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第56階層 戦力強化

涼「異界寄せで召喚した物は、どこから来たんだろうか」


 定休日翌日の昼下がりに、その報せは届いた。


「はいっ!? ヴァルアのダンジョンが攻略された!?」

「そうなんです」


 報せに来てくれたリコリスさんが冷静に肯定する。


「昨日の処分を検討するため、ロウコン様がダンジョンギルドを尋ねた際、職員の方からヴァルア様のダンジョンが攻略された事を伝えられたそうです」


 マジかよ。

 エリアマスターのダンジョンを攻略したとなると、相当強い冒険者が侵入したんだな。


「現在ダンジョンギルドでは、付近にあるダンジョンの関係者が詰めかけて情報収集をしており、相当騒がしくなっています」


 エリアマスターのダンジョンが攻略されたんだから、当然の反応だな。

 付近のダンジョンも攻略される恐れがある以上、危機感を抱かないわけがない。


「イーリア、うちのダンジョンは?」

「ご安心ください。ヴァルア様のダンジョンとは、かなり距離が離れています」


 となると、すぐにうちへ来る可能性は低いか。

 でも、警戒するに越したことはない。


「後でギルドに行って情報収集を頼む」

「承知しました」


 過剰に反応したら皆を不安にさせるだろうし、今はこれくらいでいいだろう。

 だけど備えは怠らないよう、皆に注意喚起をしておこう。


「それでリコリスさん、昨日の件についてはどうなるんですか?」


 ダンジョンを攻略された事も気になるけど、それによって昨日の件に対する処分は変化するんだろうか。


「あの時点ではまだダンジョンマスターだったので、ちゃんと処分は下されます。ただ、ダンジョンが攻略されたため管轄が住人管理ギルドに移るのと、処分内容の再検討が必要になるので少々時間が掛かるでしょうね」


 そっか、ダンジョンが攻略されたからヴァルアは一般人扱いになるのか。

 生活の方は俺が心配することじゃないから、気にしなくていいだろう。


「警護はどうなるんですか?」

「彼女自身がどうにかなった訳ではないので、このまま継続します。八つ当たりで何かをしでかす、という可能性も否めないので」


 確かに否定できない。


「分かりました。大変でしょうけど、お願いします」

「気にしないでください。仕事ですから」


 だからって、護衛されっぱなしなのもどうかと思うから、後で差し入れでもしておこう。

 どこに潜んで護衛しているのか知らないけど、いざとなったらオバさんを通じて渡せばいいか。

 その時は伯母さんがつまみ食いをしないように、オバさんの分も用意しておかないと。


「では、私はこれで」

「わざわざありがとうございました」


 用事が済んだらそそくさと引き上げるリコリスさんを見送り、俺達も仕事へ戻る。

 ヴァルアの動向は気になるけど、なるようにしかならないから深くは気にしないでおこう。


「戻った。何か変わったことは?」

「ありません」


 司令室に戻ってリンクスからの報告を聞き、いつもの席に座る。

 現在ダンジョン内にいる侵入者は、冒険者パーティーが六組。

 その内の一組が、ダンジョンフロア・オブ・ザ・デッドでゾンビ集団と遭遇して逃げ惑っていた。


『なんじゃこりゃあぁぁぁっ!』

『ゾンビだらけの階層があるとは聞いていたが、多すぎだろ!』

『ぎゃあぁぁっ! あいつら、ゾンビのくせに走って追ってくるぞ!』


 パンデミックゾンビに追われ、悲鳴を上げて逃げる冒険者パーティーの姿に、司令室にいる全員が画面を指差して笑っている。


「やっぱり昨今のゾンビ物は、元気よくダッシュしないとな!」

「あの人達、しばらく夢に見るでしょうね」


 香苗の言う元気よくダッシュする点はともかく、夢に見る点は同感だ。

 よほどアンデッドに慣れていないと、あれは夢に見そうだ。

 そう思いつつ魔物達の状態を確認していたら、驚きの情報が目に止まった。


「ロードンが進化してる!?」


 ただでさえ強いのに、進化したらどうなるんだよ。

 見た目は変わっていなくとも、名称と種族が変わっていて、能力値も昨日チェックした時より軒並みアップしている。




 名称:デビルドラゴニュートゾンビ 新種

 名前:ロードン

 種族:アンデッド(デーモンゾンビ)

