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ー進撃の章 15- 伊勢攻略 結末

 具房ともふさは、このたび、信長に盾突いたことに対しての侘びとして、賠償金を払うことや、兵や家臣たちの安寧を願い出る。その代り、具教とものり具房ともふさ首級くびを渡すことを伝える。


 信長はそれを聞き


「さきほども言いましたが、首級くびは要りません。ですが、代わりと言ってはなんですが、この名門・北畠家をもらえませんでしょうか?」


 信長の言を聞き、具房ともふさは、よくわからないっと言った感じである。


「北畠家が欲しいと言うのですか?果たして、それはどのようなことでしょうかじゃ?」


「簡単な話ですよ。具教とものりくんの養子として、先生の次男、信雄のぶかつをもらい受けてくれませんか?」


「なるほどなのじゃ。将来、北畠家の当主として、迎え入れろと言うことなのですかじゃ?」


「はい、そう言うことです。名門と名高い、北畠家の存続にもつながりますし、織田家うちとしても、家格が上がりますので、どちらにとっても悪い話ではないはずですよ」


「名門・北畠家が潰れるどころか、格下の織田家の傘下になれと言うのか!末代までの恥とはこのこと。いっそ、わしの首級くびを取れ」


 具教とものりはすまきにされながらも、歯をぎりぎりと噛みしめ、悔し涙を流す。


「あなたたちの代でその名門が潰れるよりかは、随分、ましだと思うのですがね。先生の息子が、あなたたちの代わりに存続させると言うのです。名門・北畠家は後世まで名を残すことになって、良かったじゃないですか」


「無念だ。無念である」


「言っておきますが、信雄のぶかつを大事に扱ってくださいね?そうしないと、北畠家は吹き飛ぶことになりますからね」


信雄のぶかつ殿の扱いは、こちらに任せてほしいのじゃ。くれぐれも粗相のないようにするのじゃ」


「それと言っておきますけど、余り、甘やかすのも止めてくださいね?こういってはなんですけど、出来の悪い息子なので、乱暴狼藉を働くように育てられては、こちらもたまったもんじゃないんで。何かありましたら、逐一、報告をお願いします。万が一と言うこともありますから」


「扱いが難しいお方なのじゃな。こちらとしても、家臣や民に類が及ばぬように、信雄のぶかつ殿の教育に努めさせてもらいます」


「ほとほと、こちらとしても、なぜ、あんな馬鹿に産まれたのかわからないくらいですからねえ。まあ、扱いは難しいかも知れませんが、よろしくお願いしますね?」


 ははぁと、深々と具房ともふさとその重臣たちは頭を下げる。


「さて、重要な話も決まりましたし、その他の委細について、話をしましょうか」


 信長はそう言い、具房ともふさやその重臣たちと、話を詰める。


 その結果、具教とものり具房ともふさ親子は助命されることが決定し、北畠の家臣や兵たちも無罪放免になる。


 まあ、行く行くは信長の息子、信雄のぶかつが全てを牛耳るのだ。ここで、北畠の家臣や兵に罰を与えれば、後々の統治に弊害を及ぼすことになることもあり、無罪放免なのである。


 賠償金は、南伊勢は銀山や鉱山もあることで、その所有権を織田家が握ることにより代わりとした。


「さて、伊勢全土も手に入りましたし、尾張おわり、伊勢、近江への経路も確保できました。これで憂いなく、畿内全土および、北陸へ手を伸ばすことができますね」


「ふひっ。僕も、もっともっと活躍したいのでございます。松ヶ島城程度では、ストレス発散にもならなかったのでございます」


「がははっ。それを言うのなら我輩もでもうすよ。殿との、もっと歯ごたえのある相手を選んでくれでもうす」


「まさか、8000程度の兵で城を落とす、きみたちも大概だと思うんですけどね。そんなに神戸氏は歯ごたえのない相手だったのですか?」


「決着をつけようと思えば、1週間ほどで落とせたのでございます。信長さまが神戸氏を存続させるとの意思を尊重したまででございます」


「次男の信雄のぶかつくんに北畠家を継がせる以上、3男の信孝のぶたかくんにも土地を上げないと、不満が出ますからねえ。いくら、織田家の後を継ぐ予定は無いと言えども、何かしらしておかないと、まずいことになりかねませんしね」


「がははっ。信孝のぶたかさまは何かにつけて、信雄のぶかつさまに対抗心を抱いているでもうすしな。親心としては、複雑なのでもうすな」


「産まれの早さとしては、本当は信孝のぶたかくんのほうが、早いんですけど、庶子も庶子ですからねえ。身分的に、信雄のぶかつくんが次男という扱いになっているから、これまた面倒で困りますよ」


「ふひっ。信忠のぶたださまの代になったときは、大変になりそうでございますな。ご兄弟の手綱をしっかりと握っていかないといけないのでございます」


信忠(のぶただ)くんの代までには、ひのもとの国から(いくさ)は無くなっているでしょうかね。次代には平和な世を謳歌してもらいたいものです」


 信長は晴れ渡る空を見上げる。今日は雲一つない、いい天気である。織田家の未来も、この雲ひとつない明るい未来になるのであろうか。そんな思いを胸に抱くのであった。




 所変わって、ここは駿河の地。武田家と今川家の熾烈な戦いが行われていた。今川家は頼りの北条氏康ほうじょううじやすの援軍を待つが、武田家が相模に同時に侵攻することにより、その頼みの綱を切られていた。


