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第41階層 後々に分かる事って実は結構あったりする

フェルト「料理は焼き物が得意です。焼き物だけです」


 ある日、気づいたら真っ暗な空間の中にいた。

 一瞬何事かと思ったけど、唐突に察した。


「あっ、これ夢だな」


 なんか浮いている感覚がするし、水中でもないのに泳げそうな感じがする。

 これが夢でないのなら、なんだというのか。


「どうも、お久しぶりですね」


 不意に掛けられた声に振り返ると、俺達を転生させたあのスーツ男が立っていた。

 もう正体を隠すつもりが無いようで、目は開かれていて尻尾も生やしたままだ。


「ああ、久しぶりだな。これはお前の仕業か?」

「察しが良くて助かります。とりあえず、こちらへ座ってください」


 スーツ男が指を鳴らすと卓袱台と座布団が二枚現れた。

 続けて籠に盛られたミカンと、茶碗二つに急須が卓袱台の上に現れる。

 イスとテーブルよりこっちの方が好みだけど、何でミカンまで出したんだろうか。


「それで、何の用だ?」

「まあまあ、まずは一杯どうぞ」


 せっかくだから座布団に腰を下ろして尋ねると、男も座ってお茶を淹れだした。

 香りからして緑茶か。

 向こうで飲める日本っぽいお茶は麦茶しかないから、ちょっと嬉しい。


「さぁ、どうぞ」

「いただきます」


 久々の緑茶を一啜り。

 うん、美味い。香りも味もいい塩梅だ。

 さてと、お茶は貰ったし本題に入ろうか。


「そろそろ、この状況の説明をしてくれないか。まさかとは思うけど、俺はまた死んだのか?」

「いいえ、そういう訳ではありません」


 それは良かった。

 本当に死んでいたら、どうしようかと思った。


「今回は単純に、私があなたに会いたかっただけです。うわっ、酸っぱ」


 お前の都合かよ。

 しかもミカン食いながら説明してる上に、酸っぱいのに当たってるし。

 せっかくだから、俺も一つ貰おう。


「それで? 会いに来た理由は何だ?」

「ダンジョン運営が順調そうなので、今後も頑張っていただけるよう、粗品を持って激励に来ました」


 へぇ、割と義理堅いんだな。

 おっ、このミカンは甘いやつだったか。


「そういう訳で、こちらがその粗品です」


 食べかけのミカンを置き、差し出された箱を受け取る。

 中身はいったい何が……って。


「お歳暮か!」


 中身を見たら食用油の詰め合わせだったから、思わずツッコミを入れた。

 まさかこんな形で、サラダ油やごま油を見るとは思わなかったぞ。

 うわっ、菜種油とオリーブオイルも入ってる。


「すみませんね。他に良い品が思い浮かばなくて」

「貧相な発想力だな」

「一応色々考えたんですよ。タオルとか石鹸とかバスタオルとか食器とか」

「引っ越し祝いか!」


 そういった類の物を渡すなら、こっちに来た直後に渡せ!

 わざわざ日用品を買い揃える手間が省けたし、出費も抑えられたからさ!

 ちなみにここで受け取って大丈夫なのか確認したら、目が覚めたら向こうにもあるらしい。

 どういう仕組みなんだ。


「いやあ、贈り物というのは難しいですね」

「否定はしない。だけど、他に考えようがあっただろう」


 どうせなら、「異界寄せ」で召喚できない加工品とか持ってこい。

 油も一応搾るから、加工品と言えば加工品だけどさ。


「話は戻りますが、ダンジョン運営は順調みたいですね」


 とりあえず、ここまではな。

 この先がどうなるかはまだ分からないし、順調だからって油断はできない。


「というか、俺の状況を把握しているのか?」

「一応把握はしています。あなただけでなく、他の方々の状況もね」


 他の方々っていうのは、元クラスメイトの連中か。


「元クラスメイト二名と元副担任があなたの奴隷になっていることも、大和田君が凄い目に遭っていることも、他の方々の状況も私は全て知っています」


 こいつ、本当に何者なんだ?

 見た目は悪魔っぽいけど、今の話を聞いていると管理者か何かみたいだ。

 異世界に送り込んだ俺達を監視して、その報告書をどこかへ上げているんじゃないか。


「今、私が何者とでも思いましたか?」


 顔に出ていたか?

