渡瀬のお仕事
翌日にプレゼンを控えているので、ミーティング室に顔を出した。藤田と優愛ちゃんがパソコンを使って最後の調整をしている様子。
部屋に入ってきた俺に軽く挨拶をして、またパソコンに目を戻し作業をしている。
「あれ? 渡瀬は?」
藤田はパソコンから目を離さない。
「今日、自分の営業所に用があるらしくて、朝からそっちに行ってます」
「そっか……」
確か、こないだの飲み会で、高橋がそんなこと言ってたような……
「なんか手伝うことある?」
またもやこちらを向かずに返事がくる。
「大丈夫です。今日不在にするからって、渡瀬、昨日残って最終調整までやってくれたんで」
「そっか……」
頼られないのも寂しいもんだな。
成長するに越したことはないし、嬉しいんだけども。
これ、俺って邪魔??
この場を離れた方がいいかな……
いや、ここは差し入れでコーヒーとか買ってきた方が……
「成瀬さん、ここちょっと見てもらっていいですか?」
藤田の言葉に思わず笑みが溢れる。
が、ニコニコで行きたい気持ちを抑えて抑えて、
二人が避けてくれた隙間から、真顔で画面を覗く。
「このデータなんですけど、前に俺が調べたのと違う気がして……」
「……ああ、これはどっちをメインにして考えるかで……」
部屋の戸が開き、渡瀬が入って来た。
「お疲れ様です……」
「あ、おかえり」
チラと見て、画面に目を戻し考える。
……待てよ、ここで引っ掛かってるってことは、
もしかしてこの画面の……
マウスを触り、違う画面に変える。
「じゃあここも……」
「渡瀬?」
藤田の声にハッとしてその視線を辿る。
渡瀬は頭をうなだれ、何も答えない。
「渡瀬君? 大丈夫?」
優愛ちゃんも心配そうに声をかけ近寄っていく。
というか、優愛ちゃんって渡瀬にはタメ口なんだなと、どうでもいいことに気付く。
確か同い年だった気がする。
「どうした?」
こんな渡瀬を見たことがない。
顔を覗き込む二人の後ろから、渡瀬の様子を見る。
落ち込んでいるとはちょっと違うような、悲しそうにも困っているようにも見える。
渡瀬がゆっくり顔を上げる。
その瞳は潤んでおり、今にも涙が溢れそうだった。
「渡瀬君!? どうしたの!?
向こうの営業所でなんか嫌なことあった??」
優愛ちゃんが心配して渡瀬との距離を詰める。
渡瀬は首を横に振り、口を開いた。
「あなたに出逢えて良かったって言われて……」
藤田が呆れた顔を晒している。
「え? 何? 恋愛の話?」
「ち、違います。
今日、契約の時に相手の会社の人に言われて……
すごくすごく嬉しくて……」
「なんだそっちかよ……」
藤田が力なく呟き、続ける。
「良かったよ、嫌なこととかじゃなくて」
優愛ちゃんは渡瀬の頭を軽く撫でながら、涙目になっている。
「よかったね、よかったね〜嬉しいよね」
なんか、渡瀬と優愛ちゃんって良い感じじゃねえ?
もしかして付き合ってたり……?
そうだったら、阿部からちゃんと監視してなかったって、どやされかねないな……
いやいや、もう大人なんだしそういうのは本人たちに任せていいよな……
「ほんとに嬉しかったんです!」
涙目の瞳、少し赤く染まっている頬を俺たちに見せる。
「そんな大きな契約ではなかったんですけど、初めて一人で任せてもらった案件だったし、金額も性能もそこに適した機種を紹介しても全然駄目で、何回か修正したりもして通ってたけど、諦めて営業行かなくなったら契約するって……」
藤田も優愛ちゃんも、頷きながら渡瀬の話を聞いてくれている。
渡瀬は二人の様子を気にする余裕もなく、早口でまた話し始める。
「だから、俺の営業が嫌だったんだろうって思ってて。なのに如月所長が契約に立ち会えって言うから、実は不安で不安で行きたくなかったんです」
「そっか、だから昨日あんまり元気なかったのね」
優愛ちゃんがさり気なく言った言葉も気になる。
昨日、俺は外回りばかりであまり接してないとはいえ、顔見て会話もした。けど、渡瀬がいつもと違うことに全然気付かなかった。
俺の前では元気を装っていたのかもしれない。
けれど、優愛ちゃんの前では取り繕うことなく過ごしていたのだろうか。
どっちにせよ、気付けなかった自分にショックを受ける。
「それで? 行ってどうだったんだ?」
藤田が気になる素振りを見せ、続きが気になっている。
「俺の時に契約まで行かなかったのは、ただ単に時期が悪かっただけみたいでした。
そこの社長さん、会うなり謝って来られて。俺が営業行ってた時に契約しなくてごめんって。
ずっと気にしてたみたいでした。それで、俺が紹介した機種がとても気に入ってたって、それで言ってもらえたんです……」




