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「そこで何をなさっている!」
馬上から大きなマントを羽織った髭の甲冑姿の厳つい男性に声を掛けられ、宏一は顔を上げた。
(片腕が欠損している。断端から見て、外傷性の切断だな)
後ろには馬に乗った部下らしい男性と、裕翔と年齢の変わらなさそうな青い騎士服を着た青年、さらに十五人ほどの新兵を連れている。
ディランが女性陣を守るように一歩前へ出た。
「これはこれは、第一騎士団、新兵訓練官様のお二人と新兵の皆さんとお見受けいたします。我々は教会を訪ね、時間ができたので散歩をしております。何か不都合がございましたなら、お詫び申し上げます」
「むむ、今日は訓練を兼ねミチュパンを駆除するのだ。庭から山へ続く道を閉鎖するよう教会には通達をしたはずだが」
第一声ほど怖い人物ではないのか、訓練官は髭を撫でながら言った。
「そうでしたか。それはご苦労さまです。今日は魔力適性の儀ですから、教会も忙しく失念していたのでしょう。すぐ戻って伝えます」
(ディランさん、上手いこと言うなぁ)
謝罪しているようで謝罪しておらず、責任も取っていない。
この能力があれば、宏一も仕事をクビにならなくて済んだのか。
「うむ、よろしく頼む。……お前たち、この美しいご婦人方を教会まで安全に送り届けなさい」
腰に同じ剣を下げた新兵の青年二人を指名した訓練官に、ディランが両手を上げた。
「ご心配には及びません。一本道ですから。ミチュパン程度でしたら我が妹でも遅れを取りませんよ」
「ミチュパンって?」
宏一はこそっとマリアに聞いた。
「兎のようで鹿のような魔物だ。弱いが繁殖力が強くてな。単体では増えても問題はないんだが、よりにもよって石竜の好物なんだ。ミチュパンのいる場所に営巣するから、人里の近くでは石竜が渡ってくる前に駆除する」
竜って渡り鳥みたいに移動するのか。
異世界知識がまた一つ増えた。
その時だった。
ミチュ、ミチュ、と動物の鳴き声が聞こえてきた。
「おっ、あれかな?」
一匹のミチュパンがぴょんと山道へ飛び出してくる。
確かにマリアの言う通り、兎のようで鹿のような姿をしている。
何を隠そう、宏一は兎が好きだ。
子どもの患者が来た時のためと言いながら、ぬいぐるみをデスクに飾っているくらいには。
「かわ――」
ドシュッ。
可愛いと言おうとした瞬間、新兵の一人が剣で無表情に貫いた。
(ああ、無情)
仕方がない。
彼らにとっては害獣なのだ。余所者の宏一がどう思ったところで変わらない。
「ちなみにミチュパンは人間が食べても美味いぞ。今日は彼ら、ミチュパン肉で宴会だろうな」
マリアが少し羨ましそうに呟く。
その前では、ディランと訓練官があーでもない、こーでもないと言い合っている。
「本当に大丈夫です。遠慮しておきます」
「騎士は市民を護るのが務め。その務めを学ぶ機会を新人たちから奪うとおっしゃるか」
(悪い人ではないんだろうな)
融通が利かない人なだけである。
後ろの部下たちも呆れたような、困ったような表情をしていた。
「石竜ってのはそんなに強いのか? 裕翔が乗せてくれた小竜とはまた違う?」
「そうだな、小竜が人間の手に追える限界の大きさだ。石竜はとにかく好戦的で、でかく、人にひるまない」
(熊みたいなものか)
「へえ、格好良いんだろうな。見てみたい」
宏一がそう言った瞬間だった。
マリアが突然、山頂へ顔を向けた。
「……来る。兄上!」
次の瞬間。
ドォオオオオンッ!!!!
山の奥から轟音が響いた。