 スキル:闇魔法 火魔法 龍魔法 身体能力上昇 飛行 防御力上昇

     回復 闇耐性 火耐性 剣術 威圧 咆哮

 固有スキル:狂化

 装備:魔剣・災襲血閃さいしゅうけっせん




 名称にデビルが加わって、種族がデーモンゾンビなんてのになっている。

 今までは突然変異体だったのに、どうして悪魔に進化したのかよく分からない。

 それと、この威圧と咆哮っていうスキルは見覚えが無いから調べよう。




 威圧:スキル所持者が敵意を向けた相手の能力を一割減らす


 咆哮:スキル所持者が吼えた際、所持者より弱い相手の動きを数秒止める




 うん、ますますロードンがチート化した。

 これを見ていたら、なんだかドラゴニュートゾンビを量産したくなってきた。

 魔心晶を多く使うのが欠点だけど、最近は進化とかの実験をしていたから結構な数が溜まっている。

 そうなると後は、実験体を何にするかだ。


「確かロードンの時は……」


 過去の実験記録を手にして見直す。

 ロードンを生み出した時は、ゾンビに魔心結晶の欠片を額、両手の甲、両膝の五箇所に埋め込んで、それらに魔力が溜まるのを待った。

 そして五つ全部に溜まった結果が、ドラゴニュートゾンビへの変貌。

 あれ以降は魔心晶の消費量を考慮して、同様の事はしていない。

 今後のために戦力を強化は必須だし、久々にやるのもいいかもしれない。


(問題は何にこれを施すかだな)


 前にロードンを作った時はゾンビを使ったけど、それ以外の魔物を使ってもいい。

 だとすれば魔物の餞別をしなくちゃな。

 そうだ、この方法で生み出した奴にさらにもう一度同じ方法を……爆散しそうだから止めておこう。


(なんしても、まずは考えをまとめよう)


