第三十八話:転身
地下牢で暗殺者の少年は少しずつ話し出す。内容は驚くべきことばかりでルイザたちは言葉を失っていた。
「・・俺の家族がひもじい思いをしているのも、毎年寒さに凍えているのも、多額の税金を課されるのも全てクレアトン伯爵・・様のせいだと聞いていた。ずっと聞かされていたんだ。俺が伯爵様を殺したら、みんなの英雄になれると。」
「・・・」
「俺だって断ってたんだ。人を殺すなんて、俺にはできないって。亡き父もそう言ってた。人は殺すなって。そしたらガスティン侯爵が姉を引き合いに出してきたんだ。姉の命が惜しくないのかって。俺がいない間、姉はガスティン侯爵家の奉公に出たみたいで、人質みたいになってた。それを聞いて俺は、俺は・・!やるしかないだろう・・!!」
少しずつ声のボリュームが大きくなり、最後には声を荒げ叫ぶようにいい切った少年は震えていた。その震えは怒りからなのか悲しさからなのかは分からなかった。
はぁはぁと荒ぶった息を整えた後少年はルイザへ真剣な目を向けた。
「本当に申し訳ありませんでした!!命を狙うだなんて謝っても足りないと思います。・・俺はどうなってもいいです。捨て駒ですし・・。死ねというのなら死にます。ただ!!ただ・・姉は、そして俺の家族は・・どうか助けてくれませんか、殺さないでくれませんか!一生のお願いです!!」
暗殺者は地下牢の中で土下座した。全身が震えている。
ルイザはその姿をじっと見て、ふーっと息を吐いた。
まさかここまでとは思っていなかった。家族を人質に取るなんて。悪党としか言いようがない・・。
(さあどうしようか・・)
ルイザが思考を巡らせていると、後ろに隠れていたシンシアが前に出てきた。
「ねえ、顔を上げて。」
「・・?」
ルイザの声ではない、少し幼い声が聞こえたため、少年は少し疑問に思いながら頭を上げた。目に入ったのはルイザそっくりな見た目をしているが、同い年くらいなのに何かオーラが後ろから出ているような女の子が立っていた。見た目はかわいい女の子の口から鋭い言葉が刃のように出てきた。
「あなた。本当に死んでもいいの?今まで騙されて、散々好き勝手に利用されて。何もせずにそのままお母様に全てを託して死んでもいいの?」
「・・・・」
「ねえどうなの?」
「・・なんなんだよ。・・そんなの良いわけないだろ!」
「それならどうしてそう言わないの?」
「え?」
「言わないと、あなたの希望は殺してほしい、ただそれだけになる。その後お母様どうしたかはあなたは分からない。他人に委ねるだけ。それを家族はどう思うでしょうね。あなたという存在がいなくなり、急にお母様が出てきても信じられないでしょうし。あなたみたいにもう侯爵の手下になっているかもしれない。」
「・・そんなわけ・・」
「ないとは言い切れないでしょう。」
グっと言葉を飲み込む。自分が死ねば、伯爵が何とかしてくれると思っていた。けどよく考えたら、俺の家族は伯爵は全く知らない。俺がここにいる間、ガスティン侯爵が何かを家族に言い、新たな手下にしているのかもしれない。その考えが頭を巡った。
「・・じゃあどうすればいいんだよ!俺にはこの方法しか考えつかなかったんだ!!!」
「やり返したい、家族を守りたい・・そう言えばいいじゃない。」
そう言われた少年は、目を見開いた。
シンシアは真剣な表情でその顔を見ていた。
「あなたがそうしたいと言えば、私は協力する。今の話を聞いていると、正直・・他人事とは言えないもの・・。」
「・・・・・本当か?」
「ええ。」
「そしたら俺、やり返したいし、家族を守りたい、助けたい・・!」
「うん。・・お母様、彼はそうしたいそうです。」
「んえ!?」
シンシアと暗殺者の少年の話をすぐ近くで聞いていたルイザは、シンシアは10歳のはずなのに、なぜこんなに大人びた会話ができるのだろうかと不思議に思っていた。そんな絶妙なタイミングで急に話しかけられ驚き、声が裏返ってしまった。
「彼は、家族を守りたいそうです。自分の力で。」
「そ、そうね・・。」
「お母様、彼を私の護衛騎士の1人にすることはできますか?」
「ええ!シンシア、それは本気なの?」
「はい。この人、私と同い年くらいですし、それに・・何かと共感できることがあるから・・。」
「・・騎士にするのはいいけど、護衛騎士にするには実力が足りないだろうから・・まずは騎士見習いってところね。あなた、どうなの?騎士になりつつ、家族を守るっていうのは賛成なの?」
「え。ええ?」
少年は目を白黒させていた。元々死ぬ気でルイザに家族のことを頼んでいたのに、シンシアが現れてから一変した。死ぬのではなく家族を助けるために生きることへ変わったのだ。
(これはチャンスだ。このチャンスを掴まなければ、俺の家族はみんな死ぬ・・)
少年は頭の中を切りかえて、ルイザに向き直した。
「俺は!騎士になりたいです!!どうかよろしくお願いします!!!」
「分かったわ。・・アタン、聞いてた?」
「・・ずっと後ろにいたから聞いてますよ。騎士見習い、久しぶりだなー。まあ沢山しごいてあげるよ。」
「はい!!!よろしくお願いします!!」
先ほどまで悲痛の表情を浮かべていた少年の顔は、年相応の顔に変わっていた。彼は『前』と変わり、新たな道を歩み始めていた。
「ところで、あなたは何ていう名前で年齢はいくつなの?」
「はい!ハクといいます!15歳です!」
「「「ええ!15歳!?」」」
「はい!そうです!」
キラキラ笑顔でハクは答えた。栄養があまりいきわたっていなかったからだろうか、彼はシンシアと同い年くらいに見えていた。
(まずは食べさせることから始めないとね・・)
ルイザはそう思いながら指示を出した。アタンは地下牢の鍵を開け、彼を繋いでいた鎖を外した。
「ほら、ハク。行こう。」
すっとアタンが手を出す。ハクは目の前に出された手が輝いているように見えた。
「はい!」
ハクは手を握り、外に出た。ここに来た時と違う、生まれ変わっているような気分だった。




