第三十九話:両親の愛
「いやー!昨日の夜は迷惑をかけてすまなかった!つい、楽しすぎてしまった!」
「・・そうですよ。お父様。でも、私たちというよりはお母様に謝っておいてください。」
「ははは。もうお叱りの言葉を受けた後さ。」
夜が明け、清々しい朝が来た。カウフマン侯爵は笑いながら謝罪を繰り返した。その後ろには夫人が恐ろしい形相でこちらを見ている。お叱りを受けたのは本当のようだった。
「領地に帰るまでにまた時間がかかるからなあ。ちょっと今日は早めに帰るとするよ。」
「そうですか。気を付けて帰ってください。また私たちも遊びに行きますし、こちらからも招待をします。」
「待ってるわ、ルイザ」
侯爵夫妻はルイザに抱き着いた。そして耳の近くで声を小さくして話しかけた。
「昨夜は大変だったみたいだね。見る感じ、私たちが出る幕ではなさそうだったから静観したけれど・・何かあればすぐ相談しなさい。」
「護衛騎士たちがしっかり対応しているようだったからね・・いつでも私たちはあなたの味方よ。」
「・・・お父様、お母様・・ありがとう。詳細を確認してから、伝えようと思っているの。もう少し待ってくれたら嬉しい。」
「ええ、いつでも待っているわ。」
一通り話し終えると3人は離れた。そして両親はシンシアを見て言った。
「シンシア、何か自分では手に負えない、親にも頼れない・・そんな時が仮に、仮にあれば、遠慮なく私たちの所に来なさい。」
「・・おじい様、ありがとうございます。」
「まあ、そういう時が来ないことが一番なんだけどな。」
わっはっはと侯爵は笑う。シンシアは笑顔で答えた。
「それじゃあ、ルイザ、シンシア、ヨハス君。短い滞在だったけど楽しかったよ。ありがとう。」
「こちらこそ。また来てね。」
4人を乗せた馬車は軽やかに門をくぐっていった。ルイザは郷愁の気持ちを少し味わいながらも、自分に改めて味方がいることが分かり安心した。
馬車が見えなくなった後、ルイザは後ろに控えている使用人たちに向かって声をかけた。
「数日前から準備ありがとう!片付けも頑張りましょう!」
「「「「はい!!」」」」
声掛けの後全員がバラバラになり各々の仕事に就いた。ルイザとシンシアも歩き始めた時、ヨハスが声をかけた。
「ルイザ、昨夜のことなんだけど・・狙撃してきた奴はどうなったんだい?侯爵たちには影響がなかったようて、安心したけど・・」
「ああ、昨日、護衛騎士たちに確認してもらったんだけど、暗殺者は死んでいたわ。」
「・・そっか。そしたらどこから来た奴か分からないね。不安だなあ。」
(よし!計画通りだ。暗殺者は死んでいる。これでどこの依頼か分からないから、ルイザも不安になるはずだ。周囲に護衛を称した使用人を増やすことは受け入れやすい!)
「どこからか分からないのであれば、これからも狙われる可能性があるよね?ルイザ、使用人を増やしたほうが良いんじゃない?昨日みたいに献身的に助けようとするメイドとかさ。・・そのほうが僕は安心できるけどなあ。」
(来たわね・・)
「私にはシイナがいるし・・それに昨日程度の狙撃じゃ私避けれるわ。それに私の代わりに死ぬと言っているメイドを増やすのではなく、護衛騎士を増やすほうがよっぽど健全な気がするから・・提案はありがたいけどやめておくわ。」
(なんだって!?ルイザが僕の提案を却下するなんて!!!)
ヨハスは心の中でショックを受けた。今までの経験上、自分の提案を却下することはほぼ無かったからだ。
シンシアはルイザの横に立ちながら2人の様子をじっと見ていた。
「・・・護衛騎士は基本男だろう?ルイザは女じゃないか。同性じゃないと一緒にいることができないことだってあるだろう?」
「外で待ってもらうから大丈夫。寧ろか弱いメイドがいると私が庇いそう。」
「ぐっ・・・」
ここでもヨハスは言い負けた。ルイザが騎士並みに強く、ルイザ以上に強い女性はここ、クレアトン伯爵邸にはいないからだ。
「・・そうだね。確かにそうかも。そしたら昨日の献身的なメイドは僕の専属にしても良いかな?ああいう子がいると僕自身、安心できるから。」
「それはいいわよ。あなたが精神的に安定するのであれば。」
「わかった!ありがとう。」
ヨハスは当初の目的であるルイザの専属にはできなかったものの、マリサのメイドとしての地位をあげることには成功したため心の中で喜んでいた。
シンシアは2人のやり取りを見てずっと思っていた。
(お母様、やっぱり『前』と違う・・。もしかしてお母様も戻ってきたの・・?)
心の中で疑問が浮かび上がる。かといって、確信がない今ルイザに問うということはしたくなかった。
だが、本日の早朝、ハクを護衛騎士にしたいと言った時、ルイザたちが自分を見て驚いていたことも気づいていた。自分が10歳には思えないような発言をしているのは気づいていた。
(信じてもらえないかもしれないし・・どうしたら良いだろうか。)
シンシアはまぶしい太陽を見ながら考えていた。




