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第79階層~第80階層 元々はこういう感じの話だった

涼「場合によってはこうなっていたのか」


 調査所に依頼を出して三日後くらいの夜のことだった。

 夜勤が無いからエリアスと一緒に眠ったはずなのに、今いるのは見覚えのある真っ暗な空間。


「またお前か」

「ええそうです。お久しぶりですね」


 どうせあのスーツ男の仕業だろうと呼んでみれば、後方にそいつはいた。

 前回は卓袱台と座布団だったけど、今回はテーブルと椅子を用意している。

 しかしテーブルはやたらデカいし椅子も多いな。


「今回は何の用だ?」

「激励と、ちょっとした用事がありましてね。まあ、とりあえずお座りください。他の方々が来るまで、ごゆっくり」


 他にも来るのがいるのか。

 前回は香苗と葵と先生の三人だっけど、今回は椅子が多いからあの三人だけじゃないのは明らかだ。

 椅子の数は……俺とこいつのを除けば八脚か。

 一体誰が来るんだ?


「どうぞ、粗茶ですが」

「ああ悪い……って、これお茶じゃないだろ!」


 出されたのはコーヒー。

 緑茶やウーロン茶どころか紅茶ですらない。


「細かい事はいいじゃないですか。砂糖とミルクはどうします?」

「……いらない。コーヒーはブラック派なんだ」

「あまり胃によくないですよ?」

「ほっとけ。一杯くらいなら問題無いだろ」


 しかし、コーヒーなんて久し振りだな。

 向こうにはコーヒーが無いし、「異界寄せ」でコーヒー豆を召喚するのもありか。

 でもこの苦味の強い味が、果たして向こうで受け入れられるかどうか。

 おまけに砂糖が貴重品だから、甘味でこれをどうにかするなんてのも難しいだろうし。


「そうそう、今のうちにこれを渡しておきますね。粗品ですが、激励の品です」


 なんかデジャヴ。

 前回もこういう流れで受け取った品が食用油で、お歳暮かとツッコミを入れた記憶がハッキリとある。


「ご安心を、今回は食用油ではありません。かといって、石鹸やタオルでもありません。それどころか、とても懐かしくてとても欲しかったと、涙するかもしれません」


 どんな品だそれは。

 不安と期待が入り混じりながら、前回よりもやけに大きい箱を受け取り、この場で開けて中身を確かめる。

 そしてそれを目にして、この男の言っている意味を理解した。


「お前、なんて物を……」


 箱の中にあったのはペットボトルに入った醤油と、プラスチック製の容器に入った味噌。

 やべえ、これは本当に泣きそうな品だ。


「食べるなり分析して生産するなり、どうぞご自由に」

「深く感謝する」


 箱をテーブルの上に置いて頭を深く下げる。

 二つずつ入ってるから、一つは分析用にして一つは料理用に使おう。

 分析はオバさんに頼めばなんとかなるだろうし、生産もオバさんに任せてしまおう。

 未知の調味料だから、目を輝かせて協力してくれるはず。

 発酵については化学教師だった先生にも協力させよう。

 そんな事を考えていると、周囲に複数の人物が同時に現れた。


「あら? ここはどこでしょう?」

「むう……。まだ朝では……って、なんですかここはっ!」

「ふあぁ……あれ? ここ部屋じゃないよね?」

「どこ、でしょう、か?」

「マスターヒイラギ、ここは一体!?」

「あらぁ? なんで私、こんな所にいるんですかぁ?」

「なしてこげな真っ暗な場所にいるんや?」

「なんですかここは。私、何かやって罰か何かですか?」


 現れたのは香苗達じゃなく、エリアスを始めとした八人の嫁達だ。

 全員寝間着姿で、状況を理解できずにいる。

 どうしてこいつらがここに?


「まあまあ、皆さん。どうぞこちらにお座りください」

「どちらさまでしょうか?」


 警戒心を露わにしたラーナが男を睨みながら問う。


「落ち着け、こいつは敵じゃない。ある意味、俺達を引き合わせてくれた張本人だ」

「どういう意味ですか?」

「ご説明しますので、お座りください。皆さんが起床するまでの時間しかここにいられませんので、お早く願います」


 そういえば前回も、時間経過が影響していたな。

 あの時は全員夜勤じゃなかったから、今みたいに急かされなかったっけ。

 ひょっとして待たされたのは、夜勤の早番だったラーナが寝るを待っていたからか?

