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二度目の人生は「ゆるりと」生きることに決めました  作者:


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【11話】冬の日の小さな騒ぎ

その年の冬は、早くやってきた。


朝、扉を開けた瞬間、思わず声が漏れる。


「……わあ」


外は一面の白だった。


道も、屋根も、森の入り口も、すっかり雪に覆われている。


足を踏み出すと、きゅっ、とやわらかい音がした。


町はずれのこの場所は、いつもよりずっと静かだ。


店に戻り、暖炉に火を入れる。


ポットに水を入れて、火にかける。


棚の上には、編みかけの手袋。


昨日、ルゥに教わりながら作ったものだ。


まだ片方だけ。


もう片方も、ゆっくり仕上げるつもりだった。


——からん。


扉が開く。


「こんにちは……」


雪を肩に乗せたルゥが入ってきた。


「ずいぶん降りましたね」


「はい……思ったより積もってました」


ルゥは少し息を整えながら椅子に座る。


頬が赤い。


私は温かいミルクを差し出した。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


両手でカップを包むように持つ。


湯気がゆっくり上がった。


しばらくすると、また扉が鳴る。


今度はミアだった。


肩に雪を払って、店に入る。


「森、きれい」


「雪は平気なんですか?」


「うん」


短く答えて席に座る。


暖炉の火を見つめながら、ゆっくり手を温めている。


昼に近づいたころ。


外から、何かの音が聞こえた。


人の声。


私は窓をのぞく。


「……あら」


道の途中で、馬車が止まっている。


車輪が雪に取られて動かないらしい。


御者が困った様子で周りを見ている。


少しして、店の扉が勢いよく開いた。


「すみません!」


若い御者の男性だった。


「馬車が動かなくて……少し休ませてもらえませんか」


「もちろんです」


私はすぐに頷いた。


暖炉の前の席を勧める。


御者はほっとした顔で腰を下ろした。


「助かりました……」


肩の雪がゆっくり溶けていく。


私は自分用に作っていた温かいスープを用意した。


ルゥは少しそわそわしている。


やがて小さく言った。


「……あの」


御者が顔を上げる。


「私、少し手伝えるかもしれません」


「え?」


「押してみます」


ルゥは控えめに言う。


外に出ると、雪はまだ降り続いていた。


馬車の後ろに立つルゥ。


「少しだけ、力を入れますね」


そう言って、ゆっくり押す。


車輪が雪を踏みしめる。


ぎし、と音を立てて動いた。


「おお……!」


御者が驚く。


もう一度押すと、馬車はゆっくり道に戻った。


「本当に助かりました!」


御者は何度も頭を下げる。


袋を差し出してきた。


「よかったら、これ」


中には乾燥果物が入っている。


冬の保存食だ。


御者は私へ差し出す。


私は一瞬だけ考えてから、隣にいるルゥを見る。


「今日はルゥが頑張りましたから」


そう言うと、袋をそっとルゥの方へ向けた。


ルゥは目を丸くする。


「え、私が……?」


「はい」


御者も頷く。


「ぜひ受け取ってください」


ルゥは少し戸惑いながら、袋を受け取った。


「……ありがとうございます」


手の中の袋を、しばらく見つめる。


それから小さく笑った。


その表情は、どこか不思議そうでもあった。


店に戻って、暖炉の前に座る。


ルゥは袋を膝の上に置いたまま、まだ少し考えている様子だった。


「どうしました?」


私が聞くと、ルゥはゆっくり言う。


「……こういうの、初めてです」


「お礼ですか?」


「はい」


袋をそっと撫でる。


「自分でも、誰かの役に立てるんだなって」


その声は、とても静かだった。


ミアが隣で言う。


「最初から立ってた」


ルゥが照れくさそうに顔を上げる。


「そうかな……」


「うん」


短い言葉。


でも、ちゃんとした肯定。


ルゥはもう一度袋を見る。


そして、少しだけ誇らしそうに笑った。


「ふふふ」


ルゥは少し照れたように笑った。


暖炉の火が、やさしく揺れる。


外はまだ雪。


店の中は暖かい。


私は棚の上の手袋を見る。


「……完成させないといけませんね」


「手袋ですか?」


「はい。冬は長そうですから」


ルゥがうれしそうに言う。


「じゃあ、また編みましょう」


窓の外は白い世界。


店の中には暖炉と湯気。


三人で過ごす冬の午後。


静かな雪の日は、ゆっくりと流れていった。

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