空中給油
中華人民共和国首都北京中南海中央軍事委員会緊急会議室
担当士官が、緊張した声で報告を上げた。
「内陸部にある空軍基地を離陸した機体は、現在、空中給油機による空中給油を行っています。
台湾上空到達まであと約25分と予想されます。」
その報告を聞いた瞬間、趙建国国家主席の目が鋭く光った。
「よし! 早急に空中給油を終えるのだ!!
終わり次第、小日本の海軍を叩き潰すのだ!!
台湾に上陸した日本軍も、一緒に海に沈めてしまえ!」
国家主席の声は、興奮と怒りに満ちていた。
彼は拳を強く握りしめ、モニターに映る台湾東部海域を睨みつけながら、机を何度も叩いた。
顔は紅潮し、息が荒く、言葉の端々に苛立ちと焦りが露わになっていた。
「日本など所詮は島国だ!
我々が本気を出せば、すぐに叩き潰せる!
早くしろ! 一刻も早く攻撃をかけろ!!」
空軍司令官は、硬い表情で「了解しました」と答えながら、胸中で深い複雑な思いを抱いていた。
(……本当に、これで良いのか?)
彼は、国家主席に気付かれないよう、静かに息を吐いた。後方ということは、内陸部の基地から出撃する操縦士が中心になる。海上での長距離飛行や作戦を想定した訓練が、十分に行われていない。
大陸国家である中国の、根本的な欠点だった。
日本のような島国は、航空宇宙軍も海上での運用を当然のように想定・訓練している。しかし中華人民共和国は、沿岸部の空軍部隊しか本格的な海上作戦を想定していなかった。内陸部の部隊を急遽投入しても、経験と練度の差は歴然としていた。中央軍事委員会副主席も、空軍司令官と視線を合わせ、わずかに肩を落とした。二人は国家主席に気付かれないよう、無言で目を交わした。その視線には、ある種の諦めと、現実に対する静かな絶望が浮かんでいた。
国家主席は、まだ興奮した様子で続けていた。
「小日本が台湾に上陸しているというのに、我々が手をこまねいているわけにはいかん!
今こそ我が軍の真の力を示す時だ!
全機、台湾上空に殺到せよ!」
しかし、会議室の空気は重く淀んでいた。
将軍たちの多くは、目を伏せたまま言葉を失っていた。
内陸部からの強行出撃が、どれだけのリスクを伴うのか——彼らは十分に理解していた。
空軍司令官は、心の中で静かに呟いた。
(……経験の浅い部隊を、無理に海上に投入する。
これは……ただの時間稼ぎにしかならないかもしれない……)
国家主席の怒声が、会議室に響き続ける中、中国軍の最後の反撃は、静かに、しかし危うく開始されようとしていた。




