11
「で、結局生徒指導はされるわけね……」
長机に並べられた椅子に俺と円香と陽菜は座っていた。
現在はしかりに来る先生を待機中だ。
あれからすぐ、騒ぎを聞きつけた先生たちがなだれ込んできた。
すぐに事情を聞かれたが、俺たちにはやましいことがない、いや少しはあるが、正直に話した。
対して、介抱されていた武田をはじめとした生徒たちは、あったことを自ら口にすることもできるわけがない。
しかもやはりブラフであったが、円香が隠していたレコーダーがいい具合に働き、武田たちは下手に嘘を吐くことができなかったのだ。
先生たちは俺たちの説明を受け入れるしかなかった。
「いやー、あれだけやれば当然でしょう」
左隣に座る円香が呆れたように声を出した。
そりゃそうだけどお前が言うな。
こちらがそうなるように仕組み、相手が先に手を出したと言う事実も一部の観念した生徒が説明したため、俺たちは基本的に被害者という扱いになった。
ただ喧嘩は喧嘩だ。
指導されるのは仕方がない。
奏太たちはただの通りすがりということで難を逃れており、今頃カフェの準備中だろう。
「ごめんなさい」
円香の無効に座って、ずっと肩を落としたままの陽菜が俯いたまま言った。
「なんでお前が謝るんだよ」
「だって、私がこんな依頼をしたから……」
「別に陽菜ちゃんが悪いわけじゃないよ。ことがことだから、どちらにしても私たちか他の誰かが動くことになってたよ」
円香の言う通り、サークルは海神島の輪を保つための組織だ。
今回、陽菜がサークルに依頼してきたのは事態を早めに収めるのに非常によかったと言える。
元々裏サイト自体がまだできて間もなかったことが幸いし、利用している人間が多くなかったため事態をここまでの状態に収束させることができた。
これらの情報がもっと拡散されていったのであれば、悲惨な末路を辿った生徒もいただろう。
「お前は間違ったことをしなかったし、俺たちも俺たちのために必要なことをやっただけ。きっとそれだけだ。そうだろ? 円香」
「ふっふーん、その通りなのです」
円香が大してない胸をそらしながら自慢げに漏らす。
「ま、私たちには、今回のようなことが必要なわけですよ。陽菜ちゃん」
「えっと、それって、どういう……」
陽菜が尋ねようとしたとき、教室の扉が音を立てて開いた。
「遅くなってすいません」
現れたのは一人の男性教諭だ。
黒いパンツにベージュのジャケットを着た、三十くらいの先生だった。
「ちょっと朝から会議に出ていたもので」
説明をしながら俺たちの前に男性教諭は腰を下ろす。
「えっと、宮村さんは以前に話したことがありますね。それから、阿良木さんと椎葉君ですね?」
俺たちが頷くと、男性教諭はわずかに眉を落として視線を向けた。
「三人とも、どうしてこんなことをしたんですか?」
「こんなこととは、一体何の話をしているのでしょうか。小林先生」
先生の名前は小林というらしい。
円香はよく人の顔を覚えていると感心したくなるが、実際はそういうわけではない。
俺も一度だけあったことがある。
小林先生は少し眉を下げて、呼び出された理由がわかっているにもかかわらずすっとぼける円香に不機嫌な息を吐いた。
「あのですね、阿良木さん。ここに呼び出されたのはあなた方が本日多くの生徒と喧嘩をしたからですよ? わかっているんでしょう?」
「喧嘩をしたのはこっちの座る彼だけですが」
おいこいついきなり俺を売りやがった。
確かに円香や陽菜は喧嘩には全く参加していない、とばっちりではあるがいくら何でもあんまりではないだろうか。
「それはそうかもしれません。しかし、椎葉君が一人で喧嘩を行ったのはそうでしょうが、あなた方もその場にいた。なら一緒に呼び出して話を聞くしかないでしょう」
「その理屈なら、先日景山先輩たちが行った喧嘩の際に、近くにいた生徒たちは皆呼び出されたのでしょうか? それにあの場には他にも三人ほど生徒がいたはずですが、私たちが呼び出された彼らは呼び出されない理由がわかりません」
先生に対してこうも自分にとって都合のよい屁理屈をこねるふてぶてしい円香は、机に両肘を突いてにこにことした笑みを浮かべていた。
