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ー大誤算の章 6- 金ヶ崎の撤退 その6

「ふひっ。少々、火薬の量が多すぎたのでございます。まさか、城が木っ端みじんに吹き飛ぶとは思わなかったのでございます」


「あ、あの。半兵衛殿。いくら、こちらに敵の視線を釘づけにするためとは言え、やりすぎなんじゃない、でしょうか?」


「んっんー。正直、言いますと私もここまでの大爆発が起きるとは思っていませんでした。奪われるくらいなら、全部、燃やしてしまえと思い、残っていた火薬すべてを壺に詰めてみたら、こんなことになるとは」


「危うく、僕たちの命まで一緒に吹き飛ぶところだったのでございます。火の取り扱いには充分に気をつけないといけないとわかったのでございます」


 小壺に火薬を詰め込み、焼夷手りゅう弾として用いていたのだから、それを大きな壺に入れて火をつけたら、もっとすごいことになるのではないかという、竹中の発想の元、試してみたら、城が吹き飛んだのだ。


 元々、火をつけて、その隙に城から退散しようとしたものの、まさかの大参事である。竹中にもこの爆発は計算外だったのだ。


 大爆発ですすけた顔の秀吉、光秀、竹中の3人は、互いの真っ黒な顔を見つめ合い、思わず、笑いが込み上がってくるのを抑えきれない。


「ふひっ。僕らがびっくりするくらいですから、敵はもっともっとびっくりしていることでしょう。さあ、この隙に次の砦に向かいましょうなのでございます」


「は、はい!まだまだいくさは続きます、からね。織田家うちの本隊に近づけば怪我をすると言うことをわからせてやり、ましょう」


「んっんー。こちらの誘導に乗ってくれるよう、弓や鉄砲を撃ちながら後退しましょう。大勢の軍と言うものは、小勢の軍を襲いたがるものです。くみしやすいと見るや、必ず、こちらに向かってくるでしょうね」


 金ヶ崎城で籠城をしていた秀吉、光秀1500の軍は、崩壊した城を後にし、先に進発させていた工作隊が築きあげているであろう砦に向けて進軍を開始しするのであった。


 長政は、城から飛び出てきた織田の兵を見るやいなや、全軍に討伐の指示を出す。


「あやつらは織田軍の殿しんがりの兵なのだぞ。織田軍本隊への道しるべとなるのだぞ。後を追うのだぞ!」


 織田軍本隊の逃走経路がはっきりとはしない長政であったため、殿しんがりの兵と言うものは本隊の尻を守るものとの常識にのっとり、秀吉、光秀の1500の兵を追うことにする。


「んっんー。普通は、殿しんがりの向こうに本隊が居ると思ってしまうのは人間の悲しい性質たちですね。ですが、私たちが進む先は、確かに織田軍本隊ですが、同時に、私たちには都合が良い経路です。まんまと誘いに乗ってくれて、策士冥利に尽きると言ったところですね」


 しかし、浅井から見れば、これはすでに勝ちいくさなのである。負けて逃げる相手を追うだけの簡単ないくさだ。そのため、浅井の兵たちの士気は異様に高い。


 その浅井の1万の軍相手に、1500で時間稼ぎをしなければならないのだ。並々ならぬ胆力が必要となるのである。


「ふひっ。凄い勢いで迫ってくるのでございます。僕らなど、一瞬で喰いちぎられそうなのでございます」


「砦が見えてき、ました。あそこで敵を迎え討ちま、しょう!もう少しです。皆さん、頑張ってくだ、さい」


 弓や鉄砲で向かってくる浅井の軍を威嚇しつつ、秀吉・光秀の軍はじりじりと後退をしていく。浅井の方はいくら1万を所持する軍と言えども、勝ちいくさなのである。無駄に怪我をしたくないというのが浅井の兵たちの本音である。


 距離を詰めようと思うものの、弓や鉄砲は当たり所が悪ければ、怪我どころか、絶命してしまう危険性が高い。浅井の軍も進軍速度を落とされ、じりじりとしか接近できないのであった。


「おーい、ひでよしさま。やっとご到着かよ。待ちくたびれたぜ」


 そう言うは、第1砦の建設を任された、飯村彦助いいむらひこすけであった。竹中は事前に逃走経路にいくつかの砦を造らせるため、500の兵を100づつに分け、先発させていたのだった。


 先発隊の彦助ひこすけたちは各地に簡素な砦を造り、同時に秀吉・光秀隊の補給基地となるよう、整備を行っていたのだ。


 矢や、鉄砲の弾と火薬も尽きかけた時、ちょうどいい距離に砦を配置させていた竹中である。秀吉・光秀隊は砦に入り、軍事物資の補給をする。もちろん、兵糧も少しばかりか運びこまれており、簡単ながら、メシにありつくのであった。


「しっかし、すごい量の敵を引き付けてきたもんだなあ。あれを相手にこれから、いくさってわけかあ。俺、生きて京に帰れるのかなあ?」


彦助ひこすけ殿。最初に言いましたように、私たちはここで死ぬわけにはいきま、せん!ここで私たちが倒れれば、織田軍本隊の危機になり、ます。死なぬよう、死力を尽くして、ここの砦を放棄、します」