 全員が怪しみながらも席に着くと、男はコーヒーを差し出しながら説明を始めた。

 初めて飲むコーヒーに全員が表情をしかめ、ミルクと砂糖をたっぷり入れて飲みながら男の説明を聞いて驚く。


「つまりあなたが、旦那様をこっちに送ってくれたんですね」

「正確には、彼を始めとした三十数名をそっちへ送るよう、仕事を頼まれただけです」

「ですが、あなたがそうしてくれたから、私達は旦那様と出会えたんです。ありがとうございます」


 代表してエリアスが感謝の言葉を告げると、他の妻達も順々に感謝を伝えた。


「それで、皆をここに連れて来たのは何故だ?」

「実は私の勤める異世界転生転移管理局に、皆様のパラレルワールド。いわば並行世界の情報が入ったのです」


 並行世界の俺達?

 つまりここにいる俺達とは別の俺達も、なにかしらの過程を経て出会ったってことか?


「そこで皆さんに、こういう可能性もあったという事で、その世界の様子を見てもらおうと思いまして」

「用事っていうのはそれか。でもいいのか? そんなもの見せても」

「そちらの担当も私ですので、問題ありません。共通の人物同士なら、見せるだけは可能ですから。その代わり、皆さんの様子も向こうの方々にお伝えさせていただきます」


 俺達の様子が並行世界の俺達に伝わるのか。

 まあ、さすがに変なシーンはカットしてくれるだろう。

 ダンジョンマスターとして働いている姿なら、どれだけ見られても恥ずかしくない。


「別にそれくらいなら構わないけど、なんでわざわざ?」

「こういう可能性もあったと伝えるのも、仕事の一つですから。といっても義務ではないので、職場の皆さんは面倒だと言ってやりませんがね。しかし、今回は私の故郷へ転移したあなたですので、面倒な手続きをこなして来たのです。というわけで、見ますよね?」


 そこまでされて見ないって言えるか。

 第一、俺にはなくとも嫁達が見る気満々で目を輝かせてるし。


「……頼む」

「承知しました。では、どうぞご覧ください」


 男が指を鳴らすとスクリーンとプロジェクターが現れて、その並行世界とやらの物語が始まった。



 *****



 修学旅行の帰りにバスが事故に遭って、クラスメイトごと十七年ちょいの人生が終わったと思ったら白い空間にいた。

 そこに現れたスーツ姿に七三分けのおっさんが、とある異世界で勇者が必要になって俺達が選ばれたから、異世界に転移してもらうって言いだした。

 帰りたいと叫んだ奴がいたけど、元の世界の肉体が死んだから戻れないらしい。

 このまま死を受け入れるか、異世界に転移するしかないという選択肢を突きつけられ、俺は心の中で転移でいいかと決めた。

 そもそも、俺は元の世界に帰れなくとも未練は無い。

 子供がいるから離婚しないんだという家庭内別居みたいな状態の両親に、恋愛絡みで裏切られたショックで変な宗教に染まった姉、コミュニケーション能力に問題があって中学卒業と同時に引きこもりになった弟。