横目に見えるその表情は、表向きはかわいい少女のものだが、その内心を知っている俺からはひどく腹黒いものに見えた。
小林先生の眉間に深いしわが刻まれる。
「困りましたね。自分たちがやったことを反省もせず悪いとも思っていない。最近そんな生徒が多くなっています。以前はそんなことはなかったはずなんですけどね」
つい先ほど似たような言葉を漏らしていたやつの姿が思い出される。
円香の顔から、すっと笑みが消えた。
「先生は、何をもって私たちがやったことを悪いと判断しているのでしょうか。私たちが武田君たちを挑発して喧嘩をしたことでしょうか。それとも常日頃からやっている何かしらの行いが悪かったのでしょうか。それとも――」
円香の双眸が鋭く光り、前に座る教師へと向けられた。
「小林先生が行っていた裏サイトで起きていた個人情報漏洩の阻止とそれの調査を行っていたことが悪かったのでしょうか?」
教室の空気が凍り付いた。
俺と陽菜は息をのみ、円香は鋭い視線を小林先生へと投げていた。
小林先生は小さく首を傾げて眉をひそめていた。
さも何のことを言っているのかわからないという風に振る舞っていたが、その瞳に焦りの感情が渦巻いているのがはっきり見て取れた。
「……何の話を言っているのかわからないんですが」
とぼける小林先生を、円香は静かな目で見つめていた。
「裏サイト、この学園にもあると聞いています。また、それを投稿していたのは、嘆かわしいことですが風紀委員の武田君たちだということも。それが、どうして私がやっていたことになるんですか?」
「小林先生は知らなかったんですか? 海神学園文学系暗担当教師、生徒指導兼風紀委員顧問の、小林先生が」
「……」
今度は小林先生が黙る番だった。
おそらくは自分と接点がなかった生徒が自分のことを正確に把握されていることに驚いていたのだ。
俺と陽菜がこのことを知らされたのはつい先ほど、武田の喧嘩のすぐ後だった。
「確かに、私にも責任があります。風紀委員をまとめる私がこんなことを未然に防げなかった。全く情けない話です。今回の件で、私も何らかの責任を取るつもりでいます」「私が言っているのはそういうわけではないですよ」
小林先生の言葉を否定しながら、円香は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
意地の悪い黒い表情で小林先生を見やる。
「えっと、小林先生は武田君が裏サイトに生徒の個人情報、過去のことを投稿していたことを知っていたんですか?」
「今回君たちがあれだけのことをやっておきながら、わからないわけがないでしょう?」 冷静に振る舞ってももう遅い。
小林先生は語るに落ちた。
「それはあり得ないですね。私たちと武田君たちが喧嘩をしたのは、つい先ほどですよ? それに、こちらの彼が意図して武田君たちが病院送りになるレベルに攻撃を加えたため、全員が病院に行っています。朝からずっと会議に出ていた小林先生に、そこまで正確な情報が入るわけがないんでしょ」
さらりとまた売られているが、円香の言うとおりだ。
俺が武田たちと喧嘩したのはつい二時間前。
それから俺は結構こてんぱんに武田たちを叩きのめしたため、一人のもれなく病院に搬送されている。
朝から会議に入っていたばかりでここに向かった小林先生が知らないのも仕方ないことだ。
さらに、そんなことも知らないのに武田たちがやっていたことを知っていた。
つまりそれは、そういうことなのだ。
「小林先生、あなたは裏サイトの件に関わっている。いや、これでは言葉がぬるいですね。あなたこそが、今回の裏サイトの件を裏で操っていた、黒幕です」
「……ッ」
初めて明らかに小林先生の表情が崩れた。
円香は机から肘を離して、まっすぐ小林先生を見る。
「武田君は百人を超える生徒の情報を裏サイトに投稿していました。武田君が投稿していたことは間違いないでしょう。裏サイトは誰でも投稿ができます。この海神学園の裏サイトには、パスワードが設定されていませんでしたからね。しかし、武田君が投稿をするには一つの問題があります。それは、情報をどこから入手してきたかということです」
