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「陽菜ちゃん、依頼はこれで完了だと思うんだけど、どうかな?」

 カフェ・サークルに帰ってきて、円香は正面に座る陽菜に言った。

「これで裏サイトに個人情報が投稿されることはなくなった。幸い情報も全て消えているみたいだから、これ以上何かが起きるということはないね」

 高峯先生が呼んだ人に、小林先生は連れて行かれた。

 相応の処罰を行ってくれるそうだ。

 武田たちも同様だ。

 全員が全てに関わっていたわけではないが、それでも何かしら関わっていた生徒には対処される。

 退学か停学か指導で終わるかは人それぞれだが、これ以上裏サイトに情報が広がっていくことはない。

「はい。ありがとうございました」

 陽菜は頭を下げてお礼を言った。

「これで、安心できました。いつ誰かの情報が上がるかと思うとずっと怖くて……」

「だね。でも、実際今回一番の功労者は、依頼をしてきた陽菜ちゃん自身だよ。もうちょっとで優羽の情報も載るところだったし、優羽も感謝しないといけないね」

「わかってるよ。陽菜には感謝してる。ありがとな」

「い、いや、私は……」

 顔を赤くしながら陽菜はしどろもどろに俯いた。

「そ、それで、今回の依頼に対する報酬なんですけど……」

 言いにくそうに口を開く陽菜だが、尻すぼみに声が消えていく。

 円香はきょとんとして首を傾げた。

「あれ、そう言えば報酬の話ってしてなかったけ。いらないよ。報酬は」

「え?」

 陽菜が素っ頓狂な声を上げる。

「いらないんです、か?」

「うん、別にそんなものほしさにやってるわけじゃないからね。ただ、二つだけお願いはさせてもらうけどね」

 円香は微笑みながら指を立てた。

「一つ、カフェ・サークルを今後とも利用してくれると助かりますってこと。ま、気が向いたら来てくれるくらいでいいから」

 店長代理らしく営業を始める円香。

「もちろん強制じゃないからね。たまにコーヒーとか飲みたくなったらきてねってくらいだから」

「は、はぁ……」

 そんなものでいいのかと、拍子抜ける陽菜。

 円香はその反応を見て面白そうに笑うと、もう一本指を立てた。

「それと二つ目、自分たちで解決できそうにない問題やトラブルがあれば、また私たちサークルに依頼をしてくること。陽菜ちゃん自身の問題でもいいし、友達でも知り合いのことでもいいから。あ、サークルの存在を大っぴらにするのはNGね」

