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第17階層 芯がしっかりしてないから揺れる

涼「ふとした切っ掛けってとても大事だと思う」


 オバさんの所での用事を終えて自分のダンジョンへ帰り、司令室でイーリアに留守の間の出来事を尋ねる。

 報告によると野生のゴブリン五体、同じく野生の熊一頭がダンジョンへ侵入してきたそうだ。

 どちらも既に退治と回収を済ませており、どう扱うかの指示を待っている状態だった。


「倒したゴブリンはパンデミックゾンビにしてスキル習得の実験をする。熊は毛皮を剥ぎ取って売ろう」

「毛皮だけですか? 肉はどうなさいます?」

「たまには売らず、皆で食おう」


 そう告げると肉好きのローウィが目を輝かせた。


「でしたら、すぐに解体してきますね!」


 帰って来たばかりなのに休みもせず、勢いよく走っていく姿に思わず苦笑する。

 一人でやるのは大変だろうから、ちょうど手が空いていたフェルトにフォローを頼んでおいた。


「留守の間の報告は以上か?」

「いえ、もう一つあります。ポイントが溜まって、ランク二へランクアップしました!」


 おぉ、やったか。

 新たな階層を増やせるのはランク三からだけど、これで召喚できる魔物の種類が増えた。

 これで今のダンジョンの環境に適した新しい魔物を召喚して、連携のバリエーションを増やせるな。

 いや、その前に階層と同じ数しかいないフロアリーダーの増員が急務か。

 育成や実験に気がいっていた上になかなか侵入者が来ないから怠っていたけど、今後は侵入者が増えるだろうから早急にやらないと。


「まずはどんな魔物がいるか、調べてみるか」


 コアにアクセスしてランク二で召喚できる魔物を検索し、フロアリーダーになれそうな魔物だけに絞り込む。

 検索の結果、新たに召喚可能な魔物でフロアリーダーになれそうなのは六種類いた。



 スラッシュマンティス 召喚魔力 四百六十

 ボイスマーメイド   召喚魔力 五百二十

 デットリーソードマン 召喚魔力 五百十

 ファントムフォックス 召喚魔力 五百六十

 ドレインフロッグ   召喚魔力 四百七十

 サイクロプスパンダ  召喚魔力 五百四十



 何だ、最後のサイクロプスパンダって。

 気になって仕方ないから外見を表示させると、長い竹を両手で持って構えを取る、大柄で屈強な単眼のパンダだった。


(パンダの可愛らしさが欠片も無いな)


 こんなゴツくてムキムキな一つ目のパンダを見たら、子供が泣いて世のパンダファンが怒り狂うぞ。


(戦闘力はどうだ?)


 魔石盤で調べたデータによると、戦闘スタイルは見た目通りの近接タイプ。

 格闘技や手にしている竹による槍術で戦うようだ。

 どうして棒術じゃなくて槍術なのかと思ったら、竹の両端が斜めに切断されて先端が尖っていた。

 そりゃあ、竹槍って物があるから間違っていないんだろうけど、見た目は槍というより棒に見えて仕方ない。

 しかも竹自体が普通の竹でなく、そう簡単には折れも割れも斬れもしない硬度を誇るようだ。

 これ、本当に竹なのか? 竹って名前を付けた別の物じゃないか?

 魔法は使えないし魔法に対する耐性も低いけど、物理攻撃には打たれ強くて動きも素早いみたいだ。


(有りといえば有りだな)


 名前と外見と武器については気になるけど、戦力としては有りだと思う。

 だけど決めるにはまだ早い。他の魔物を見てからでも遅くない。


(まずはスラッシュマンティス)


 こいつは名前の通り、両腕の鎌で相手を切り裂くデカいカマキリ。

 羽があるから飛行できて攻撃と素早さに特化しているけど、決定的に打たれ弱い。

 こいつを使うなら、動き回って戦ってもらう事になりそうだ。 

 うちのダンジョンの造りだと、フロアリーダーの間以外には配置できないな。


(次はボイスマーメイド)


 状態異常にする歌で相手を弱らせ、魔法で戦う人魚か。

 近接戦は苦手でやや体力も低めだから、攻撃は水魔法が頼り。

 歌の種類は相手を状態異常にするスキルの数に応じていて、召喚時は混乱と魅了と幻惑の三種類が使えるようだ。

 泥水とはいえ足場が水浸しになっている俺のダンジョンには向いていそうだし、いずれ階層を増やしてフロアリーダーの間に配置することにしても、床を水浸しに設定できるから問題無いか。


