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ー動乱の章15- ルイス・フロイス

 時のみかどが平安京に遷都してから、はや800年。しかし、みかどの権力は削がれ、後醍醐天皇が天皇家の復権を願ったが、それもかなわず、衰退の一途を辿っていくのであった。


 それを救うことになったのは、信長である。彼はみかどの御所の改築に金を出し、みかどの権威復活に一役を買ったのである。そして、みかどの衰退と一緒に朝廷を担う、貴族たちもまた生活に困窮したが、彼らにも土地を与えている。


 みかどは、信長に対して、恩を感じていた。この前の将軍・足利義昭あしかがよしあきを通じての武田家と上杉家の停戦のみことのりを出したのも、信長の尽力が物を言っていたのである。


 京の都が復活していくのに比例して、みかどや朝廷も、その力を取り戻しつつあったのだ。


「さて、4月に入り、二条の城建築も、ようやく終わりが見えてきましたね。2カ月で城を建てろとか無茶振りをしたわりに、これほど上手くいくとは思いもしませんでしたよ」


丹羽にわちゃんは、よく頑張ったのです。これは御褒美を期待していいのです」


丹羽にわくんには、感謝をしてもしきれませんね。何がほしいですか?」


「そうですね。わんちゃんをもう1匹、飼いたいので、広い屋敷がほしいのです。3匹になると、さすがに手狭になるのです」


「欲がないですね、丹羽にわくんは。もう2、3匹、飼えるほどの屋敷を準備させますよ?」


「わーい、やったのです。では、丹羽にわちゃんは、広いお屋敷をお願いするのです」


 信長はうんうんと頷く。これほどの事業を成し遂げたのだ。屋敷だけではなく、他にも色々とねだってくれてもいいのにとも思う。


「オオ、これが二条のお城なのですかニャン。聞くと見るとではやはり違いますニャン」


 うん?と信長が思う。聞きなれない言葉だ。誰だろうと、そちらの方を見ると、宣教師の恰好をした南蛮人がひとり立っていたのである。


「あの、どちらさまでしょうか?見たところ、宣教師の方に見えますが」


「これはこれは。ワタシはフロイスと申しますニャン。どうか、お見知りおきをニャン」


 ん?フロイス?どこかで聞いたことがあるような、確か


「ああ、きみが噂のフロイスくんですか!」


「そんなにワタシは噂になっているのですかニャン?」


「有名ですよ。みかどの御所をあばら家だと、けなしまくった、あのフロイスくんでしょ?けなしまくった後は、大内家へ寄せていたと聞いたのですが、よく生きて、京の都へ足を踏み入れることが出来ましたね」


「オウ。そんなこともありましたニャン。みかど直々に追手を出されて、大内家へ身を隠していたのデスガ、なにやら、城をすごいスピードで建築しているという噂を聞いて、やってきたのですニャン」


「でも、なんで、戻ってきたのですか?西のほうが、宣教も商売もやりやすいでしょうに」


「それはですニャン。向こうで大友家への宣教もひと段落しましたので、今度は東のほうにも宣教をしにやってきたのですニャン」


 ふむと信長は息をつく。


「西は大体、宣教が終わったので、こちらに来たわけですか。ですが、西と違って、東はなかなかしづらいと思いますよ?」


「デウスの御心を広めるのはいつでも困難はつきものですニャン。それに、信長と言うひとは寺社に喧嘩を売っているとの噂ですニャン。これは商売のチャンスげふんげふん、宣教のチャンスなのですニャン」


「はははっ、フロイスくんは幸運ですね。その探している信長と言うのは、先生のことですよ」


「オウ、これはデウスがワタシを導いてくれたのに違いありませんニャン。ギフと言うところまで行かなければならないかと思っていましたのですニャン」


「もしかして、先生にまでデウスの教えを説きに来ようとしていたのですか?フロイスくんは」


「デウスは偉大なのですニャン。この国は邪教に占領されおりますニャン。全ての創造物である、デウスを信じなければ地獄に落ちるんだニャン」


「これは大きくでましたね。信じなければ地獄に落ちるとは、日蓮宗もびっくりな言い分です」


「デウスは唯一神なのですにゃん。それ以外の神、いいえ、悪魔を信じるのはいけないことですニャン」


 信長は、ふむふむと話を聞く。しかし、丹羽(にわ)が話に水を差す。


「フロイスさん。お言葉なんですけど、神様がひとりしか存在しないって言うのは、どうなのかと思うのです。ひのもとの国には、井戸やかまど、そしてお風呂や、相撲にも神さまはいますのです。それらすべて、悪魔だというのですか?」


「ハイ。全て、人心を惑わす悪魔なのですニャン。悪魔を信望してはいけないですニャン」


「なんだか、丹羽(にわ)ちゃんは、フロイスさんとは分かり合えない気がするのです。西の大名家は本当にデウスの教えに心打たれて、宗派変えをしたとは思えないのです」


「それを言われると痛いですのニャン。実際に、心からデウスの教えを信じてくれるものは、大友さまだけだったですニャン」


「んー?なら、なんで、大友さん以外は、デウスの教えを信じることにしたのでしょうか?」


 丹羽(にわ)の疑問に信長がフロイスに代わって応える


「それは、簡単なことですよ。宗派が同じと言うことは仲良くなりやすいってことです。南蛮人と同じ教えを形だけでも信望すば、商売がしやすくなりますからね」


「ハイ、その通りですニャン。わたくしどもは宣教師ですが、同時に、商売人でもありますニャン。同じデウスを信望する大名家には、優先して火薬を卸させていただいておりますニャン」