「ひいいい。もっと、ありったけの矢を放つのでおじゃる。私はまだ諦めたわけではないのでおじゃる」


 今川氏真いまがわうじざねは武田家の侵攻に必死に耐えていた。いつか来る、叔父の北条氏康ほうじょううじやすの援軍を唯々、信じて耐え忍ぶのであった。


「武田の兵が城壁に張り付きました!」


 氏真うじざねの重臣が彼のいる場所に飛んでくる。


「油じゃ、油を熱して浴びせかけるのでおじゃる!」


 事、ここに至って、さすがは海道一の弓取りと名高かった義元の嫡男だけはあり、随所に的確な指示を飛ばす。なかなか、城内に入れず、攻めあぐねる武田家は、日が落ちたこともあり、一旦、下がることとする。


氏真うじざねさま!敵が退きます。なんとか、今日も生きながらえることができましたな」


「皆の頑張りのおかげなのでおじゃる。氏康うじやす叔父さまは、まだ救援にこれぬでおじゃるかのう」


「相模のほうには、武田信玄めが直々に参戦しているとの噂。氏康うじやすさまと言えども、撃退するのには時間がかかるものかと」


「そうでおじゃるか。我が領土の支城からの援軍は、どうなっておるのでおじゃる?」


「そちらのほうとの連絡は途絶えて久しく、最悪の場合は、武田家への寝返りも考えられるかと」


 重臣は、申し訳なさそうな顔つきになる。


「よいのでおじゃる。今川家を裏切るは、私の今までの行いが呼んだものでおじゃる。彼らに罪はないのでおじゃる。戦国の世に半ば隠棲を決め込んだ、私の失態なのでおじゃる」


「しかし、氏真うじざねさま。今まで、今川家のろくをもらいながら、その恩を仇で返すことは不義理でございます。主君と共に枕を並べて死ぬことこそ、まことの忠でございます!」


「家康殿が今川家から独立したときから、私の運命は決まっていたのかもしれないでおじゃるな。できるならば、友達であった、家康殿には今川家に残ってほしかったのでおじゃる」


 徳川家康は今川義元が桶狭間の戦いで死したのち、独立の機運を高めていた。だが、何者かの諫言により、氏真うじざねは、家康を敵対視したのである。


 それが決定的なきっかけとなり、徳川家康は今川家からの独立を果たし、あろうことか、父親の仇である織田信長と手を結んだのである。


 家康討伐論が家内で渦巻いたが、氏真うじざねは家臣たちの話に耳を貸すことはなかった。心のどこかで、共に父・義元に教育を受けた仲であり、友達でもあった家康を信じたい気持ちが氏真うじざねにあったからだ。


「もし、あのとき、私が家康殿を信じきれていたら、家康殿は独立したあとも、今川家と仲良くしてくれたでおじゃるかな?」


 そんな思いを氏真うじざねは心に持つ。


氏真うじざねさま。過ぎた日々を思ったところで、得れるものなど何もありませぬ。今はただ、明日も生き延びることを考えてくだされ。古くは鎌倉時代からの源氏の血筋。ここで絶えるわけにはいきませぬぞ」


「血筋や家格で物を言う時代は終わりに近づいているのでおじゃる。父の仇である、信長を見よ。彼は身分の低さを顧みることなく、邁進されておるのでおじゃる。次代は、あのような者たちが担って行くのでおじゃる」


 氏真うじざねは日が地に沈んでいく様子を見る。我が今川家もあのお日様が地に隠れるように、この世から消えてなくなるのであろうと予感するのであった。




「さて、家康くん。鳥羽とば城攻略、ありがとうございました。気前よく、鳥羽とば城を与えたいところなのですが、なにぶん、こちらも加増しなければならない家臣たちがいますので」


「なあに、気になされるなでござる。昨年、今川領の遠江とおとうみを手に入れたばかり。そちらにかかりきりで、志摩をいただいても困難がつきまとうでござる」


「そうですか。家康くんの気づかい、ありがたく受け取っておきます。代わりと言っては何ですが、金300と兵糧を贈らせていただきますね。それで、今回の戦費を賄ってください」


「金300もいただけるのでござるか。これは少々、もらいすぎではないでござるか?」


 家康は信長の提示してきた額に驚きを隠せない。金300と言えば、三河の国家予算の約4か月分に値する。1か月そこらの、援軍に対しては破格の値である。そこにさらに兵糧まで拠出するというのだ。


 家康としては遠江とおとうみの4分の3を手に入れた今、そこの開発をしなければならず、金は喉から手が出るほど欲しいと思っていたところである。


「金はいくらあっても困りませんからね。いろいろと使わなければならないことも増えるでしょうし。気持ちよく受け取ってくださいね?」


「ありがたき幸せでござる。これで、遠江とおとうみで戦火に巻き込まれた民たちにも施しができようというものでござる」


 家康が色よい返事をするのを、信長はうんうんと首を縦に振る。伊勢でのいくさは終わった。だが、まだ、ひのもとの国すべての戦いが終わったわけではないのであった。

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