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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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26/44

【26話】初めての収穫

夏の終わりが、少しだけ近づいてきていた。


昼の熱気はまだ残っているのに、夜の風はほんの少しだけ柔らかい。


店を閉めたあと。


私は庭に立っていた。


ランプの明かりが一つ。

その周りだけが、小さく世界を切り取っている。


「……思ったより、育ちましたね」


低くつぶやく。


庭の片隅。


そこには、野菜とハーブがまとまって植えられていた。


最初はただの思いつきだった。


余った種。

行商人から買ったもの。

ミアが森から持ってきたよく分からないもの。


それが、今はちゃんと畑みたいになっている。


「これ、食べられるの?」


ミアがしゃがみ込んで、葉をつまむ。


「一応は……たぶん」


「たぶん」


ルゥが小さく笑う。


「先生らしいですね」


「先生じゃない」


即答する。


でも、少しだけ気は抜けていた。


今日は珍しく、三人が揃っている。


それだけで、庭の空気が違って見える。


「じゃあ、収穫しましょうか」


私は小さな籠を持ってくる。


ミアはもう動いている。


迷いがない。


葉の裏から実を見つけて、すっと摘む。


「慣れてますね」


「森、似てる」


短い返事。


ルゥは少し丁寧に、茎の部分を見ながら切っていく。


「こういうの、少し懐かしいです」


「やったことあるんですか?」


「昔、少しだけ」


その言葉はそれ以上続かない。


でも、それで十分だった。


私は少し遅れて手を伸ばす。


土がまだ少し湿っている。


葉の匂いが指に残る。


「……なんか、いいですね」


ぽつりと出る。


「うん」


ミア。


「落ち着きますね」


ルゥ。


そのやり取りが、少しだけ自然で。


私はふっと息を吐く。


収穫は思ったより早く終わった。


籠の中は、ちゃんと今日の分になっている。


「これ、どうします?」


ルゥが聞く。


「簡単に煮てしまいましょうか」


「いい」


ミアは即答する。


私は小さく笑う。


店の中に戻ると、少しだけ空気が変わる。


外の夜と違って、ここはまだ“昼の続き”みたいだ。


小さな火を起こす。


鍋に水を入れる。


野菜を切る音が、やけに静かに響く。


ルゥは器用に均等な大きさにしていく。


ミアは興味のあるものだけ少しつまんでいる。


「味、変わりそうですね」


ルゥが言う。


「うん」


ミア。


私は鍋を見ながら、少しだけ考える。


ただの野菜。


ただの収穫。


でも、これは自分たちで作った時間だ。


「……ちゃんと、なってますね」


思わず言葉が漏れる。


「なにが?」


ミアが首を傾げる。


「畑とか……じゃなくて」


少し考える。


「こういうの、です」


三人で同じ鍋を見る時間。


ルゥが少し笑う。


「いいですね、それ」


煮えていく音。


小さな気泡。


立ちのぼる匂い。


派手じゃない。


特別でもない。


でも、ちゃんと今日になっていく感じがする。


「……おいしいですね」


ルゥが最初に言う。


「うん」


ミアも頷く。


私は少しだけ遅れて笑う。


「よかったです」


その言葉が出たとき、気づく。


さっきまであった微妙な不安は、もうほとんど残っていない。


全部が解決したわけじゃない。


でも。


今ここにある時間の方が、少しだけ大きい。


「また、やりましょうか」


私が言うと、すぐに返事が返る。


「うん」


「いいですね」


迷いのない声。


ランプの光の中で、鍋の湯気がゆっくり揺れる。


夜は静かだ。


でも、今日はそれが怖くない。


むしろ少しだけ、心地よかった。

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