生徒の個人情報。インターネットが大きく普及している現代においても、一生徒が多人数の情報を仕入れることなど、現実的に考えてとんでもなく難易度が高い。
個人情報が上げられていた生徒には共通点があった。
それが風紀委員に取り締まられたことがあるというものだ。
だが、風紀委員に取り締まられたからと言って、その生徒の個人情報まで吐かせる必要はないし、吐かせることも不可能だ。
しかし、その情報を調べる手段を持つ人間は確かに存在する。
それが教師だ。
風紀委員に取り締まられたのであれば、それは十分生徒指導を受ける大賞になり得る。「風紀委員に何らかの理由で取り締まられ、その後生徒指導を受けた生徒。陽菜ちゃんも風紀委員に何か言われて、生徒指導を受けたことがあるよね?」
「はい。私は、喝上げをしている生徒に注意をして止めさせようとして、そこにきた風紀委員によって事なきを得たんだけど、その後、小林先生に呼び出されました」
小林先生が陽菜だけを把握していたのは、陽菜が過去に生徒指導を受けたことがあるからだ。
徐々に明らかにされていく情報に、小林先生の額に汗が浮かび初め、息が荒くなってくる。
「裏サイトに投稿された生徒には、ある共通点がありました。でもそれは風紀委員に取り締まられたことではありません。生徒指導を受けたことがあるかどうかです。正確には、小林先生の指導を、です」
「……は、何をバカな。生徒指導をするだけで、生徒から過去何があったかなんて聞き出すなんて、無理に決まって、やるわけないじゃないですか。実際、宮村さんの時も、そんな話はしていません。そうですよね?」
「……はい。それは確かにそうです」
陽菜は頷いて肯定する。
円香は陽菜の肩をとんと叩いて言う。
「当然だよ。別に陽菜ちゃんのことを疑ってるわけじゃないから。そんなことをしなくても、大人には手段があるんだよ」
「ま、生徒指導をする教師にはネットワークがあるからな。高校生なら中学生時代や小学生時代から何を指導すればいいのか。それを調べることも時には必要だからな」
「お、優羽鋭いね。経験あり?」
「まあな」
実際俺は先生たちがそういう情報ネットワークを持っていることを知っている。
俺が海神島に来るに当たってのことだ。
高校でもなじめなかった俺に、中学校時代の恩師から連絡があったのだ。どうやら高校の担任教師が相談をしたそうなのだ。
円香は再び小林先生に視線を向ける。
「つまり、先生なら調べることができるんですよ。転校の書類に過去に何があったかなんて情報の記載はないですが、過去どこの中学高校に通っていたかは当たり前ですけど記載がありますよね。小林先生はただ単純に電話して聞けばいいんですよ。ちょっとこっちで問題を起こした生徒がいるんですけど、そちらでは以前どんな生徒でしたか、って」
小林先生は机の上で拳を握りしめ、怒りのこもった形相で円香を睨み付けていた。
「そして、後は風紀委員の武田君たちに情報を流すだけ。武田君はまさか知らなかったでしょうね。自分が盗み見ていたデータが、実は意図的に流されていたものだったとは」
方法は至って単純だ。
風紀委員が管理しているパソコンは、ネットワークによって生徒指導の、小林先生のパソコンとリンクしていた。
そこにはパスワードはかかっていなく、風紀委員のパソコンから簡単にアクセスできるようになっていた。
武田は会議を通じてこの方法を見つけ、密かに覗いていたそうなのだ。
これは先生たちが駆けつけてくる間に目を覚ました武田から直接聞いた。
そしてその際に、たまたま生徒指導を行った生徒の情報がリスト化されているファイルを見つけたと言っていた。
武田は俺の情報はネットで調べたと言っていた。ならそれ以外はどうやって調べていたか。
単純に調べられてまとめられていた小林先生の情報を見ていたのだ。
「お、お前! 教師に向かって――」
小林先生が怒鳴り声を上げながら円香へと掴みかかった。
俺は素早く伸ばされた腕を掴み取る。
円香の鼻先に届く前に小林先生の指が止まっているが、円香は表情一つ変えずに涼しい顔をしていた。
掴んでいた腕を机に叩きつける。
「ぐっ……」
