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第79階層 調査対象は魔物と人材

バリウラス「実家の爵位ですか? 男爵です」


 思いつきからやってみた捕食スキルの実験は、なんか凄い結果になった。

 実験はまず、腕と翼が無くて二つの頭部と尻尾がある二足歩行竜、ツインヘッドドラゴンにイータースライムが寄生させる。

 続いてキラーアントを召喚して、こいつを人型に変形で生きる変形魔物にしたら、イータースライムを寄生させたツインヘッドドラゴンに捕食させる。

 するとツインヘッドドラゴンはゴーレム化して、アリの外殻を鎧のように纏い、さらに人型への変形ができるようになった。

 上下が逆転して双頭が脚になり、二本ある尻尾が分離、腰辺りが左右に別れて脚が腕になって、分かれた腰辺りから顔が現れ、最後に分離した二本の尻尾が剣になって両手に握られて変形完了。

 どうやら変形魔物を捕食すると、変形能力まで受け継ぐようだ。

 続いて合体魔物を捕食させるため、サイクロプスパンダとハイドロタイガーを召喚して合体魔物にして、以前に作ったパンタイガーゴーレムへ合体してもらった。


(これ、捕食できるかな)


 そんな不安は難無く捕食されたことで解消され、変化を見守る。

 外見の変化は牙が鋭くなった事と、鎧のような外殻以外の体色が黄色と黒と白に変わったくらい。

 能力は確実に向上しているし、スキルもいくつか習得している。

 ただ、名称がツインヘッドドラゴンゴーレム改なのはどうかと思う。

 そして予想外の事が起きた。


「これは……合体した状態の魔物を捕食したからか?」


 人型への変形能力はそのまま、ドラゴン型の時だけ分離できるようになった。

 胴体が首の分かれ目辺りから縦に割れ、断面が少しだけ変形して新しい脚が生える。

 まるで脚が生えた蛇か、腕が無い恐竜のような外見をしたこいつらの名称は、ツインヘッドドラゴンゴーレム改・分離体。

 名称は変わらず微妙な上に能力は分離したことで半減し、スキルもそれぞれが別々に受け継いでいる。

 合体してツインヘッドドラゴンゴーレム改に戻ると能力も元に戻るようだけど、この分離能力はどうなんだろうか。

 いや、捕食スキルの効果で元々の能力が高くなったから、能力が半減しても充分に強いんだけど。

 どうやら合体状態の魔物を捕食したことで、ツインヘッドドラゴンゴーレム改が分離体同志の合体扱いになったようだ。


(不意打ちや緊急時の回避には使えそうだし、撹乱させながらの戦い方ならいけるか?)


 実験で終わるつもりが、いつの間にか有効な戦闘方法を考えている。

 だって使えそうなんだから、使わなきゃ損だろう。

 とりあえず有効な戦闘方法を考案して、それを指導して従魔覚醒の影響を与えよう。

 そのためには形態に応じての動きの特徴と、どんな攻撃ができるのかを把握する必要がある。


「よし、お前達ちょっと来い。俺の指示通りに動いてみてくれ」

『『はい!』』


 分離した状態で声を揃えて返事をする辺り、コンビネーションは良さそうだ。

 そういえば使役スキルのお陰で言葉として聞き取れるけど、どういう鳴き声してるんだろ。


「まずは分離したまま、自由に動いてみてくれ」


 指示に従ったツインヘッドドラゴンゴーレム改・分離体がそれぞれ動き出す。

 その動きを観察して、続けて合体状態で形態別の動きを確認する。

 分離時は能力こそ合体時の半分になるものの、小回りが利いて鋭い切り返しができている。

 おまけに体が軽くなったからか、速さ自体はそれほど落ちているように思えない。

 合体時とは質の違った速さの使い分けに加えて、変形すればまた動きが変わる。

 変形や合体をする魔物を作った時もそうだったけど、形態が一つ増えるだけで戦いの幅が増えている。

 捕食スキルが、ここまで深いものだとは思わなかった。


「捕食対象次第では、何段階もの変形や分離、合体が可能ってわけか」


 そう思っていたんだけど、そんなに簡単な話じゃなかった。

 まだ二回しか捕食していないから三回目に入ろうとしたら、無理だと言われた。


「もう三体捕食しました。既に限界です」


 どうやら合体状態で捕食しても、それを二体同時として認識して二回分を使ってしまったようだ。

 つまり合体魔物は、四体合体以上は捕食不可能というわけか。

 この実験結果はしっかり記録しておこう。

 合体魔物や変形魔物が捕食できるということ、合体魔物の捕食には制限があると分かったから収穫はあった。

 おまけに実験で完成したツインヘッドドラゴン改だって、充分に戦力として期待できる。


「とりあえず、この件は明日のミーティングで伝えておくか」


 そう呟いて育成スペースでの仕事を終えた翌日、この事を皆へ報せると久々にイーリアから崇拝の眼差しを向けられ、変形魔物や合体魔物に寄生させるとどうなるのか調べようという意見がエリアスや先生から寄せられた。

