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ー戦端の章17- 相撲大会 打ち上げ

「なあ、最後に光秀が宙に舞ったのは、なんだったんだ?あれも何かの技なのか?」


 佐久間信盛(さくまのぶもり)が鯛飯を喰らいながら、皆に聞く。


 相撲大会は大変な盛り上がりを見せ、閉幕となった。優勝者・織田信長、準優勝・明智光秀と勝負は決まったのであった。


 今は会場が冷めやらぬ中、酒宴が始まっていたのであった。


「あれはですね、はっけいの応用ですよ。体内の回転を両手で光秀くんの右腕に伝播させたのです。私も初めてやってみたんですが、あんなに回転するとは思ってもみませんでしたね」


 信長が信盛(のぶもり)の問いに応えたのだった。


殿(との)、こわ!試したこともない技を、普通の人間に使うんじゃねえよ。もし、なんかあったらどうするつもりだったんだよ」


「いやあ、技を放った先生自身が驚きました。光秀くん、空中で3回転半してましたからね。これは死んだかなって、ちょっと不謹慎ながら思ってしまいましたよ」


「ふひっ。喰らった僕が言うのもなんですが、自分の身に何が起きているのか、まったくわからなかったでございます。そんなに回転していたでございますか」


 身体のところどころを負傷した光秀が山盛りサラダをガツガツと食しながら、喰らった技の感想を述べていた。


「ガハハッ。光秀よ、殿(との)を追い詰めたまではよかったでもうすが、あれはさすがにどうしようもない。我輩でもあんなの喰らっていたら、腕がちぎれ飛んでいたでもうすよ。体重が軽かったことが功を奏したでもうすな」


 すでに酒で出来上がった勝家(かついえ)が上機嫌に言う。


勝家(かついえ)さまの腕がちぎれ飛ぶって、どんなんッスか。信長さま、俺にその技、使うの禁止ッスからね!」


 前田利家まえだとしいえが小豚の丸焼きにかぶりつきながら言う。


「いやだって、本当にあの時は、負けると思っていたんですよ、先生。負けるくらいなら、相手の身のひとつやふたつ、どうでも良くなるものじゃないですか」


「の、信長さま。怖いので、私にも使うのは封印してくだ、さい。ねねが路頭に迷ってしまい、ます」


 焼き鳥の串を3本、手にもったままの秀吉がおそるおそる、信長に進言する。


利家としいえくんと秀吉くんは、そんな心配をする前に、もっと相撲の腕を磨いてください。先生に隠し技を出させるほどの腕前になってからの心配ですよ、それは」


 信長が酒の入った杯をあおり、寿司を口いっぱいにほおばりながら言う。


 とおちゃあんとたまが光秀にべったりと甘えながら、好物の団子をもぐもぐと食している。


「光秀殿の娘さんは可愛いのでござるな。うちの息子の嫁にもらいたいでござるよ」


 細川藤孝ほそかわふじたかが、団子をほおばるたまを見ながら、微笑んでいる。


「ふひっ。まだまだ、嫁には出さないのでございます。10年後経っても、その気があるのならば、聞かないでもないでございます」


「そうでござるか。うちの息子は、自慢ではないが私に似て聡明であってござる。今度、顔合わせしてみてはいかがでござるか?」


 ううんと唸る光秀である。かわいざかりの娘に相手も幼いとはいえ、男である。何かあってはと思うのは親心であろうか。


「合わせるだけでございますよ。婚姻うんぬんはまた別の話でございます」


「おお、それは嬉しい返事でござる。いやあ、これで私と光秀殿は親戚でござるな」


 ちょっとまってくれでございますという光秀の言葉を無視し、細川は酒を仰ぐ。今宵の酒はいい酒だ。勝家(かついえ)殿に1回戦で負けたと言え、全力は出し切れたと思う。世の中は広いと思い知らされた。【相撲の神秘 筋肉と伝統芸】の内容を大幅に改変しなければならなくったなと思う。


