第41階層~第42階層 休日くらい好き勝手やってもいいだろう。限度付きで
ガルべス「最近、狩猟より農業の方が楽しく思えてきた」
これは、ある定休日の一幕。
その日はリンクスとユーリットとアビーラとフェルトといった、男連中と一緒に朝から外出していた。
普段の定休日はダンジョンについての話し合いや何かしらの実験、農場の様子見とかをしているけれど、今日はそれらのどれもをせず、男連中だけで外食に向かうことにした。
ちなみに女性陣も同様で、どこかしらで一緒に食事をするらしい。
残念なのは前日に声を掛けた農業組は、直営での販売に必要な手続きや畑の手入れが忙しい時だからと、参加を見送られたことだ。
向こうはまた次の機会に誘うことにしよう。
「ここにするか」
なんとなくで決めた店に入ると、店内は朝だというのに酒を飲んでいる客で溢れている。
だけどこれは、決して珍しい光景でもない。
というのも、ダンジョン運営は定休日以外は基本的に二十四時間営業で、ダンジョンの特性上完全な休日は日付が変わった夜中から始まる。
そのためダンジョン運営に関わっていると、好きなだけ酒を飲める夜というのが存在しない。
しかも翌日へ日付が変わったらまた仕事だから、ダンジョン運営に関わっている人達は定休日の朝に思いっきり酒を飲むのが習慣化している。
今回の男連中との外食は、それを体験するために企画したと言っても過言じゃない。
「いらっしゃいませ!」
入店に気づいた猿人族の女性給仕が駆け寄ってきた。
服装はそんなに派手なものではなく、明治初期の頃の茶店の店員のようだ。
「五人で。一人は奴隷だ」
奴隷はお断りって店もあるから伝える必要があるとはいえ、フェルトには少々申し訳ないな。
「承知しました。お席へ案内しますね」
良かった。どうやらこの店は、奴隷がいても大丈夫な店のようだ。
案内された席は、テーブルに普通の椅子が四脚と、床に一枚のゴザが引かれている席。
奴隷でも席に座れる店もあるそうだけど、そんな店はごく少数で、ほとんどはこうして床に座らせるそうだ。
ダンジョンの外にいる間のフェルトは、こっちでは普通の奴隷として振る舞うため、何も言わずにゴザに座った。
「お飲み物は何にしますか?」
こっちは十六歳で成人だから、俺達は全員酒が飲める。
でも元の世界じゃまだ未成年の十七歳だから、酒を頼むのは少し抵抗を感じるな。
まあ今日は飲みに来たから、頼むけどな。
「俺はエールを貰うっす!」
エール、つまりはビールみたいなものか。
他にもワインや米酒ってのもある。
米酒は日本酒のようなものなんだろうけど、今日はエールでいいや。
「僕も」
「同じく」
「俺もだ。こいつには奴隷酒を」
フェルトのために注文した奴隷酒は、粗悪品や失敗作の酒を混ぜ合わせた奴隷用の酒。
悪酔いしそうだけど、奴隷が飲める酒はそれしかないから我慢してくれ。
「承知しました、少々お待ちください」
笑顔で返事をした女性給仕は厨房へ向かう。
「さて、今のうちに食い物を決めておくか」
酒が届くまでの間に注文する料理を決めるため、メニューを手に取る。
どうやらこの店は鶏料理が自慢のようで、大半が鶏を使った物だ。
「どれにしようか」
「飲み会なんだから、皆で分け合えるのがいいな」
皆でシェアして食べるのも、こうした場での楽しみだからな。
「だったら焼き鳥の盛り合わせがいいかな」
「辛いのが大丈夫なら、内臓辛炒めが欲しいっす!」
「あっさりめの蒸し鳥もいいんじゃない?」
立場上、料理を選べないフェルト以外の三人が思い思いに料理を選ぶ。
俺はそうだな……あっ、この鶏揚げにしよう。
たぶん、唐揚げかチキンカツみたいなものだろうし。
「お待たせしました。エール四つと奴隷酒一つです」
ちょうどさっきの女性給仕が酒を運んできたから、それぞれが選んだ料理を注文。
そしたら全員が酒を持ち、俺の音頭で乾杯をする。
「じゃあ皆、お疲れさま。乾杯」
「「「「乾杯!」」」」
乾杯を交わしたら全員で酒を飲む。
初めて飲む酒はアルコールの味わいに戸惑ったけど、飲めないことはないって感じだ。
ただ、奴隷酒を飲んだフェルトは一口飲んで表情をしかめている。
「不味いか?」
「……はい、とても」
周りに聞こえないように小声で返すフェルトは、よほど不味いのか泣きそうになっている。
どれだけ不味いのか気になるものの、だからといって飲んでみるつもりは無い。
「そういえば初めてですね、こうやって皆で飲むのは」
「実家にいた頃は親父やそのお弟子さんと一緒に、仕事上がりによく飲んだっす!」
「俺も地上にいた頃は、仲間と何度か」
元の世界だったらもう三年必要だったから、飲み会の経験は無い。
飲み屋自体に入るのも初めてだけど、この雰囲気は嫌いじゃない。
でも大半が女性客だからか、多くの視線が向けられている気がする。
男ばっかだから、狙われているのか? 約一名女っぽいけど。
いや、それとも俺に注目しているだけか?