 イーリアの眼差し以外は予想していたから、新しい人員の研修が終わった頃にやろうと伝えておいた。

 それまでは運営業務に集中して、エリアスとローウィが抜けた穴を皆でカバーしよう。

 肝心の人員についても、後日調査所に依頼して引き抜く人員を探す旨を、引き抜く対象を含めて伝えておく。


「別にもう五、六人ぐらい奥さんが増えても、私は気にしませんよ? こっちでは普通ですし」

「悪いがその普通にだけは、どうあっても適応しきれない」


 こちとら一夫一妻制の日本から来た、ハーレム願望がさほどない元高校生の現ダンジョンマスターだ。

 これ以上の嫁や愛人の増加は気持ちの面で厳しい。


「引き抜きに成功したとしても、うちはだいぶ特殊だから初心者として扱うつもりでいてくれ」

「そうですね。特に魔物については、驚かされることばかりですから」

「育成スペースに畑はあるし、魔物は武器化されるし、毎日収入や侵入者の数の記録を取るとか事務仕事も多いですし」

「おそらく今回の方々も、そう簡単には慣れないでしょうね」


 他所のダンジョン運営を知っているイーリアとラーナとエリアスが、ここのやり方を知った時のことを思い出して頷き合っている。

 実地はしていなくとも勉強だけはさせられていたアッテムも、控えめにうんうんと頷いている。


「それで、新しい人達は、いつ頃、来られるんです、か?」

「そればっかりは調査所次第だ。今回は素行調査もやってもらうからな」


 仕事ができても素行が悪いんじゃ、仕事だけでなくプライベートにも影響が出かねないからな。

 なにより、ここはもう俺達の家のようなものだし、リンクスとユーリットの妻達だっている。

 それをこんなことで壊したくない。


「柊君、歓迎会はどうする? 鉄板使う? 鉄板引っ張り出す?」


 鉄板で歓迎するのが既に決定しているっぽい先生が、期待の眼差しを向けている。


「……どうぞお好きに」

「じゃあ好きにするね! どうしよっかな。お好み焼きにしようか、もんじゃ焼きにしようか、焼きそばにしようか。あっ、そばめしって手もあるか」


 この人はどうして、そこまで鉄板での料理に拘るんだろう。

 というか、普通に焼肉とかバーベキューでいいじゃないか。

 まあ、好きにしろって言っちゃったんだし、先生に任せよう。


「じゃあこれでミーティングは終了。各自仕事に移れ」

『了解!』


 敬礼をした皆が各々の仕事に散っていく。

 なんか魔物の間だけじゃなくて、いつの間にかこっちにまで敬礼が広まってる。

 広めたのは誰だ、そしていつから広がりだした。

 そんな些細な事を考えつつも仕事に打ち込み、数日を過ごした後の定休日、イーリアと香苗を伴って調査所へと出向いた。

 到着したのは古い平屋の一軒家で、表に調査所の看板とダンジョンギルド御用達の札が出ている。


「民家をそのまま利用している感じだな」

「実際その通りなんです。手前が職場で、奥が居住部となっています」


 この外見でギルド御用達なんだから、調査員の腕が相当良いんだろうな。

 中に入ると、山羊人族の老婆が受付越しに出迎えた。


「これはこれは、ようこそいらっしゃいました。私、当調査所の所長のメーメと申します」


 所長なのか。

 他の職員の姿が見えないけど、外で仕事中なのかな。


「ほう。そのお姿、ひょっとして異世界人のダンジョンマスターですかな?」

「そうですが……」

「長生きはするものですな。首輪の無い人間を見るのは初めてですわい」


 つくづく、ここにいる人間は奴隷だけなんだと知らされる発言だ。


「それで、本日は何用ですかな? 気になった娘っ子の調査でも、奴隷市場の調査でもいたしますよ」

「実はですね」


 受付越しに要件を伝え、調査対象について述べていく。

 メーメさんは微笑んだ表情を変えず、時折相槌を打つだけでメモを取る素振りも無い。

 この会話だけで全部記憶できるのか?