(デットリーソードマンは……)


 こいつは両手剣を持った中身の無い鎧騎士。

 しかも本体は両手剣の方だから、鎧の方を何度破壊しても両手剣が破壊されない限り再生し続ける。

 素早さに欠けるけど闇魔法が使えて接近戦もできるから、本体のことに気づかれなければ結構いけるかも。


(おっ、このファントムフォックスいいかも)


 こいつの戦い方は中々面白い。

 幻視火域げんしかいきっていう種族スキルを使って、尻尾に灯した火を目にした相手に自分の位置を誤認識させる。

 正確にはその火によって目に入って来る光を操り、別の位置にいるかのように見せているようだ。

 そうして相手が幻に気を取られている隙に、そこにいるんだけど見えていない本体が火魔法や爪や牙で攻撃する。

 うん、こいつは使えそうだ。


(最後はドレインフロッグだな)


 こいつは長い舌を相手に絡ませて魔力を吸収する、巨大なカエルだ。

 動きは鈍いけど、舌の動きは早くて正確。

 舌以外での攻撃方法は跳躍からの踏み付けか突進、それと土魔法。

 物理と魔法、両方の防御力が高いのはいいけど、何かちょっと物足りないな。


(さてと、フロアリーダーでない魔物も含めてどいつを召喚しようか)


 うちのダンジョンとの相性や訓練方法と、考えが次々に浮かんでくる。

 ああそうだ、冒険者を引き込む点も考えなくちゃいけないんだよな。

 どうするかな……。


「マスター、さん。交代の、時間です」


 おっと、もうそんな時間だったか。

 魔物については一端保留にして、アッテムと引き継ぎをする。

 体を伸ばしながら居住部へ移ると、配膳をしている戸倉が出迎えてくれた。


「あっ、柊君。ちょうど夕食ができたところだから、座って座って」


 ナイスタイミングだったようだな。

 リビングには夕食の準備をする戸倉とミリーナ、それとがローウィ集まっていて一緒に夕食を摂ることになった。


「じゃ、いただきます」

「「「いただきます」」」


 すっかり定着したな、いただきます。

 元から知っている香苗達はともかく、少々美化されたイーリアの説明によって他の面々にも広まって定着した。

 貧しくて食事が大変だったローウィと聖職者だったミリーナ、それと狩人だったフェルトは本当に祈るようにやっているし、アッテムとリンクスとユーリットも俺達より真剣にやっている。