「……それだけでいいんですか?」

 円香は穏やかな笑みで頷いた。

「うん。私たちにとっては、それが一番重要だからね」

 陽菜は何のことかわからないように眉をひそめていた。

 俺も同様にわからなかった。

 ただ少しだけだが、わかった気がした。

「さ、祝賀会を始めようか」

 円香が手をぱんぱんと叩きながら立ち上がる。

 すると、厨房に引っ込んでいた奏太と小春、葉風がトレーにコーヒーとたくさんの料理を乗せて出てきた。

「さあ陽菜ちゃん、優羽も、今回の件は皆頑張ってくれたからね。好きなだけ食べるのだ」

「お疲れ様」

 奏太がアイスコーヒーを渡してくれた。

「先輩って本当に強いんですね。ビックリしました」

 俺たちの前にお菓子やら料理やらを並べながら、小春は笑った。

「格好良かった」

 葉風は言いながら俺の膝の上にちょこんと乗る。

「皆、グラスは持った?」

 円香が俺たちを見渡して確認する。

 陽菜はなんとも言えない表情でグラスを手にしていた。

 陽菜にしてみれば、自らの依頼で問題を対処できたにも関わらず、それにほとんど対価も求められないどころか、祝ってもらえる状況に戸惑いを隠せないでいるのだ。

 不意に俺と陽菜の視線がぶつかった。

 俺は笑って、グラスを掲げる。

 きっと、これでいいんだ。

 こいつらのサークルとは、そういうものなのだ。

 陽菜も小さく苦笑をこぼした後、グラスを上げた。


「「「「「「乾杯!」」」」」」


    Θ    Θ    Θ


 カフェでの祝賀会も終わり、俺は陽菜を送るべく街を歩いていた。

 皆は祝賀会の後片付け中だ。

「よかったな。ちゃんと解決して」

「うん、皆のおかげ。私、何もできなかったから」

 卑屈に言う陽菜の頭を、俺は軽くチョップした。

「円香も言ってただろ。陽菜が依頼を出したから、解決したんだって。陽菜が何も言わなかったら、もっとひどいことになったかもしれないからな」

 実際、誰かが止めようとしなければどこまでことが大きくなっていたかわからない。

 情報が上げられた生徒も、ことがこれだけで収まったところで景山先輩のように現実的な問題になった生徒は少なくて済んでいる。

 今回は高峯先生たちが可能な限り穏便に終わらせると言っている。

 しかしこれが、もっと大きな問題になってから止めようとしても、既に一度燃え上がった炎を痕跡すら残さず消すことは無理だ。

 陽菜が円香たちを動かした結果、収束させることができたのだ。

「俺も一番の功労者はお前だと思う。俺たちはお前の希望に力を貸しただけだ。だから、お前のおかげだよ」

「……そっかな」

 陽菜は自信なさげに俯いた。

 カフェから十分ほどの場所にあるという陽菜の住むアパートの近くまできた。

 そこは期せずして、俺と円香たちが初めて会った運動公園のすぐ近くだった。

 俺たちは運動公園にあるベンチに腰を下ろした。

「そう言えば、これから裏サイトはどうするんだ?」

 俺は墨を落としたように広がる空を見上げながら尋ねた。

「あの裏サイト事態は特に悪いこともしていないはずだし、先生たちも警察とかも、特に何もされないんじゃないかな」

 陽菜はこともなげに言って、体をぐぅっと伸ばした。

「いや、先生とか警察とかじゃなくて、お前がどうするんだって聞いているんだよ」

 途端に、陽菜の動きが止まる。

「……どういうこと?」

 空を見上げたまま、俺は小さく息を吐いた。


「あの生徒の過去情報が投稿されていた裏サイト、管理人は陽菜、お前だろ?」


 春の終わりを告げる生暖かい風が俺たちの肌を撫でていった。

 陽菜は深々とため息を吐いて立ち上がった。

 数歩前に歩き、俺の前に躍り出る。

「いつから、気づいていたの?」

「最初から」

 陽菜がなんとも言えない曖昧な表情を浮かべ、苦笑しながら頭を掻いた。

「優羽君は相変わらず性格が悪いね」

「よく言われる」

 自分自身で性格が悪いことなどずいぶん昔から知っている。

 その上で、黙っているのだから尚更たちが悪いことも。

「どこで気づいたの?」

「あの裏サイトに投稿された情報、本当にすぐ消されていたよな。実際俺たちの中では、葉風くらいしか投稿を見られていない。それなのに、お前は大量の情報を見ていて、あまつさえそれをコピーしていた。そんな真似、二四時間机にかじりついたって不可能だ。だったら、実際に削除している管理人以外にあり得ないだろ」

 あれだけの情報が瞬間的に削除されているのは、消している管理人自体もあの投稿自体を快く思っていないからだと考えることができる。

 それほど切に投稿を止めさせようとしている人間など、俺の目の前にいる少女以外に考えられなかった。

「お前は裏サイトの管理人でありながら、自分が管理人であることを知られたくはなかった。まあそうだよな。裏サイトの管理人なんて、快く思われるわけがない。だからお前は、管理人という立場を隠して円香たちに接触し、裏サイトの投稿を調べるように依頼したんだ」

「ははは、何から何までお見通しだね」

 もっと言うなら、陽菜が裏サイトを直接潰す依頼をしてこなかったということも、一つの要因だ。

 裏サイトへの情報の投稿が困るのであれば、一番簡単な方法として裏サイト自体を削除するという方法があった。

 匿名掲示板でそれを行うことは困難ではあるだろうが、明らかに違法な情報が投稿されていたのだから何らかの対策は採れるのだ。

 しかし陽菜はそんなことは一度も意見しなかった。

 そこに、違和感を覚えていたのだ。

「まあ、何か隠しているって思ってしな。お前、依頼してきたのにどうして裏サイトの投稿をどうにかしたいかって理由、一度も言わなかっただろ? 自分の情報はもう削除されている。それなのに、他生徒の情報の投稿を止めさせるためだけに、円香たちに依頼するだの投稿情報をリスト化するだの労力のかかることをしてる。何か理由があると思うのが普通だ」