 だとしたら凄いな。


「ということで、お願いしたいのですが」

「はい、分かりました。で、なんでしたかのう? というか、誰でしたかのう?」


 おいおい。


「ふぉっふぉっふぉっ、冗談ですじゃ。年寄りだからこそできる冗談ですじゃ」


 この人、初対面の相手にはいつもこれをやっているのか?

 俺だけじゃなくて、隣にいるイーリアと後ろに控えている香苗も引っかかったのか、冗談と分かってホッとしている。


「エリア内の潰れそうなダンジョンから、引き抜けそうな人材を調査。対象は既婚者か男性で、素行調査も行うということでよろしいですかな?」

「お願いします」

「承知しました。その依頼ですと、料金は前金で金貨五枚。調査後にもう金貨五枚いただきます」


 料金はそうやって支払うのか。

 まあ、その方が調査に手を抜かないし、依頼した側も全額渡して逃げられる心配も無いからだろうな。


「では金貨五枚、お支払いします」

「確かに。皆、聞いておったな」


 料金を受け取って誰もいない後ろに向かって声をかけると、どこからともなく忍装束姿の女性が数人現れた。


「ご依頼の対象の絞り込み、素行調査」

「よし、行きな」


 その一言で忍装束の人達は素早い身のこなしで姿を消す。

 なにあれ、マジものの忍者?

 どうしてあんなのがいるんだ。

 俺のように、異世界から来た誰かから伝わったのか?


「調査が終わったら、報告書を届けに向かわせます。その者に、残りの金貨五枚を支払ってください」

「分かりました。よろしくお願いします」


 忍装束は気になるけど、仕事をきっちりやってくるならいいか。

 気持ちまで忍者なら、与えられた仕事は何がなんでもやってくれるだろう。

 そう思いつつ調査所を出ると、香苗が話しかけてきた。


「なあ涼、なんであいつら忍装束だったんだ?」

「俺が知るか。イーリアは知っていたか?」

「服装のことは知っていました。ですが、あの身のこなしは知りませんでした」


 知っていたとしても驚くって、あの身のこなしは。

 身軽なんてものじゃない、本物の忍者みたいだ。

 本物を見たことは無いけど。


「調べるのって、どれくらい掛かるな?」


 そうだなあ、該当するダンジョンを探して、その中からこっちの指定した人材を見つけて素行調査もする。

 ダンジョンと人材はすぐに見つかるかもしれないけど、素行調査には時間がかかるだろう。

 一日や二日程度で調べられることじゃないし、短くとも七日くらいか?


「すぐには調べられないだろから、焦らずに待とう。頼んだ以上、あの人達を信用するしかない」


 不十分な調査結果を持って来られても困るし、ギルド御用達なら変な仕事はしないだろう。

 だから俺達は報告が届くのを待てばいい。


「よし、ちょっと農場の方に顔を出してから帰るか」

「そうですね。ネーナさん、調子はどうでしょうか?」


 最近は少しマシになってきたって聞いてる。

 つわりが酷くて生臭物は全部駄目で、生野菜や果物ばかり食べてるって話だ。

 本人曰く、ドライアドはこういう食事の方が好ましいから気にしないでいいと言いながら、皮を剥いた生タマネギをかじっていたらしい。

 辛くないのか、生のタマネギ。


「何か土産とかあった方がいいんじゃね」


 それもそうだな。

 今日はまだ「異界寄せ」使ってなかったから、向こうで何か召喚するか。

 何にしよう。ネーナが食べられるよう野菜か果物に限定して、それでいてまだ召喚していなくて、こっちに無い物。

 ……割とあるな、特に果物は。

 召喚した物が主に野菜や魚介類ばかりだったから、果物ってあまり召喚していなかったな。


「さっきから何か考えていらっしゃいますが、どうかしましたか?」

「いや、土産に「異界寄せ」で果物を召喚しようと思って、何にしようか思案中」

「だったらスイカにしようぜ! 育てられれば、職場の皆でスイカ割りできるぜ!」


 お前好きだもんな、そういうの。

 ただ一つだけ言いたい。


「スイカって果物じゃなくて、野菜に分類されるんだぞ」

「えっ? そうなのかっ!?」


 そうなんだよ。何故かは知らんけど。


「でしたら別にスイカ、という物でもいいと思いますよ? 野菜なら彼女も食べられますし」


 それもそうだな。無理に果物縛りにする必要も無いし、それでいこう。

 しかし十キロ以上の量のスイカって、いくつぐらいになるかな。

 ていうかそもそも、向こうは今スイカがある季節なのか?