 そんな家族に加え、目つきの悪さから学校にもバイト先にも友人らしい友人はおらず、向こうどころかクラスメイト達にすらどうでもいい。


「では転移を決めた皆さん、必要な手続きと向こうの世界の説明を女神様がしますので、こちらのゲートを潜ってください」


 おっさんに促されて順々にゲートを潜っていく。

 やたら張り切っていたり戸惑っていたり不安そうにしていたりと、反応はそれぞれ。

 疲れた表情で死を受け入れた中年教師を除く、生徒全員が転移を選択した。

 一人ずつしか通れないから最後でいいかと待ち続け、ようやく最後にゲートを通ろうとしたら、壁にぶつかったような衝撃があった。


「はっ?」


 意味が分からずにノックをする要領で叩くと、見えない壁があるかのように音がした。

 それを見ていたスーツのおっさんも、不思議な表情をして首を傾げてる。


「おい。これはどういうことだ」

「おかしいですねえ。事前にチェックした時は、どこにも異常は無かったのですが」


 スーツのおっさんがゲートを調べて、問題無いって言うけどやっぱり通れない。

 するとおっさんは俺の顔を見て、次の瞬間にハッとするとスマホを取り出し、離れながらどこかへ電話をした。

 やがて電話が終わると、歩み寄って来たおっさんは別のゲートを用意するから、それを潜ってくれと言いだした。

 そうして新たに出現したのは、毒々しい雰囲気を放つ真っ黒なゲート。


「さあどうぞ、あなたはこっちを潜ってください」


 見た目は色々と気になるけど、特に追及せずにそれを潜った。

 そしたらそこには、和室に鎮座する褐色肌の悪魔っぽいおっさんがいた。


「おう、来たか。まあまあ座れや。今から大事な話をすっからよ。」


 まるで居酒屋で待ち合わせでもしているかのような口ぶりに、胡散臭さを覚えつつも対面の座布団で胡坐を掻く。


「えっと、名前なんだっけ」

「涼。柊涼だ」


 夏場でも涼しそうだとか、冬はメッチャ寒そうだとか言われてる。


「柊涼か。単刀直入に言う。お前はこれから転移する異世界で、魔王をやってもらいたい」

「……はっ?」


 魔王ってどういうことだ。

 なんで俺がそんなことをしなくちゃいけないんだ。


「さっきスーツの奴に、異世界で勇者になれとか言われたろ? 実は勇者が必要になった理由が、魔王が出現する時期になったからなんだわ」

「時期が分かっているのなら、もっと早く対応すべきだろ」

「勇者を召喚すんのにも色々あんだよ。で、今回はお前が魔王候補なんだ」

「どうして俺なんだ」


 正直勇者だろうが魔王だろうがどっちでもいい。

 ただ、理由だけは聞いておきたい。


「簡単な話だ。今回の魔王は異世界人を使おうって事になって、邪神である俺が魔王の素質がある奴を用意したんだ」

「それが俺だと? まるで勇者と魔王が予め準備できるような言い方だな」

「実はその通りなんだな、これが」


 邪神を名乗るこいつ曰く、俺が行く予定の異世界は光の象徴である勇者と、闇の象徴である魔王がいて成立しているらしい。

 そして魔王が勇者に負けるのが通例なのだが、いい加減にこれを覆したいと思って、ある手段を思いつく。

 次回勇者として召喚される予定になっている数十の魂の中から一つに、邪神の力の影響を強く与えた魔王候補を混ぜて、次回の魔王として異世界に送り込むと。


「これは勇者に関わる女神も、俺達を束ねる総統神も承諾しての事だ」

「要するに、俺達はあんたらの駒ってわけか」

「はっはっはっ、言われてみりゃその通りだ。そんなお前らに命運を任される世界は、ゲームのボードって訳だな」

「勇者になるあいつらは、俺が魔王だって分かってんのか?」

「それは伝えない決まりになっている。お前がいないのは適性が無かったから弾いたとか、女神が適当な事で言いくるめてるよ」


 つまり勇者になったクラスメイト達は、魔王が俺だと知らないのか。


「というわけで、頼むぞ」

「強制か」

「強制だ」

「ならやるしかないな」


 未練は無いけど死ぬつもりは無い。

 魔王でもなんでも引き受けて生き延びて、魔王らしくやってやろうじゃないか。

 でも邪神の力の影響を受けているとはいえ、ただの学生だった俺がどうすればいいんだ。


「今のままじゃ、何をどうすればいいか分からないぞ」

「安心しろ。送り込む条件として、ちゃんと魔王として育ててから送れって言われてんだ。つうわけで、まずは適性を測定するぞ」


 そう言って取り出したのはスピードガンのような物。

 それを俺に向けて引き金を引くと、音がして測定結果を邪神が確認する。


「ほう。七つの大罪、どれにも適性が高いな。中でも一番高いのは色欲か」

「つまりはエロ的な力で世界滅ぼせってことか?」

「違えよ。色欲の力ってのは、生命とか存在に関わる力だ。つまりお前は、生命創造や存在の改変に優れているんだ。他の適性も結構高いけどな」


 生命創造と存在の改変ね。

 だったら魔王らしく、魔物を生み出したり、向こう生物を魔物へ変化させたりすればいいのか?

