ー巨星の章17- 武田24将
悔し涙を流して力説する服部にこれは困ったぞ?と言う顔つきになる信盛と勝家である。
「ま、まあ?今回ばかりは相手が悪かったと想って、諦めてくれよ?それに【小鬼の半蔵】なんて、主君の家康殿が困るだろ?今まで通り、【鬼の半蔵】で貫いてくれよ?な?」
「うううっ。かたじけないでござる。拙者、かようなまでに男に優しい言葉を言われたのは産まれて初めてでござる。信盛殿。自分、主君変えをするでござる!信盛殿をこれから、自分の主君として奉るでござる!」
「いや、だから、そう言うのはやめてくれって話だろ?織田家の者が徳川家の家臣を引き抜いたことになったら、とんでもない大問題に発展するだろうが!」
「ふっ。それもそうでござるな。では、今の主君、家康さまが亡くなった後には、自分、佐久間家専門の忍者になるでござる。それなら、問題ないでござる」
服部の言いに、うーんと唸る信盛である。
「まあ、とにかく、家康殿を第一に考えてくれ。でさあ、話は変わるんだけど、武田軍が野田城からかれこれ、1週間、動いてないんだけど、半蔵殿率いる忍者軍団では何か情報を掴んでないか?」
信盛はそう服部に尋ねるのである。
「ふっ。そんなこと、簡単にわかれば世話はないのでござる。自分、一益殿の忍者部隊と共に自分の忍者部隊と連携を取っているでござるが、詳しい内情は全くもってわからないでござる」
「それは誠でもうすか?一益と、服部殿の2人の力を合わせても、情報を掴めないでもうすか。これは本当に伝説の忍者・飛び加藤が暗躍していると言っても過言ではないでもうすな」
勝家がうむむと唸る。だがしかしと半蔵が続ける。
「伝説の忍者・飛び加藤が出張らなければならないほどの事態が武田軍に起こっているという逆説にもなるのでござる。よっぽど他者には知られたくない重要な秘密が隠されているのでござる」
「ああ、そうか。そうだよな。それほどの厳戒態勢なんだ。半蔵殿の言う通りだぜ!こりゃあ、信玄に何かあったに違いないぜ!で?何があったわけ?」
信盛の問いかけに、半蔵は、ずこっとこけそうになる。
「だから、それが簡単にわかったら世話がないと言っているでござる!信盛殿は、ひとの話を聞かないタイプでござるか?」
「いやあ。そんなこと言われても、不確かな情報で軍なんか動かしたら、俺、殿に首級をはねられちまうじゃん?わかる範囲で良いから、なんでも情報が欲しいわけよ」
「いっそのこと、信盛殿が女装をして武田軍に潜入するのはどうでもうすか?ほら、あの曲直瀬殿の薬があったでもうすな?男が飲むと1時間だけ黒髪ロングの美少女の顔になれる奴でもうす」
「うーん、残念ながら、その薬は一益に手持ちの分は全部、渡しちまったんだよなあ。ああ、こういう事態になるなら、1粒、残しておけば良かったぜ!」
後悔、先に立たず。顔だけ可愛い女の子に変わる薬は、すでに一益が嫁の香とのイチャイチャで全て使い切ってしまっていたのである。ちなみに一益談では「最高に楽しめた夜だったっす。信盛殿っち、本当に感謝するっす!えっ?全部、使ったっすよ?当然じゃないっすか!」であった。
「ガハハッ!一益は、お盛んでもうすなあ。さて、万策尽きたことでもうすし、我輩は夕飯でも喰って寝るでもうす。明日も鳥峰城へ物資を運ばねばならないでもうす。今日は疲れた故、ゆっくり休むでもうす」
「おいおい。そんな、殿みたいなこと言わなくてもいいだろ?まあ、俺も一益頼りだし、やることないなあ。家に帰って、小春とエレナ相手にイチャイチャしてこようかなあ?」
こいつら、本当に大丈夫でござるか?と疑問に思う服部であったが、織田家ルールなのだろうとツッコまずにいるのであった。
「ハハハッ!筋肉が徳本を飲みこんでいくのデス!アア!身体が喜びに満ち溢れていくのです。これぞ筋肉美!」
「さて。殿が胃がんが進行していたと言うのに、異様に元気だった原因はわかったでござる。問題は拙者らは、これからどうするかでござる」
「あ、あのー、馬場さま。永田殿を放っておいていいんでございますか?このままだと、永田殿が筋肉に侵蝕されて、自我を保てなくなりそうな気がするのでございます」
「高坂、いいのでごじゃる。永田殿からは知りたい情報は全て手に入れたでごじゃる。永田殿が自我を保てなくなれば、金塊を渡す必要もなくなるのでごじゃる。だから、あのままで良いのでごじゃる」
「内藤殿の言う通りで候。【医は算術】だと、医者の風上にも置けぬ奴で候。このまま、筋肉の塊になってしまえば良いので候」
山県がそうきっぱりと断ずるのである。
「オウ!金塊。金塊が欲しいのデス。鎮まれ、我が筋肉!このままでは金塊をもらえる約束を破られてしまうのデス!」
永田はその辺にあった瓶から大量の水を飲む。しかし、その瞬間、ぶふううう!と吹き出すのである。
