63 戸惑い
「俺は、まだ中等部なのに、侯爵を継ぐだなんて……」
弟は、自分のベッドの上で正座した。父親の突然の行動に戸惑っているようだ。縮こまってしまい、侯爵としての自信の欠片も見えない。
そういえば、父から侯爵としての教育を受けたことなど、見たことがない。
「中立派の長だって、俺に務められるわけがないよ」
だろうね……父が、孤高の戦士と言うほどの、百戦錬磨の貴族たちだから。
でも、私も、第四の派閥の長に任命された。私だって、高等部の生徒だよ。もう、どうとでもなれだ。
「俺は、橋の下から拾われてきた子供であり、家督は王太子妃となる姉様が継ぐと考えていた」
弟にも「拾われてきた子供」と言っていたのか、あのクソ親父は。
私も何度も言われている。子供を叱る時の決まり文句だったが、弟は素直に信じていたようだ。
ウソだと見破っていた私のほうは、本当に「拾われてきた子供」だと、侯爵家から籍を外されたが……あのクソ親父め。
「領地経営だって思わしくないし……納税も滞っているし、どうすればいいのか」
名産のエメラルドの採掘が思わしくないため、収入が激減し、王国への納税ができなかった。そのため、クソ親父が責任をとって、一芝居打ったのだ。
「納税は完了したよ」
私の話に、弟は、驚いて顔を上げた。
まぁ、サクラが上手くやってくれたおかげだけど。
「鉱山から出るクズ石は、貴重なアレキサンドライトという宝石だったんだ。これからの採掘は、国王による直轄事業となるから、心配いらない」
弟は、口を開けて、固まっている。
私は、弟……いや、新しい侯爵を安心させた。
でも、国王による直轄が、どういうものかは、私も知らないけど……まぁいいか。
「私のクズ石は、アレキサンドライトという宝石なんだって」
ルナちゃんには分からないように、弟だけに分かるように、瞳を見せて話した。
「姉さまは、誰かに話したの?」
弟は不安そうに訊いてきた。瞳の色は、これまで誰にも言ってこなかった秘密だから。
「うん、信頼できる人ができたの」
そうだ、私には信頼できる人ができたんだ。これまでとは違うんだ!
「俺は、どうすればいいんだ?」
弟は身体をねじり、もんもんと悩んでいる。
「まずは服を着ろ、サルマタ一丁では恥ずかしいだろ」
私は、したり顔で言ってやった。
「サルマタ? 競技用トランクスですよね?」
ルナちゃんは、エリアルと一緒に、不思議がっている。
え? 私の知識は古いの……三歳しか離れていないでしょ!
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ、下にある☆☆☆☆☆から、作品を評価して頂ければ幸いです。




