3.2話
人が死にます
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王太子妃視点
聖女の刃を受け入れる王太子殿下の顔があまりにも穏やかで、王太子妃は微笑む。殿下と陛下の手を取って、王太子妃は首を差し出した。
前王が鬼籍に入った時に、陛下は5歳、殿下は3歳だった。残念ながらその混乱に乗じて王族派は一掃され、重役は貴族派に偏り、残った王族は傀儡となった。
殿下と陛下の2人まで消えてしまえば、公爵や辺境伯が新たに立位する事になる。それは避けたかったのだろう。そうなれば王族は傀儡とできなくなるから。
前王はあまりにも横暴だった。馬車の事故も仕方のない事だ。民を守るためだ。
だから、王族派も黙った。
王太子妃は流石にバランス調整のために王族派から選ばれたが、お互いに5歳になったタイミングで城へ住む事となり、親やメイドからは引き離された。それが今の王太子妃だ。
実権を握った宰相はこの星を終わらせようとした。愛した人がいたそうだ。深く、深く愛した人が。
前王の手籠となり、捨てられ、城下町で誰にも助けられる事なく儚くなった。助けられなかった自分と、助けなかった全てを憎んで、宰相は星を滅ぼす事を決めた。
仕方がなかったのだろう。星への悪意を語りながら、徹底的に悪政を敷けず、陛下と殿下と王太子妃となる幼子3人に悪意を吹き込みながら、こんな風になってはいけないと諭す。
滅びに向かいながら、終わりという救いを求めていた。宰相だけなら成人してから解放してやればよかった。だが、貴族達はこれ幸いと星が滅びそうな法案を通す。宰相も積極的に滅びへ導けずとも、そうなりそうな法案を通す程度の悪意に満ちていた。
腐り切っていた。
道は粛清のみ。だが、外と連絡も取れず、傀儡に徹していた3人に味方はいない。護衛騎士や側近ですら信じられないのだ。
僅かで苛烈な意志と、数少ない信頼できる情報だけを頼りに成長してきたのだ。人形のふりをしながら、その瞳のみに強い意志を宿して。
だから伝承に縋った。全てをひっくり返してくれる駒を召喚した。見知らぬ土地の2人を犠牲にした。それがこの星のためならば迷いはなかった。
王妃となるものはどちらの派閥でもないものがいいだろうと聖女を召喚した。
分かっていた。聖女の預言まではあの2人だと。
聖女を召喚し、愛し合い、子ができても、やはりどうにもならなかった。3人では足りなかった。教育も制限されていた3人では、この盤をひっくり返せる手が一つしかなかった。
外部との接触も多少は許容されるようになったが、それでも見張りはつく。
もっとやりようはあっただろう。3人ともギリギリまで随分と頭を悩ませた。
王太子妃の父親である公爵が外側からジワジワと手を打っているのにも気がついていた。待っていれば王政は安定するだろうとも分かっていた。
だが、第二王女が暗殺され、3人は覚悟を決めた。
争いとなるため子を持たないと決めていた王太子と王太子妃にとっても我が子同然だった。
王族だ。覚悟はしていたし仕方がないとも思っていた。だが子供達の代にまで持ち込みたくないと思っていたのに、巻き込んでしまった。
だから、覚悟を決めた。罪を犯し、人の人生を壊し、子を殺してでも望む未来とする事を。
子供達のおかげで覚悟を決めたのに、子供達の死を覚悟するのは変だろう。
だが、3人は決めたのだ。例え誰が死ぬ事になったとしても、民のために生きるのだと。
曲がりなりにも育ててもらって生きているのは民のおかげ。だから、子を差し出し、命を差し出し、王族として生きるのだと。
子供達に教えた預言は半分だけ。46代目の聖女は全てを壊す。もう半分は、聖女に害を与えたものを徹底的に。
46代目に初めて会った時、その幼さに覚悟を決めたはずの胸が痛んだ。こんなにも幼い子に、全てを背負わせてしまうのだと。殺しの嫌悪も、辛さも。
残してきた子がいると聞いた時に、嫌な予感がした。息が詰まった。
第四王女が言いつけを守り、足りないフリをして聖女に会いにいっているのを見て、心臓が握られるような痛みがあった。
もう、何年も見ていない子供達の顔を見るのが怖かった。
それでも、民のために生きなければ、生かしてもらった意味がない。生かしているという感覚が民になくとも、民に尽くさなければならない。
3人は3人ともこの星のために生まれたのだから、この星が良ければそれで良いのだと心を殺す。
それが3人が教えられた強烈で偏っていてそれでも王族となるために必要な思考。だから、3人は共犯となって罪を犯した。
取り返しのつかない、最低な罪を。
願うことはたった一つ。
どうかこの星が続いていきますように。