 詳しくは鍛えながら教えると、時間経過が極端に遅い空間へ連れて行かれ、そこで修業が始まった。

 体を鍛えさせられ、異世界では当たり前のようにある魔力の扱いと魔法について学び、向こうの世界の事を教わり、七つの大罪の力を使いこなせるように鍛えてもらった。

 そしてこの空間で二十年修業して外に出ると、実際の時間では二十秒しか経っていなかった。


「中での一年が外での一秒なのかよ」


 しかも力や技量や知識は増えても、肉体年齢は外での時間分しか経過していない。

 体は十六歳の時のまま、精神年齢だけが三十半ばになってしまった。


「いやあ、まさかあの修業をやり遂げるとは思わなかった。正直、やり過ぎたと思ったんだけどよ」

「おいコラ邪神」


 神のやり過ぎなんて、とてもシャレになれねえぞ。

 そしてよく乗り越えられたよ、俺。


「まあ無事に終わってなによりだ。そんじゃ、それそろ向こうに行くか?」

「その前にやっておきたい事がいくつかある」

「なんだよ、やっておきたい事って」


 返事はせず数歩進み出て、自分に対して色欲の力で存在改変を行う。

 魔王というからには、姿が人間のままなのはつまらない。

 邪神が俺の魂に与えた力の影響を増幅させ、体を人間とは違う存在に改変する。

 肌を褐色より少し濃い色にして、邪魔にならない長さの角を額から二本生やし、ついでに耳をエルフっぽくして瞳の色も真紅に変更。

 髪の色は……これも定番だけど銀でいいか。


「おお、なんか魔王っぽいな」

「そりゃどうも」


 次は配下となる存在を、同じく色欲の生命創造で作り上げる。

 それもただの配下じゃなくて、親衛隊のような立場になる強い奴が欲しいから、七つの大罪の力を多めに注いで命を作り上げる。

 ついでだから色々使えるからと教わった錬金術も使って、服を着た状態で生み出してやろう。

 練習で生み出したのは、全部裸だったからな。


「ほう、こいつは……」


 邪神が見守る前で生み出したのは、七人の少女。

 全員俺と同じ色の肌と瞳をしていて、耳も同じエルフ耳。

 違うのは角の本数や形状や生えている位置、それと髪の色と名前だ。

 ちなみに服装は、傍に置く少女達だからメイド服にしておいた。

 命を宿した少女達は横一列に並ぶと、向かって右端から挨拶を始める。


「ラーナ。色欲の使徒を拝命します」


 最初に挨拶したのは、俺と同じ色欲の力が強いラーナ。

 角は額に長めのが一本で、髪の色は色欲らしく桃色。


「イーリア。傲慢の使徒を拝命しました」


 続いては傲慢の力が強いイーリア。

 角は短めなのが額に二本あり、髪は鈍い銀色。


「ローウィ。憤怒の使徒を拝命」


 憤怒の力が強いローウィ。

 側頭部から牛のような角が生えていて髪は茶色。


「アッテム。嫉妬の、使徒を、拝命、です」


 嫉妬の力を強くしたアッテム。

 側頭部から横向きに二本の角を生やし、髪は水色。

 性格をオドオドに設定したけど、思った以上につっかえつっかえな喋りだ。


「ヴィクトマですぅ。暴食の使徒を拝命しますぅ」


 暴食の力が強いヴィクトマ。

 角は短いのが額に一本で、髪は俺と同じ黒。


「ネーナいいます。怠惰の使徒を拝命したっと」


 怠惰の力が強いネーナ。

 羊のような角に緑の髪をした方言少女。

 方言については割と適当な設定にしてある。


「エルミです。強欲の使徒に拝命してもらった以上、非力ながらもお仕えさせてもらいます」


 最後は強欲の力が強いエルミ。

 角は額から螺旋状の角が一本生えていて、髪は濃い赤。


「ほほう、大罪の力を与えた使徒、お前の親衛隊ってところか。しかし見事に女ばかりだな」

「そりゃあ男としたら、野郎に囲まれるより、可愛い子に囲まれた方が気分が良い」

「はっはっはっ! お前はそういう点でも、色欲向きだな」


 こんな奴と二十年も修業漬けだったんだ、女に囲まれたくもなるさ。


「強さの点も問題無い。この二十年で培った戦闘経験と技術をフィードバックしておいた」

「つまりは生み出すと同時に改変もしたってことか。よくここまで育ってくれたぜ」


 一人前になった子供を喜ぶ親みたいな顔をしてる。

 二十年も一緒にいて鍛えてきたからそう思うのも仕方ないけど、邪神が泣くなよ。

 それに強さを与えたといっても生命創造の性質上、自分より強い存在は生み出せないから俺よりは弱い。

 だけどそう簡単に負けるほど弱くはない。

 そうだ、ついでだから。


「おっ? もう一人作るのか?」

「ああ」


 満タン状態の魔力でも、続けて生み出せるのは八人が限界だ。

 残り一人分を使って生み出すのは、こいつらのまとめ役で俺の右腕的存在。

 勿論、戦闘力も先の七人以上に与えておく。

