虚しい歓声
中華人民共和国首都北京中南海中央軍事委員会緊急会議室
「やったぞ!」
趙建国国家主席が、突然立ち上がり、両手を大きく広げて叫んだ。
大型液晶モニターには、黒煙を激しく上げ続ける原子力空母大鳳の姿が、はっきりと映し出されていた。
飛行甲板中央部の大穴から炎が噴き上がり、周囲の艦載機が誘爆して次々と火の手を上げている様子が、リアルタイムで流れ続けていた。
国家主席の顔に、久しぶりの笑みが戻っていた。
彼は興奮した様子でモニターを指差し、声を弾ませた。
「あの小日本の空母は沈むのか? 沈むんだろう?
見てみろ、あの黒煙を! あれは致命傷だ!」
会議室にいた一部の将校から、控えめな歓声が上がった。
しかし、中央軍事委員会副主席(上将)は、表情一つ変えずに冷静に答えた。
「その可能性はありません、主席。」
趙建国は、笑顔のまま副主席を振り返った。
「何だと?」
副主席は、淡々と続けた。
「大鳳は原子力空母です。万が一の放射能汚染を考慮し、隔壁は厳重で数も多いです。
映像から被害は飛行甲板と格納庫の一部に留まっておると推定され、速力も低下していない事から機関部への深刻な損傷も無いと推定されます。
その為に良くて中破の打撃を与えた程度です。
日本軍の消火能力と損害管制能力を考えれば、消火後に即座に後送されて修理が開始されるでしょう。」
国家主席の笑みが、わずかに引きつった。
それでも趙建国はまだ上機嫌だった。
彼は両手を擦り合わせながら、満足げに頷いた。
「それでも良い。
ようやく一矢報いたのだ。
小日本に、初めての痛手を与えた。
これで奴らも、少しは冷静になるだろう。」
しかし、中央軍事委員会副主席は、表情を硬くしたまま次の報告を続けた。
「主席……申し上げにくいのですが、
戦略ミサイル軍は通常弾頭の対艦弾道ミサイルをほぼ全て撃ち尽くしました。
空軍も今回の出撃で弾薬庫が空に近くなっています。
補充には時間がかかります。」
趙建国は、ゆっくりと副主席に向き直った。
「……本当か?」
彼は、戦略ミサイル軍司令官と空軍司令官に視線を移した。
二人の司令官は、苦い表情で同時に頷いた。
国家主席の笑みが、完全に凍りついた。
「……それだけ撃ち尽くして、
たった空母1隻だけ……しかも沈められないだと?」
その言葉が、会議室に重く響いた。
誰もが沈黙した。
先ほどまでの小さな歓声は、完全に消え失せ、会議室は冷たい静寂に包まれた。
趙建国は、唇を強く噛みしめ、モニターに映る大鳳の姿を睨みつけた。
黒煙はまだ上がっていたが、それは中国側の勝利というより、日本側の傷として映っていた。
やがて、彼は低い、抑えた声で厳命した。
「……とにかく、空軍はミサイル等を緊急輸送してでも構わん。
日本の台湾上陸作戦を防ぐために全力をあげろ。
台湾は絶対に渡さない。
絶対に、だ。」
国家主席の声は、怒りと焦燥に満ちていた。
中央軍事委員会緊急会議室は、再び重い沈黙に沈んだ。
日本軍の台湾上陸作戦は、すでに目前に迫っていた。