 だとしたら否定してもバレそうだし、素直に肯定しておこう。


「ああ、思った。話せるのなら、教えてもらえるか?」


 問いかけに対してスーツ男は、いつの間にか飲み干していた茶碗におかわりのお茶を淹れる。


「別に隠す事でもないですからお教えしましょう。実は私、元ダンジョンタウンの住人で、死後は異世界転生転移管理局で働いているんです」


 ちょっと待てくれ。いや、凄い待ってくれ。

 元ダンジョンタウンの住人なのは、その見た目だからまだ分かる。死後なのもまだいい。

 でもなんだよ! その異世界転生転移管理局ってのは!


「そこではあなた方のように、何かしらの理由で異世界へ転生、又は転移された方々の管理を行っているんです」

「方々って事は」

「ええ。あなたとそのクラスメイトの方々以外にもいるんですよ、異世界に転生なり転移なりした方々は」


 やっぱりか。過去のダンジョンタウンにも異世界人が現れたんだ、他にいても不思議じゃない。


「と言っても、異世界はあなた方が今いる世界だけではなく、他にも無数の異世界が存在するのです」


 つまり俺達が転移したのは、複数あるうちの一つって訳か。

 というか、そういうのを管理している機関が死後の世界にあるのも驚きだ。


「ちなみに管理局という名称ではありますが、実際にやっているのは担当している相手の異世界生活を記録し、一定期間毎に報告書として提出するだけなんですよ」


 管理じゃないぞ、それは。

 名称を管理局から監察局に変えろ。

 異世界転生か転移した奴の記録を管理しているからか? だから管理局なのか?


「あなた方の担当はたまたま私でしてね。いやあ、人数分の報告書を作成するのは大変ですよ」


 三十人以上いるからな。

 あっ、でも冒険者になって死んだ奴がいたら、その分は減っているのか。

 今はどれくらい生き残っているんだろう。


「お陰で挨拶に来るのがこんなに遅れてしまいましたよ。本当はもっと早く、挨拶に伺う予定だったのですが」


 そういう事なら仕方ないか。

 心の中でとはいえ、色々と文句を言って申し訳ない。


「大変だな、死んだ後だっていうのに」

「ですが、これはこれで楽しいんですよ。少なくともクビになるまでは、この魂は私として活動していますから」


 ということはクビになったら、その魂は生まれ変わって別人になるってことか?


「そうだ。どうせなら、あなたの奴隷になった三名もお呼びしましょう」


 スーツ男がいきなりそんな事を言って指を鳴らすと、香苗と戸倉と先生が現れた。


「うおっ!? なんだここ!」

「柊君? それにあの時の糸目男?」

「ふえっ? 柊君とリンクス君とユーリット君の男祭りは?」


 今日の早番はミリーナで、この三人は普通に寝ているから呼び出せたんだな。

 というか、驚いている香苗と妙に冷静な戸倉はともかく、先生は一体どんな夢を見てるんだよ!


「さあさあ、あなた方も座ってください」


 またも指を鳴らして座布団を三枚出すと、香苗達は困惑しながらも腰を下ろす。

 その後で俺にしたのと同じ説明をして、これも俺に渡したのと同じ粗品を三人へ渡した。

 っておい! そんなに油ばかりもらってどうすればいいんだ!

 唐揚げか天ぷらを大量に作って、揚げ物パーティーでもしろっていうのか。

 だったらメンチカツとかコロッケも……って、何真剣に考えてんだか。


「異世界に送って、それで終わりじゃないんですね」

「そうなんですよ。中には神様の手違いとかで転生した方もいるので、その度に神様へ辞任の要求が出て大変なんです」


 神様って辞職できるのかよ。

 実は神の世界って、政界と似ているのか?


