2話
終わりが決まってる物語ってどう思う?終わりが見えるなんて最悪だと思う?でも、人生の最後は死だと決まっている。
死は覆せない。だからこそ、最大の効率で、最大の瞬間で、死を有効活用できるような場所で死ぬべきなのだ。特に、お爺ちゃんになっても、お婆ちゃんになっても、シワシワの手を重ね合わせて生きていこうなんて、穏やかな幸せを語れない人達は。
「夕陽?何読んでるんだ?」
「文字」
「それはそうだろうな。行くぞ」
ボーッと文字を追っていた夕陽の手を碧が引く。碧の綺麗な濡羽色の髪の毛が動くのを目で追いながら、夕陽は歩幅を小さめにしながらついていく。碧の瞳孔の収縮がわからない程に黒い目が夕陽の褪せることのない金色の瞳を捉える。
「聖女が落ちて来た。」
「…穴、2度と開かないように塞いだ」
「そうだな。その話もするからとりあえずメインルームへ行こう」
碧の言葉に夕陽はふわふわの淡いクリーム色の髪を揺らしながら言葉を返す。
ヴォンと音をさせながら扉が開き、セシリオのチョコレートを煮詰めたような赤みがかった茶色の目が2人を迎える。茶髪にピンクのメッシュという奇抜な髪色だがどこか爽やかな印象を与える笑顔を浮かべている。
「ドゥとエドは先に食堂にいるから、ご飯食べながらお話ししようね」
「ちょうどお腹も減ったしな。夕陽行こうか」
「うん」
3人で連れ立って歩いていると仮面にフードを装着して、ジョンが食堂の入り口で手を振っている。
「お腹ぺこりんだZE☆」
「待たせた」
碧の後ろにいた夕陽がジョンに答えて、デカい図体を小さく動かして食堂に入る。
食堂に入ると白い髪を後ろで結んでいる我らがリーダー、エドワードの姿と、その前にお行儀よく座っている赤みがかった茶髪の後ろ姿が見える。杠は赤色の目を細めて嬉しそうに手を振ってくれる。
「手は洗ってきた?」
「まだ」
「洗ってきなさい」
「はーい。なぎちゃん。行こ?」
エドワードは緑色の瞳を少し上げて手洗いうがいを促すと盛り付けをしてくれる。
「SiKI。魔力検知よろしくな」
『畏まりました』
碧は自分の人隣に声をかけて、手を洗うと席に着く。
「食べながらでいいから聞いて。まずは前の任務お疲れ様。ルーカスさんのお使いを無事に終わらせられてよかったよ」
「穴に落っこちたらこっちに戻ってこられないところだったからね」
「慎重過ぎてこっちは暇だったけどな?」
エドワードの言葉に、セシリオと杠が相槌を打つ。それに頷くと、エドワードは少し眉を下げる。
「本当は報告も兼ねてこのままシュリアス星に帰りたかったんだけど、緊急で新しい任務が課せられた。Miki。バジリア星系に航路を変更して欲しい」
『畏まりました』
船の人隣に指示を出すと、ゆっくりと船が旋回し、目的地へ向かう。セシリオがエドワードを促すように、手を止める。
「それでエド?俺も聞いてないよね?」
「…聖女が召喚されていたみたいだ」
「それジェーンちゃん聞いてないDeathぜ?」
ジェーンがスッと目を細める。ジェーンはこの団の情報収集担当だ。特に異世界人のことについて知らない事があるというのが癪に障るのだろう。顔をしかめている。
「嘘の報告が上がっていたみたいでさ。依頼主は第三王子殿下。依頼内容は『民の保護、次いで聖女の保護。元第二王子、現公爵の王座への即位』」
「はぁ?死ぬ気かよソイツ」
思わずといったように杠が声を上げると、エドワードも渋い顔をしている。冒険者は政治には基本的に不干渉でいなければならない。だが依頼人という抜け道があれば、護衛だってする。それなのに自分を守れと言わない辺りを納得していないのだろう。
「Himiちん。データーが欲しいZE☆」
ジェーンが自分の人隣に声をかけると、空中に浮かぶ透明なパネルを触って調べ始める。
「殿下曰く、見栄のためだけに一人の人生を弄んだ罪を償う時が来た。と」
エドワードが少し静かに、トーンを落として言葉を紡ぐ。それは、碧に聞かせるための言葉で、碧の為の言葉だ。
「異世界から呼ぶくらいなら滅んだほうがマシだった。とも言っていた」
「まともな感性をお持ちのようで何より」
先に聞いていたとはいえ、だいぶ胸糞が悪い内容と、限りなく都合のいい言葉に碧は薄く笑みを作る。
「碧。そう嫌味を言ってあげないで欲しい。話した限りはまともな人だったからさ」
「ママがそう言うなら」
「ママじゃない」
諭すような響きに、碧は誤魔化すために少し茶化す。エドワードはそれに乗ってくれたようで、会話は茶番として処理される。
ターンとジェーンがボタンを押した音が響く。この音が好きだそうで、人隣の設定をわざわざ変えていた。
「分かったZE☆。ジェーンちゃん、報告いたします!」
仰々しく敬礼をしながら立ち上がるジェーンに、全員が向き直る。
「予知の聖女殿が、46代目の異世界の聖女ちゃんは全てを壊す。そう予知したっぽいDeath。そして、王子はそれを未来と捉えて行動しているっぽいZE☆」
流石に調べる時間が短かったからか断言はしていないが、確定と見ていい情報だろう。だか、それならそれで厄介だ。
聖女様の予知は外れる事はない。その未来を防いだとて、別の形でその予知は当たってしまう。聖女の予知の全ての範囲が分からないが、介入するべき場面を見極めなければ、依頼内容すら達成できないだろう。
「でも、今のところそういう動きは無いZE。弱々しく大人しく、善い人で『良い子』が呼び出されたみたいだNE☆」
「怪しいね。急に連れ去られてどこにも行けないって状態になって良い子でいられるかね?身の危機を感じてのことかもしれないけど、善い人ねぇ」
セシリオの呟きに頷くと、エドワードは珍しく静かな声で方針を告げる。
「手出しはしないでいく。例えどんなものであっても。それが異世界の聖女に対するその人達ができる償いだから。ただ…」
「どうか、その先が苦しいものではありませんように」
言い淀んだエドワードに変わって、いつの間にか食事を終えた夕陽が手を組んで祈る仕草をする。誰かの幸せを祈る言葉を、躊躇せずに紡げる夕陽の横で、碧もまた手を組む。
『皆様。空間転移の準備が完了いたしました。空間転移を5回繰り返し、33時間後に到着予定です。空間転移時は10分前、5分前、1分前にお知らせいたします。最初の転移は今から10分後となります。部屋のベットで横になってお待ちくださいませ』