「で、細川くん。縁談話で盛り上がるはいいのですが、義昭(よしあき)さまの席に戻らなくていいのですか?」


 信長がそう、細川に問う。


「いやでござるよ。せっかくの相撲の打ち上げに、あんな雑魚の妄想たっぷり自慢話など、聞きとうござらぬよ」


「確かにそうッスよね。今頃、総当たりで俺ら全員に勝ったと言ってる頃じゃないッスか。もう一度、ぶん投げてやろうッスよ」


 足利義昭(あしかがよしあき)は、試合の前座として、強者たちと総当たりをやらされたのだ。見事、村井貞勝(むらいさだかつ)にまでぶん投げられ、全敗をきっしたのであったが、今頃どんな話をもっていることかは想像にかたくない。


「まあ、あれと酒を飲むことの不味いことと言ったら、昨夜で経験済みですからねえ。相撲大会の出場者たちのみの交流会と称して飲んでますが、和田惟政(わだこれまさ)くん以外は、全員、この席に集まっていますからね」


「どんだけ、義昭(よしあき)さまは嫌われてるッスか。自業自得にもほどがあるッスよ」


 今、信長たちが飲んでいる席には、相撲大会に出場した、細川率いる足利家の武断派たちと、織田家の出場者合わせて、14人が集まっている。ひとり、計算が合わないのは、前田玄以まえだげんいが犠牲になったのだ。


 彼はいやですいやですと言うのを皆で説得し、義昭よしあきの席に送り出した。とどめの一言は村井貞勝むらいさだかつ


「自分に負けるような雑魚力士は、同じく雑魚の義昭よしあきさまに似合いなのじゃ」


 であった。玄以げんいは返す言葉もなく、がっくりと肩を落とし、とぼとぼと義昭よしあきの席に向かうことになったのだ。


貞勝さだかつくんが、玄以げんいくんに勝つとは、本当に意外でしたね。あの激務の中、いつのまに訓練をしていたんですか」


「うっほん。朝の米俵担いでの5キロメートル競歩で自分の分の米俵の重量を増していたのじゃ。歳で体力が衰えたなどとほざいていれるほど、織田家うちは甘くないからじゃ」


「なるほど。やはり相撲は足腰の強さからですから、理にかなった訓練です。貞勝さだかつくんにしては発想が豊かじゃないですか」


「米俵、2俵を持った化け物が目の前を走っておるのじゃ、それがヒントになったのじゃ」


 酒と肉を消費しまくっている、勝家かついえをちらりと2人は見る。


「確かに、合せて40キログラムの米俵を担いでいますね、彼は。先生でも、あんなの真似できないですね」


「ガハハッ。我輩の話でもうすか?今回、光秀に負けた以上、3俵に増やさねばならないでもうすな」


 筋肉の悪魔が話の輪に入ってくる。


「筋肉を増やすのもいいかもしれませんが、柔軟はしっかりやっていますか?勝家かついえくんは固さに注目するあまり、そっち方面がおろそかになっている気がしますね」


「恥ずかしながら、香奈の容態がよくなくてもうしてな。【ふたりでおこなう夜の柔軟運動byザビエル】の本は、昔、猿から買ったはいいが、ここ数年、なかなかでもうしてな」