「過去には辞任を求めるデモでノイローゼになったり、頭が薄くなったりした神様もおられまして……」


 ハゲるのはともかく、なんで神がノイローゼになるんだ。

 こういう話を宗教家とかが聞いたら、卒倒しそうだな。

 ミリーナやヴィクトマにも伝えない方がいいな、うん。


「なんか神様って、思ったより小心者なのか?」

「神様なのに、全知全能っじゃないのね」


 ホントだよ。神様ならしっかりしてほしいもんだ。


「それで話ってこれだけ? それなら早く元の夢に戻って、柊君に膝枕されている夢の続きを見たい」


 戸倉はそんな夢を見てたのかよ。


「いえいえ、まだ話はあります。現状亡くなっている方の情報を、お教えしようと思いまして」


 死んだ奴の情報と聞いて、空気が一気に重くなった。

 どうせなら生きている奴の情報を話してほしい。


「なあ、生きている奴の話はしてくれねぇのか?」

「その場合は柊さんがダンジョンタウンにいて、ダンジョンマスターをしている事を他の皆さんにも伝えなければなりませんので、おススメできません」


 確かにそれは勘弁願いたいな。

 ダンジョンタウンの存在が明るみになったら、ここへの侵略に発展しかねない。

 丁重にお断りして、死んだ奴の情報を聞くことにした。


「えっと、まずはですね……」


 スーツ男は胸ポケットから手帳を取り出し、死んだ元クラスメイトのことを説明し始めた。

 これまでに何人も魔物に殺させたり、ゾンビにしたりしたけど、やっぱり元クラスメイトってだけで何か感じ方が違う。


「次は高本さんと萩尾さんと塚田さんの三人ですね」

「あの三人も死んだのか」

「えぇ。それもあなたのダンジョンに侵入した、アンノウンオーガによってね」


 あいつもやられたのか。

 ということは、あいつらは俺のダンジョンの近くに来ていたのかもしれないな。


「亡くなられた方は以上ですね」


 スーツ男の説明が終わり、詳細不明だった二十四人のうち十一人が死んでいると判明した。

 残りの十三人は生きているんだろうけど、何をしているんだろうか。


「亡くなられた方は全員冒険者になっており、活動中に盗賊や魔物に襲われて死亡しました。中にはフィクションの世界じゃないのに、自分は無敵の主人公だからきっとなんとかなると、浅ましい思い込みや勘違いをして自爆した方々もいましたね」


 冒険者になって死ぬのは職業の特性上、致し方ないと思う。

 だけど現実を直視せず、思い込みや勘違いをして自爆したのは何とも言えない。

 自業自得も甚だしい。


「私がお伝えしたかったのは以上です。お休みのところ、申し訳ありませんでした」

「いいから早く元の夢に返して。男祭りの続きを見せて!」


 この夢から覚めたら、先生を叩き起こしたろか。


「しかし、あなたもやりますね。魔改造というんでしたっけ? あなたがいた世界では」


 ようやく解放されるかと思ったら、スーツ男が話しかけて来た。

 それもさっきまでとは、まるで関係の無い話を。


「何が魔改造だってんだ」

「勿論、あなたのダンジョンです」


 別に狙ってそうなった訳じゃない。

 スケルトンの合成とか変形する魔物とかは狙ったけど半信半疑だったし、魔剣・腐滅によるパンデミックゾンビとか従魔覚醒は完全に偶然の産物だ。

 俺がやっているのは、そういった偶然を組み合わせ、自分なりのダンジョンを作り上げていくことだけ。


「ただ、あなたの婚約者が混種なのはそれ以上の驚きでしたね」


 おい、それはどういう意味だ?

 まさかお前も、混種は相応しくないとか言うつもりか?

 もしもそうなら、こっちも黙っている訳にはいかない。


「まあまあ、そんなに敵意を向けなくとも。別に悪いと言うつもりはありませんよ」

「じゃあ、何で驚いたんだ?」


 こっちが尋ねるとスーツ男は含み笑いを浮かべた。


「残念ながら私からはお教えできません。ですので、一つ助言を送りします」


 助言?


「あの混種との間にお子さんが生まれたら、ダンジョンキングを訪ねてください。エリアマスターの義母を通じて頼めば、きっとすぐに対応してくれます」


 ダンジョンキングを?

