第三十七話:暗殺者は語る
暗殺者の少年はアタンが地下牢から出た後、1人暗闇の中で考えていた。
ルイザたちが言っていたことは、嘘ではない。100%真なのかと言われたらそうではないかもしれない。けど、口に入っていた丸薬。あれは毒なのは間違いないだろう。
(泡を吹いて倒れたネズミは仮死状態ではない・・これは確実に死んでいる・・)
丸薬の粉を食べたネズミはピクリとも動かない。確実に絶命している。・・つまり、自分に依頼をした《《あの貴族》》は最初から自分を殺すつもりで依頼をしていたということだ。自分の、自分の家族の境遇を見たうえで、金でゆすって、もっと良い待遇を用意すると言葉巧みに自分をだまして・・
「畜生!」
地下牢で叫ぶ。そして考えた。《《あの状況》》で自分には他に選択肢があったのだろうか。どうやったら自分たち一家は寒い冬を乗る超えられるだけの食料を確保することができたのだろうか。
(俺にできることなんて限られているのに・・せめて家族の命だけでも守ってくれないだろうか。俺はどうなってもいいから・・家族だけでも・・)
暗闇の中、少年はそう思いながら重たくなってきた瞼をゆっくり閉じた。
その日の早朝、ルイザはアタン、シイナと共に地下牢へ向かっていた。
暗殺者の少年と話をするために。
(昨日色々話したけれど、詳しく話はしてくれなかった。一夜明けて・・彼はどう考えたのかしら・・)
年端の行かない少年を暗殺者として、そして自死をだますような形で仕向けたガスティン侯爵も、それを良しとしたヨハスも最低だと思う。ただ、今はこうして命は助けることはできた。これからこの少年をどうするのかは自分にかかっている。
(もうすぐでこの地域に厳しい冬が来る。地下牢でこの冬を越すことは命を落とすことと同等。・・彼はどう選択するのかしら。)
ルイザは考えながら歩いていた。
その時シンシアがひょこっと顔を出した。
「・・お母様?」
「ひっ」
びくっ
ルイザとアタン、シイナは3人して肩を震わせた。
早朝の厨房ですらまだ働き始めていないこの時間。薄暗く、明るさはないのにその中からシンシアがまるで幽霊のように話しかけてきた。肌は白く綺麗で、銀髪のため全体的に白く見えそのように見えてしまった。
「あ、ああシンシア・・お・おはよう。ごめんね年甲斐もなくその、驚いちゃった。」
「あ、ごめんなさい。明かりもつけずに。私、今日やけに早く目が覚めてしまって・・。トイレの帰りにお母様たちを見つけたから・・どうしたのかなって。」
「・・そう。ちょっと私たちは行くところがあるから・・」
シンシアの問いに返答しつつもルイザは焦っていた。最近やけにシンシアは鋭い。こういう時は多分ついてくると言うだろう。そういう確信があった。
(・・これは昨日の襲撃の件での対応よね。『前』の私は何かあったことは知っていたけど・・詳しくは知らない。ついていこう。)
「・・お母様、今からどこに行くの?・・私も行ってもいい?」
「・・今回はやめておいてもいいかも。あなたは特に被害を受けていないし。そんなに綺麗なところでもないし。」
「お母様、私も何が起こっているのかを知りたいの。昨日、何かあったんでしょう?知っているの。乳母に止められたから行けなかったけど・・。知らないままは嫌だから、私も連れて行って。」
ルイザはちらりとシイナとアタンを見る。2人とも少し考えた後に頷いた。ルイザも頭をポリポリ掻きながら頷いた。
「そこまで言うなら・・行こうかシンシア。ここでは説明はできないから、地下牢に行ってから説明するね。」
「はい。」
小声で話をしながら、一行は地下牢への階段を下って行った。幸運ながら、4人以外の使用人たちは誰一人と通らなかった。
地下牢の明かりを1つ1つアタンがつけていく。その明かりの下を下りながらルイザはシンシアに説明を始める。
「実は、昨夜襲撃があったのよ。まあ特にけが人はいないんだけど・・そこは知ってる?」
「はい・・護衛が来てくれました。私に問題がないことと外の様子を確認してくれました。特に問題はないから大丈夫と言われました。」
「その襲撃してきた暗殺者が今地下牢にいるのよ。」
「え!そうなんですか!?」
シンシアは驚いた。
『前』とは違う。暗殺者、外部からの襲撃者は全員死んでいったのに、生き残りがいるということに。
「その彼に、黒幕の情報とかもろもろを吐いてもらわなくちゃいけなくてね。それで今、向かっているの。」
「・・・私もその彼に会いたいです。」
「・・最初は私の後ろに居てね。」
「はい。」
暗殺者がいる、地下牢まで進む。足音と明かりがと灯されたことで彼はむくりと、まぶしそうに眼をシパシパさせながら起き上がった。
「・・・まぶしい。」
「おはよう。夜は休めたかしら。一夜考えてどう・・?」
「・・・・考えました。お願いがあります伯爵様。話しますから・・。だから俺はどうなってもいいから、家族を助けてくれないか。」
「・・とりあえず話を聞かせて。」
ルイザの返答を聞いた後、彼は決意をしたように少しずつ話し始めた。
「俺はファートン子爵家の外れの村に家族5人で住んでいる平民です。父が昨年の流行り病でいなくなってから、母と長男の俺と、弟1人、姉1人妹1人で何とかやって行ってたんだけど・・今年は農作物がうまく育たなくて、税金が支払えなかったんだ。その税金の代わりに妹を税代わりに連れて行かれそうになったんだけど、そんなときに助けてくれたのがガスティン侯爵様だったんだ。」
ルイザは驚いた。昨年は税金を上げることができたと話をファートン子爵から聞いてはいたが、不作だったことは知らなかった。現ファートン子爵は不作ということを知りながら領地民に多額の税を課していたのだ。
「・・ガスティン侯爵様は、妹を助ける代わりに自分の仕事の手伝いをしてほしいと俺に頼んできたんだ。もちろん、引き受けたよ。最初は夜間に《《物》》を運ぶ、運送業だったんだけど。俺は身体能力が高いみたいで、それに気づいた侯爵様が俺にこの仕事を頼んできたんだ・・。税金を上げ、ファートン子爵領地まで影響を及ぼしてくるクレアトン伯爵を殺さないといけないって。」
全員息を飲んだ。ガスティン侯爵が暗殺を企てていることがこれではっきりと明確になったからだ。嘘までついて・・。