 性別は勿論女で服装は……同じメイド服でも識別できるよう、黒を強くした色彩にしておこう。

 そうして生まれた少女はメイド服の裾を軽く上げ、挨拶をしてきた。


「エリアスと申します。ヒイラギ様の下、お仕えさせて頂くことを嬉しく思います」


 角は短いのが額から三本生え、髪は金混じりの赤。

 与えた力は俺と同じ七つの大罪全部。

 生命創造の関係で俺には劣るけど、全部を持っている分、先に作った七人よりは強い。


「で、この八人だけで人間とやり合うのか?」

「まさか。残りは向こうに行って作るか、向こうの生物を改変する。それにこいつらだって、今の強さはまだ初期設定だからな」


 こいつらは人形じゃなくて、命ある生物。

 だから鍛えて学ばせることで、より強く賢く成長できる。

 命令に従うだけのイエスマンはいらない。

 欲しいのは、自分で考えて臨機応変に対応できる奴だ。


「そんじゃ、そろそろ行くよ。二十年、世話になったな」

「おうよ。じゃあ最後に一ついいか?」

「なんだ?」

「元クラスメイト達もそうだが、人間を殺せるか?」


 今更かよという質問に吹き出し、微笑みながらできると答えた。


「俺は性悪説者だし、クラスメイトに友人らしい友人はいない。それに向こうの世界の人間は、俺を殺しに来る敵なんだろう? だったらやり返されても文句は無いだろうし、俺もやるのに躊躇しない」


 返答に満足したのか邪神も笑い、指を鳴らして黒いゲートを作った。

 おそらくあの先が、俺が魔王として生きるべき世界なんだろう。


「はっはっはっ。いいだろう、行ってこい! 魔王ヒイラギ!」

「行ってくる」


 さあ行こうか、世界を一つぶっ壊しに。



 ****



 映像を見終えた俺達は沈黙していた。

 ナニアレ。

 俺が魔王? エリアス達は俺が生命創造で作った、いわば人造魔人?


「いかがだったでしょうか? もうすぐ起床の時間ですので、これ以上は見る時間はありませんので、ご了承ください」

「いやいや、ちょっと待て。なんだ今のは」

「並行世界の皆さんです。こういう出会いをする可能性もあったんですよ、凄いでしょ?」


 凄いで片付く展開か?

 というか向こうの俺の家族、滅茶苦茶じゃないか。


「旦那様が世界を壊す役で、私達がその補佐ですか……。有りですね」

「イーリアさん!?」


 ポツリと物騒な事を言いだしたイーリアにエリアスが驚く。

 俺だって驚きだよ、あの展開に。

 下手すれば俺があっち側だったかもしれないと思うと、なんだか頭が痛くなってきた。


「なあ、あの後はどうなるんだ?」

「それはお答えできません。向こうの方々にも、皆さんの出会いを教えるだけですから」


 正直言うと、あの後がどうなったのかとても気になる。

 ひょっとしたら、向こうでもロードンやエレン、ライムのようなのを生み出しているのか?

 合体魔物や変形魔物、パンデミックゾンビみたいなのも作るのか?

 生物改変で子供の時に映画で見たような、熱線を吐く怪獣を実物として作るのか?


「出会い、と言うかも、微妙ですね」


 その通りだなアッテム。


「あははぁ、私って向こうでも暴食なんですねぇ」

「ウチは怠惰じゃなかとよ、働き者とよ」

「私は強欲なんかじゃありません! そもそも、欲に溺れるなどおこがましい所業です!」

「マスターヒイラギと同じ色欲ですか、悪くありませんね」

「憤怒ってことは暴れん坊ですか? 向こうでは暴れん坊キャラなんですか?」


 暴れん坊キャラってなんだ、ローウィ。

 ダメだ、ツッコミ所が多すぎて混乱してきた。


「おっと、そろそろお目覚めの時間ですね。では、これにて失礼します」

「待て待て、まだ向こうの世界の俺達について聞きたいことが」

「ヒイラギさん!」


 急に強い口調で呼ばれた。

 なんだ、どうした。


「それ、お忘れにならないよう、しっかり持っていてくださいね」

「えっ? あっ、ああ。じゃなくて!」


 指摘された醤油と味噌の入った箱を手にしている間に、スーツ男は消えて俺達の意識も消えた。

 次に目覚めたのは寝床の上。

 隣には目を擦るエリアスがいて、手元にはあいつから受け取った醤油と味噌入りの箱がある。


「夢じゃなかったのか」


 できれば夢であってほしかった。

 魔王になって世界を壊すとか、俺のキャラじゃないって。

 そう思いつつ、深い溜め息を吐いて体を起こす。

 なんか今日、あまり仕事する気分じゃなくなったな。

 そういうわけにはいかないけど。


最初に書こうとして、その後の展開を書ける自信が無くなった、この作品の原作的な話でした。

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