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ー動乱の章12- 物々交換

「よう、殿とのに秀吉。何、むずかしい顔をしてやがるんだ?昼飯に何、食べるか悩んでるのか?」


 佐久間信盛さくまのぶもりが、屋敷にやってきたのだ。


「あれ?のぶもりもり。きみこそ、どうしたんですか。仕事はどうしたんですか?」


「ん?俺?ああ、昼時になったから、殿とのを誘って、メシでも喰おうと思って、誘いに来たわけ。そういう殿とのたちこそ、何をなやんでいたんだ?」


「のぶもりもりに言っても理解できないかも知れないですが、東国の経済がどうなっているかと、秀吉くんと話あっていたんですよ」


 信長は信盛のぶもりにそう言うと、武田信玄から贈られてきた金の塊を見せる。


「うおっ、でかっ!なんだよ、これ。どっから盗んできたんだよ」


「失敬ですね。信玄くんからの贈り物ですよ。甲斐では、これがごろごろ取れるみたいなんですよ」


「すげえな、甲斐の国。信玄のやつ、代わりに俺らの近江と代えてくれないかな?」


「あんな、山に囲まれた土地なんて、頼まれたって譲られる気はありませんよ。無料ただなら少しは考えますけどね。って、そんなことはどうでもいいんですよ。問題はこの金なんですよ」


「ん?そんなの堺にでも行って、売ってくりゃいいじゃねえか。いい銭になりそうじゃないか」


「では、聞きますが、堺から遠く離れた甲斐だと、この金の塊をどうすると言うのですか?」


 信盛のぶもりは、え?と思い、ううんと頭を悩ます。


「え?あんな未開の土地で、換金可能なのか?もしかして、金で直接、物と取引してんのか?あいつら」


「やっぱり、のぶもりもりもそう思っちゃいますよね!本当、あの国、なんなんですか?金の1粒と米1升で交換なんですかね?」


「それは、時代的にやばくない?銭で取引してんじゃなくて、物々交換ってことだろ?」


「そうなんですよ。ほんと、いつの時代なんですかって、秀吉くんと話してたんですよ。貨幣経済の時代にすら入っていません」


「貨幣経済でも、充分、やばいと思うん、ですが。今は畿内や尾張おわり・三河より西では、銭が流通していて、います。銭はからの流通品ですし、それも銀賎、銅賎、小判へと置き換わって行っている時代、です」


「ん?貨幣経済って何?」


「のぶもりもり、あなた。それで、領国経営をよくやっていますね。先生はびっくりです」


「貨幣経済って言うのは、通貨で品を買うこと、です。ただし、貨幣経済には弱点があるの、です」


 のぶもりもりはふむふむと秀吉の話を聞く。


「え?通貨ってことは銭で物を買うってことだろ?じゃあ、俺たち、貨幣経済ってやつじゃないの?」


「正確には違いますよ。信用経済です。貨幣経済の弱点について説明しますけど、あれは貨幣の質で値打ちが変わってくるんですよ」


「ん?どういうこと?よくわからんのだが」


 信長はふところから100文賎を取り出し


「のぶもりもり、これ、なんだかわかります?」


「100文賎だろ。見りゃわかる」


「では、これが何で出来ているか知っていますか?」


「そりゃ、銅だろ。たしか」


「正確に言うと、銅とその他の鉱物で出来ています。10割、銅で出来ているわけじゃないんですよ」


「へええ。10割、銅で出来ていると思ってたわ。んで、それがどうかしたのか?」


 信長はふうと嘆息する。


「大げさに言いますけど、この100文賎に含まれている銅は5割なんですよ。これがもし銅の割合が4割だとしたら、のぶもりもりは、この100文賎はいくらに見えますか?」


「ん?100文賎は100文賎だろ。何、言ってんだよ」


「貨幣経済の場合は、銅の量が減っているので、この100文賎の価値が下がるんですよ。5割から4割ですから、だいたい、100文賎が80文賎の価値に変わるわけなのですよ」


「え?おかしくない?100文賎は100文賎だろ。中身の銅の量が少し変わった程度で、銭自体の価値が変わったら、経済が大混乱しちまうじゃねえか」


「その通りです。だから、今、この時代、このひのもとの国は貨幣経済から信用経済へ移行している真っ最中なのですよ。100文賎には、中身の銅の量が大幅に変わらない限り、幕府や大名が100文賎だとお墨付きを与えているわけなのです」


「へえ、そんなこと知らなんだわ。100文賎は100文賎だとばっかり思ってたわ」


「今、1割減とか大げさな表現をしましたが、本来なら、1厘でも中身の量が変われば銭の価値が変動します。それが、貨幣経済の弱点なんですよ」


「1厘!?それはちょっと、行き過ぎなんじゃねえのか?いくらなんでも、そんなの均等に銭が作れるわけじゃないのによ」


「本当に、これ、厄介なのですよ。通貨を使うまでは良いんですよ。物々交換するより遥かに進歩的です。でも、100文賎だと思って、渡されたものが80賎だったら、詐欺なんです。商売が成り立たないんですよ、これ」


「そりゃそうだよな。いちいち、銭の質を調べなきゃならなくなるもんな。面倒、この上ないってわけか」


「ひのもとの国では古来より、銭を作ってこようとはしてきましたが、均質なものを作るのは、なかなか難しいようで、結局、からの国からの銭を使用しています。かの国は銭に関してはやかましいみたいですからね。少々のばらつきはあるものの、ひのもとの国よりはマシって程度ですが」


