、喰らいます?今度は本気でいきますから、全治2週間と行ったところになると思いますけど?」
信盛はひいいい!と悲鳴をあげて、口を閉じることになる。
「さて、そろそろ本題に入りますかね。皆さんには教えていませんでしたけど、ここに呼んだのは理由があるからです。絶対に今から話すことは誰にも言ってはいけませんよ?」
「ん?どういうこと?俺たちを呼んだ理由ってのは、武田軍が一旦、本国の甲斐に戻ったから、次の侵攻に向けて対策を練るものだと想っているんだけど?」
信長の言いに信盛たちがなんだなんだとばかりに食い入るように信長の次の言葉を待つことになる。
「絶対に、他言無用ですよ?信玄くんがお亡くなりになりました!」
えええええええええええええええ!と3人は眼の玉を引ん剥き、まるで信じられないと言った顔つきになる。
「ど、ど、どどどどど、どういうことでもうすか?信玄めが亡くなったと言うのは本当なのでもうすか?では、我輩らは、武田家からの侵攻に怯えて、夜、布団の中でガタガタ震えなくていいでもうすか?」
「ええ、そうですよ。勝家くん。ってか、勝家くんでも夜、布団の中でガタガタ震えることもあるんですね。そっちのほうがよっぽどびっくりですよ?」
「そんなこと言われても仕方ないでもうす。あの家康殿が完膚なきまで、ふるぼっこにされたのでもうすぞ?それを聞かされて、信玄を恐れぬ者などいないでもうす。いくら我輩の筋肉120パーセント解放でも、道連れにできるのは1000騎程度でもうす!」
「武田の騎馬軍団のうち、1000騎も道連れにできたら、別に僕たち、岐阜城に立て籠もる計画を立てなくても良かった気がするのですが、考えすぎなのでございますかね?」
「うーん。どうだろうなあ?聞いた話では、家康殿は純粋な騎馬兵のみで構成された軍団で、その内の300騎だけの活躍で徳川軍が崩壊して敗走になったんだぜ?いくら、勝家殿でもその騎馬軍団相手だと、1000騎も道連れにできない気がするぞ?」
「うーむ。見栄を張ってしまったのでもうす。では、控え目に言って、100騎と道連れにできると言い直すのでもうす」