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ー進撃の章 1- 二条の城、完成

 フロイスと信長の話は続く。彼ら2人の意見は平行線を辿る。フロイスは頑として、自分の、いや、デウスの教えを曲げることはしなかったのである。


「フロイスくんの話は、大変、興味深いことが多く、先生も南蛮人がどう考えているのかが少しわかった気がします。岐阜へ遊びに来たときは、またゆっくりとデウス教について、語ってもらいましょうか」


「はい。その時は、よろしくお願いしますのですニャン。信長さまがデウスの教えに頭を下げることを願っているのですニャン」


「相互理解は可能かと思いますよ。ただ、先生がデウス教に入信するかどうかは別問題ですがね」


丹羽にわちゃんはデウス教はお断りなのです。牛さんを食べる宗派に鞍替えできないのです」


「まあまあ、丹羽にわくん。頭ごなしに否定するのは簡単ですが、相手の話を聞くというのも大切なことです。南蛮人の文化には、先生たちが想像も絶するようなことが多いのですよ。丹羽にわくんのプロデュース力が南蛮の力を得て、さらに発展するかもしれないじゃないですか」


 うーんと、丹羽にわが頭を捻る。


「それもそうなのですね。相手の話も聞かないで、否定するのは、丹羽にわちゃんにとってマイナスなのです。信長さまの奇想天外な発想をさらに実現させるためにも勉強させてもらうのです」


 信長はうんうんと頷く。


「相手の良いところを学ぶのはもちろん大切ですが、相手のダメなところを精査するのも、また大切なのです。いくら、相手が相いれない文化の人たちと言えども、学べる点は多いですからね」


 はーいと丹羽にわが返事をする。


「では、信長さま。ギフでの再会を楽しみにしているのですニャン。きっと、有意義な時間を過ごせると思うのですニャン」


 フロイスは、そういうと、信長たちに向かって深々と礼をする。


「では、お仕事の邪魔にならないよう、ワタシはそろそろ退散させてもらうのですニャン。二条の城、すばらしいのですニャン。これは教会も楽しみですニャン」


 丹羽にわは、あっと言う言葉を発する。


「フロイスさん。丹羽にわちゃんは教会がどんなものなのかわからないのです。教会の図面を渡してほしいのです」


「そうですニャン。すっかり忘れていましたのですニャン。それもギフに行くときまでに準備をさせてもらいますニャン。きっと、あなたのインスピレーションを刺激すると思いますニャン」


 丹羽にわはさらに言う。


「でしたら、南蛮のお城の図面もほしいのです。南蛮のお城はそのほぼすべてを石で作っていると聞いたことがあるのです。丹羽にわちゃんは教会より、そっちのほうが興味津々なのです」


「ハイ、わかりましたニャン。城の図面のほうも準備させてもらいますニャン。ひのもとの国の城とは全然、違っていますが、この国に南蛮の城が建つのも面白そうなのです」


丹羽にわちゃんが思うに、南蛮のお城の図面をもらっても、この国では作れないと思うのです」


「え?丹羽にわくん。それは何故ですか?」


 信長が丹羽にわに問う。


「小さいお城ならともかくとして、城全体を石で作るには、このひのもとの国では、材料の石自体が足りていないのです。南蛮では、城だけではなく、城壁まですべて、石で造られているという噂なのです」


「それは困りましたね。せっかくなので、総石づくりの城を建ててみたかったんですが」


 信長は残念そうな顔つきになる。


「ないものは仕方ないのです。それこそ、墓石を畿内全域から集めるくらいじゃないと、まるで足りないのです」


「そんなに、この国は石が足りてないのですね。先生もさすがに知りませんでした」


「新しく城を作る場合は、使わなくなった城を潰して、そこから石を再利用するくらい、足りないのです。それなのに、総石づくりの城なんて、夢のまた夢なのです」


 信長は、ふうむと息をつく。


「もし、これから先、織田家を代表するような、誰も見たことのないような城を1から作ることになったときは、相当、苦労しそうですね。今から計画を考えていた方がいいのかも知れません」


 信長は二条の城を見る。2カ月で城はほぼ建て終わっている。ならば、次、城を建てるとしたら、一体、どんな城がいいだろうか。織田家がひのもとの国に君臨するのを讃えるための城を建てたい。そう思う信長であった。




 時は少し進み、4月も半ばに入ろうとしていた。二条の城の建築作業も終わり、いよいよ、将軍・足利義昭がその城に入ることとなる。


「うほおおおお。これが夢にも見た、まろの城なのでおじゃる。天守から眺める京の都は格別なのでおじゃる」


「お気に召されたようで、この信長も嬉しく思いますよ」


御父(おんちち)・信長殿。重ねて礼を言わせてもらうのでおじゃる。これで、やっと枕を高くして眠れると言うものでおじゃる」


「まあ、城自体はできましたけど、蔵などは後回しにしていますので、本圀寺(ほんこくじ)の荷物などの搬入は、もう少しお待ちくださいね?」


「それくらい喜んで待つのでおじゃる。そんなことより、二条の城の建築完了祝いで、今宵は大いに飲もうと思うのでおじゃる」


「ふむ。それもそうですね。城の建築にかまけてばかりで、宴のことをすっかり忘れていましたよ。まあ、毎日がお祭り騒ぎだったので、今更、宴と言う気分でもないのですがね」