「……そこまで考えてるのに、なんで何も言ってくれないかな」

 少し怒ったようにぶすっと陽菜が口を膨らませる。

 俺は久しぶりに陽菜が見せた怒った表情に、思わず笑みが漏れた。

 ベンチから腰を上げながら、近くにあった自動販売機でコーラとイチゴミルクを買った。

「ほれ」

 イチゴミルクを陽菜に投げて渡す。

「わわっ」

 陽菜は空中で何度か弾いてキャッチした。

「それあげるから許してくれ」

「……私、めちゃくちゃ安い女だと思われてない?」

「思ってないですよー」

「すっごい棒読み。腹立つ」

「すいませんね」

 ハムスターのように口を膨らませる陽菜だったが、途端に吹き出して笑い始めた。

「あはははは! やっぱり優羽君は変わらないね」

「そりゃどうも」

 コーラのプルトップを押し上げる。

 ぷしゅっという小気味のいい音が響き、俺は喉が痛むほど強い炭酸をあおる。

 さらにもう一口飲み込んで、喉を潤した。

「やっぱり、お前が裏サイトをやってたのは俺たちのせいか?」

「……」

 陽菜は暗い顔で俯いた。

 手の中で紙パックのイチゴミルクを握りしめながら、陽菜は口を閉ざす。

「とりあえず飲めよ。ぬるくなんぞ」

「あ、うん。いただきます」

 ストローを紙パックに差し込んで、陽菜はイチゴミルクを飲む。

 自らの好物であるイチゴミルクの紙パックを眺めながら、陽菜は口を開いた。

「私は、優羽君を、夕凪ちゃんを助けられなかった。裏サイトを悪いことに使っちゃって、たくさんの人を傷つけて、たくさんの人を不幸にした。でも私は、裏サイトがそんなことのためにあるものじゃないってのを証明したかったんだ」

 陽菜は裏サイトにあった情報から正確な個人情報を集め出した。

 現在の裏サイトというのは、匿名であることをいいことに、他者を誹謗中傷するのが当たり前の空間になっている。

 同級生を、教師を、親を、兄弟を、学校を、自分という存在の虚栄心を満たすために匿名を盾に陥れる。

 しかし、元来裏サイトはそういうものではなかった。

 諸説あるが、学校の公式サイトではない、非公式な学校サイトと位置付けられる。その多くは、生徒によって作られており、掲示板タイプのものがほとんどを占める。だから匿名で誰でも投稿ができたのだ。

 だが元々は、生徒同士の交流の場として、宿題を教えあったり、部活の話をしたり、愚痴や悩みを相談したりするものだった。

 陽菜はそんな本来あるべきではない使い方をしてしまったため、ずっと悔いていたのだ。

「この島には裏サイトがなかったから、私自身が作ったんだ。本来の裏サイトの姿を、この目で見たかった。優羽君や夕凪ちゃんを傷つけて、私が悪用しちゃった裏サイトが正しいものだって、自分の目で見たかったんだ」

 だから陽菜は裏サイトを作った。

 自分が過去に目にした痛みと、自らがやってしまった罪のために、裏サイトのあるべき姿を見ようとしたのだ。

「でも、もうあの裏サイトは閉めるよ」

 陽菜はイチゴミルクを飲み干して、紙パックを折って潰していく。

 俺もコーラを飲み干して、自動販売機横のゴミ箱に空き缶を投げ込んだ。

「……いいのか?」

「うん。いいんだ、よっ」

 陽菜は紙パック専用のゴミ箱目がけて紙パックを投げる。

 放物線を描き、紙パックは空き缶の方のゴミ箱へと落下した。

「……」

 無言でゴミ箱に近づくと、紙パックを拾い上げて正しい場所に入れた。

「結局私がやろうとしていたことは、自分が正しいということを証明するためだけの自己満足だったんだよ。そこに、誰かのためにっていう気持ちはなかったんだ」

 陽菜は寂しそうな笑みを浮かべながら、スニーカーで地面を蹴る。

「今回の件でわかった。私は誰かに個人情報を投稿されてその投稿者を突き止めようとしたけど、それは投稿される生徒のためじゃなくて、裏サイトを荒らされている私自身への怒りだったんだ。結局は、私のやっていたことも阿良木さんたちと同じ偽善だった」