「ああ、それは仕方ありませんねえ。ではめかけをひとり、作ってはいかがですか?」


「ガハハッ。香奈は我輩の宝でもうす。夜の柔軟運動ができないからといって、他の女とすることは遠慮させてもらうでもうす」


勝家かついえくんは一途なのですね。先生は皆を平等に愛しているので、皆に一途です」


「ん?それはおかしな話なのじゃ。帰蝶さまと吉乃さまばかりにかまけて、そでにされていると、信長さまの奥方さまたちから陳情書が届いておるのじゃ」


 んっんっと信長が咳払いをする。


「なんだ、殿との。吉乃ちゃんと帰蝶さまばっかり相手してんのかよ。それで皆に一途とかよく言えたな」


 信盛のぶもりが信長に絡んでくる。また面倒くさいのが話に入ってきましたねと信長は思う。


「帰蝶さま含めて、奥方全員で10人だっけ、殿とのは。そりゃあ、えこひいきもでてくるよなあ」


 信盛のぶもりがぷはあと酒臭い息を信長に放つ。


「もう、何臭い息をこっちに吹きかけるんですか。しかも加齢臭までしますよ。のぶもりもり、きみ、お風呂にちゃんと入っていますか?」


「ん?今朝は会場入り、ぎりぎりまで椿とエレナに求められたからなあ。そういや、風呂にいくのを忘れていたような」


 どこからか、空のとっくりが宙を舞い、信盛のぶもりの後頭部にぶち当たる。


「あいたあああああ!誰だよ、とっくりなんか投げてきたやつ。俺を殺す気か」


「うっさい。信盛のぶもり。あんた、いらないこと言ってんじゃないわよ」


 隣の席で飲んでいる、椿が空のとっくりを投げつけたのだった。信長がざまあと言う顔をする。


「のぶもりもりは大変ですねえ。42歳にもなって、18の嫁をもらうなんて。ああ、私も若い嫁がほしいですよ」


 空のとっくりが2個、どこからともなく飛んできて、信長の後頭部に当たる。


「いたあああああああ!誰ですか、とっくりをしかも2つも投げつけてくるひとは。先生を殺す気ですか」


 隣の席で飲んでいる、帰蝶と吉乃がフルスイングでとっくりを投げつけたのだった。今度は信盛のぶもりがざまあと言う顔をする。


「これ以上、めかけを増やすと言うなら、実家に帰らせていただきますからね」


「吉乃というものがありながら、信長さまは、ひどいのです」


「帰蝶、実家ってあなた、斎藤家は滅びているじゃないですか。それに吉乃こそ、何を怒っているのですか」


 今度は、やもりの黒焼きが飛んでくる。


「串ものはやめなさい!刺さったらどうするんですか」


 帰蝶と吉乃は、口を両手のひとさし指で真横にひっぱり、いいいいと言っている。そして、ぷいっと顔を横にそむける。


「ガハハッ。殿との、女心はむずかしいのでもうすよ。そんなことを言ってはいけないでもうす」


「さすがうちの旦那はわかっているのですね。今夜は柔軟運動を楽しもうでありやす」


 勝家かついえの奥方・香奈が言う。


「ふひっ。信長さまも信盛のぶもりさまも、奥方さまたちには頭があがらないのでございますね。僕は、ひろ子一筋なので問題がございません」


 光秀までもが話に混じってくる。


「え、光秀くん。昨夜、相撲大会に出る理由は、女性にもてたいからと言っていたじゃないですか。何、自分だけ安全地帯にいると思っているんですか」


「ちょっと、やめてくださいでございます。せっかくいい話でしめようと思っていたのに、何を言い出しているのでございますか」


「光秀くん、きみも後頭部にとっくりを喰らってください。先生たちは同じ織田家の誇るべき武将じゃないですか」


 その信長の言葉に応えるかのように、小豚の丸焼きが宙を舞い、光秀の後頭部に当たる。


「光秀さま。怪我には肉が良いようですよ。しっかり食べてくださいね?」


「ひろ子。出来心なのでございます。僕にはひろ子しかいないのでございます」


 ひろ子は、ぷいっと顔をそむける。


「とおちゃん、かあちゃん、喧嘩はやめてー。いつもみたいに、仲良くしてー」


 たまが心配そうに光秀とひろ子を見ている。


たまちゃん。あれは喧嘩をしているように見えるけど、そうじゃないでござるよ。あれも夫婦の営みの一環でござる」


 細川がたまに言い聞かせている。そうなの?とたまが細川に返す。


「喧嘩するのも夫婦円満のコツなのでござる。たまちゃんも大きくなったら、いっぱい、旦那さまと喧嘩するようになるでござるよ。そして、夜は仲直りの柔軟運動でござる」


「細川さま、娘に何を吹き込んでいるでございますか。5歳の娘に言うことではございませぬ」


 光秀は猛然と抗議するが、細川は酒をあおりながら聞きながす。


 季節は9月、秋がやってくる。それがすぎれば冬だ。これから世の中はどうなっていくのであるでござろうか。細川は思う。きっと、信長殿がひのもとの国を良き方向に導いていってくれると願うのであった。

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