カエルの想い
アリシアとシュバルツがブラン城に戻ってきた。
リリアの現状を見たアリシアは、まず、アンドルトン公爵に宛てた手紙を書いた。しばらくブラン城に滞在するが心配しないでほしいという、リリアの両親を驚かさないための配慮だった。アリシアが書いた手紙は、シュバルツによってリリア直筆のもののように整えられ、届けられた。
これで少しの猶予ができたわけだったが、そう長い間リリアの不在をごまかしきれるものでもない。けれど、愛娘がカエルになったなどと誰が言えるだろう。
カエルになったリリアは、日中サラザールの左肩を居場所とした。シュバルツが、彼の力を強くしリリアの変化を解くためには、出来るだけ近くにいたほうがいいと言ったからだ。
サラザールは、ほとんどの時間を大広間の隅から入る小部屋で過ごした。ブラン城の中で、最も力の作用が強くなる場所にあたるからだった。サラザールは懸命に、リリアを元に戻そうと努力していた。けれど、幾日過ぎても、成果は見えなかった。
今日も、これで幾度目の失敗かわからないくらい、サラザールは力を使い続けていた。
彼らの力の発動は、特に何か徴があるわけでもなく、掛け声や動きが必要なわけでもないらしい。わかりにくいことこの上ないが、望んだことを現せるかどうかどうかで力を測るという。大魔王といわれるシュバルツに至っては、本気で望めば、思いのままである。ただし、人の気持ちや時間を操ることはできないようだった。
「ねぇ、サラザール」
肩の上で、リリアは言った。
「私、もうカエルのままでもいいかな」
リリアには、サラザールがいたずらに体力を消耗しているようにしか見えないのだった。
「何を言うんです。私が、必ず、元に戻して差し上げます」
サラザールは小さなカエルに右手を差し伸べ、肩から手のひらへ移した。そっと左手もその下に添え、リリアを大事な宝物のように扱ってくれる。
「だって、サラザール。毎日、くたくたになって、潰れてしまうわ」
「ご心配には及びません。私は、リリア様のような『人』ではない分、頑丈にできておりますから」
サラザールは、これまでそうしてきたように、リリアを宥めるための微笑みを見せた。
「……そうやって、線を引くのね」
リリアは、ため息のように呟いた。首をかしげるサラザールに、リリアは、
「人でないから、なに? その前は、子ども扱いだったわよね?」
と、たたみかける。
「リリア様……」
「そう、私はリリア様で、あなたはサラザール。……どんなに、頑張ったって、隔たりばっかり!」
リリアは跳ねて、サラザールの手のひらから飛び出した。
「大嫌いなカエルだって、そばにいられるなら、このままでいいんだから!」
言い捨てて、リリアは小部屋を出た。
外に出るには、大広間を横切って行かなくてはならない。元の姿であったなら、さっさと駆け抜けて行けたものを、ままならない小さなカエルは、幾度も幾度も必死で飛び跳ねてその場から逃げだしたのだった。




