第69階層 新しい階層は色々と引っかかる
ラーナ「私が入った後のお風呂は出汁として使えません」
葵「そもそも使おうなんて思わないって」
今日も今日とてダンジョン運営。
やって来る侵入者達に対応しつつ、気になっている件をミリーナに尋ねる。
「ミリーナ、合体魔物達の戦闘はどうだ?」
「順調です。ご覧ください」
ミリーナの操作で表示された階層では、ブラストダークネスゾンビが装備した火器をフルバーストして、侵入者達をジェノサイドしていた。
さすがの冒険者達も弾丸の速度には反応できず、よほどの防具や盾が無い限りは防げていない。
尤も、どんなに良い防具が有っても弾丸を顔に受けて死亡したり、ロケットランチャーの威力で吹き飛ばされたりしている。
逃げ隠れ出来ないよう通路には遮蔽物が無いし、足場は他の階層と同様に動きが鈍る泥と水で覆われているから、ひとたまりもないだろうな。
フロアリーダーの間に配置したパンタイガーゴーレムとアーマードシャドーガーゴイルも、順調に侵入者を退けている。
「うん、ありがとう。何かあったら伝えてくれ」
「承知しました」
「ユーリット、寄生魔物の様子はどうだ?」
先日のライムの戦闘を受けて調査したところ、他の魔物より成長が早いことが判明した。
これはイータースライムが寄生したことによるものなのか、それとも捕食をした副作用なのか、それを確かめるために何体かの魔物へイータースライムを寄生させた。
今はまだ寄生させたばかりだから、訓練させながら様子を見ている。
「はい。イータースライムを寄生させたバイソンオーガ、ダークネスゾンビ、スラッシュマンティス、ヒートスコーピオン、ボイスマーメイドの様子に問題はありません」
そうか、問題は無い……うん?
「……えっ? ダークネスゾンビって、アンデッドにも寄生できたのか?」
「はい。ローウィさんがやってみたら、何故かできたらしいです。なお、ゴースト系は無理だったそうです」
「まあ、実体が無いからな」
ていうか、実体があればアンデッドにも寄生できるのか。
「もう数日様子を見て成長が早くなっていなければ、捕食スキルを使わせるぞ」
「承知しました」
さてと、イータースライムの件はここまでにしておいて、別件に移ろう。
「新しい階層の様子はどうかな」
前回女騎士を倒した時にランクが上がり、新しい階層が一気に十階層分も作れるようになった。
イーリアによると、ランク六以上になると追加できる階層がこれまでの比じゃないらしい。
お陰で新しい階層の会議もだいぶ長引き、階層そのものの調整や配置する魔物の増員、どのくらいのペースで追加していくかという議題が次々に上がった。
結果、いきなりたくさん増やしても管理が追いつかないから、二階層ずつ計画的に増やしていくということで落ち着いた。
今回増やした階層は二つとも浅い階層にして、片方にはある共通事項を持つ魔物を大量に投入してある。
『くそっ、なんだよこの階層は。蜘蛛の巣だらけじゃねぇか』
『こんな階層があるなんて、聞いてないぞ。新たに増えたんじゃないのか?』
体に纏わりつく蜘蛛の巣を払う侵入者が言う通り、この階層には隆起した岩も足場の泥や水も無く、代わりに蜘蛛の巣が大量に張られている。
さらにそれを作った蜘蛛だけじゃなく、多種多様な虫系や植物系の魔物を配置してある。
奇襲部隊で活躍しているロックスパイダーだけでなく、通電性のある巣を張ってそこに触れた獲物に電流を浴びせるスパークスパイダー、皮膚が直接触れれば切れてしまうほどの糸で巣を張るカッタースパイダー、毒の棘を持ち混乱状態を引き起こす花粉を放つ巨大な薔薇のようなパニックローズ、木そのものが動いているようなトレント、見た目はトレントそっくりでも吸収攻撃をするウッドレイン、左右の感覚を全て逆にする鱗粉を撒き散らすリバースモルフィン。
他にも色々と厄介な能力を持つ虫や植物の魔物が、階層内にはびこっている。
今も蜘蛛の巣に気を取られた侵入者の一人が吸血する芋虫、ブラットキャタピラーに噛まれ、それに対処している隙にロックスパイダーから奇襲されて倒された。
他の仲間達もパニックプラントの花粉を浴び、同士討ちを始めたりスパークスパイダーの巣に引っかかって感電したりしている。
「張った巣で魔物の行動が制限されると思ったけど、問題は無いみたいだな」
「そうですね。植物系の魔物はあまり動きませんから、多少行動が不自由になるくらいは問題無いんでしょうね」
植物系はほとんどが地面に根付いて、普通の植物のフリをしている。
今回は通路を可能な限り広めにして天井も高くしたから、一見すると森か林のように見える。
虫系魔物は植物系魔物の枝の上や、擬装用に設置した本物の木や茂みの中に隠れるよう指導して訓練した影響で、全員が隠密スキルを習得しているし、扮装しての攻撃をする訓練の賜物か植物系は偽装スキルを習得。
そして両方が奇襲スキルを得ている。
これまでの奇襲部隊とはまた違った形の奇襲部隊に仕上がったけど、状態異常にする魔物が多い分、厄介さではこっちの方が上かもしれない。
勿論、最初の頃から続けている岩場や水中からの奇襲部隊の方だって、攻撃力という点ではこちらより上だ。
だから厄介というよりも、怖いと言う方がこちらには合っている。
あっという間に殲滅する怖さか、弱らせて仕留めに行く厄介さか、どちらにしろ侵入者を撃退できるなら俺に文句は無い。
『うおぉぉぉっ! マジすまん!』
侵入者の一人がうっかりリバースモルフィンの集団を刺激し、鱗粉を多量に浴びせられた事を仲間に謝っている。
あいつらはこの後、左右逆になった感覚に戸惑っているうちにリバースモルフィンに襲われ、辛うじて一人が転移石で逃げられたものの、他は全員が死亡か気絶した。
しかも脱出に成功したのは、先ほどリバースモルフィンを刺激してしまった奴だった。
(あいつ、一生こいつらから恨まれるだろうな)
うっかり刺激した揚句に一人だけ脱出に成功した奴に対する、この場で死んだり捕まったりした連中の気持ちを思いつつ事後処理をしていく。
「解析結果、こちらに、置いておき、ますね」
「うん、ありがとう」
アッテムからの解析結果に目を通しつつ、別の侵入者への対応を並行して行う。
「死んだ中でアンデッド化するのはこれとこれ、こっちのは食わせちゃっていいから」
「分かり、ました」
「鑑定も終わりました。マークが付いているのは、アビーラさんが欲しいと言った物です」
どれどれ? あっ、封魔の指輪がある。中に入っている魔法は……貫通効果のある光魔法か。
アンデッド対策に持っていたんだろうけど、そこへ辿り着く前に負けちゃ、わざわざこの魔法を封じておいた意味が無いな。
ただ気になるのは、これにアビーラがマークを付けていることだ。
これまでに入手した時は付けていた事が無かったのに、どうして今になってマークを付けたんだ?