「げほっごほっ!ぺっぺっぺっぺ!なんなのデスカ!なんで、瓶の水がウンコのような味がするのデスカ!」
「それは、野田城の周辺の村で井戸から水を汲んだところ、村の奴らがその井戸にウンコを投げ込んでいたようでござる。しかし、だからと言って、飲み水は貴重なのでござる。最後の最後の手段として、念のため、その水をそこの瓶の中に入れていたのでござる」
「解説ありがとうなのデス。って、そうじゃないのデス!ウンコが混じった井戸の水を飲んだら病気になってしまうのデス。馬場殿たちは馬鹿か何かデスカ?」
「あれれー?僕、想ったんですけど、武田家の下級兵士たちって、戦で怪我をしたら、馬の糞を傷口に塗りたくっているのでございますよね?僕、てっきり、馬の糞は無料で手に入る傷薬だと想っていたのでございますよ?」
「人間のウンコは毒なのデス!馬の糞は無料で手に入る傷薬なのデス!そんなこともわからないから、信玄さまの胃がんが進行していたことに気付かないのデス!」
「あれ?ということは、ぼくちんたち、わざわざ金を払って、永田殿から高い傷薬を買わなくてもいいじゃないでごじゃる?武田家は大量の馬を養っているのでごじゃる。なんで、無料で傷薬が手にはいるのに、ぼくちんたちは金を無駄に使っているのでごじゃる?」
「内藤殿、すごいことに気付いたで候。さすがは武田四天王の一角で候。これは四天王のリーダーを馬場殿から内藤殿に変えたほうが良いので候!」
「山県さまー?さらに疑問が湧いたのですが、武田家って、武田24将って言われるときもあるのでございますよね?まあ、すでにあの世に逝っている、信繁さまとか山本勘助殿たちなどを除けば、実際には24将じゃないのでございますけど。それは置いといて、その武田24将の場合は誰がリーダーになるのでございます?」
「ふむ。そう言えば、誰がリーダーになるので候な?将と言うからには殿はその24将の範疇に入っているかがまずは問題で候。元武田四天王リーダーの馬場殿は何か知っているか?で候」
元リーダー。なにやら不敬罪として、そのよくしゃべる口を針と糸で縫い合わせてやろうかとさえ思う、馬場である。馬場は一度、ごほんっと咳をし
「そもそも、四天王としてひとまとめにされるだけでも嫌でござるのに、24将とまとめられているのでござるか。一体、誰が言い出したのでござる?」
「それは、山本勘助の息子が武田家の軍学書を作ると息巻いているのでごじゃる。で、武田四天王では宣伝力が足りないと言い出したので、とりあえず、武田家の有名どころを全部入れてみたらどうでごじゃると、助言をしておいたのでごじゃる」
犯人は山本勘助の息子と内藤殿か!と内藤に激しくツッコミを入れたい衝動に駆られる馬場であるが、なんとか言葉を腹の中に飲みこむことにする。
「じゃあ、発案者である内藤殿に聞くので候。武田24将のリーダーは一体、誰で候?そして、殿はどのような扱いになっているので候?」
山県がそう内藤に質問をする。
「殿はその24将からは除外されていたはずでごじゃる。それと、リーダーについては実は決まっていないのでごじゃる。何故かと言うと、甘利虎泰さまと板垣信方さまも含まれているでごじゃるから」
「おお、あのお2人でござるか。信濃攻めの折に亡くなってから随分立つでござるが、あの2人の武勇と知略に未だ追いついたと言う自信はないでござる。いくら故人をリーダーに据えるのはどうか思うでござるが、あの2人を差し置いて、拙者がリーダーだとは、言えないものでござるなあ」
馬場がうんうんとうなずく。それほどまでに、馬場たちにとって、甘利虎泰さまと板垣信方さまは、先代・武田信虎の統治の時代からの名将であったのだ。
「さらに、別の問題が出てきたのでごじゃる。殿の嫡男の勝頼さまを24将に入れるかどうかなのでごじゃる。殿の弟である信繁さまが入っている以上、勝頼さまの扱いをどうするかで異論が噴出しているのでごじゃる」
「うーん。信玄さまが死ねば、次の世代では勝頼さまが武田家を継ぐんでございますからね。信繁さまは信玄さまの忠臣として扱われることが多いですし、ご自身も忠臣であろうとしてきたと聞いているのでございます。信繁さまの場合なら問題ないのでございますよねえ?」
「まあ、勝頼さまは殿の後釜として扱えばいいのではと想うので候。殿が亡くなったあとには新武田24将を結成すればいいので候」
山県の言いにうんうんとうなづく、馬場、内藤、高坂である。
「しかし、いざ武田24将と売りに出そうとしていた時に、よもや、殿がこのような事態になるとは思っていなかったのでごじゃる。上洛を果たした暁には皆で集まって、有名な絵師にでも、ぼくちんたちの勇士を描いてほしいところだったのでごじゃる」
「本当に残念な話なのでございます。とりあえず、信玄さまと甘利虎泰さまと板垣信方さまは足を消して描かかれることになりそうなのでございます。口惜しいばかりなのでございます」