 それって確か、このダンジョンタウンで一番のダンジョンマスターの称号だよな。

 どうしてそいつを訪ねる必要があるんだ。しかもエリアスとの子供が生まれたらって。


「詳しくはその時が来たら、ダンジョンキングから話を聞いてください。私からは以上です」

「待って。私達の子供の時は?」


 こら戸倉、さりげなく何を聞いているんだ。


「あなた方との子供なら、ダンジョンキングを訪ねる必要はありません。そのままお育てください」


 異世界人による子供、じゃなくて異世界人と混種との子供ってのが重要なのか。

 いったい異世界人と混種の間に生まれる子供に、何があるんだ。


「全てはその時を迎えたら、知ることになるでしょう。焦らずじっくりお待ちください」


 スーツ男がそう告げて小さく微笑むと、急に目の前が歪んで頭が覚めていく。

 これは夢から覚めるんだろうとなんとなく理解して、薄れていく男の姿と声に耳を傾ける。


「これはかつて、ダンジョンの頂点を極めた私からの助言です。どうか無下にしないでくださいね」


 そう言い残してスーツ男は消えた。

 先生、戸倉、香苗の順で消えていき、最後に俺の視界も真っ暗になって、次の瞬間には部屋で目が覚めた。

 枕元には受け取った食用油の詰め合わせがあり、あの夢は本当のことなんだと理解する。


「俺とエリアスとの間に子ができたら、何があるんだ」


 どういう意味なのかがさっぱり分からない。

 異世界人と混種、ダンジョンタウンにおけるイレギュラーとも言える、この二人の間に生まれた子に何があるっていうんだ。

 事前に連絡を取って聞いてみるか?

 いや、あいつは子供が生まれたらって言っていたから、生まれる前だと何かと理由を付けて教えてもらえない可能性が高い。


「ダンジョンキングになれば、何か分かるのか?」


 ダンジョンキングに聞けってことは、裏を返せばダンジョンキングになればその情報を得ることができる。

 これまでは特に地位に興味は無かったけど、狙ってみるか?

 でもそのためには、越えなきゃいけない相手がたくさんいる。

 オバさんもそうだし、他のエリアのエリアリーダーも越えなくちゃならない。

 それを子供が生まれる前に達成するのは、ちょっと厳しすぎる。


「でもまあ、やるだけやってみるか」


 やるだけやって、間に合わなかったらスーツ男から言われた通りにしよう。

 そう決めたら、まだ時間はあるから再度眠りに就いた。




 ****





 翌朝、香苗達と夢での事は秘密にしようと決め、今日もダンジョン運営に勤しむ。

 その合間を縫って、現在のダンジョンキングについて調べてみた。


「こいつか……」


 表示されたのは熊人族の女性で名前はザラーヌ。

 代々続くダンジョンをさらに発展させ、数年前にダンジョンキングの地位に就いて以降、一度もその座を譲ったことが無い。

 それだけに彼女のダンジョンが稼いでいるポイントは膨大で、向こうが攻略されない限りは追いつき追い越すなんて無理っぽい。

 これは無理だ。間に合う間に合わない以前の問題だ。


「あいつの言う通りにしておくか……」


 誰にも聞こえないようにポツリと呟き、開いていたザラーヌに関する情報を閉じて仕事に戻った。

 引き継いだ夜間の情報を確認し、今日の売却額を打ち込み、魔物へ指示を出して侵入者へ対応する。

 そして空いた時間は、新しい実験や魔物の開発について考える。


「ロードンを作った時の技術の応用で、複数の魔心晶を埋め込んだ状態で武装化なんてどうだろう」


 思い浮かんだ案をメモして、今後の実験の予定を組み立てていく。

 その最中、監視をしている香苗が騒ぎ出した。


「おい涼! あれ見ろ、あれ!」


 指差した画面を見ると、元クラスメイトの一人がダンジョンへ侵入してくる様子が映っていた。


「島田の奴か……」


 あいつにはあまり良い印象が無い。

 積極的に前へ出て率先して行動した思ったら、何かしら拙くなるとすぐに逃げ出す。

 そして自分はその事に全く関わっていないかのように振る舞い、他の誰かに責任ごと押し付けて傍観する。

 面倒事を起こして誰かに丸投げしたら、後は知らぬ存ぜぬの繰り返しをするから、クラスでは厄介者扱いされていた。


「周りにいるのは仲間か。いや、仲間かどうかも怪しいな」


 一緒に侵入してきた連中に見知った顔はいない。

 どいつもこいつも柄の悪そうなのばかりで、何かを喋って笑っている。


「音声を入れろ」

「はい」


 指示に従ってミリーナが音声を入れると、やっぱり碌でもない事を喋っていた。

 前にいたチームを内部崩壊させた、有り金全部と高そうな装備を持ち逃げしてきた、入ったパーティーの女を犯した後で皆殺しにしてきた等々、聞いているだけで胸糞悪くなってくる。