 調子に乗って熱くなりかけた頭を冷静にして、今後のことをまとめていく。

 ミュータント魔物生産計画と、より詳細なスライム育成計画。

 後は、以前に作ったハイドロタイガーゴーレムのような、変形魔物を揃えていいな。

 いっそのこと、ダンジョンフロア・アブ・ザ・デッドのように、そういった奴らを集めた階層を作ってもいいかもしれない。

 魔物が揃ったら、階層会議で提案してみよう。


「やりたい事が山積みだな」


 スライム育成はローウィに頼むとして、ミュータント魔物と変形魔物、どっちの生産計画から着手しよう。

 どっちもダンジョンにとっては即戦力になりうる計画だから、正直迷う。


「よし、こうなったら」


 計画書を横並びにして、隣で収支報告をまとめているエリアスに尋ねた。


「エリアス、右と左のどっちがいい?」

「はい? えっと、右?」

「分かった。ありがとう」

「???」


 訳が分からず首を傾げるエリアスが可愛い。

 でも愛でるのはほどほどにして、選んでもらった変形魔物から着手しよう。

 ミュータント魔物はその後だ。

 今ならローウィは育成スペースにいないし、訓練の邪魔にはならないだろう。


「ちょっと育成スペースに行ってくる」

「分かりました」


 魔石盤を手に育成スペースへ移動して、訓練している魔物達や休憩をしている魔物達を見つつ、変形魔物を作るために召喚しておいた十体の魔物達を集合させる。

 まずは……こいつにするか。


「前に出ろ、ドレインフロッグ」

「ゲコッ」


 指名されたドレインフロッグが進み出る。


「動くなよ」


 それだけ伝え、用意した短剣で胸元を切開して心臓が露出される。

 前にハイドロタイガーをやった時も思ったけど、生きているだけでこんなに心臓の様子が違うのか。


「ゲコォ……」

「待ってろ、すぐに終わらせるから」


 胸の辺りに魔心晶を埋め込んで、変化後をイメージしながら魔力を流していく。

 やがて魔心晶に魔力が溜まり、ドレインフロッグの体は機械化されたものに変化した。


「よし、変形してみろ」

「ゲコォッ!」


 俺の指示でドレインフロッグは変形する。

 折りたたまれた後脚が伸び、直立可能な二本足になって立ち上がる。

 前脚も同様の変化をして両腕に。

 最後に口の部分が上下に割れて胴体の一部となり、シュノーケルを付けたロボっぽい顔が飛び出す。


「ゲッコオォォォッ!」


 完成したのは、顔にシュノーケル、両手足に水かきがある二足歩行のロボット。

 見た目と変形能力は成功だけど、詳細はどうなってるかな。

 すぐに魔石盤で調べてみる。



 名称:ドレインフロッグゴーレム 新種

 名前:なし

 種族:アンノウン

 共有スキル:土魔法 魔力吸収 潜水

 変形時スキル:俊敏上昇 拳術 蹴術



 変形すると俊敏性が強化されて、近接戦も可能になるのか。

 能力値はそこまで大きな変化は無いけど、遠距離なら蛙形態で近距離なら人型形態を使い分ければ、なかなか面白いかもしれない。


「よし、いいぞ。他のが終わったら訓練するから、ちょっと待っていてくれ」

「ゲコォッ!」


 さっ、サクサクやっていこう。

 この調子で変形魔物を生み出していき、完成したら変形してもらって魔石盤で詳細を調べるのを繰り返していき、やがて十体の変形魔物達が誕生した。

 ヒレのような扇を持つボイスマーメイドゴーレムや、金属製の竹を振り回すサイクロプスパンダゴーレム、それと尻尾だった大剣を持つブラッドアリゲーターゴーレムと種類も様々だ。