 義昭は、ほっほっほと笑いながら、信長に言う。


「祭りと宴は別腹でおじゃるよ。せっかくの祝いの日なのでおじゃる。織田家の諸将たちも呼んでたもれでおじゃる」


「そう言われては断ることは失礼になりますね。わかりました。織田家うちの皆さんに声をかけておくので楽しみにしていてください」


 そう言うと、信長は皆に声をかけてくると義昭よしあきに告げ、一度、二条の城から退出する。


 信長は、二条の城を出た後、織田家の諸将たちが住む、屋敷に向かうのであった。



「なんでそんな約束をとりつけてくるんッスか、信長さまは。今夜は織田家の俺たちと建築に携わった兵や民たちと飲むって言っていたじゃないッスか!」


利家としいえくん。そんなこと言われたって、先生だって、断れるわけがないでしょうが。あれでも将軍なんですよ。あまり袖にしていたら、あの馬鹿でもいい加減、嫌われてることに気づいちゃうじゃないですか!」


「てか、今までの俺たちの態度を見てて、嫌われていないと思っている、あの将軍の肝っ玉には恐れいるぜ。将来、大物になるんじゃねえの?あの馬鹿」


 将軍を馬鹿呼ばわりする、信長と信盛のぶもりである。その2人を見ながら、秀吉は、自分も知らず知らず、義昭よしあきを馬鹿にしている態度がにじみ出ていないものかと、どきどきしてしまう。


「あ、あの。信長さま、利家としいえ殿。済んでしまったのは仕方がないかと思い、ます。それよりも、あの将軍さまをどうするおつもりなの、ですか?兵や民たちとの約束もあることですし、かと言って、将軍さまの約束を反故することもできま、せんし」


「本当にどうしましょう?曲直瀬まなせくんから眠り薬をもらってきて、将軍に一服、盛りましょうか?」


「それは根本的な解決になっていない気がするッス。そもそも、義昭よしあきみたいな図太い神経の男に、眠り薬なんか効果あるんすか?」


曲直瀬まなせくんの薬なら効くでしょ。もし効かないと言うのなら、それはそれで、興味深い治験となりますし、どちらに転がっても損はないと思いますよ?」


 なにか、間違っている気がするが、つっこんだら負けのような気がしてならない、秀吉である。


「あ、あの、もし、薬で寝たとしますよね?でも、眠ってしまったのでおじゃる。これは、宴を次の日にもやらねばならぬのでおじゃる、とか言い出すような気がして、たまらないの、ですが」


 信長と利家としいえは、はっとした顔付きになる。


「さすが、秀吉ッス。言われるまで気付かなかったッス。その聡明さを俺にわけてほしいッス!」


「本当、そうですよ。宴が流れても、必ず、奴なら満足するまで宴を諦めることはないでしょう。先生たちは根本的なところで勘違いをしていたのですよ」


「ん…。利家としいえ、信長さま。自分も薄々、そんな気がしていた」


 信長と利家としいえはさらに、はっとした顔つきになる。


「佐々ですら、気付いていたことに、俺が気づかないとはどういうことッスか。これは、もしかして、義昭よしあきの馬鹿がうつったんッスか?」


「馬鹿は死んでも治らないと聞きますが、まさか、伝染するとは先生は、思いもしませんでした。これは、曲直瀬まなせくんに馬鹿がうつらない薬を発見してもらうしかないですね」


「ん…。曲直瀬まなせ殿でも無理だと思う。そんな薬があるのなら、世の中には馬鹿が存在しなくなる」


「じゃあ、俺はこの伝染馬鹿に冒されたまま、この先、生きていかないといけないってことッスか!それは、むごいことなんッスよ」


利家としいえくん。落ち着いてください。馬鹿が伝染するというのは、間違いだと思うのですよ」


 信長が利家としいえにそう告げる。


「どういうことッスか。信長さまは、この俺たちが馬鹿になっている症状をどう説明するッスか」


「仮説になるのですが、人間には、元々、馬鹿な部分があるのです。のぶもりもりのように、女性の前では、きりっとした顔をしながら、中年太りで出た腹を引っ込めて、いい格好をするように。さらには香水をつけて、加齢臭をごまかすのですよ」


「おい、ちょっと待て、殿との。まるで見たかのように話すのはやめろ。俺が、馬鹿のように聞こえるじゃねえか」


「え?小春さんからの苦情の書状に書いてありましたよ?のぶもりもりは知らなかったんですか?」


「え?え?ちょっと、小春さん。一体、何を書状にしたためて、殿とのに渡しているのかな?」


 信盛のぶもりは後ろを振り向き、奥方連中が輪を作り、3時のおやつを食しながら、ハーブティパーティをしていたその中の自分の奥方、小春に向かって声をかける。


「ん?どうしたの、信盛のぶもり。え?信長さまへの苦情の書状のこと?で、書状に、女性の前で良い恰好をするってやつね。それなら、確かに書いたわよ」


「いや、なんで、そんなこと、書状に書いて、よりにもよって殿とのになんか渡してるんだよ。俺がいじられるのが目に見えてわかるだろうが」


「予防線よ、予防線。あんた、エレナと私だけでも手、一杯だっていうのに、最近、モテ期が来たとか言って勘違いしてるじゃない?そこはやっぱり、異性が言うよりも、同性の信長さまに言われた方が、傷つくと思って」


「心を傷つかせるのを前提で、殿とのにそういうことを告げ口するのは、やめてください。お願いしますから」

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