「マスター様、どうかしましたか?」
首を傾げるユーリットになんでもないと返し、エールを飲んで気にしないことにした。
「お待たせしました」
おっと、料理が来たか。どれも美味そうだ。
早速どれかを取ろうとしたら、一緒に運ばれてきた小皿をフェルトが取り、取り分けて差し出してきた。
ああそうか、奴隷としてはそれが当然の行いなのか。
「どうぞ、ご主人様」
「ん」
短い返事だけして小皿を受け取る。
皆にも小皿へ取り分けて配っていくフェルトを見守りつつ、雇い主権限で真っ先に食べる。
「おっ、美味い」
やっぱりプロが作るだけあって、普段食べているのとは違う。
蒸し鶏は中に野菜が詰めてあるって、その野菜に鶏の味が染み込んでいる。
鶏揚げは唐揚げでもチキンカツでもない、予想外の竜田揚げ風だけど良い下味がついている上に、衣の歯ごたえもバッチリだ。
「うん、美味いっす。こりゃ酒が必要っすね。すんません、エール追加で!」
早いな、もう飲んだのかよ。
「アビーラさん、飲むの早いですね」
「親父に鍛えられたっすからね!」
酒ってのは、飲んで鍛えられるものなのか?
先に肝臓かどこかが壊れそうな気がする。
「そういうリンクス先輩は、チビチビ飲むんっすね」
「僕はゆっくり味わいたいからね」
俺もチビチビ飲んでいる。
これまでに一度も飲んだことが無いんだから、一気は避けてゆっくり飲むべきだろう。
「すみません、焼き鳥追加! それと卵野菜炒めください! エールも追加で!」
なんかユーリットが妙に上機嫌だ。
ひょっとしてユーリットって、酔うと調子に乗るタイプなのか?
だとしても酔うのがちょっと早いぞ。
あまり酒に強くなさそうだから、ちょっと注意しておこう。
「ペース早いっすね、ユーリット先輩も。あっ、俺もエール追加で!」
鍛えられたと言うだけあって、アビーラに酔う気配は見えない。
でもあまり物を食べていないのは感心しない。食いながら飲むのが、正しい飲み方なんだぞ。
「んぐんぐ……ぷはぁ。お酒も料理も美味しいなぁ」
酒を飲んだ後のリンクスが妙に色っぽい。
ほんのりと赤い頬が、ただでさえ女っぽい外見をより引き立てている。
そのせいか、数少ない男の客達がリンクスに注目している。
「うっぷ」
「無理して飲まなくてもいいぞ」
奴隷酒を飲んで口を押さえるフェルトには、無理しないように言っておく。
粗悪品や失敗作の酒を混ぜ合わせた、半ば廃品処理目的で造られた酒だからな。
それでも酒には違いないからと、奴隷の間じゃ飲まれているらしい。
あくまで主人が振る舞えば、の話だけど。
「いえいひぇ、ぜんじぇん無理してましぇ、うっぶえ」
もう悪酔いしてるじゃないか!