 自分の正義を信じて疑わない陽菜。

 陽菜の正義は常に正しいところにあったのだ。

 だから陽菜自身気づけなかったのだ。

 今回の一件は、自らのために正義であったことに。

「別に、それでもいいんじゃないか?」

 陽菜の二つの瞳が潤んで揺れた。

「人は誰しも自分の中に自分の正義を持っている。それが正しいどうかは、やってみるまでわからない。お前はやってみてダメだったのとわかった。だからきっとそれでいいんだよ。お前が作った裏サイトは、確かに作るだけの意味があったんだよ」

 陽菜の裏サイトは個人情報の投稿に使われたが、それは陽菜に責任があるわけではない。

 ただ情報を拡散するための場所として、たまたま陽菜の裏サイトが使われただけだ。

「お前は裏サイトを作ることで誰かがお互いに助け合える場所を作ろうとした。結局できたかどうかは別として、誰かにためにという点は、決して人から責められることじゃない」

「でも結果として、私はいろんな人に迷惑をかけた」

「そんなのは結果論だ。お前はお前がやりたいことをやった。その目的は別に悪でも何でもない。ただ誰かのために、そして自分のために。それだけで偽善なんて言われる筋合いはないだろ。マイナスに考えんなよ」

 実際陽菜は悪いことはしていない。

 それどころか、個人情報が投稿されることを止めようとした。

 陽菜がやったことは紛れもない正義であり、偽善でも悪でもない。

 円香たちがいう偽善とは根本的に違うものなのだ。

 あいつらが抱えているものは、もっと深く暗いところにある。

 陽菜は嬉しそうに笑うと、また空を見上げた。

 俺も習って上を見る。

 暗さに目が慣れてきた空には、多くの星が瞬いていた。

「それでも、裏サイトは閉めるよ。私、やりたいことができたんだ」

「やりたいこと?」

 首を傾げながら尋ねると、陽菜はこちらを見返して、楽しそうに微笑んだ。

「風紀委員に入ろうと思うんだ」

 あまりに意外な言葉が陽菜の口から飛び出し、俺はぽかんと口を開けた。

 その様子を見て、陽菜は吹き出していた。

「ははっ。ようやく優羽君の予想外なことを言えたみたい」

「……冗談言ってるのか?」

「ううん。本気。私が自分の中にある正義を信じるんなら、きっと私はもっと前に出て、自分の正義と向き合うべきなんだ。そうすれば、私は自分の正義を確かめることができる」

 その場として選んだのが、風紀委員ということか。 

 確かに、学生が働いていることが当たり前のこの海神島においても、学生に警察という仕事はできない。

 最も近いものは間違いなく風紀委員だろう。

「今の仕事も楽しいけど、やっぱり私は自分がこの世に生まれてよかったと思えるだけのことをしてみたい。だから、私はもっと自分のやりたいことに忠実でいたい」

 自分のやりたいこと、か。

 俺も昔は、そんな純真に自分のやりたいことをやろうと必至になっていたこともある。 しかし、陽菜たちの一件から、俺は自分のやりたいこともやったことにも自信が持てなくなった。