 どうやらこのパーティーは、適当なパーティーに入り込んでは好き勝手やっているパーティーのようだ。

 島田の奴も、この前潜入したパーティーで食事に危険な薬草を混ぜ、全員を中毒症状にしてきたって言っている。

 仲間内ではウケているみたいだけど、俺達は逆に気分が最悪になった。

 あいつ、こっちの世界に来てここまで堕ちたか。


「涼、あいつどうする?」


 怒りを抑え込んでいる香苗は、すぐにでも島田を殴りたそうな顔をしている。

 俺だって気持ちは同じだ。

 だけどどうせ殴るなら、あいつらを恐怖のどん底に落としてからにしよう。

 情け無用でぶっ潰してやる。


「傍にいる魔物に通達。全力でそいつらをぶっ潰せ。ただし、あの右端の黒髪だけは生かして捕まえろ」


 指示を出して数十秒後、島田とその仲間はスライム集団の奇襲を受けた。

 水に擬態して接近したスライム達によって転ばされ、動きが鈍くなったところへミストスライムとドレインスライムが纏わりつき、体から水分と体力と魔力を奪われていく。

 さらにそこへ天井からキラーアントが、壁から岩に擬態していたロックスパイダーが襲い掛かる。

 トドメとばかりにスペクターとパラライズスネークも参戦し、勝負あり。


『ちょっ、なんで魔物がこんな高度な連携を』

『体に力が、入らない……』

『いや、やめて、私がこんなところで死ぬはずがないのよ!』


 もがき苦しみながら死んでいく姿に、不思議と嫌な感じはしない。

 むしろ、よくやったとさえ思っている。


「戦闘終了。ご主人様がおっしゃっていた方は、捕獲に成功しました」

「そいつは売却用の牢屋にぶち込んでおけ」


 あいつには臭い飯食わしてやる。

 悪臭でしかないような、とびっきりの臭い飯をな。


「なあ、捕まえたってことは当然売るんだよな」


 勿論そのつもりだ。

 死んで楽にはさせず、奴隷としての一生を送らせてやる。

 それも異世界人の奴隷として、種馬をするだけの一生をな。


「当たり前だ。あいつには奴隷生活がお似合いだ。アッテム、説明は頼んだ」

「分かりました」

「オレも行くぜ!」


 早速アッテムと香苗が説明に向かった。

 島田のことだ、喚き散らしてどうにか助かろうとごねそうだな。

 そんなことを予想していると、怒り心頭な様子の香苗と不機嫌な様子のアッテムが戻ってきた。


「なあ涼、島田の奴が」

「ごねたか?」

「ああ」


 やっぱりな。


「でさ、涼を出せってうるさくて。奴隷のテメェじゃ話にならねぇって。あんの野郎、状況分かってんのかよ!」


 絶対に分かってないと思う。

 あいつは保身と逃げに関しての執着心が強いから、この状況もなんとかなると思っているんだろう。

 だったらここらで、保身のために責任を丸投げして逃げ続けたツケを支払ってもらおうか。


「アッテム、司令室を任せる。香苗、島田に引導を渡しに行くぞ」


 席を立って香苗と一緒に牢屋へ向かう。

 その最中、ダンジョンマスターやダンジョンタウンの事は説明したと香苗から聞いた。

 それでも助かろうとする辺り、往生際の悪い奴だ。

 捕まえた冒険者達から恨みの籠った視線を浴びながら、島田のいる牢屋へ向かう。

 到着して格子越しに向き合うと、あいつは縋りつくように近づいて格子を掴む。


「待ってたぜ柊、俺をここから出してくれ。元クラスメイトのよしみで頼むぜ! 欲しいなら金も出すし、武器も防具も持ち物も全部やるからさ!」


 この状況を脱するために媚びてきた。

 生憎だけどお前の装備や持ち物は回収した俺の物で、お前に所有権は存在しない。

 だからそんな媚びに意味は無い。


「それならとっくに回収した。後はお前を奴隷として売るだけだ」

「なっ!? なんでだよ、金も物も奪っておいて、さらに俺も売るのかよ!」