「で、要は、100文賎は100文賎でみんなが尽力している中、東国は金をそのまま使っているってことか。って、東国を手に入れたら、そこの経済、がったがたになるんじゃねえの?」


「そういうことです。金だって、本来は商品でしかありません。価格がつきます。それに、こんな金の塊がごろごろしているような土地があるなら、こんなの市場に流れれば、確実に値は下がります」


「東国は天下統一されたときに、未曾有の大恐慌が起こりそう、ですね」


「今、あそこがどうなっているのか、はっきりわかりませんが、銭が流通していることを祈るしかありませんね。金が直接、取引に使われているのなら、本当にしゃれで済まされませんからね」


「それなら、今のうちに、銭を大量に東国に送ったらいいんじゃねえのか?」


「それもそうですね。銭は惜しいですが、そんなこと言ってる事態じゃありませんからね」


「換金不能な金の塊が織田家の蔵、一杯になりそうな予感がするの、ですが」


「そうなったら、鋳潰して、大判小判を作るまでです。小判の原材料を買うと思えばいいんじゃないですか?それで未曾有の大恐慌を防げると思えば安い買い物ですよ」


「あれ?こっちでわざわざ鋳潰すくらいなら、向こうで大判小判作ってもらったほうが早くない?」


「小判を作っても銭が流通してないなら同じですよ。銭を使うことにまずは慣れてもらわないとダメなんですよ」


「物々交換こわいわあ。本当、こわいわあ」



 信長、秀吉、信盛(のぶもり)は小難しいことは、とりあえず置いといて、昼飯に出かけることにする。


 そして、そば屋に入り、天ぷらそばと寿司を注文することにした。


「そういや、小判って不思議だよな。あれ1枚で、米1石と交換だから、ひと一人が1年で喰う分になるわけだよな」


「そうですね。1反は、ひと一人の着物にちょうど足りる分の長さのことを言いますしね」


「考えてみると、いろいろあります、よね。米2から3合が大体、ひと一人の1日分の食べるお米ですし、1合を1000倍すれば1石、です。大体の基準が、私たちの生活に根差した基準なの、ですよね」


「1もんめは、1文銭1個の重さですし、1文銭が1000枚で価値が1貫です。これは、重さも同じ1貫てことですね」


「俺たちは、わかりやすくて結構なことなんだけど、これ、南蛮人だと、どう思うんだろうな?」


「さあ?何か聞くところによると、物の長さの単位を、王様の肘から指先までを基準としている国なんて、あるそうですよ」


「なにそれ。わかりにくくないか?ひのもと風に言えば、馬鹿将軍の腕の長さが1尺になるってことだよな」


「そうですね。わかりにくいですね。例えば、重さの単位の基準が、馬鹿将軍になったら、牛とかは、大体、4馬鹿将軍になるってことですよね?」


「馬鹿将軍が4人分かあ。それ、牛さんに失礼じゃない?牛さんのほうが、よっぽど、あの馬鹿将軍より、まともに仕事をするぜ?」


「ううん、それもそうですね。牛さんに失礼なことを言ってしまいました。先生、反省します」


「あ、あの、何か根本的なところが間違っている気がするの、ですが」



 信長、秀吉、信盛(のぶもり)は、天ぷらそばと寿司を喰い終わり、食後のお茶を飲みながら、談笑を続けていた。


「しっかし、昼から天ぷらそばに寿司って、豪華じゃね?これだけ食べて10文(=1000円)もしないんだから、お得感たっぷりだぜ」


「そうですね。寿司も京の都にずいぶん根付いてきましたから、価格が一気に安くなりましたもんね。天ぷらそばが5文に、寿司は1つ2文ですからねえ」


「お寿司は、おいしいので、つい食べ過ぎてしまい、ます。4つも食べてしまい、ました」


「関所撤廃が順調に進んでよかったぜ。そうじゃなかったら、価格が5倍くらいに跳ね上がってるんじゃねえの?」


「お昼代が、50文(=5000円)とか、とんでもないですね。やってよかった、関所撤廃」


「1食で50文も払ってたら、私は、ねねに殺されてしまいます、よ。遊女通いのお金を出してもらえなくなり、ます」


「あれ?そういや、秀吉、最近は誰を一緒に遊郭に誘っているんだ?俺はエレナを(めかけ)にして以降、さっぱり行かなくなっちまったけど」


「それは、ですね。和田惟政わだこれまささまとか、将軍さまの家臣の方々、ですね。将軍さまをおいそれと遊郭に連れていくわけにもいかなくなりました、し」


「あれ?これまた不思議な面子を誘うものですね。先生は、てっきり、利家としいえくんを誘っているものだと思っていましたが」


利家としいえ殿を誘うと、松さんが怖い顔するから、連れていけないの、ですよ。織田家うちは身持ちが固いひとが多いので、誘いづらいの、ですよね」


「じゃあ、丹羽にわくんを誘ったら、どうなんです?丹羽にわくんなら、誘っても問題ないように思うのですが」


丹羽にわさんですか。ううん、言われてみれば、誘ったことがない、ですね。普段、仕事をしていない時は、どこに行っているか、わからないんですよね」


「あれ?言われてみれば、先生も、丹羽にわくんが仕事してないときに、普段、何してるか知りませんね。秀吉くんに言われて気付きましたけど。何やってるんでしょうか、彼」

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