この奴隷酒、悪酔い以外に人体への影響は無いだろうな。
「マスター様も飲みましょう! すみません、エール追加二杯!」
ペースが早いってのユーリットは! ていうか飲み終わっているけど勝手に追加するな。
頼んだ以上は飲むけどさ。
「ぷはぁ! やっぱエールには内臓辛炒めっすね。すみません、エール追加で!」
合う合わない以前にアビーラはもっと食え。
一杯を飲み干すまでに二口くらいしか食ってないぞ!
「すみませぇん。ボクもエール追加で」
リンクス、お前のその色気は本当に女へ向けるものなのか?
さっきから周りの男達が声をかけるか否か、誰が声をかけるか小声で相談しているぞ。
中には俺達の中の誰かの嫁か愛人か、ていう議論と賭けをしてる連中までいる始末だ。
「お酒のお代わり、お待たせしました!」
「待ってました! ささ、マスター様もぐいっと一気に!」
一気飲みは一番危ないからやめろ。
急性のアルコール中毒になったらどうする。
「ごじゅじんじゃま、もう、げんきゃいれりゅ……」
一杯も飲み切らないうちにフェルトは酔ってフラフラだ。
お前はもう寝てろ。無理に飲む必要は無いんだから。
奴隷酒を取り上げて、顔色の悪いフェルトをゴザへ寝かせておいた。
さてと、残りの三人はは……。
「イヤッハー! 旦那、このまま夜まで飲むっすよ!」
「はぁ……。このおつまみも美味しい……」
「すみません、エール追加! 面倒だから二杯ください!」
こいつらは……。
酔いやすいのはともかく、酔ったら面倒なタイプばかりだな。
そもそも飲み方に問題があるのが二人いるし。
「マスター様、僕にだってね、選ぶ権利があるんですよ」
いきなりなんだ。そして何をだ。
「修業時代、師匠からやたらと九歳の孫娘との婚約を勧められていたんです」
「それがどうした?」
別に悪い話じゃないだろう。
相手が未成年でも成人まで待てばいいんだし、どこに選ぶ権利云々が絡むんだ。
「その孫娘さん、巨人族なんですよ」
……えっ? そこが問題なのか?
「それで?」
「今はまだ僕の方が背丈が高いですけどね、いずれは追い抜かれるんですよ。しかも圧倒的に」
カーバンクル族はどう頑張っても、小柄の域を出ないらしいからな。
いかにもデカくなりそうな巨人族と比べちゃ駄目だ。
「個人的には、自分より背が高すぎる女性はちょっと……」
どのくらいデカくなるかは個人によりけりだろうけど、平均で二メートル半くらいだったっけ?
今のユーリットはほぼ背丈の成長が止まっていて、身長は百四十そこそこ。
うん、凄い身長差だな。
他にも色々とデカそうな個所がありそうだけど、ユーリットにとってそこは問題じゃないのか。
「別にそれくらい、気にしなくとも」
「気にします! 子供の頃から小さい小さいとからかわれてきて、嫁さんが巨人族って何の嫌がらせですか!」
嫌がらせって、その師匠さんは事情を知らないんだからさ。
だけど善意からの勧めが、相手の気にしている事に障るってのは無い話じゃないからな。
「僕より小柄か同じくらいのフェアリー族やドライアド族なら歓迎なのに! 何でネーナさんは、マスター様の嫁になるんですか!」
そんなことを言われても……。
「マスター様! 責任を取って僕より小柄か、せいぜい同じくらいの背丈の可愛い子を紹介してください!」
なんという責任転嫁だ。
しかも背丈だけじゃなくて、可愛いなんて条件が付け加えられてるし。
「だったら俺も紹介してほしいっす! できれば同じドワーフか、コボルトを!」
「ボクはぁ、色気のあるお姉さんなら、種族は問いませぇん」
お前らも便乗するな!
それと周りの男共、男もいいもんだぞってリンクスに向けて主張するな。こいつは男、インキュバスだぞ!
「ごじゅじんしゃま、みじゅを……」
「すみません、水を人数分!」
こいつらにはもう酒を飲まさない。
さっさと水飲んで、酔いを覚ましやがれ!
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今頃はヒイラギ様達も、楽しく食事をされているのでしょうか?