 さて、満足するのはここまでにしよう。

 従魔覚醒の影響下に置くためにも、訓練と指導をするか。


「これより、お前達の訓練を始める。まずは模擬戦で戦闘中に変形するタイミングや、変形が必要な相手か否かを見抜けるようになってもらうぞ」


 訓練中のフロアリーダー級を同じく十体を呼び寄せ、それぞれで模擬戦をさせる。

 まだ変形に慣れていないからか、タイミングを誤って変形直後に転倒したり、変形が必要の無い相手にも拘わらず変形して逆に不利になったりしている。

 別にそういった事に学んでもらうための訓練でもあるから、失敗することは構わない。

 こっちがちゃんと指導して、それを修正させればいいだけだ。


「ボイスマーメイドゴーレム。歌って相手を状態異常にさせてから、扇で戦うんだ」

「キイィ」

「シャドーガーゴイルゴーレム! その形態では近接戦より、魔法主体でいけ!」

「ガアッ!」


 注意は後回しにしないで、その場でキチンと伝えないとな。


「おい、ブラッドアリゲーターゴーレム。その大剣は二つに分けることができるぞ」

「ガゥ?」


 不思議そうに首を傾げるのは、ブラッドアリゲーターゴーレム。

 元はブラッドアリゲーターっていう、噛みついて血を吸ったり、浴びた返り血を皮膚から吸収したりして、体力や傷を回復させるワニの魔物だ。

 今の姿でもその能力は引き継がれていて、試しに血液を垂らしたら吸収された。

 とても不思議な現象で、どういう原理なのか全く分からない。


「縦にスライドさせるんだ。こうやってな」

「ガッ、ガウッ!?」


 持っていた大剣を上下にスライドさせると、尻尾だった大剣が縦に分かれて双剣になる。

 長さは変わらないけど、厚みが半分になったことで重量が軽くなり、片手で振るうことも可能だ。

 よほど気に入ったのか、喜々として二本の剣を振り回している。


「ガウガウ! ガッ!?」

「……アホ」


 調子に乗って振り回していたから、剣の片方が後頭部を直撃した。

 幸い頭部の方が硬かったから斬れてはいないけど、本当にアホとしか言いようがない。

 頭を抑えて蹲る姿に、周囲で訓練している魔物達も笑っている。


「さあ、お前達もこうなりたくなかったら真剣にやれよ!」


 魔物達から元気のいい返事が響き、訓練が再開。

 それを休憩まで見届けたら、次のミュータント部隊の生産に着手する。


「じゃあ、やってみるか」


 まず呼び寄せたのは、ゾンビじゃない普通のバイソンオーガ。

 ゾンビ以外でも成功するかは不明だから、埋め込んだら背中を向けて爆発に備えておこう。


「動くなよ」


 前回は両手の手の甲と両膝、額に埋め込んだのを変更して、今回は胸元と両肩と両脚の太ももにしてみよう。

 これら五箇所に用意しておいた魔心晶を埋め込み、背中を向けて魔力が溜まるのを待つ。


「グ、ガガ……ガガガガッ!」


 苦しみだした。これは前回と同じだな。


「ブアァァッ! ブアアァァッ!」


 次は悲鳴か。これも前回と同じだ。


「ブヒャヒャヒャヒャ!」


 だからなんで、そこで笑い声が上がるんだよ!

 ああくそ! 大丈夫だって確信が無い実験だから、振り向きたくとも振り向けない!


「ブルアァァァァッ!」


 そして最後に一吠えして、背後で輝きが起こる。

 前回通りなら、これでいいのはず。

 どうなったのか楽しみであり不安でもある。

 意を決して振り向いたそこには、肌が真っ黒になって見た目が随分と変わったバイソンオーガがいた。


「フシュルルルル……」


 赤い瞳をギラつかせながら深く息を吐いたそいつは、なんていう名称なのか検討がつかない。

 牛の頭と筋骨隆々な体格はそのまま、肌が黒くなって瞳が赤くなっている。

 他にも顔には獅子のようなたてがみが生え、口には肉食獣のような牙が、背中からは蝙蝠のような羽、尻尾の先には鋭く尖った太い針が生えている。


「こいつは一体……」


 正体が知りたくて、すぐに魔石盤で調べてみた。




 名称:マンティバイソンオーガ 新種

 名前:ディラン

 種族:ミュータント

 スキル:斧術 飛行 毒 咆哮




 名前からして、マンティコアの特徴が現れたってことか。

 ゾンビでなくともこの方法が使えるのと、魔心晶の位置を変えても成功したっていう二点は良し。

 ただ、前回はドラゴンの特徴が出て、今回はマンティコアの特徴。

 これは位置が関係しているのか、それとも完全にランダムなのか……。


「我が主、これからよろしくお願い致します」

「おぉっ!? おっ、おう」


 そうだ、名前付きだから喋れるんだ。

 いきなり話しかけられたから驚いたぜ。

 ともかく、今はミュータント魔物を生み出す作業を続けよう。

 次はロードンと同じ場所に埋め込んでみて、どんな変化をするかを確かめるか。

 どうせなら同じアンデッドで試してみよう。

 それでドラゴンの特徴が出たら、何かしらのパターンがあるって分かるし。


「じゃあ、次いってみるか」


 変形魔物と同じく十体のミュータント魔物を生み出しながら、魔心晶を埋めた位置と変化の結果を記録していく。

 結論から言うと、埋める位置と変化に決まったパターンは無い。

 何の特徴が出るかは完全にランダムのようで、埋めた場所が違っても同じ特徴が出たのもいた。

 種族が絡んでいるのかとも思ったけど、それも無い。

 ただ、埋めた魔心晶の数は影響があるようだ。


「二つだと低ランクの魔物の特徴で、数が増えるのに比例して高ランクの魔物の特徴が出るのか」


 それと埋め込める魔心晶の数は五個が限界のようだ。

 六個以上だと魔物の体が耐えられないのか、体が炭のように真っ黒に焼け焦げてしまった。

 そのことを検証するために亡くなった魔物達には悪い事をした。

 だけど、ちゃんとアンデッドにしたから勘弁してもらいたい。


「なんにしても、これで戦力が上がったな」


 後は指導して従魔覚醒の影響下に置いて、実戦で使えるように訓練させればいい。

 配置については報告がてら、話し合って決めよう。

 これだけの戦力だから、色々な意見を聞いておきたい。

 ただ、驚かれるだろうな。

 この予想は的中し、驚かれたのに加えて、先生からは変形のネタ出しに協力させてもらいたかったと言われた。


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