これをどうするのか気になるし、封魔の指輪は数が足りているから許可しよう。
他の道具はこれとこれと、これも貰っておいて、他は売却とアビーラの改造行きっと。
「フェルト、回収した道具をこの通りに分けておいてくれ」
「はい」
さてと、もう一つの追加した階層はどうなっているかな?
映像をそっちへ切り替えると、冒険者パーティーが全力ダッシュしている光景が映し出された。
『走れえぇぇぇっ! とにかく前だけ見て、走れえぇぇぇっ!』
彼らは自分達が来た道を全速力で逆走している。
そんな彼らの後方からは、トラップの定番というお約束と言うか、とても受け止められないような巨大な岩が転がっている。
しかもこの岩には魔法耐性があって、生半可な魔法じゃ破壊どころか勢いを緩める事すらできない。
この階層はこうした罠が主体で、配置した魔物達は侵入者を罠へ誘導する役割を担っているトラップ階層。
狩人の経験から罠に詳しいフェルトに意見を聞き、設置の仕方や隠し方を色々と工夫した、他の階層とは毛色の違った形に仕上げてある。
戦闘は無い代わりに解除が困難な罠に神経をすり減らし、発動したら体力をすり減らす。
奇襲の階層の後にあるから、なお警戒するだろう。
『ちょっ、前! 前! さっき辛うじて回避した落とし穴がまだ開いてる!』
『全員、端にある細い足場を駆け抜けろ!』
目の前に広がっているのは、さっき奴らが回避した落とし穴。
とても飛び越えられるような大きさではない上に、底には鋭い棘が仕込んである。
突破するには空中浮遊でもするか、端にあるギリギリ一人が横歩きで通れるくらいの細い足場を通るしかない。
『うおぉぉっ!?』
巨大な斧を背負っていた一人が、斧と壁がぶつかったことで穴へ落ちた。
さらに、最後尾を走っていた魔法使いも足を踏み外し、悲鳴を上げながら穴へ落ちる。
その二人は穴の底で針に刺されたものの、致命傷は避けていたからまだ生きていた。
だけど転がってきた岩が落とし穴まで到達すると、そのまま穴の中へ落下して、悲鳴を上げる二人を押し潰す。
『くそっ! こうなったのもアンタのせいだ! 手持ちが心許なくとも、転移石を買っておけば!』
『なんだとっ!』
おいおい、仲間割れを始めたよ。
というかケチって転移石を買わなかったら、そりゃあ仲間も怒るって。
「どうします?」
「黙って見ているのもなんだし、こっちから罠を発動させよう。釣り天井だ」
「はい」
言い合いをしている冒険者パーティーの頭上に釣り天井を発動させると、罵りあいが悲鳴に変わり、轟音が響き渡った後は静寂が訪れる。
少し間をおいて釣り天井の仕掛けが元に戻ると、圧死した冒険者達の死体が転がっていた。
穴に落ちて岩で押し潰されたのも含め、死体を回収させるためにオークを向かわせ、後の対応はいつも通りだから皆に任せておいた。
「ヒイラギ様、少々よろしいでしょうか」
「どうした、エリアス」
今は居住部で結婚式の招待状を書いているはずだけど、何かあったのか?
「招きたい人数に対して、席数が足りません」
ああ、そうなったか。
そこはもう、割り切って招待数を減らすしかない。
「席数を増やすのは無理だから、人数を削れ。呼んでも来なさそうなのは、容赦なく外しておけ」
「分かりました。となると……」
招待しない相手を考える後姿を見送りつつ、結婚式も間近になってきたのを実感する。
それが終わったらイーリアとネーナを第二夫人、第三夫人として迎えるし、奴隷の女性陣は全員愛人扱いになる。
俺にできるだけ子供を作れという周囲の声と、その理由はよく理解している。
だけど嫁として迎える三人は別として、向こうが拒否すれば奴隷の女性陣と関係を持つつもりは無い。
さほどハーレム願望が強くない身としては、それぐらいがちょうどいい。
勿論、向こうが望めばちゃんと応えるし、奴隷としてじゃなくて嫁のように扱うつもりだ。
ただ香苗と戸倉はともかく、ミリーナと先生とエリィはどうだろうか。
こればかりは向こうの気持ちがあるから、彼女達の判断に任せよう。
とかなんとか考えながら日々仕事をしているうちに、遂にエリアスとの結婚式の日がやって来た。