 こっちは季節と関係無く何でも育つから、その辺がよく分からない。

 だけどまあ、やるだkでやってみるか。


「そうだな、今回はスイカにしよう。果物は後日召喚して、届けてやるか」


 種は勿論回収して、農場の栽培実験場で育ててもらおう。

 ついでに育成スペースでも栽培して、どれくらい美味くなるのか試してみよう。


「ふふふ。楽しみです。そのスイカとやらが、どのような味なのか」


 楽しみにしているイーリアには悪いけど、メインはあくまでネーナだから、そこのところは忘れないでほしい。

 そうして農場を訪れ、「異界寄せ」でスイカを召喚し、顔色が悪くて食欲があまり無いというネーナに食べさせてみると。


「これすごか! 種は邪魔やけど、新食感で水分はたっぷり、しかもほのかな甘みが塩で引き立ってうまかど!」


 めっちゃ気に入ってくれた。

 相変わらず色々な方言が混ざっている喋りで、さっきまでの元気の無さはどこへ行ったのやら、早くも二切れ目に手を伸ばしている。


「気に入ってくれて嬉しいけど、水分多いから食べすぎるとトイレの住人になるぞ」

「えぇぇぇぇ。こんなに美味しいのにぃ」


 残念そうにするヴィクトマには悪いけど、経験者の言うことだから従ってくれ。

 今日は直営店が休みだから、他の農業組もスイカにかぶりついている。

 特に農作業の手伝いもしてくれるようになったローウィの妹二人、それとエリィはネーナと同じくらい気に入ってくれたようで、無言で食べ続けている。


「ほな、残りは保存せなアカン。ばってん、水分が多かっちゅうことは痛みも早そうやし」


 ちょっと待て、召喚した分を全部食べるつもりなのか?

 半分くらいは持って帰るつもりなんだけど。

 美味そうに食べている様子からイーリアも気に入ったみたいだし、他の皆にも振るわないと後で煩そうだ。

 その事を伝えると、あからさまにネーナはがっかりした。


「あの、私なんかが提案するのはおこがましいとは思いますが、育成スペースで育てた物を定期的に、その、届けていただければと……」

「元からそのつもりだ」


 エルミからの提案にそう返すと、落ち込んでいたネーナは一瞬で復活して満面の笑みを見せる。


(忙しい奴だ。まあ、そういうところもかわいいんだけど)


 嫁だからこそ思える気持ちに数回頷き、美味そうに食べる姿を見守る。

 普段は冷静なバリウラスとガルベスもがっついていて、テルミアーナもハムスターのように夢中で食べている。


「そうそう、この種はよろしくな」

「任せるったい! 見事なスイカを育ててみせるっと!」


 気合いを入れるのは構わない。でも妊娠中だから、ほどほどに頼む。

 一応釘を刺しておくと、その場は穏やかな笑いに包まれる。

 ここも良い職場として機能しているようで、なによりだ。

 そう思いつつ、俺もスイカにかぶりついた。



 *****



 調査所へ依頼を出してから五日が過ぎ、育成スペースで実ったスイカを収穫した頃、調査所の使いという忍装束の人が訪ねてきた。


「思ったより早かったですね」

「我々にかかれば、このくらい軽いものです」


 頭巾をかぶっていて何の種族か分かりづらい。

 尻尾は見えているけど、犬なのか狼なのか判断がつかない。

 狼人族はその辺りの区別を間違えたら、烈火の如く怒るってローウィが言っていたから、ここは触れない方がいいだろう。


「では、こちらが残りの金貨五枚です」


 届けてくれた調査書を受け取り、後払い分の料金を支払う。


「確かに受け取りました。では、これで失礼します」

「その前に、一ついいですか?」

「なんでしょう?」


 どうしても聞きたいことが一つだけある。


「その姿で町中を歩くの、恥ずかしくありませんか?」

「……実は割と恥ずかしいです」


 やっぱり恥ずかしいのか。

 聞かれてそれを改めて自覚したのか、少し恥じらいながら帰っていった。

 多分、あの身のこなしでさっさと帰るんだろうな。

 そう思いつつ、受け取った調査書を茶封筒の中から取り出す。

 さてと、どんな人材が眠っているのかな。


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