「んっんー。大いなる矛盾ですね!矛盾、大好きです。大好物です。約2万を相手に、2000で死地を生き延びれとは、矛盾以外ないのですよ」


「ふひっ。竹中殿は心底、楽しそうなのでございます。その豪胆さを僕にも少しわけてほしいのでございます」


勝家かついえさまと相撲をまともにとるような光秀さまに分けれるような豪胆さなど、私は持ち合わせていませんよ。前年の相撲大会の後でも、幾度かやりあっていると聞いていますが?」


「僕が勝家かついえさまから1勝をもぎ取れたのは、あれ以来、実はないのでございます。勝家かついえさまの筋肉は未だに日々、進化しており、今では100パーセントを超えた、120パーセント解放を身につけたのでございます」


「すごい、ですね。勝家かついえさまは。1年余りで、20パーセントも筋肉量を底上げする、なんて。どうやったら、私は勝家かついえさまに追いつけることが出来るの、でしょうか?」


「ふひっ。その秘訣は肉とぷろてぃんと訓練でございますね。香奈さまに内緒で遊女との【ふたりでおこなう夜の柔軟運動byザビエル】で鍛えあげているのでございます」


 勝家(かついえ)は、足利義昭(あしかがよしあき)の将軍就任の祝いの時に開かれた相撲大会で、光秀に敗れて以降、訓練の密度を上げていた。ただの筋肉訓練では飽き足らず、夜の柔軟運動にも精を出していたのだった。


 勝家(かついえ)の奥方、香奈は夫が遊郭に出入りしていることはとうに知っており、夫が強くなるためなら致し方なしと思い、見て見ぬふりを決め込むことにしているのだった。


勝家(かついえ)さまは、一晩に2人の遊女といちゃいちゃしているのでございます。今まで抑えられてきた性欲が爆発しているのでございます」


「一晩に2人も相手をするなんて、勝家(かついえ)さまはすごいの、です!私は毎日でもできますが、さすがに一晩に2人は無理、です」


「んっんー。遊女じゃなくて、(めかけ)を作ればいいと思うのは私だけなんでしょうかね?」


勝家(かついえ)さまは愛妻家です、からね。(めかけ)を作っては、香奈さんが悲しまれると思っているのではないで、しょうか?」


「そんなものでございますかね?まあ、僕は妻のひろ子に一途なので、遊女といえども、いちゃいちゃする気はないのでございます」


「しかし、力を手に入れるために貪欲なのは、いいことではありますよ?光秀さまも、勝家(かついえ)さまに追いつくためにも(めかけ)を作ってはいかがですか?」


「ひろ子は嫉妬深いのでございます。浮気をしないようにと、墨で僕のいちもつを真っ黒にするのでございます。ですから、他の女といちゃいちゃすれば、一発でばれてしまうのです」


 光秀殿は大変だなあと秀吉は思う。自分は、ねねに好きにさせてもらっているが、本心ではどう思っているのだろう?仕事のためとは言え、将軍さま近辺を接待で遊郭に誘っている身だ。もしかしたら、はらわた煮えくりかえっているのかもしれない。今度、いい反物を送って置こうと思うのであった。


「さて、そろそろ休憩時間は終わりです。浅井・朝倉が合流し、陣容を整え終わったようですね。さて、第2死合い開始と言ったところでしょうかね」


 竹中はそう言うと、今まで軽口を叩きあった仲間たちの顔が引き締まっていく。弓、鉄砲、槍、木杭を手にし、浅井・朝倉の猛攻に対して、やる気を見せる。


 4月29日 午後4時。秀吉・光秀の殿(しんがり)としての任務はまだまだ始まったばかりなのであった。




 一方、信長一行は、朽木くつき峠を目指し、馬に乗り、山道をひた走っていた。時折、山賊が襲ってきたが、小勢であり撃退に手こずることはなく、斬り捨てて突き進んでいく。


 時刻は午後5時を過ぎ、そろそろ、日が沈みかかっていた。日が沈めば進軍は困難となり、山中で野宿しなければならなくなる。松永久秀まつながひさひでが言う、朽木くつき峠の知り合いというやらのところで安全に1泊したいつもりである。


「久秀くん。きみの知り合いと言うのは信頼できる相手なのですか?先生たちの命を握っているのは、その人と言って過言ではないですよね?」


「ふははっ。さあ、向こうは、わしゃのことを覚えていてくれれば良いでござるがなあ。なあに、出たとこ勝負でござるよ」


 馬上で言葉を交わし合う、信長と久秀である。そこに割り入るように信盛のぶもりが言う。


「おい、久秀。殿とのに何かあったら、俺はお前を許さないからな!お前が、朽木くつき峠を通れと進言したんだ。責任は、お前の命で賄ってもらうからな」


 信盛のぶもりは久秀を、きっとした目つきで睨みつける。しかし、久秀は、禿げ上がった頭を撫でながら


「ふははっ。信長さまの命が取られるような状況となれば、わしゃらも同じく、死んでいるに決まっているのでござる。心配せずとも、わしゃに任せておいてくだされでござる。さて、件の峠も見えてきたのでござる」


 そう久秀が言うと同時に、山あいの峠に信長一行がさしかかろうとしていた。峠の手前に砦が見え、その中には屋敷もあることが確認できる。


「久秀くんの知り合いって言うのは、ここらを支配する豪族だったのですか?」


「ふははっ、さて、砦の主に挨拶に行くとするでござる。信長さまが来たとしれば、感動のあまりに涙ちょちょぎれて出迎えてくれるでござるよ」


 信長、信盛のぶもりいぶかし気な目つきで久秀を見るが、彼自身は何、気にするかと下馬し、砦の中へと信長たちを誘うのであった。

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