挙国一致
2040年6月15日 午前8時40分
東京都新宿区 国防省地下中央指揮所
大野田喜美総理は、再び国防省地下中央指揮所に戻ってきた。
記者会見で「中華人民共和国との戦争状態に突入した」と宣言した直後、彼女はすぐにこの場所へ引き返した。
足取りは速く、表情は引き締まっていた。
指揮所に入るなり、大野田総理は周囲を見回し、静かに尋ねた。
「国内の状況はどうですか?」
官房長官が、すぐに立ち上がった。
彼は資料を手に、落ち着いた声で説明を始めた。
「総理、内閣府が緊急で実施した世論調査の結果が出ました。
マイナンバーカードとスマホを紐づけた電子世論調査システムにより、迅速かつ精度の高いデータが集まっております。
開戦支持率は**75.8%**に達しています。
国会も現在、衆参両院ともに与党である民自党と国家維新の会の連立政権が3分の2を超える議席を確保しており、事実上の挙国一致体制となっています。」
ちなみに現在の日本の野党は、国家民主党、参画党、国家保守党の三つに集約されている。
かつての中心改革連合、民主立憲党、公民党、平成新選組、社民党、共産党などは、聖域なきスパイ狩りで壊滅的な打撃を受け、政党として消滅した。
特に公民党は、支持母体の創新学会も再起不能な規模の逮捕者を出した上に、解散命令が下され、本拠地の信濃町にある学会本部や文化会館などの建造物はすべて破壊処分された。
官房長官は少し声を落として続けた。
「戒厳令発令に伴う株式市場の全面停止と銀行の一時封鎖による混乱は、現時点では最小限に抑えられています。
国民の多くはむしろ、中華人民共和国の卑劣なハイブリッド戦争に対して強い非難を強めており、結束を固めている状況です。
警察と消防は総力を挙げて、被害を受けた地方都市の救助・復旧活動に当たっています。」
大野田総理は静かに頷いた。
その時、中央指揮所の大型液晶モニターに、地方都市の被害報道が流れ始めた。
香川県高松市では、港湾施設の一部が爆破され、黒煙が上がっている様子が映し出されていた。
北海道十勝市では、物流倉庫が攻撃を受け、消防車両が集まっている光景が続いた。
人的被害は幸い最小限だったが、市民の不安げな表情が画面に映るたび、指揮所内の空気がわずかに重くなった。
大野田総理は、モニターを見つめながら静かに言った。
「国家特務情報庁による、かつての聖域なきスパイ狩りの成果が、今回のハイブリッド戦争での被害を最小限に抑えてくれました。
藤原長官、本当にありがとうございます。」
藤原澪国家特務情報庁長官は、静かに頭を下げた。
「総理のおかげです。私どもはただ、任務を果たしただけに過ぎません。」
大野田総理は、改めて指揮所にいる全員を見回した。
13年前の台湾有事で味わった屈辱。
本土へのミサイル着弾。
国際社会に見捨てられた無力感。
あの経験が、日本をここまで変えた。
与野党を問わないスパイ狩り。
財務省の徹底改革。
憲法改正と大規模再軍備。
選抜徴兵制。
そして国家特務情報庁の存在——
すべては、「もう二度と、他国に命運を委ねない」という、国民全体の固い決意から生まれていた。
大野田総理は、日本軍の最高指揮官として、静かに胸を張った。
「これで、国内の足元は固まりました。」
彼女の声は、指揮所に静かに、しかし力強く響いた。