「そういえば柊君、ランクが上がって新しい魔物を召喚できるようになったんだって?」

「ああ。イーリアから聞いたのか?」


 俺の問い掛けに戸倉は口に物を含んでいる最中だからか、頷くだけで返してきた。

 別に知られたところでどうということは無いから、俺も頷いて返した。

 言うまでも無く、口に物が入っているからだ。


「ただ、どいつを召喚するかで悩んでいてな」

「でしたら足下が泥ですから、泥の中で生息できる魔物はどうでしょうか」


 おっ、その発想は無かったな。

 水棲や水中移動可能な魔物は考えていたけど、泥の中までは頭が回らなかった。

 ナイス意見だ、ローウィ。


「猿みたいな魔物はどうです? 隆起した岩をスローゴブリンみたいに、ピョンピョン飛び移らせながら戦うんです」


 ミリーナからもいい意見いただきました。

 猿ならゴブリンよりも飛び移るのが得意だろうし、知恵も回るから侵入者の誘導にも一役買ってくれそうだ。


「トカゲとかヤモリのような魔物なら、壁を這わせて移動できそう」


 なるほど、戸倉の意見も面白いな。

 そういう系ならキラーアントやロックスパイダーよりも機動力がありそうだから、不気味さが加わって女冒険者はちょっと怯むかも。

 って、違う! 俺が悩んでいるのはフロアリーダーだ。

 だけど良い意見には違いないから、後で検討してみよう。


「なぁ、フロアリーダーの種類って統一した方がいいと思うか?」


 さりげなく話題を変えながら疑問をぶつけると、ローウィと戸倉は困った表情を浮かべた。

 二人はここで働くまでダンジョンに関わった経験が無いから、返答に困っているようだ。

 こうなると頼りは冒険者だったミリーナだけど、どうだろうか。


「そうですね。私の経験上、様々な種類がいた方が良いと思えます」

「根拠は?」

「よほど腕の立つ冒険者でない限り、あらゆる対策が必要になってくるからです」


 ああ、なるほど。

 近接パワータイプのバイソンオーガと、スケルトンを従えて後衛から魔法で戦うパンプキンゴーストじゃ、戦い方も対策も変わってくる。

 ミリーナの言う通り、対策なんて必要ないくらいの強さの差がないと、戦う側としては厄介だろうな。

 となると、やっぱり複数の種類を準備しておいた方がいいのか?


(全部召喚して、侵入者と戦う度に入れ替えるのもいいかも)


 そんな考えを浮かばせながらの夕食を終え、一旦自室に戻る。


「ふぅ……」


 ベッドに寝転がって保留していた考えをまとめようとする。

 ローウィ達から得た新たなアイディアも含めて色々と思考を巡らすけど、なんかしっくりこない。

 やりたい事、魔物にやらせたい事。それはいくらでも思い浮かぶ。

 だけど冒険者を引き込む点をこれに加えると、どうにも納得いかない。


(ああもう。どうして自分の事なのに納得できないんだ)


 必要な事なのは分かっていても、なんでか自分を納得させられない。

 収益を上げるためには侵入してくる冒険者が必要で、それを促すための措置が必要になる。

 でもそうした事に、どうしても納得できない。

 全力を出し切らなかったせいで、ここを失いたくないから。

 そりゃあ、ダンジョンマスターの仕事は楽じゃない。

 少し前まで無気力気味な高校生だったのが、金を稼いで人を雇って働いてもらって税金を払ってダンジョンタウンにおける経済の循環に加わっている。

 人殺しとも人身売買とも非人道的とも言えることを全て受け入れ、現在進行形で実行しながら。

 しかもそれに対して全力を注ぎたいと思っている。

 元の世界で何の目標も持てず、ただ生きていただけだったのに。


(自覚していなかっただけでそういう願望があったのか、それともこの仕事がよほど俺に合っているのか)


 ふと、物理的に背中を押してここへ誘った悪魔男を思い出す。

 あいつは確か、ダンジョンマスターになれる素質があるって言っていた。

 だとすれば、こっちでの人間の扱いや侵入してきた人間への対応、そして自覚無しの願望だの性に合っているだのもひっくるめて悪魔男の言う通りだったんだろう。


(ああ、だから冒険者側に合わせようとするのが嫌なんだ)


 ここは来るべくして来た俺に与えられた城。

 ここが俺のいるべき居場所。

 それを全力で守ろうとしないから、納得できていないんだ。

 ここを守るためなら冒険者が来なくなっても構わない。

 金は副業で稼げばいい。

 大事なのは攻略されないことで、冒険者側とウィンウィンになるよう調整することじゃない。


「やってやろうじゃん」


 腹を決めたのならすぐにやろう。

 両手で頬を叩き、ベッドから飛び起きて早足に司令室へ向かう。


「あ、あれ? マスター、さん。今日は、もう、お休みで、は?」

「急用だ、配置する魔物を変更するぞ。それと新しい魔物も召喚する」


 今の時間を任せているアッテムに用件だけ告げ、魔物を索敵妨害有りの奇襲部隊による配置へ変更。

 次いで金貨数枚を投入して魔力へ変換し、育成スペースと水場を拡大しておく。

 最後に新しく召喚可能な中から厳選した魔物を育成スペースに召喚した。


「邪魔したな。育成スペースにいるから、何かあったら呼べ」

「は、はい」


 魔石盤を手に育成スペースに入ると、新しい魔物達が出迎えてくれた。

 そいつらの情報を魔石盤に表示させて確認を取っていく。



 名称:デットリーソードマン

 名前:なし

 種族:アンデッド(ゴースト)

 スキル:闇魔法 剣術


 