せっかくの休日なのでヒイラギ様と過ごすつもりでしたが、この日は男女別で食事をしようという事になったのでちょっと残念です。
どうせならヒイラギ様と二人で食事をしたかったという思いを胸の内にしまい、イーリアさん紹介の店へ行きました。
「どうぞこちらへ」
訪ねた店で個室へ通されました。
ここなら私が周囲の視線を気にすることはありませんし、奴隷のミヤタさん達を普段通りに扱っても何も言われません。
こうした店を探してくれたイーリアさんには感謝します。
部屋に通された私達は円状の卓の適当な席に座り、まずは飲み物を注文しておきました。
「こっちの世界では成人らしいけど、まだ酒はいいや」
「無理に飲む必要は無い」
「私もあまりお酒は……」
元の世界ではまだ未成年だからと言うミヤタさんとトクラさん、それとお酒が苦手なミリーナさんは、未成年の私と一緒に水やお茶を注文しました。
「ではここに、女子会の開催を宣言します」
「イーリアさん、その女子会というのは?」
首を傾げて尋ねるローウィさん同様、私も首を傾げます。
分かるのは、こういう聞き慣れない言葉はヒイラギ様のいた世界の言葉、という事くらいですね。
「サトウさん曰く、女性だけで集まって飲食をしながら、無礼講でぶっちゃけた話をしようという会だそうです。ですよね?」
「ええ、その通りよ」
なるほど。それでこうした個室のお店にしたんですね。
個室なら聞き耳も立てられませんし、こういう店は防音も完璧ですから。
ならば、多少はぶっちゃけても大丈夫ですね。
「お飲み物をお持ちしました」
「ありがとうございます。では皆さん、乾杯をしましょう」
杯が全員の手元に渡り、音頭を待ちます。
それを確認したイーリアさんは一回咳払いをしました。
「おほん。では皆さん、乾杯!」
『乾杯!』
隣の席にいるアッテムさんとラーナさんと杯を合わせ、お茶を飲みます。
うん、美味しいお茶ですね。
「じゃあ食べ物も注文しましょうか。好きに飲み食いしろと、ヒイラギ様から金貨五枚を預かっていますので、どうぞお好きに」
金貨五枚とは結構な額ですね。
行き先の値段が高くてもいいように、そんなに渡してくれたのでしょうか。
ですが値段を見る限り、普通のお値段です。
「この値段だったら、遠慮なく高い物を頼んじゃいましょう」
「えっと、お肉を使っているのはどれでしょうか」
「すみません、注文いいですか?」
皆さんが思い思いに注文されるので、私も選びましょう。
以前に食べて以来、大好物になったロウルキャベツが食べたいですけど、さすがに無いので我慢しましょう。
「それでは料理が来るまで、何を話しましょうか」
「仕事の話以外となると、やっぱり恋バナでしょう!」
コイバナ? それはどのようなお花なのでしょうか。
「なんですか、それ」
「恋バナ。即ち恋の話のこと。つまりは恋愛話」
あっ、そうなのですね。
異世界の言葉はまだまだよく分かりません。
しかし恋愛話ですか。私の場合はヒイラギ様としか経験が有りませんから、上手く話せるでしょうか。
「という訳でエリアスちゃん! 柊君への恋心についてどうぞ!」
えぇっ!? いきなり私からですか!