「それを聞くと、西は鉄砲の配備数がすごそうですね。そうなると、西側の攻略には手間取りそうで怖いですね」


「大友さまは大砲を所持しているニャン。ひのもと広しと言えども、大砲を所持しているのは大友さまだけですニャン」


「大砲?聞いたことがない名ですね。大筒とはまた別のものなんでしょうか?」


 信長は大筒という、30もんめの通常では10倍の大きさの弾を打ち出す、抱え大筒を所持していた。それと似たようなものを想像する。


「いえ、違いますニャン。大砲というのはあそこにある、大石ほどの鉄の塊を撃ち出す、兵器なのですニャン」


 フロイスは、大の大人がやっと抱えることが出来そうな大石を指さす。その大石を見た信長が驚く。


「え?あんな大きな石ほどの鉄の塊を撃ち出すんですか?その大砲と言うものは」


「はい、そうですニャン。よーろっぱには、攻城兵器に投石器という、大掛かりな仕組みのものがありますが、今は少しづつですが、大砲に置き換わっていっているのですニャン」


「あの大きさの鉄の塊を撃ち出すのですから、破壊力は相当なものになりますね。一体、どれほどの威力のものか、想像できないですよ」


「城の城門程度なら、大砲で2,3撃も当てれば、破壊は可能ですニャン」


「そんなものが有ったら、このひのもとの国の(いくさ)が、根本的から変わってしまいますね。これは益々、西側の動向には気をつけないといけません」


 信長は、大砲の威力に恐れをなす。それはそうだ。抱え大筒と言えども、城壁を穿つことは出来ても、城門を破壊するほどではない。しかし、大砲にはそれが出来るのだ。攻城戦は強固な城を落とさなければならない。ゆえに、少数で城を守るとしても、多大なる兵力がいる。


 城側に鉄砲を配備されているだけでも、城は難攻不落となる。だが、それを粉砕しても余りあるほどの威力を大砲は持っているのである。


「いいですね。大砲ですか。フロイスくん、大砲を売ってくださいよ。金は払いますよ?」


「では、信長さまもデウスの教えを信じる者のひとりになるのですニャン。そうすれば、大筒を譲らないでもないですニャン」


「ええ?デウス教に入らなければならないのですか?先生は、相撲の神さまを奉っているので、浮気はできないのですよ」


「オウ、ノウ!悪魔を信じるとは、これ如何にですニャン。信長さまは地獄に落ちてしまうのですニャン」


「悪魔ですか。言いえて妙ですね。神仏を信じる寺社を締め上げている以上、先生は悪魔の手先かもしれませんね」


「信長さまは、寺社を締め上げていると言っても、別にその教えを広めることに対しては自由にさせているのです。それも逆らった寺社に対しても、宗教の自由を認めているのです。デウス教のように他の神様たちを信じると、地獄に落ちるとか言っているわけではないのです」


 丹羽(にわ)が信長にそう応える。


「それはおかしい話ですニャン。寺社を攻撃するのであれば、同時に布教の禁止をするのは当然なのですニャン。大友さまは、デウスの教えを信望すると同時に、領内の寺社を棄却させているのですニャン」


「ええ!大友のところは、そんな罰当たりなことをしているのですか?」


「大友さまはデウスが遣わされた、天使のような存在ですニャン。棄却に逆らう寺社に攻め入り、火をつけているのですニャン」


「これは、大友を止めないといけませんね。先生は、宗教の自由は認めますが、宗教の弾圧を認めるわけにはいけません。だれが何の神を信じるかは、そのひと個人の問題ですよ」


「なぜですかニャン。大友さまは正しいことをしているのですニャン。デウスの教えは、全てにおいて正しいのですニャン。それを邪魔する寺社など、火をつけられて当然なのですニャン!」


 信長は、ふうとひとつ嘆息する。


「フロイスくん、いいですか?きみがもし、織田家でデウスの教えを広めたいと言うのであれば、先生は邪魔をすることはしません。さきほども言いましたが、誰が何の神を信じるかは個人の自由だからです。ですが、その教えをもって、誰かを傷つけると言うのなら、先生は、デウスの教えを許すことは出来ません」


「オウ、ノウ!デウスは正しいのですニャン。この世界で唯一の神ですニャン。信長さまは、なぜ、わかってくれないのですニャン」


「フロイスくんが信じる神が、世界で唯一の神であると宣伝するのは構いませんよ。しかし、そうだからと言って、弾圧を行うのは別の話なのです。武力を持って、それをなそうとするのであれば、デウスの教えは、私にとって敵になります」


 フロイスは、ううんと首をかしげる。なぜ、この方はデウスの教えを正しいと認めてくれないのかと。


「もし、武力を用いずにデウスの教えを広めると言うのであれば、ワタシは信長さまの敵ではないと言うことですかニャン?」


「はい、その通りです。布教も自由ですよ。好きなだけ、デウスの教えを広めてください」

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