 名称:ファントムフォックス

 名前:なし

 種族:フォックス

 スキル:火魔法 俊敏上昇

 種族スキル:幻視火域げんしかいき



 名称:ボイスマーメイド

 名前:なし

 種族:マーメイド

 スキル:混乱 魅了 幻惑 歌唱 水魔法



 名称:サイクロプスパンダ

 名前:なし

 種族:サイクロプス

 スキル:拳術 蹴術 槍術



 まず確認を取ったのはフロアリーダークラスの魔物達。

 こいつらは当面はダンジョンに配置せず、訓練を積ませて鍛えてから実戦投入する予定だ。

 さて、次は通路に配置予定の魔物を確認しよう。



 名称:マーメイド

 名前:なし

 種族:マーメイド

 スキル:魅了 水魔法



 名称:パラライズスネーク

 名前:なし

 種族:スネーク

 スキル:麻痺



 名称:スペクター

 名前:なし

 種族:アンデッド(ゴースト)

 スキル:混乱 強奪

 種族スキル:無属性物理攻撃完全無効



 通路に配置する魔物は、この三種類を十体ずつ召喚した。

 マーメイドとパラライズスネークは泥水の中だろうと活動できるし、ゴーストのスペクターは環境に影響されない。

 加えて今回は、相手を状態異常にするスキルを持っている魔物を選んでみた。

 さらにスペクターの強奪スキルは戦っている相手の持ち物を盗むから、物だけ盗んで逃がすこともできる。


「そんじゃ、訓練開始といきますか」


 まずは冒険者を呼び込むために地下一階層に配置しておいた、訓練をしていない魔物達を奇襲部隊と同等まで鍛えよう。

 ダンジョン内の行き止まりの通路へ移動して、手の空いている同種の魔物達と共にここでの戦い方を指導する。

 ある程度教えたら先輩魔物達に任せ、別の通路で新たに加わった三種類の魔物達の指導に入る。


「パラライズスネーク、水中に拘らず隆起した岩も利用しろ」


 いっそ片方が陽動で気を引き、その隙にもう一方が水中から噛みついて麻痺させてもいいな。


「マーメイド、移動しながら水魔法は使えるか? ああ、狙いが外れても気にしないぞ。そこは練習あるのみだ」


 固定砲台に求めるのは威力。

 威力が低いのなら移動砲台にして、相手の誘導や味方との連携に役立てればいい。


「スペクター、どうせ現れるなら混乱スキルを使いながらはどうだ? ゴーストが突然現れて驚かない奴はそうそういないから、不意を突けると思うぞ」


 幼い頃にお化け屋敷へ入った時や恐怖映像の番組を見た時の香苗が、毎回驚いて悲鳴を上げて時にマジ泣きしていたから間違いない。

 俺? ビクッとはするけど、それほどでもない。


 こうした感じで指導をしながら、他の魔物達との連携も説明していく。

 実際の連携訓練は、指導した戦い方がもう少し形になってからだ。


「よし、このままもう少し訓練を続けてくれ。明日以降もあるし、ほどほどで切り上げるんだぞ」


 返事をする魔物達を背にダンジョンから育成スペースへ戻り、新たに召喚したフロアリーダークラスの魔物達にも指導を施そうと思ったけど、そうはいかなくなってしまった。


「駄目だ、時間が無い」


 今夜は遅番での監視当番が入っている。

 その気になれば、一晩の徹夜ぐらいできると思う。

 でもそういうのを避けるため、早番と遅番の交代制にして朝のミーティングの後に仮眠時間を設けたのに、発案者が率先してそれを破ったら話にならない。

 仕方ないから待機中の各種ゴブリンとオークの連合部隊を冒険者パーティーに見立て、実戦に慣れる訓練をするように指示を出して育成スペースを出た。

 司令室を通過する時にアッテム達へ邪魔したなと声を掛け、遅番に備えて自室で眠りに就く。

 方針の変換ついては、朝のミーティングで伝えておこう。



 ****



 目覚ましの電流で起こされてユーリットと司令室へ行くと、早番で入っていたイーリアが指を立てて口に当てた。

 静かにしろってことか? なんだどうした?