「きゅ、急に言われても、何を話せばよいか」
「難しく考えなくていいのよ。柊君と出会った時はどうだったとか、今日まで過ごしてどう思っているのかとか」
難しく考えなくていい……。
ヒイラギ様の事をどう思っているか……。
「サトちゃん、ちょっと落ち着けって」
「えぇっとですね、私とヒイラギ様と出会ったのは、ヒイラギ様がお母様の下へ挨拶に来た時なんですけど」
「語るのかよ!」
そこから私は語れるだけ語りました。
出会いの時から何故か魅かれていることや、婚約に至るまでどういう交流をしていたのか。
喋っている最中でちょっと恥ずかしくなってきましたけど、無礼講ということなので思い切って喋りました。
ですが終わった後で、やっぱり恥ずかしくなっちゃいました。
「あうぅ……」
「盛大に自爆すんなら喋るなよ!」
さっきからミヤタさんのツッコミが絶好調です。
「ぐぬぬ……」
トクラさん、そんな悔しそうに睨まないでください。
あなたのヒイラギ様への気持ちは知っていますが、私も譲れません。
だってこの想いは本物ですから。
「次は私! 私が柊君への想いを語る!」
「その前に、料理が来たので少し食べてからにしましょう」
料理が来たことで流れが一旦切れました。
運ばれてきた料理はどれも美味しそうで、温かそうに湯気を発しています。
卓の上に置かれたそれらを皆さんと小皿で分け合い、和気あいあいと食べるのも楽しいです。
「じゃあ改めて、私が柊君への想いを!」
そう主張してトクラさんが語るのは、如何にも真実を何割か美化したような話でした。
ただ、出会いによって一人ぼっちを脱したのは、私と似ていますね。私もヒイラギ様と出会えてから、何かが変わった気かしましたから。
外出した時に陰口を言われても、全くではありませんが気にならなくなりましたし、お母様への悪口にも反論できるようになりましたもの。
「私も思い当たる節がありますね。もしも派遣先がヒイラギ様の下でなかったら、今みたいに皆さんとお付き合いできなかったかもしれません」
イーリアさんにも思い当たる節がありましたか。
話された内容によると、イーリアさんはヒイラギ様と出会う前はダンジョンマスターという仕事に失望していたらしいです。
しかし、その失望をヒイラギ様によって覆され、以前に抱いていた憧れと意欲を取り戻して、失望によって尖っていた性格も直ったとのことです。
「私だって、ご主人様に買われなかったら、何をされていたか。洗礼魔法で守られていたようですが、それはそれで酷い目に遭っていた気がします」
スタイルがいいミリーナさんが買われる理由は、おおよそ予想ができます。
ですがそういう事ができないと分かると、どれだけの酷い扱いを受け、辛い仕事をさせられていたことでしょう。
「ラーナさんやアッテムさん、ローウィさんはどうなんですか?」
「そういった特別な切っ掛けはありませんが、ほぼ毎日お肉を食べられるのと、お給料に役職手当を付けてもらえたのには感謝しています!」
そういえばローウィさんの実家は、家族が多くてお金のやりくりが大変なんでしたね。
だとしたら、役職手当がいくらかは知りませんが嬉しい収入ですね。
「私も、特別な切っ掛けは、ありません。でも、マスターさんがいい方なのは、よく分かっています。ただ、やたら期待をかけられるので、大変です」
元ダンジョンマスターの祖父を持つアッテムさんは、返り咲きを狙ったお祖父さんから、ダンジョン運営について教わっていたんでしたね。
そんな人材に、期待をかけるなというのが無理ですね。
特にヒイラギ様のような、まだ開いて一年も経過していない新興のダンジョンでは特に。
「同じく特別な切っ掛けはありません。ただ、個人的には好感を持っています。自身とお仲間のためなら、元の世界での知り合いも容赦なく切り捨てられる決断力、それと仲間にかける優しさ。周囲に何を言われようともエリアス様と好意的に接する、懐と心の広さに」
そういえばこの前も、元の世界でのお知り合いを奴隷として売ってましたね。
ミヤタさん達は問題無くて、彼が駄目な真意は知りませんけど、何か思うことがあるのは確かです。
ヒイラギ様はお知り合いの情報を集めているものの、全員に救いの手を差し伸ばすという事はしません。
手を差し伸ばしたのはミヤタさん達だけ、それも砂糖という高価な収入源があって、生活を保障する余裕ができたからです。
もしも砂糖を入手できていなかったら、ミヤタさん達も売らざるをえなかったでしょうね。
「そう考えると、柊君にはだいぶお世話になってるわね。恩返ししたいけど、できることなんて一生懸命働くくらいしかないのよね」
「あるじゃないですか、ヒイラギ様の愛人になって体のご奉仕をするという方法が」
『ぶほぉっ!』
突然のラーナさんの生々しい発言に、私も含めてほぼ全員が噴いてしまいました。
慌てて布巾を取り、濡れた卓の上を拭きます。
「ラーナさん、急にそんな事を言わないでください」
「事実を簡潔に述べたまでです。それにお子さんは確実に異世界人ですから、ダンジョンタウンの未来にも繋がります」
確かに事実なので否定できないですね。
当のサトウさんもその手があったかと頷き、何かニヤけています。
でも皆さん、忘れないでください。
正妻は私ですからね。ヒイラギ様の最初の子供を産むのは私です!
ヒイラギ様は共有しても、これだけは絶対に譲れません!