「化けの皮が剥がれてますよ。小林先生」
鬼のような形相は教師のものとはとても思えない。
誰かを憎み妬む、醜い人間の物だった。
俺の手を振り払い、小林先生は椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がる。
「そ、そんな目で見るな! 私は教師だぞ! お前たちガキよりずっと偉いんだ! 正しいんだ! どいつもこいつもバカにしやがって!」
暴言を吐く小林先生を陽菜は唖然として見ており、円香は机の上に手を置いて、ただ取り乱す小林先生を見ていた。
「それが武田君たちを陥れた理由ですか? 彼らに情報を流していれば、ゆくゆくはばれてとがめられる。そのときあなたもそれなりの処罰は受けるでしょうが、ネットワークは学園の問題とも言える。そこを理由に乗り切るつもりだったのでしょう? あくまで自分は被害者だと、生徒指導を必死にやっていただけだと」
小林先生がぎりっと歯を噛みしめる。
「先生の過去は、こちらで調べさせてもらいました」
円香の言葉に、小林先生は目を剥いて驚いた。
「不登校、引きこもり、いじめ、モンスターペアレント、生徒による反発、生徒の犯罪。教職者というのは、いつでも様々な問題を抱えています。小林先生も例外ではなかった。ただ、先生の場合はちょっと苛烈だった。多くの問題を抱え、それを解決することができなかった。さらに、どうやらネットなんかを使って先生を誹謗中傷することなども多かったようですね。裏サイトやメール、電話などにより、トラブルが絶えない毎日。そして、先生は前にいた学校をやめざるを得なかった」
自分がやってきた過去の情報を暴き立てる行為。
小林先生はそれをこうも容易くやり返されて恐怖していた。
自分のような大人がやったわけではない。
本来教え子である子どもの俺たちにやり返されている。
小林先生の目に、明確な焦りと動揺が浮かんでいた。
そんな憐れな姿に遠慮も躊躇もなく、円香は冷めた目で畳みかける。
「武田君は、この海神島に来た外部の人間を排除したかった。小林先生は、外部で問題を起こしてこの島に来た人間を含めた、武田君たちも排除したかった。だから、彼らをまとめてどうにかしようと、武田君を利用し、陥れた。あなたがやろうとしていたことは教師以前に人として最低の屑行為です」
「黙れ……ッ」
「あなたがやったことはただの八つ当たりです。この島に来て、やり直しをしようとしている生徒たちを陥れ、それを快く思っていない武田君たちを煽り、暴挙を行うように仕向けた」
「黙れ!」
小林先生の怒声が教室に響き渡る。
息を荒くし、目を充血させて怒り狂う小林先生の瞳が、円香の姿を正面から捉えた。
そして、何かに気づいたように口を開けた。
「……そうか、わかったぞ。お前ら、海神が飼っているサークルとかいう組織だな」
「正解です」
隠そうともせず円香は肯定する。
「はっ、偽善者集団がこの俺に偉そうに抗弁をたれるのか? お前らはただの自己満足で海神に協力しているだけだろう? 依頼者を助けたいだとか、どうにかしてあげたい可なんて気持ちで行動することはないんだろ?」
「その通りです」
依頼主の陽菜が隣に座っているにも関わらず平然と言ってのける。
当の本人である陽菜は微かに苦笑していた。
全く動じない円香に、小林は怒りの牙を向ける。
「だったら、俺が自分のために何かをするのと何が違うっていうんだ! お前らが自分のためにやることと、俺が自分のためにやることに何の違いが――」
「小林先生」
円香の口から冷たく鋭い声が飛び、小林先生の言葉を遮った。
張り詰める空気を切り裂く刃のような視線が小林先生へと向けられる。
「かつてあなたは正しかったかもしれない。でも今は、正しくもなんともない。あなたは自分が善人のつもりでいるのかもしれませんが、全くそんなことはない。確かに私たちは善人ではありません。私たちは善であることを偽る偽善者です」
円香の口から放たれる言葉の剣が小林先生を貫いていく。