 もう一方の手で指した方を見ると先生が船を漕いでいて、その背後に立つアッテムが何故かハリセンを持って不安そうにこっちを窺っている。

 何だこの状況。面白そう。

 眠そうに目を擦っていたユーリットはワクワクしているし、イーリアも期待の眼差しを向けて耳をピクピク上下させているいる。


「あ、あの……」


 小声でどうするべきか尋ねようとするアッテムに向け、笑みを浮かべて無言で腕を振り下ろす動作をする。

 要するに、やれ。

 これを受けても数分悩んだアッテムだったが、無事にハリセンは振り下ろされて先生の悲鳴が司令室に響き渡った。


「報告事項は転がり落ちてきたネズミが一匹、スライムの食事になったくらいです」


 先生が起きたから引き継ぎを行う。

 このネズミは侵入者の意味じゃなくて、本当に動物の方のネズミだ。


「ん、分かった。ところでアッテム、そのハリセンはどうしたんだ?」

「え、えっと、ミヤタ、さんが、寝ている人を、起こす、定番、だって」


 あいつか。元の世界では試験勉強中、それで起こされる側だったのに。

 ハリセンに関してはそれ以上の追及はせず、引き継ぎを終える。

 後頭部に手を当てている先生とイーリア達が退室するのを見送り、ユーリットと二人で監視を始める。

 真夜中とあってダンジョン内は静まり返っていて、徘徊する魔物の姿が映るだけだ。


「ふわぁ……。やっぱり遅番は寝起きがちょっとキツイですね」


 それな。

 こればかりは何度やっても、少なからず眠気は襲って来る。


「そうだ。マスター様、お願いがあるんですけど」

「ユーリットがお願いなんて珍しいな。何だ?」

「薬草を苗か種で買って、育成スペースにある畑の一角で栽培していいですか?」


 育成スペースでの栽培ということは、高品質な薬草の入手が狙いか?

 あそこで育てた野菜は味が良くなるから、薬草の効果も高まるだろう。

 その薬草でより効果の高い薬をユーリットが作れば、怪我や病気への対策にも繋がるから却下する理由は無い。


「許可しよう。育成スペースを広げたから一角とは言わず、畑を少し拡張して栽培していいぞ」

「ありがとうございます!」

「ただし、発案者として畑作りから育成までは責任をもってやれよ。あっ、手助けが必要ならちゃんと言えよ」


 でないと一人で抱え込んじゃいそうだから。


「分かりました!」


 うん、いい返事。

 そうだ。育成スペースで思い出したけど、新しく召喚した魔物達はどうしているかな。

 画面の一つを育成スペース内に切り替えると、新たに召喚した魔物達が他の魔物達と歓談している様子が映った。

 どうやら今日の訓練はもう切り上げて、先輩魔物達との交流を楽しんでいるようだ。


(仲良くやっているのなら、戦闘での連携も大丈夫そうだな)


 まあ同じダンジョンで生まれた同士、そうそう喧嘩なんて起きないか。 

 和やかな雰囲気で会話をする様子に安堵し、画面をダンジョン内へ戻して監視をしつつ、新しいフロアリーダークラスの魔物達に施す予定の訓練内容を頭の中でチェックしていく。


(サイクロプスパンダはこうで、デットリーソードマンはこう。ファントムフォックスはこうして、ボイスマーメイドは……。うん、なんかちょっと物足りない)


 他の三体はともかく、ボイスマーメイドにはもう一捻り欲しい。

 フロアリーダーの間に配置する時は環境設定で水浸しにするのは当然として、戦い方をもう少し工夫したい。

 歌の種類を増やす方法は思いついたけど、それとは別に何かが……。


(相手を状態異常にする歌……歌といえば伴奏。そうだ、楽器を持たせるのはどうだろう)


 確か楽器を上手く操れる、演奏スキルってのがあったはずだ。

 まずは普通の楽器で演奏スキルを習得させて、その後で何かしらの魔物を戦闘向けの楽器に武装化して扱わせればどうだろうか。

 となると問題は、何の楽器を扱わせるかだな。

 歌の邪魔にならないように、口を使わず手だけで演奏できる楽器がいいな。

 練習も必要だからダンジョンタウンで入手できる楽器で、水中へ持ち込むこともできる大きさか。

 ……うん、あの楽器がいいかな。

 あれならダンジョンタウンで入手できるし、手だけで演奏できる。おまけに持ち運びも簡単だ。

 明日にでも購入して、ボイスマーメイドへ渡して練習させよう。


(絶対にここは攻略させない。侵入者は一人残らず全滅させてでも、守り抜いてやる)


 ここで一緒に暮らしている皆との居場所を守るためにも。


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