「地上じゃどうだったか知らないけど、それがここのルールだ。ダンジョンに踏み込んだ時点で、お前は違うルールの国に足を踏み入れたようなものなんだよ」


 国が変われば法律も常識も変化する。

 ここへ来た以上、もう地上での常識や法律は通用しない。


「そこをどうにか頼むぜ。俺、これでもそこそこの腕が」

「腕があっても、奴隷は戦闘用のスキルを封じられる。だからもう戦う力は必要無い」

「いやいや、それ以前に奴隷にせずにさ」

「無理だ。俺のような例外でない限り、例え国王であっても人間は奴隷にするのがここの法律だ」


 他にも俺の子供って例外があるけど、こいつには無関係だ。


「異世界人は高く売れるからな。売却金は今後の運営資金として、ちゃんと活用してやるよ」

「お、お前! クラスメイトを売るのかよ! 宮田は手元に置いているじゃねぇか! それに、佐藤先生と戸倉もいるって聞いたぞ!」


 だからどうした。

 今の俺のダンジョンにこれ以上の人員は要らないし、農業の方も人員は足りている。

 そもそもお前を奴隷として手元に置いても、真面目に仕事をするとは思えない。

 お前がしてきたことを知っているからこそ、俺はお前を切る選択肢を選ぶ。


「売るさ。島田、お前は香苗達と違って俺のダンジョンに必要無いからな」

「なんでだよ! なんで俺は……そうか、お前も男だもんな、女をはべらかしぶごっ!?」


 俺が島田の言葉で行動するより先に、格子の間を通った香苗の蹴りが島田の顔面へ叩き込まれた。

 蹴術スキルは封じられているのに、結構いい蹴りが決まったな。


「涼はそんな奴じゃねぇ! ちゃんと男も雇っているし、婚約者の女にもまだ手を出してないんだぞ!」


 間違っていない。間違っていないのに、何か勘違いを植えつけそうな言い方が気になる。


「ぶがっ、あっ」


 鼻を押さえる島田の手から、鼻血らしき血が流れ落ちる。

 下手すると折れていそうだから、一応ユーリットの薬を置いておくか。

 仮に本当に折れていても、この薬を飲めばすぐに治るさ。

 せっかくの売り物が傷つきだと、付け込まれて値切られかねないからな。


「これを飲めば、それくらいの怪我はすぐに治る。その後は売りに行くまで待ってろ」


 これ以上の問答は不毛だと思って引き上げようとしたら、島田が恨みの籠った目を向けて呟いた。


「じんりゅいの裏切りもにょ……」


 人類の裏切り者?

 違う。俺はこの状況から逃げず、現実を見て適応しただけだ。

 目の前で起きた現実から逃げてばっかりだった、お前と違ってな。

 俺だけじゃない、香苗も戸倉も先生も現実と向き合って、ダンジョンタウンっていう特殊な環境に適応した。

 だから、こうして普通に生活しているんだ。

 適応しようとせず、これまで通り生き延びようとしたからお前はそうなったんだよ。

 蹲る島田を見下ろしながらそう思い、香苗と一緒に無言で牢屋の前から離れた。


「なあ涼」

「俺は気にしていない。だから香苗も気にするな」

「いや、あいつのことじゃなくてさ、勝手に手を出して悪かったなって」


 ああ、そっちか。

 てっきり人類の裏切り者って言葉に、ショックを受けたのかと思ったぞ。


「それこそ気にするな。香苗がやってなかったら、俺がやってただけだからさ」


 死なない程度に雷魔法を浴びせて、髪をチリチリパーマにしてやっただろうよ。


「ならいっか。正直言うと、あいつを蹴れてスッキリしたし」

「だったら俺も蹴っておくんだったな。いいストレス解消になったかも」


 ついでに雷魔法も放っておけば、なお良かったかも。

 そう思いつつ、司令室へと戻って行った。

 ちなみに島田の奴は、白金貨五百五十枚で売れた。


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