「あなたが自分のためにやったという点では同じですが、私たちは絶対に悪は行わない。でも、私たちは過去の過ちから善人にはなれない。だから偽善者なんです。でも、あなたは違う。あなたは私怨によって無関係な生徒を巻き込み、陥れ、傷つけた。あなたは善人でもなければ偽善者でもない。ただの犯罪者です」
次々に放たれる言葉の刃に、小林先生は言い返すこともできず口を閉ざした。
今頃、必至にこの場を取り繕う言葉を探しているのだろうが、そんなものはありはしない。
この阿良木円香という少女には、そんな甘さは存在しない。
どこまでも冷淡に残酷にまっすぐな刀である少女は、あらゆる武器を前に小林先生の前にいる。
一回り以上も年下の少女に、小林先生は明らかに怯えていた。
「お前ら……! こんなことをして、俺を虚仮にしやがって……!」
震える口から言葉を紡ぐ小林先生は、理解できない存在を前にただ怯える小動物のようだった。
「今に見てろよ……! 俺の力でお前ら全員、この島にいられなくして――」
「君にそんな力があるわけないだろう。できもしないことを言うもんじゃないよ」
教室にこれまでなかった声が飛び込んでくる。
声がした教室の後ろに目を向けると、開けられた扉の前に白衣姿の女性が立っていた。
「高峯……!」
小林先生が憎しみを込めて呟いた。
現れたのは保健室の生徒指導教師、ビッチ先生こと高峯聖先生だった。
「小林先生、君には一度チャンスを与えた。それで止めていればよかったものを」
「うるさい! 高峯、こいつらもお前の差し金か!?」
高峯先生は呆れたような息を漏らした。
「偶然だよ。彼女たちも彼女たちで別で動いていたのだ。同じことに関わっているとは少し前に聞いていたけどね。ま、君が会議後に直接ここに来るように仕向けたのは私だな」
高峯先生の視線がちらりとこちらを向く。
「子ども相手にムキになるとは情けない」
「貴様……!」
高峯先生は、小林先生が以前から行っていたことに気づいていたらしい。
俺が初めて保健室に行ったとき、高峯先生と一緒にいた教師こそが、小林先生だったのだ。
あれは単純に男女の密会があったとかいうわけではなく、保健室に高峯先生が小林先生を詰問していたところだったらしい。
その場で、高峯先生は小林先生にこれ以上個人情報を流すのはやめろと言った。しかし、結局その後も情報は流れて止まることはなかったのだ。
「彼女たちのおかげで、証拠は十分にそろった。もう言い逃れはできないよ。小林先生」 小林先生の血走った瞳が高峯先生へと向けられる。
「た、た、高峯ーーーーッ!」
小林先生は雄叫びを上げながら高峯先生へと掴みかかる。
俺は机の上に飛び乗ると、円香と陽菜の前を駆け抜けた。
机を蹴り飛ばしながら飛び上がり、高峯先生へと向かっていく小林先生の顔面に回し蹴りを叩き込んだ。
「ぐぼらぁッ!」
小林先生はうめき声を上げながら吹き飛び、窓際の壁に激突して動かなくなった。
「いい蹴りだ」
「……どうも」
小林先生は白目を剥いて倒れていた。
今回の件の罰としてはまだまだ足りないだろうが、妙にすかっとした。
「あ、俺先生の前であれとは言っても先生を蹴り飛ばして大丈夫でしたかね?」
既にやってしまった後で何を言っても仕方がないが。
高峯先生は小さく笑うと、俺の頭をポンと手を乗せた。
「言ったろう。君の正義に私が納得できたなら、それは私は君を守り、庇うと。君たちは間違ったことをしなかった。だから、全力で君たちのフォローをしよう」
「あははは、ま、私たちが問題になれば聖さんも問題になるもんね」
こちらにやってきた円香が楽しげに高峯先生の脇を肘で突く。
高峯先生は眉根にしわを寄せて円香の頭を掴んだ。
「円香、それが頼み事を聞いてやった私に対する言葉か?」
「いだだだだ! 痛い痛い! なにすんのよこの暴力教師!」
「私は暴力教師ではない。淫乱教師だ」
その返しはいくら何でも無理な上にひどい過ぎる。
「あの、高峯先生と阿良木さんは、一体どういう……」
陽菜がおずおずと尋ねた。
それは俺も気になっていたところだ。
円香と高峯先生が何らかの関係を持っていたことは知っていたのだが。
円香は掴まれていた手を無理矢理外させると、息を荒くして言った。
「この人は、高峯聖さんは私たちのカフェ・サークルのオーナーなんだよ」