 何が正しくて、何が間違っているのか。

 そんな考える必要がないことにも考えがいって、俺は生きる道を見失った。

 陽菜も、俺と同じだったのではないかと思う。

 心の底では正しいことをやりたいと思っていても、誰かを傷つけてしまった自分がそんなことをする資格があるのか。

 それは、ただの自己満足であって、その人のためでも何でもないのではないか。

 負の連鎖に陥り、結局何もできなくなる。

 でも、陽菜は立ち直ったのだ。

 自分がやりたいことを取り戻した。

 それは、偽善でもなんでもない。

 陽菜自身が望んで手に入れた、本当の善意。

「だから、さ」

 陽菜は少しためらった後、視線を植え込みへと逃がした。

「優羽君も一緒に、風紀委員やらない?」

「俺がか?」

「う、うん」

 尋ね返すと陽菜はこくこくと首を振った。

「優羽君も、今の仕事、仮雇用なんだよね? だから、一緒にどうかと思ったんだけど……」

 風紀委員……か。

 陽菜の言葉に、興味をそそられた。

 俺は元々、サークルにはなし崩し的に入れられそうになっているに過ぎない。

 スカウトメールにつられてきまぐれでカフェに言ったことが原因で、円香に強引に引き込まれた。

 陽菜なら幼なじみだし、俺のことをずっと知っている。

 いつも俺の味方でいてくれたし、俺も陽菜の味方であり続ける。

 だから、雛と一緒に風紀委員になるのは、とても惹かれた。

 しかし、と心の中で言葉が返った。

「……ごめん、俺は止めとくよ」

 陽菜は目を見開き、一瞬潤ませた瞳を隠すように俯いた。

「そっか。そうだよね……」

 気落ちしたように肩を落とす陽菜に築かないように、俺は笑いながら言った。

「いやぁ、俺あれだけ喧嘩とかしたのに、停学とか指導とかはなくても、さすがに風紀委員には入れてくれないだろ」

 指導されたことがあるとはいっても陽菜は品行方正だ。

 そんな陽菜ならまだしも、俺のようなあれだけのことをやった人間を風紀委員は歓迎してくれないだろう。

「それに俺、もう決めてるんだ」

 陽菜は驚いて顔を上げた。

 目に一瞬光るものが見えた気がしたが、俺は視線をそらして空に向けた。

「もう一度、俺も頑張ってみるよ。自分の生き方を、見つけてみる」

 あの場所でなら、きっと俺は何かが掴める気がする。

 自分の生き方を見つけられる気がする。

「そっか……」

 また呟くと、陽菜は穏やかに微笑んだ。

「そうだね。阿良木さんなら、きっと――」

 陽菜はそれ以上言葉にはせず、拳をまっすぐ伸ばして俺の胸へと当てた。

「私も頑張るから。優羽君も、頑張ってね」

「おう」

 笑って言葉を返すと、陽菜は嬉しそうに笑って駆けていく。

「じゃあね! 送ってくれてありがとう! また学園で!」

「ああ、気をつけて帰れよ」

 陽菜は最後に大きく手を振ると、運動公園の暗闇に消えていった。

「ふぅ……」

 小さく息を吐き出し、熱くなった体を夜風にさらす。

 なんか、ひどく小っ恥ずかしいことを言っていた気がするいや言っていた。

「なにやってんだか……」

 頭を掻きながら、再び自動販売機へと向かう。

 着ていたパーカーのポケットから先ほどのお釣りを取り出し、ホットコーヒーとミルクティーと買う。

 その二つを手に、来た道を戻っていく。

 そして、側にあった用具入れの倉庫を軽く蹴った。

「何回盗み聞きすれば気が済むんだこら」

 再度蹴ると、倉庫の後ろから二つの影が出てきた。

「あははは。またばれてましたか」

「優羽目ざとい」

 出てきたのは円香と葉風だった。

「俺の視力を舐めんな。夜でも変わらずお前たちの姿くらい見分けられる」

「お前は人間か!」

「やかましい」

 喚く円香の頭にコツンとホットコーヒーを乗せる。

「いたっ……」

「こんなところにいたら風邪引くぞ。さっさと帰れ。葉風はミルクティーでよかったか?」

 まだ熱い缶を差し出すと、葉風は小さな両手で受け取った。

「……怒ってる?」

「怒るって、どっちのことを?」

「どっちのことって……」

 葉風は口ごもりながら眉をひそめる。

 こちらを見ていた円香と視線がぶつかった。

 ぎくりと肩を震わせ、途端に目が泳ぎ始める。

「盗み聞きしてたこと? それとも――」

 夜風が運動公園と俺たちを撫でていく。


「陽菜が裏サイトの管理人だとか、風紀委員が書き込みやってたこととか、小林先生が情報を漏らしていたことを、実は最初っから知っていたこととか。どっちかなと思ってな」

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